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M-297 お化け屋敷を貰えそうだ


 砦建設が始まって2か月が過ぎた。

 すでに隠匿空間から3度も輸送艦隊が建設現場に荷を運んでいる。少しずつ形が現れてはきたけど、城壁の高さはどうにか3mほどだからなぁ。やはり完成までに1年は掛かりそうだ。

 桟橋の方も形が出来てきた。東西の尾根を切り崩して作った桟橋の長さは東西方向に1.5kmもの長さがある。1個艦隊をまるまる接岸させることも出来そうだ。それ以外にも、修理専門のドックまでが作られている。2基あるから陸上艦の車輪の交換すら可能になるようだ。さすがに魔道機関を交換するようなことは出来ないだろうが、回廊を守る砦には過ぎた設備になるかもしれない。


 いつものように、夕食を終えた俺達はソファーに座ってワインを楽しむ。

 そんな中、溜息を吐きそうな声で、フレイヤが話を始める。


「私達が休暇を取れるのはもう少し先になりそうね」

「半舷上陸ということも可能じゃないかな。さすがにこの場からリバイアサンを移動することはリスクがあり過ぎるけど、定期便の輸送艦隊を使えば半数近くに休暇を与えても問題ないと思うけどね」


 俺の言葉に、エミーが真剣な表情で頷いている。

 やはり乗員に休暇は必要だと考えているのだろう。


「でも、せいぜい隠匿空間まででしょう? やはり王都で5日以上過ごせるような休暇が欲しいわ」

「それなら、導師の試作飛行船に同乗させて貰ったら? 乗客は20名だけど、隠匿空間から王都の陸港まで2日掛からないらしいわよ」

「出来た! ということか。これで、隠匿空間は王都周辺の軍の拠点と同じように行き来できるということになるな」


 導師が色々と改造を重ねていたからなぁ。それでも乗客を20名まで載せられるなら十分に使えそうだ。

 数を訪ねてみると、2隻あるらしい。改造の成果を比較するために2隻作ったのかもしれないな。とはいえ俺達にとっては都合が良い。

 カテリナさん経由で頼めば便宜を図ってくれるに違いない。ついでに王宮に例の贈り物を持っていこう。

 フェダーン様の話では、詰所を俺に譲ってくれるとのことだし、ちょっとした改修もしてくれるらしい。

 貰うばかりでは、後で何を頼まれるか分からないからなぁ。対価というわけでは無いけど、それなりの贈り物をしておくなら俺も安心できる。


 そんな話が合った10日ほど後の事。リバイアサンに導師が訪れた。

 偵察用飛行船の試験を兼ねての来所だったようだけど、カテリナさんがベルッド爺さんに飛行船への無線機搭載をお願いしたらしい。

 2時間ほど掛かるらしいから、導師をリビングに招いて科学を志す者たち同士でこひーを楽しむことにした。


「神殿とはのう……。それが神像と言う事じゃな。確かに王国の神殿の神像とは系統が異なるようじゃ。ここに置くのはワシも賛成じゃな」

「新たな魔法陣を色々と見つけました。導師にも複製した写本をお渡しします」


「カテリナが新と言うからには、未知の魔法陣と言う事じゃな。ワシの方でも調べてみよう。ところで、王宮内の建物を手に入れたと聞いたが?」


 カテリナさんから聞いたのかな?

 とりあえず場所を教えたら、ちょっと驚いていた。

 やはり、王宮内でも有名なホラーハウスってことなんじゃないか?


「リオ殿にいたずらをするような幽霊はおるまいて、そんな顔をせんでも大丈夫じゃよ」

「それが、お化けを怖がって私に抱き着く始末なの。まったく困った青年だわ」


 いつ抱き着いたんだろう? 俺に覚えが無いんだけど……。

 カテリナさんを見ると、俺に笑みを浮かべて「大丈夫だからねぇ」なんて言ってるんだよなぁ。


「元は王宮警備兵を増員するときに備えて建てられた館じゃ。手入れをすればそれなりに立派な作りに変えられそうじゃが、リオ殿は会議室を使って講義を行いたいということじゃったな」

「そうです。20名以上が入れるなら都合が良いと思うんですが……。森の中とは言え、王宮の敷地内ですから、1度に呼ぶ学生の数は10名ほどにしたいと考えております」

「その人選も学府内の自治会に任せるということであったな。その旨伝えておるよ。だいぶ騒いでおったぞ。2、3名増えるぐらいは仕方がないであろうな。教授も参加したいそうじゃ。ワシやカテリナも状況次第では参加したいと考えておる」


 やはり20名程度になりそうだな。

 そうなると、丸いテーブルを囲んで対話形式が一番良さそうだ。ゼミのような感じになるのかな?


「黒板は壁1面にするそうよ。ヒルダがメイド見習いを2人出してくれると言ってたわ。普段はメイド達の教育の場になりそうね。でも例の話があるから、夕暮れ前にはメイド達の宿舎に帰るらしいわ」

「お茶と、簡単な食事、それに館の掃除をして頂ければ十分です。学生達との話が種になるでしょうから、始まる前に飲み物とサンドイッチを大皿に用意してくれれば、こちらで適当に飲み食い出来るでしょう」


「導師の指導を思い出すわ。寝食を忘れて討論していたものよ」

「自分のカップぐらいは用意してもらいましょう。それを館に置くという誇りを学生に持たせられます」


 ユーリル様も参加するのかな? だいぶ熱い討論をカテリナさんとしていたこともあるからね。


「1か月も経たずに準備は整うはずじゃ。先ずはどの学部を集めるのじゃな?」

「ここでカテリナさん達と生物の分類についの話をだいぶ行いました。先ずは生物ということにしたいと思います。あまり長く休暇を取れそうもありませんから、期間は3日ということでお願いします」


「了解じゃ。それまでに人選を終えて、屋形の改修を確認して連絡を入れよう。フェダーン殿の話では騎士団毎に半数を15日間ほどの休暇ということで、調整しておるようじゃな。リオ殿とカテリナ達は、その予定に合わせて王都に帰ってくれば良かろう」


 後の組になりそうだな。

 導師の作った飛行船2隻を使えば40人を移動できるが、ブリアント騎士団の方もあるだろうから、王都に数回は往復することになるだろう。

 将来的には乗客50名、荷物が20tほどの貨客船のような使い方を模索しているようだけど、そんな大型飛行船を作るにはまだまだ時間が掛かりそうだ。


 導師が学生達の質問と導師の課題、それに俺が書いた回答書に対する補足すべき事項をまとめた分厚い書類を残して去っていった。

 書類の厚さだけでタバコの箱の厚さを越えているんだよなぁ。

 次々とページをめくって、書類を俺の目を通してアリスが読み込んでいく。後はアリスに任せておけば、新たな回答書ができるはずだ。


「さすがは導師ねぇ……。リオ君の回答書に対して、きちんと疑問を出してきているわ」

「この部分は、私も疑問に思っていたところです。私達と少し考えが違ってますね。『何を持って成体であるとするのか』これは考えないといけないでしょうね……」


 これ以上変化がないことを持って成体とする……。ではダメなのかな?

 もっとも、最終形態に至る時間が長いと、それを成体とみなして良いかどうか分からなくなってしまうんだが。


「新たな学生の課題も面白いわよ。植物と生物の違いは明確化できない可能性を指摘しているわ」

「植物と生物の違いは臓器を持つか否かで決めようと考えた私達も、少し考えないといけないでしょうね」


 良い刺激にはなったようだけど、確かに両者の特徴を持つ生物がいることは確かだ。

 案外、この世界で生まれた最初の生命体はどちらともいえない曖昧な生命体であったかもしれないな。

 そんな生物が生きているとしたなら、深海や地中深い場所ということになるだろう。温泉がこの世界にもあるだろうから熱水に今でもそんな生物がいるかもしれないな。

 何もない場所で生まれた生命体なら、過酷な環境でも生き残っている可能性がある。


「ちょっとした疑問があるんですが……。この大陸にはお湯が噴き出すような場所があるんでしょうか?」

「ん? ……熱泉の事かしら。それならエルトニア王国にあると聞いたことがあるわ。近くの住人が風呂代わりに利用したこともあったらしいけど、あまりにも熱いから今では利用する人はいないみたいね」


 カテリナさんが仮想スクリーンに地図を映しだして、その場所を教えてくれた。

 これは1度行ってみた方が良さそうだな。

 

「熱泉に興味があるの?」

「ええ、その熱泉にどんな生き物がいるかと思いまして」


「確か、料理ができるほどの熱いお湯だと聞いたことがあるわ。さすがに生物は済めないと思うけど?」

「この世界の最初の生命体を考えると、案外理想的な環境なんですよ。俺達は食事をして、それを消化することで体を動かしていますよね。最初からそんなことができたとは思えません。どちらかというと化学的な結び付きがどんどん複雑化していって自ら代謝することができるようになったと考える方が自然です」


「化学と言うと、あの元素の結び付きみたいな話しになるのかしら?」

「水を2つの物体に分けたという、リオ様の実験ですね」


 小さく頷くことで答えておく。ここで詳しい話をしても混乱するだけだろう。

 俺達の代謝は化学反応が元になっているはずだ。食物を食べて酵素によって分解し、栄養素にする。それを血液で全身の細胞に送り込んで細胞内の化学反応でエネルギーを出している。

 さすがに神経系統は、化学というより電気信号になるようだけど、それもイオン結合を元にして作られたものらしい。

 人体を形作る細胞の総数はどれぐらいだろう? 用途に応じて特化した細胞だがそんな構造体を持つまでには何億年という年月を必要としたらしい。

 それに、そもそも酸素は猛毒だ。それを使って体を維持しているんだからなぁ。

 生命体とは、不思議な存在だといつも考えてしまう。


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