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M-294 特異点


 指揮所にて偵察状況を大型スクリーンに映し出し、砦建設地の周辺状況について説明を終えたところで、兵士が運んでくれたコーヒーを頂く。


「ご苦労であった。とりあえず問題なさそうだな……」

「この群れの動きが気になるところです。監視所に南東方向に注意するように連絡しておきましょう」


 ファネル様は十数頭のトリケラの群れが気になるようだ。距離は50kmほど南東だが、北に向かって進んでいる。向きを西に変えると面倒なことになりかねない。


「10ケム以内に入るようであれば狩っても良いでしょうか?」

「そうしてくれると助かる。隠匿空間から輸送艦隊が出発しているのを考えると、事前に狩った方が良いようにも思えるが……」


「積極的な狩りは、夕刻と明日早朝の偵察結果を待ってからでも遅くはないかと。その前に近づくようなことがあればブリアント騎士団にお任せしたいところです」


 ファネル様は慎重だな。

 思わず笑みが浮かんでしまった。タバコを取りだして火を点けてごまかしていると、フェダーン様と目が合ってしまった。

 小さく頷いているところを見ると場合によっては、バックアップをしてほしいということなんだろうな。

 俺が出るよりはメイデンさんに頼んだ方が良さそうだ。たまに魔獣に向かって砲撃するならメイデンさんのストレスを発散できるに違いない。


「大変助かります。これで、飛行機による偵察も適切に指示が出せますし、砦作りに支障がないことも分かりました」

「それでは夕刻に再びやってきます」


 長くいる場所ではないからね。

 さっさとプライベート区画に引き上げることにしよう。

 

 リビングの入ると、いつもの場所でカテリナさんとユーリル様が仮想スクリーンを見ながら意見を言い合っている。

 少し頭を冷やすべきだろうな。マイネさんに冷たい飲み物を頼んだところで、2人の座るソファーではなく斜め横のソファーに腰を下ろす。


「時計を見る限り、特に何も無かったようね」

「いくつか群れはいましたが、直ぐに対処するような群れではありませんから早々に帰ってきました。議論が白熱していたように見えましたけど?」


「そうなの……。植物と虫はとりあえず置いといて、動物の分類を進めていたんだけど……」


 カテリナさんの話を聞いていると、トカゲとイモリは同じ枝かどうかということらしい。これもヘビと鰻の話に似た感じだな。

 爬虫類と両生類なんだが形はよく似ているからね。


「成体の形は似てますけど、結構違いがありますよ。それにどちらも卵から孵化しますが卵の状態からして大きな違いがありますし、孵化してから成体になるまでの形態が異なると思いますが?」


「蝶と一緒という事かしら? でもあの場合は成体の足の数で分類をしたのよねぇ。今回の大きな相違は……」

「両者の一生を調べる必要がありますね」


 爬虫類は卵から成体で姿を現すが、両生類は形を変えるからね。蝶のように蛹を作寮なことはしないけど、最初から手足を持っているわけでは無い。

 これで、少しはマシになるはずだ。

 だけど、カテリナさんがこれだとなると、学生達はどんな系統樹を考えているんだろう?

 想像力は必要だけど、それを第三者に説明して納得させるだけの理由が出来ているんだろうか?

 やはりたまには状況を確認して、進路を正さないと駄目なのかなぁ……。


「話を変えて申し訳ないんですが、王宮の詰所はやはり頂けないんでしょうか?」

「例の話ね! たぶん貰えると思うわよ。でも、リオ君はお化けが怖いんでしょう?」


 ユーリルさんと顔を見合わせて笑っているんだから困った人達だ。


「リオ様はお化けを信じているんですか?」


 ひとしきり笑った後でハンカチで涙を拭きながらユーリル様が確認するように、問いかけてきた。

 マイネさんが運んでくれた氷を浮かべたジュースを一口飲むと、ゆっくりと頷く。

 2人が真顔になって驚いているのは、そんなのは迷信だと思っているに違いない。


「今時お化けや幽霊を信じているのは子供ぐらいよ。神官のユーリルでさえ信じていなんだから」

「さすがにお化けを信じているわけでは無いですよ。ホラーハウスとマイネさんは言っていました。古めかしい屋敷を単にそのように言ったのなら問題は無いでしょう。でも、そこで何らかの超常現象があったとなれば、別の問題が出てきます」


「見ることが出来ても触ることができない……。誰も手を触れていないのに物が動いている……。そんな話かしら?」


 俺が頷くのを見て、カテリナさんが笑みを浮かべる。ユーリル様も興味深々な様子で俺を見てるんだよなぁ。

 タバコに火を点けて、少し心を落ち着かせよう。

 この種の類は、自然科学を追求しようとする者にとっては、忌み嫌う話でもある。だが、アリスの持つ能力である数理演算システムは、高次元から現実世界の物理法則を一時的に書き換えることが可能だ。

 それにより自由に亜空間移動が可能であり、ブラックホールを任意に形成して重力場推進で自由に空間を移動できる。

 アリス以外に、そんな能力を持つ存在がいたとしたら……、あるいは、特殊な次元の特異点であったなら、ホラーハウスは現実を帯びてくる。


「亜空間に閉じ込められた人物が、その場に形成された次元の時点によって、現れるのかもしれませんね。特殊な場でしかありませんから、亜空間からの脱出は無理なのかもしれません。

 それと、もう1つの捉え方としては、高次元知性体が我等を観測する窓なのかもしれません。どちらにしても、興味深い事象です」


「お化けではないけど、お化けのような存在はあり得るということね。なるほど、面白そうね。是非とも貰わないといけないわ!」

「それにしても……、お化けを科学するということですか。王宮のホラーハウスの噂を払拭できれば、祈祷師の資格を神殿が授けてくれそうですね」


騎士団の騎士であり辺境伯だけど、それに祈祷師まで着くのか? そういえば学府の博士の資格もあった。さすがに博士と名乗るのはどうかと思って、教授を名乗ったことを知ったカテリナさん達が笑っていたんだよな。


「もし、高次元知的生命体からの干渉であったなら、俺やアリスでも防ぐことは出来かねます。亜空間実験に伴う遭難者であれば、場合によっては救助も可能でしょう」

「魔道科学の実験ではかなりの犠牲者が出ているわ。相手が分かってから、救助して欲しいところね。半数以上が犯罪者だと思って間違いないんだから」


 禁忌を犯したぐらいなら、カテリナさんは犯罪者と言わないだろう。あえて言うとなれば人道に背いた実験をしたということになるのかな?

 パルケルスのような人物であるなら、そのまま亜空間を彷徨い続けた方が人類の為になるということだな。


「救助が可能かどうかは分かりませんよ。かなり特殊な空間のようですからね」

「空間魔法の研究では、かなりの人間が帰ってこなかったようですね。今でも、魔導師達が研鑽を重ねているようです」

「物の出し入れや、空間の拡張ぐらいで満足すべきなんでしょうね。未だに瞬時に別の場所に移動するには危険があり過ぎるわ」


 アリスは自由に移動しているようだけど、それでも移動する座標を明確化しなければならないらしい。

 さらに、移動する空間の大きさはかなり制限されるようだけど、アリスの大きさが移動できるんだから十分だと思うけどなぁ。


「空間魔法の研究ということなら、多くの魔導師が集まりかねないわよ」

「ゼミの場所にしましょう。そこまで魔道科学に協力しなくとも良いと思います。将来的に魔法が使えなくなる可能性があるなら、あまり意味は無いと思います」


 今を生きるか、未来に託すか……。俺は後者を選ぶことにしたからなぁ。

 魔獣の生態系が安定していないとなれば、何時大きな異変が起きないとも限らない。

 その結果、今より魔気の濃度が変化したなら王国の住民にどんな影響が出るか予想もつかない。

 大きな生態系のうねりが人類に襲い掛かるかもしれないが、果たしてそれを魔道科学で乗り越えることができるだろうか……。


「自分ではどうにもできない事象を、リオ君は恐れるということなんでしょうね。良かったわ。子供と同じでベッドで布団を被っているようでは騎士とは言えないものねぇ」

「ホラーハウスは、科学の世界での特異点ということですね。上手く観測できると良いですね」


 この2人は、超常現象をどのように捉えていたんだろう?

 わけが分からない、ということで無視していたのかもしれないな。

 それは科学する心があるとは思えない行為だけど、魔道科学による魔法を始めてみた時は、俺も驚いたからなぁ。


「王宮のホラーハウスとして詰所は有名ですけど、他にもあるのでしょうか?」

「あるわよ。ミステリーツアーがあるぐらいだもの。王都内のミステリースポットを数か所巡って食事が付くみたいね。リオ君、今度一緒に行ってみましょうか?」


 ユーリル様の素朴な疑問に、思いがけない答えがカテリナさんから返ってきた。

 そんな怪しげなツアーがあるとはねぇ……。「キャー!」って言いながら女の子が意中の相手にしがみつくのかな? ちょっと面白そうだけど、カテリナさんと一緒というのは……。


「怪しげな雰囲気がするんですけど?」

「全て、都市伝説の有名な場所よ。夜通ると、女性が一人で立っているとか、後ろから足音だけが聞こえてくるとかね。面白いのは別に人通りが少ないわけでも、薄暗いわけでもないの。グリット通りはユーリルも知っているでしょう? あの通りで赤いワンピースの女性が良く見られるらしいわ。街灯の下に立っているという話だけど、ツアー参加者全員に目撃されたことがあったらしいわよ」


 まさしく次元のひずみが発生する場所、特異点ということになるのだろう。

 条件に付いてアリスに詳しく調べて貰っても良さそうだ。


「それも科学の目指すところになるのかしら?」

「ある意味興味があるというだけになります。俺としては空間魔法をこれ以上進める必要は無いと考えていますが、時空を超越した動きと言うのは科学の目標でもあるんです。

 俺にはあまり理解できているとは言えませんが、アリスはそれを可能にしていますからね。先ほどの大通りの出来事をアリスなら具現化することができますよ」

「進んだ科学は魔法と同じ……。リオ君が前に言った言葉ね」


 だからこそ科学を発展していきたいんだが、こればっかりは急に進めることは出来ないだろう。

 教えることは可能だろうが、それで科学が発展するのだろうか?

 やはり、自分達で探求していくのが科学するということだろうな。


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