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M-296 2つの地図を重ねると


 神殿の構造や装飾、壁に刻まれた古代文字……。神像の台座の下で見つけた金銀宝石で飾られた宝物の数々……。

 カテリナさんとユーリル様はそれらの品々に描かれた魔法陣の模写から始めたようだ。

 アリスに頼めば直ぐに終わるんだけど、教えないでおこう。

 そっちに目が奪われている間は、からかわれないで済むからね。

 それより……、リビングの一角に置かれた神像の方が気になるところだ。マイネさんが朝から丁寧に布で磨いているんだよなぁ。

 すでに1時間近く経っているんだけど、まだまだ終わろうとしないのは、磨くにつれて淡い茜色が浮かび上がってきているからだろう。

 大理石に見えるけど、ティアラや帯は黄金細工に宝石が埋め込まれている。

 まるで彫像と一体化してように飾れているんだから、これを製作した人物は当時の名工だったに違いない。

 ベルッド爺さんなんか、一目見ただけで唸っていたからなぁ。

 それよりも気になるのは、この神像の顔だ。どこかで見た感じがするのは俺だけなんだろうか……。


『マスターの思念を受けて形を変えたようです。持ち帰った神像は祈る者の思念を受けて顔を変える機能があったようですが、今ではその機能を停止しています』

「俺が祈ったってことか?」


『しっかりと祈っていましたよ。皆の幸せを祈っていました』


 たぶん無意識に祈ったということだろう。だがそれならこの顔は誰になるんだ?


『私の顔です……。ありがとうございます』


 アリスの顔! 確か何度か見たことがある。普段はフェイスマスクで覆われているから皆は知らないんだろうな。教えなければ、それで良いか……。


 夕暮れ前にノルマになった周辺偵察を終えると、結果をリバイアサンの記憶槽と輸送艦隊の旗艦に送ってリビングに戻る。

「ご苦労様にゃ!」とマイネさんが労わってくれる。軽く頭を下げて「ありがとう」と言いながらコーヒーのマグカップを受け取った。


「神殿の神像とかなり違ってるにゃ。でもあの神像は、どの神殿においても皆が祈りを捧げてくれるにゃ」

「下手に寄贈したら、神殿間で争い事が起こりそうだ。ユーリル様は、ここに置いておくのが一番良いと言ってくれたよ」

「なら、お花を捧げたいにゃ。監視所なら日当たりが良いから、プランターを置けそうにゃ」


 確かに日当たりは良さそうだ。

 たまに上がっていくと、監視員が麦藁帽子を被っていたぐらいだからね。

 捧げる花を栽培するなら、礼拝所にだって花を置くことが出来そうだ。ユーリルさんの話ではドライフラワーを花瓶に差していると言ってたからなぁ。


「王都に行ったら、買ってくるよ。花は何でも良いんだろう?」

「切り花にできないとダメにゃ。リオ様に花の種類が分かるとも思えないにゃ。ヒルダ様に相談すると良いにゃ」


 マイネさんに言われる通りではあるんだけど、本人に直接言うかなぁ? 反論できないところが辛いところだ。


 それにしても、監視所で花作りねぇ……。監視員たちが双眼鏡を下げながら花に水を上げている光景が目に浮かぶ……。


「何を想像して、ニヤニヤしているのだ? あまり他の者に見せるのは考えた方が良いぞ」


 いきなりの声に驚いて前を見ると、フェダーン様がソファーに座っていた。

 とりあえずわけを話したんだけど、フェダーン様も笑みを浮かべているんだよなぁ。


「軍艦では考えられん光景だが、リバイアサンでは可能だろう。確かに色取りを加える意味でも良さそうだな。もっとも、リオ殿であればいつでも王都に買いに出掛けることも可能だろう」


 その手があったか! まったく物事を1人で考えるのはだめだということが良く分かる。


「ファネル様達は輸送艦隊の受け入れ準備ということですか」

「明日の早朝に到着するとのことだ。最初の受け入れということで緊張しているのだろう。指揮所で皆と一緒に夕食を取ると言っていたぞ」


 いよいよ到着か。定期便として定着するとなれば、例の護衛艦の構想が形になるのも近いかもしれない。

 カテリナさん達がやってきても、エミー達は戻ってこない。やはり指揮所と連携しながら輸送艦隊の受け入れ準備をしているのだろう。


「色々と分かってきたわよ。大きな壺が2つあったけど、描かれた魔法陣は私達が良く知っている物だから、王宮に献上しても問題ないわ」

「かなり貴重な宝石が埋め込まれていたようだが?」


「現在でも再現は可能でしょうけど、王宮御用達の職人でも1年では無理でしょうね。謁見の間に飾るなら見栄えもすると思うわよ」

「相応の見返りを期待できるということか……」

「リバイアサンの引用資金になるなら、発掘したお宝を全部競売に出したいところですけど……」


 俺の言葉に、「とんでもない!」とカテリナさんが凄い剣幕で俺を睨みつける。


「古代帝国の遺産なのよ。好事家に渡ったら最後、直ぐに行方不明になってしまうわ。それに、用途不明の魔法陣がたくさん見つかったから、国家としてもリオ君の所持を認めることはあっても手放すことは許さないと思うわ。手放して良いのは、100枚近く見つかった金貨ぐらいね。半分ほど王都で競売に掛ければ数百枚に増えて戻ってくるわよ」


 好事家にはそれで十分ということなんだろうな。とは言っても貴重な帝国の遺産だからなぁ。それなりの金額で売れるということに違いない。


「それで十分です。残った品はリビングに陳列棚を置いて保管ということですね」

「それで十分だと思うわ。でも陳列するのは、私達の解析が終わってからにするわよ」


 その辺りは、カテリナさんに任せておこう。

 ドミニク達が訪れたら、さぞかし驚くんじゃないかな。

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 輸送艦隊は到着して5日目の早朝に、隠匿空間に帰っていった。

 再び朝夕の輸送艦隊周辺の対札を行うことになったが、2日間だけで済むからね。それほどの苦労はない。

 たまにハーネスト同盟の調査艦隊の動向を見ているが、どうやら神殿に到着したようで、島に上陸していた。

 島自体が高温だから、魔獣の心配は無いだろう。だけど人間だって長時間活動できる場所ではない。

 アリスの話では神殿以外に何もないとの事だから、上空から調査隊の状況を眺めるだけで済ませている。


「たくさんの島があるからなぁ……。これからも、いろいろと見つかるかもしれないね」

『帝国が反映していた時代の地図と比較してみてはどうでしょうか?』


 そういえば、オルネアの記憶装置をアリスは回収している。その中に地図があったということなんだろう。

 作戦遂行に使うなら、かなり精度も高いんじゃないかな。

 星の海を上空から撮影した画像の上に表示すれば、何か見えてくる可能性もありそうだ。


 偵察結果を指揮所に報告し、プライベート区画にリビング戻るとソファーに腰を下ろす。

 マグカップに入れたコーヒーをマイネさんがテーブルに置くと、直ぐにカウンターの奥へ去っていく。

 これで誰もいなくなった。

 タバコに火を点けると、アリスに仮想スクリーンを立ち上げて、かつての帝国の地図を表示して貰った。

 緯度と経度は現在の値に直しているようだ。地図上の名前も現在使われている文字に変えてある。

 カラー画像にしたのは、緑地帯と水源、それに都市の大きさなどを色別で表したかったのだろう。

 

「やはり星の海は、かつては緑地だったってことだね」

『小さな湖はあったようですが、全体として捉えるなら穀倉地帯ともいえるでしょう。戦が長引くにつれ、この地を手に入れ安定した食料を得ようとしたのかもしれません』


 穀倉地帯で戦をしたのか……。その結果がこの広大な湖沼地帯なんだから、戦は凶事以外のなにものでもないな。

 

「軍事基地は分かるかな?」


 仮想スクリーンにいくつかの輝点が現れた。赤と緑があるのは?


『オルネアの記憶装置からの情報ですから、自軍と敵軍の両者の情報がありました。オルネア軍とリバイアサン軍と称した方が分かり易そうです』


 緑がオルネア軍で赤がリバイアサン軍ということだろう。赤と比べて緑の輝点が圧倒的に多い。ということは、赤の輝点は軍事上に重要目標でもあったということになりそうだ。

 輝点の配置状況を見ると、星の海の南西部から北東部の線上に8割方が入っている。隠匿空間の位置にあるのは「バルデラン」と名が付けられていた。その名前を使っても良さそうだな。いつまでも隠匿空間というのもおかしなものだ。


「隠匿空間に、リバイアサン……。まだ俺達が知らない隠匿空間のような基地がそんざいしていてもおかしくはないか……」

『あのゲートが破壊されていた場合は入る手段がありません。ある意味隠匿空間は奇跡的に残った遺産であると推察します』


 最低でも5千年前だからなぁ。魔道科学で劣化を防いでいるとしても地中深く埋もれたり、戦火による破壊が自己修復できない場合は過去の歴史となっているはずだ。痕跡を残すだけでも凄いと言えるんじゃないかな。


『例の神殿もありますね。でも軍事基地として使われることは無かったようです』

「神を祭る神殿に軍が駐屯するとなれば世も末だと思うよ。もっとも、そんな軍を恐れて自衛軍を組織することはあったかもしれないな」


 だが、あの神殿が帝国大戦に何ら影響を与えなかったとも思えない。

 兵器類は一切なかったけど、そもそも兵器という定義がかなり曖昧でもある。

 銃や大砲、槍や長剣ならだれでも兵器と言うに違いないが、伝染性の強い病魔に侵された病人を、後退する軍の後方に置き去りにしたならバイオ兵器になりえるからなあ。

 神殿が弱者救済を目的にしているとしたなら、そんな重病人を長く生かしてくれたに違いない。敵の襲来を知って、神官達が全て逃げ去れば……。

 あまり考えないようにしよう。いくら憎しみの連鎖が続くようであっても、それを断ち切ろうとした人々はいるに違いない。あの神殿はそんな人々の拠り所となっていたと信じよう。


「グリーンベルトの中にもあるみたいだな。隠匿空間のように残っているかもしれないね」

『星の海の争いは、結果的にリバイアサン軍が勝ち進んだようですね。大陸南岸にあった基地の多くは現在人が暮らしています。建築工事の際に、何か出てきた可能性もあるのではないでしょうか?』


 地図を見ると、王宮の下にもありそうだし、もう1つは俺の領地じゃないのか!

 今度休暇を取った時には詳しく調べた方が良いかもしれないな。それと王宮なら、地下室も作ってあるだろうし、宮殿ともなれば堅固な土台を作ったはずだ。その時何か見つけたのか聞いてみたい気がするけど、下手にカテリナさんに話をしたりしたら、スコップを持って王宮に向かいかねないからなぁ……。


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