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M-292 お化け屋敷があるらしい


「戦女神の存在を知る者はあまり多くないことは確かね。現在は5つの神殿があり、6つの神を信じる人達がほとんどだから」


 のんびりと湯船に浸かる俺の顔を、覗き込むようにしてカテリナさんが抱き着いている。隣で興味深げに俺を見ているユーリルさんがいるんだから、少しは恥じらいを持って欲しいところなんだけどなぁ。


「王族だけに伝わる神話を亡くなった母から聞いたことがあります。なぜ、その話は一般に伝わらないのでしょうか?」


 カテリナさんが顔だけをユーリル様に向ける。真剣な顔をしているぐらいなら、俺の上からどいてくれても良いように思えるんだけどなぁ。


「古代帝国の英雄ということになるのかしら……。12柱の戦の女神は魔王率いる軍隊に挑んで亡くなったということだけど、コリント同盟の3王国は古代帝国の末裔とも言われているでしょう? 王族ではなく、その12柱の女神の末裔ということが真相に近いと私は思っているの」


「さすがに神の末裔は無いんじゃないですか? となれば神とも称された優れた人物、しかも女性達が12人いたということなんでしょうね」


「リオ君の考えに同意するわ。さすがね。私も王宮の禁書を紐解いてその考えを持ったんだけど、どうやら魔道科学の秀でた軍人であったようね。それだけではなく、チェスの名人でもあったみたいよ。チェスの決め手の中かに、彼女達の変化した名で伝わっているわ」


 戦術、魔道科学、軍事に秀でた人物が12人いたということか……。敗軍を率いて大陸の東に逃れて再起を図ったのだろうが、帝国崩壊の大渦に飲み込まれてしまったのだろう。

 だが彼女達の願いは無駄にはならなかった。再び人間世界がこれだけ大きくなったんだからね。

 そういう意味では女神とも称されてしかるべきだろう。


「リオ殿がそれを知っていたから驚いたということになるのでしょうか?」

「たぶん違うと思うわよ。リオ君の事だから、まったく異なる神話に違いないわ。それは……、リオ君からベッドで聞けば良いわ……」


 俺の上からゆっくりと隣にカテリナさんが離れてくれた。

 まだ昼なんだよね……。


 2日目は初日から比べれば少しは気も楽にあったようで、ファネル様は2人の妻に助けられて砦建設の全体に目を光らせている。

 名目的な責任者だとばかり思っていたが、案外ファネル様の実務能力は高いように思える。さすがは学府を優秀な成績で卒業した出来の事はあるな。

 能力はあるけど経験がない……。そんな事を言う連中に、北の回廊計画によって自分の実力を示したいのだろう。

 フェダーン様は後見人であるとともに、ファネル様の実力を正しく国王陛下に伝えるための評価者でもあるようだ。


「私達は暇だから、ユーリルと一緒にリオ君の課題を楽しんでいるわ。リオ君の方も宿題をちゃんとしているのかしら?」

「一応、少しずつこなしていますよ。解決の糸口を見えるようにするというのは結構難しいですね。場合によってはいくつかに例題を出した事例もあります」


「あまり学府の生徒を野放しにも出来ないわ。導師と一緒に一度王都に戻る前にリオ君の宿題を読ませて欲しいの」

「半分ぐらいは終わってますよ。10日もあれば残りも何とかです。いつ頃出掛けるんですか?」


 カテリナさんの返事は導師次第だということだった。

 導師も自由人だからなぁ……。とは言っても王都を出て半月も経っていない状態だ。少なくとも1か月程度、間を置くべきじゃないかな。


「確かヒルダ様は学生の援助もしているんでしたよね?」

「ええ、苦学生の額資金を補助しているわ。ヒルダ達のサロンの話を聞いたでしょう」


「それなら、第2離宮に各学部の優秀な連中を招待しても不自然ではないと思うんですが?」

「貴族達の目があるから頻繁に、ということにはならないでしょうね。でも優秀な学生をサロンに招くことは男性貴族のクラブでも行われているから、貴族の館に招くのは不自然と言えないんでしょうけど……」


 いずれ自分達の陣営に……、なんて考えているのかな?

 青田刈りにも思えるけど、優秀な人材はどこも欲しいということなんだろう。


「リオ様は王宮内に場所が欲しいのでしょうか? それなら、王宮内の催事の時に使われる警備兵詰所を使われては」


 湯面の上に仮想スクリーンが作られる。

 王宮を上空から撮影した画像だ。アリスが撮っておいたに違いない。地図よりも確実だからなぁ。


「正門はこれですね。宮殿への道をたどって右手に向かえば第2離宮ですが、その反対の道を進むと……。これです。小さく見えますが休息室が2つに会議室が1つ作られています」

「周辺警護をするために動員される警備兵の詰め所という事かしら?」

「そうです。普段は誰も使っていませんし、現国王陛下は国を上げての大規模式典などしていませんから。次に使うとすればファネル殿の戴冠式ぐらいなものでしょう」


 早い話が、無駄な建物ってことになるんだろう。

 だけど王宮内にあることから、外見は立派そうだ。宮殿内の部屋を貰うんだったら、ここで良いかもしれないな。戴冠式の時には明け渡せば良いんだろうし……。

 場所は西の森の中だ。自走車が走れる道はあるんだが、途中から石畳ではないようだな。


「王宮内に部屋を貰えるみたいですけど、この建物を貰うわけにはいかないでしょうね?」

「さすがに、ここでは国王陛下の矜持を問われそうです」

「リオ君の事だから、この建物を使ってゼミを開こうと考えているんでしょう? でも、それには好都合ね」


 森の中だから、いつでもアリスを具現化して隠すことができる。

 俺の相談相手になってくれる、ヒルダ様の暮らす第2離宮にも近い。自走車を1台用意しておけば結構便利に使えるんじゃないかな。


「ゼミの参加者は抽選もしくは学生の評価で決めれば良いわね。それは学府内の自治会で決めれば良いわ。選ばれた学生と何人かの教授に対して王宮内警備兵詰所への立ち入り許可証を与えれば、学府内でのステータスにもなるし国王陛下の評価も上がるんじゃないかしら。学府では学べないことを学ぶ機会を王宮が与えられることになるのですもの」


「そうなると、留守番が必要になりますね。詰所の管理と、リオ様がいらした時に国王陛下に耳打ちする位は必要でしょう」

「宮殿内の行儀作法見習中の侍女達を使うのも良さそうね。監督と数人の侍女見習いがいるなら、色々と便利に使えそうだわ」


 王宮を自分の家と勘違いしているような話をしているんだよなぁ。ユーリル様にとっては自分の実家だから、まぁ分からなくもない。だけどカテリナさんはいくら姉さんが王妃の1人だからと言ってもねぇ……。

 

「導師が来たら、要望を伝えておくわ。導師なら国王陛下に何時でも目通りできるから、きっとリオ君の物になるわよ」


 ゼミに必要な品をリストにしておきなさいと俺に伝えると、さっさとカテリナさんがジャグジー時から出て行った。

 残ったユーリル様が俺に体を預けてくる。

 更衣室の気配が消えたところで、ユーリル様を抱き上げてベッドへと向かった。

              ・

              ・

              ・

 夕食に皆が集まった時だった。

 フェダーン様が、俺に顔を向けて話を始める。


「あの詰所が欲しいとのことだが、リオ殿の功績を考慮するなら、小さな別邸を王宮内に作ることも出来よう。あれは少し……」


 フェダーン様が言葉を濁すところを見ると、かなりボロイのかもしれないな。

 なんといっても、森の中に半ば隠れたような建物だ。

 マイネさんに教えたら「ホラーハウスにゃ!」と言ってたぐらいだから、その現状が理解できる。


「余っているなら、宮殿の中よりストレスを受けなくて済みそうです。俺に貴族の付合いはできそうもありませんし、その建物なら学府の連中を呼ぶのも問題が無いように思えます」


「ところで、誰に教えられたのだ?」

「少人数の学生と対話形式のゼミを開くには……、という話題になった時にユーリル様から提案を受けました」


「ユーリル殿なら知っていてるのも、当たり前か……。近衛兵の新人の肝試しに使っていたようだが、他の方法に変えねばならんな」


 何それ! まさか出るんじゃないだろうな?

 思わずユーリルさんに顔を向けると、素知らぬ顔をしている。絶対に知っていたに違いない。


「どうした? 急にソワソワしだしたが……。まさか、ブラウ同盟に騎士リオ在りとまで言われる人物が、お化けを怖がるとも思えんが?」


 皆が口元を押えているのは、夕食が不味いわけでは無いはずだ。

 怖いというより、存在を否定できないんだよなぁ。お化けは、高次元からの意識的な干渉ではないかと思う。低次元の俺達にはそんな超常的な存在をどうすることも出来ないからなぁ。


「しょうが無いわね。今夜は私が一緒に寝てあげましょうか?」


 そんな事を言うから、フレイヤ達がカテリナさんをきつい目で見てるんだよなぁ。俺で遊ばないで欲しいところだ。


「それにしても、思わぬことでリオ殿の弱点を見付けてしまいましたね。子供でもあるまいしと言うのは簡単ですが、近衛兵の肝試しは失神者続出と聞きましたが?」

「あれは、お化け役を用意しているからだろうな。信じる者を無理強いすることはないし、信じない者の中にはお化け役を返り討ちにする強者もいるぞ。どちらかというと、半信半疑の連中が問題だ。その結果を基に近衛兵の配置を決めていると部隊長に聞いたことがある」


 それってかなり悪質な試験なんじゃないか?

 まぁ、昔から行われてきた伝統でもあるんだろうけどね。新兵を集めて怖い話をたっぷりと聞かせた後に行うんだろう。

 シーツを被った先輩達を遠くから見ただけで腰を抜かすに違いない。

 俺は誘われても、そんな催しには参加しないでおこう。

 お化けに扮した10人の先輩達がいつの間にか11人に増えてるなんてことが起こったら嫌だからね。


「ちなみにユーリル殿は、お化けを1人病院送りにしたそうですよ。杖であったから良かったものの、長剣では死んでいただろうと部隊長が教えてくれました」

「兵達は迷信深いところがある。ファネル殿もその辺りには十分注意することだ。上手く使えば兵を統率することも容易だが、場合によっては士気を著しく損ねることにもなりかねない」


 早く別の試験に変えた方が良いんじゃないかな?

 とはいえ、ユーリルさんはお化けを怖がることはないようだ。カテリナさんも笑みを浮かべて聞いているんだから、大丈夫なんだろう。

 エミーとフレイヤは聞こえない振りをしているから、俺と同類に違いない。

 

 だけど、場所的には理想的だ。

 上手く頂けることになったなら、神官にお祓いをして貰おう。

 詰所を頻繁に利用するのは俺ぐらいだろうし、夜1人で寝ることになるだろう。

 どんなことでも、事前対策は重要だからね。


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