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M-293 輸送艦隊がやってくる


 谷の出入り口に設ける城壁は高さ20スタフ(30m)横幅は530スタフ(800m)ほどもある。工兵達が谷の左右の岩を切り出して魔法で石のブロックに成形しているが、その大きさは縦横半スタフ、長さ1スタフほどの大きさだ。

 安山岩のような岩だから、1つのブロックの重さはおよそ2tほどになるのだろう。その岩に重量軽減の魔法陣をスタンプで描くと重さが十分の一になる。

 200㎏程度なら獣機で容易に運搬できるから、リバイアサンのデッキから見ることのできる範囲だけでも数十機の獣機が稼働している。

 小隊単位で、2時間の作業を1日3回行うようにシフトを組んでいるようだ。中隊規模の獣機がいるのだが、残りの中隊は谷の奥で石を切り出しているんだろう。


「もう直ぐ1か月ほどになるわ。まだ土台作りが終わらないのかしら?」

「フェダーン様が、工事は順調だと言っていましたよ。城壁を高く積み上げますから、どうしても土台は大きくなってしまうようですね」


「石切りは複製魔法を使うらしいわ。材料があるなら複製ができるということなんでしょうけど、石切りをしながら宿舎を作ろうなんてことを考えているから、工事が捗らないんじゃないかしら」


 一石二鳥の考え方かもしれないが、岩山をくり貫いて居住空間を作るのは簡単ではないのだろう。

 両側の尾根の谷部分を垂直に切り出して桟橋を作るらしいが、その桟橋の壁部分に居住区が作られるようだ。工房都市のような形になるんだろう。まぁ、工房都市のように両側の桟橋が近く無いから、橋を作ることは出来ないだろうけどね。


『橋を作らずにロープウエイを作るようです。重量物は地下にトロッコを走らせるのでしょう』


 アリスがそっと耳打ちしてくれる。なるほどね。色々と考えているようだ。


「完成図を基に工兵部隊が作業工程を作ったはずですから、工事方法について俺達が口を出すのもいかがなものかと……。それに、フェダーン様の話では進捗遅れは無いと言っていましたよ」

「そうねぇ……。でも、もっと簡単に出来そうな気もするのよね」


 俺達は部外者だからなぁ。完成予想図のような砦がみるみる出来上がるとものと思っていたのだが、現実はそうではない。

 それでも、魔獣の襲撃に脅えることなく作業を進められるということで、予定より工事工程が進んでいるらしく、その調整が指揮所で行われているらしい。

 場合によっては、足りない資材が出てくるかもしれないな。


 その夜の事だった。

 いつものようにソファーでフェダーン様達と歓談していると、フェダーン様から1つの依頼を受けた。


「砦作りを始めて1か月が過ぎようとしている。まだ工事資材は十分だが、生鮮食料はさすがに不足し始めたようだ」

「予定通りに隠匿空間からの物資の輸送ということですね?」


「輸送船3隻を隠匿空間に駐屯している艦隊が護衛してくる。その間の隠匿空間の護衛はヴィオラ騎士団とブリアント騎士団が担当する手筈だ。隠匿空間からここまでの距離はおよそ550ケム(800km)、巡航速度なら2日の距離になる」

「朝夕の偵察飛行時に隠匿空間までの経路を加えれば、脅威の存在を輸送艦隊に知らせることができるでしょう。それぐらいはたやすいことです」


 隠匿空間の護衛艦隊は巡洋艦1隻と駆逐艦が数隻だ。巡洋艦の後部砲塔は撤去して飛行機の格納庫と離着陸台に改造してあるから、飛行機による艦隊周囲の偵察も出来るだろう。広域偵察結果と組み合わせれば、かなり安心できるんじゃないかな。


「輸送船3隻とは……。だいぶ積み荷が多いように思いますが?」

「作業員の交代用として1隻は貨客船だ。2個小隊ほどを順次隠匿空間で休養させる」


 あの茶店の売り上げが伸びそうだな。

 まったく何も無いような荒野の中で、隠匿空間だけは緑が溢れているからね。とは言っても、軍の管轄区域や商会ギルドの区画はだいぶ整備されてしまって緑が少なくなっているんだよなぁ。

 ヴィオラ騎士団の区画は、俺達に建設資金がないこともあって、まだまだ自然にあふれているし、農業だってやってるぐらいだ。許可している遊歩道の散策を軍人達も結構楽しんでいるらしい。


「何もない隠匿空間ですけど、安心して散歩できるだけでも十分ということでしょうか?」

「あの位置で、陸上艦を下りる等他の場所では考えられんからな。ヴィオラ騎士団の区画が緑であることも幸いだ」


 だけど1か月も休憩しているのは長すぎるんじゃないか?

 その答えは、直ぐにフェダーン様が教えてくれたんだが、半月ほどで交代させるとのことだった。

 北の回廊に轍が出来るのはそれほど遠い話ではなさそうだな。


 隠匿空間より輸送艦隊が出発する当日の朝早く、砦周辺と隠匿空間までの偵察飛行に出発する。

 回廊は尾根の作る谷の10kmほど奥まで、南は星の海北部に広がるグリーンベルトまでの状況を詳しく確認しておく。

 

「そういえば、この偵察状況を届ける相手は誰になるんだろうね?」

『輸送艦隊の旗艦である巡洋艦に届ければ問題は無いでしょう』


 とりあえず、そうするか……。

 ヴィオラⅡに通信を入れると、30分ほど前に輸送艦隊が出発したらしい。

 まだ北の回廊の入り口にも達していないだろうから、早めに情報を届けてあげよう。


「輸送艦隊の旗艦に通信を送れるかい?」

『ブラウ同盟軍の通信回線を使用していますね。……『着陸許可』を確認しました。船尾の離着陸台に案内人を用意するそうです』


 頼りにされているみたいだ。

 まだ隠匿空間近くで南進を続けている輸送艦隊を見付けると、巡洋艦の船尾にアリスを着陸させた。

 片膝を付いて離着陸台上に停止すると、直ぐにコクピットから降り立つ。

 士官が駆け付けてくると、俺に騎士の礼をとる。片手を軽く上げて略礼をすると、偵察状況を説明したいと告げた。


「会議室にご案内いたします」


 先に立って歩き始めると、俺達とすれ違いに士官やドワーフ族の連中が通り過ぎた。遠巻きにアリスを見ているんだけど、触ろうとするものはいないようだ。


「何度か見ているのですが、さすがに間近で見る機会はありませんでした。失礼をお詫びいたします」

「分解しようなんて考えなければ問題は無いよ。アリスは自分で判断できる。俺が居なくても害があると判断すれば自分で排除してしまうからね」


 士官が吃驚して後ろを振り返っている。

 遠巻きにしている連中を見て、胸を撫でおろしているようだ。


 艦内の狭い通路を通って、金属製の扉の前で士官が足を止める。

 扉を叩いて、自分の名を告げると静かに扉を開き、俺を中に入れてくれた。

 10人ほどが座れるような、会議室だ。士官食堂を兼ねているのかもしれないな。奥の壁に2つほど丸窓があり、窓が開いているのはここでの喫煙は自由ということになっているのだろう。


「フェダーン様から砦までの偵察を仰せつかり、その結果を携えてきました。すぐにお見せしてもよろしいでしょうか?」

「ご苦労様です。艦長のエイブル。駆逐第1艦隊を率いるパドレム、駆逐第2艦隊を率いるエレノアそれに我が艦の航海長を務めるアメリーです。何度かお会いしましたが、改めてご挨拶致します」


「早速ですが、少し暗くして頂けませんか? 偵察状況についてご説明いたします」


 窓にカーテンが引かれ他ところで、バッグからプロジェクターを取り出し、壁に画像を投影する。


「魔獣の分布はこうなります。砦の建設位置までおよそ550ケム。2日間の距離ですが、回廊の東西の距離は120ケム程度しかありません。北の谷に 魔獣が潜んでいる可能性もありますし、星の海の北に広がる緑地帯には多くの草食性魔獣や小型ですが凶暴な野獣も生息しています。

 この画像の赤で表示された丸がチラノタイプ、×がトリケラタイプになります。矢印は移動方向、矢の長さが移動速度になります。黄色の丸が肉食性の野獣ですが、大きな群れではありません。不用意に甲板に出なければ問題ないものと……」


「さすがですな……。このような状況図が得られれば安心して航海が出来ます。

そのまま画像を映してくれませんか。急いで書き写しますので……」


 コーヒーが出てきたのはありがたい。ついでにタバコを見せると頷いてくれたから、一服を楽しめそうだ。


「1か月ほど経過して、まだ土台だけかとカテリナさんが言っていましたが、フェダーン様は順調だと教えてくれました。建築資材はたっぷりとリバイアサンに搭載してきたのですが、生鮮食料はどうしようもないですからね」

「輸送船の2隻は食料品です。もう1隻は交代兵員と資材ですからな。リバイアサンの輸送能力は我等の常識を超えています」


「この群れに場合によっては遭遇する可能性がありますね。チラノタイプではありますが、群れは小さいようですけど……」

「チラノそのものです。数は数頭ですから、場合によっては砲撃して追い散らすことになるでしょう。とはいえ遭遇までには数時間以上ありますから、飛行機で再度確認が必要と考えます」


 壁際まで行って画像を眺めていたエレノアさんが、うんうんと頷いて俺の言葉を聞いている。まだ画像を眺めているのは、他の群れの動きについても考えているのだろう。

 輸送艦隊の護衛艦ではあるが、場合によっては艦を率いて魔獣を追い散らしに出向くことになるからだろうな。結構思慮深い人のようだな。


「どうにか、終わったようです。明日もお願いできるのでしょうか?」

「明日と言わずに、夕刻にも再度偵察結果を運んできます。できれば同じような魔道具があれば良いのですが、生憎となさそうですね。帰ったらカテリナさんと相談してみます。カテリナさんの工房もリバイアサンにありますから、案外予備のプロジェクターがあるかもしれません」


 コーヒーの礼を言うと、会議室を後にする。外で待ち構えていた士官の案内で泉保の離着陸台に向かうと、たくさんの兵士達が、アリスを囲んでいた。


「案内ご苦労様でした。夕刻にまたやってきます」


 士官に伝えたところで、アリスのコクピットに収まる。

 あまり人の多いところで上空に飛び立つのも問題がありそうだな……。

 離着陸台から飛び降りると、地上滑走モードで北西へ移動する。

 艦隊の姿が見えなくなったところで、上空へと飛び立った。

 せっかくだから、ハーネスト同盟軍の調査艦隊の動きも見てみよう。しばらく動きを掴んでいなかったけど、何か見つけたかもしれないからね。


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