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M-289 魔石を届けに行こう


薄明が始まる頃にデッキに出て周辺を眺めてみると、急峻な尾根がこちらに向かって張り出していた。

まだリバイアサンは北上を続けているが、目的地までは50kmほどぐらいじゃないかな。

もう少し明るくなったら、偵察に向かうことになりそうだ。

リバイアサンの監視所でも周囲の状況確認は可能だが、曲がりくねった谷の奥はさすがに見えないはずだ。


リビングからインターホンのブザーの音が聞こえてきた。

一服していたタバコを携帯灰皿に投げ入れて、急いでインターホンに応答する。

連絡してきたのはエミーだった。


「2時間ほどで到着ってことだね。了解だ。もう少し明るくなったら偵察に向かうよ……」


 現在の時刻は5時少し前だ。7時頃に到着するなら、5時半ごろに偵察に向かえば良いだろう。


「あの谷に作るのね!」

「結構奥が深いんです。コーヒーを飲んだら、偵察に行ってきます。谷の奥に何が潜んでいるか分かりませんからね」


 航海に飽きてきたのだろう。カテリナさんが嬉しそうに問いかけてきた。

 昨日の偵察ではいなかったが、1日経っているからね。肉食魔獣から逃れようと装飾魔獣が谷の奥にいないとも限らない。

 それに獣達だって危険なことに変わりはない。

 砦建設の最初の仕事は整地と測量らしいからなぁ。獣機を動かしてというわけにも行かないだろう。

 測量をして砦建築の杭を打つまでは、小隊規模で工兵隊が活動するだろう。その間の周辺警備と迎撃態勢造りにしばらくは指揮所が忙しくなりそうだ。


 コーヒーを飲み終えると、アリスと共に砦付近の周辺と谷の奥を偵察する。明るくなったから視認性は良いのだが、一応念の為に発熱反応と動体反応の有無についてもアリスに確認して貰うことにした。


『魔獣はグリーンベルト付近で活動しているだけのようですね。北西35kmに谷近くに大型トリケラの群れがいますが、そのまま西へと移動しているようです』

「あれか……。狩るには少し数が多いね。アレクでも諦めるんじゃないかな」


 魔獣の脅威度は魔獣の種別と数の積になる。単体では容易に狩れる相手でも数が増えれば増えるほど危険な狩りになってしまうのは十分承知しているつもりだ。10頭以下ならありがたいんだが、数十頭いるとなれば、近づかない方が良いに決まっている。


「これは?」

『グリーンベルト内に隠れていますので視認はできませんが、熱画像解析では砂漠オオカミの小さな群れです。動きはありません』


 砂漠オオカミの狩りは夜だからなぁ。狩りを終えて休んでいるのだろう。

 砦建設位置周辺と谷の奥の状況を確認し終えたところで、エリーに偵察終了を告げて画像を送る。リバイアサンの生体電脳は科学技術の産物だから、アリスが画像データーを直接記憶槽に送ったようだ。

 さて、次はお使いだな。


「ヴィオラ艦隊とブリアント騎士団の分隊に向かうよ。魔石を渡してくれと頼まれたんだ」

『ついでに周辺の状況報告ということですね。了解です。先ずはヴィオラ艦隊を目指します』


 どちらの相手も、砂の海を航海しているから位置を確定できない。

 概略位置は教えて貰ったから、上空から地上レーダーで見つけることになってしまいそうだ。

 高度1万m付近を音速で飛びながら陸上艦を探す。

 直ぐに見つかるかと思ったけど、上空から見ると結構陸上艦があちこちにいるようだ。

といっても相対距離は100km以上離れているんだけどね。


『見つけました。左40度、距離85kmです!』

「視認できないが、レーダーのこれってことか。ヴィオラ騎士団の根拠は?」

『ガリナム騎士団との交信を傍受しました』


 なら間違いはないな。

 ヴィオラⅡに通信を送り着陸許可を貰ったところで、ヴィオラⅡの舷側から艦内に入った。


 アリスから下りると、レイドラが待っていた。

 直ぐに会議室へと案内してくれたから、コーヒーを頂きながら周辺の偵察状況をプロジェクターを使って説明する。


「このサベナスは狙い目だな。ガリナム艦とヴィオラⅡで進行方向を塞いで、後ろから飛行機で追い上げれば簡単に狩れそうだぞ」

「その他は、トリケラタイプ……。それで良いわ。レイドラ、クリスと調整してくれない?」


 たちまち狩りの計画が始まる。

 騎士団のこの連帯感が素晴らしいんだよなぁ。


「これをエミーから預かってきた。水の魔石が200個あるよ。中位魔石も混じっているはずだから、隠匿空間で換金して欲しいんだけど……」

「リバイアサンで狩りをしたの! 本来なら全てリバイアサンの運用資金にしたいんだけど……」


 ガリナム騎士団も一緒だからなぁ。その辺りはドミニクの采配に任せよう。

 リバイアサンの運用資金は、今のところ問題はないとエミーが言ってたからね。


「そうそう、やはりカニは美味しかったですよ。数匹保管していますから、隠匿空間でご馳走できると思います」

「新たな資金源になると良いわね」


 星の海の重要な水産資源になりそうだけど、水棲魔獣がいるからなぁ。俺達以外では安心して漁獲できないだろう。

 当座は独占できそうだから、ヴィオラ騎士団としての重要な収入源になる可能性は確かにありそうに思えてくる。


 コーヒーを辞退して、今度はブリアント騎士団へと向かう。

 ブリアント騎士団の団長はリバイアサンにいるから、その間の魔獣狩りの責任者は副団長のグンターさんになる。

 アリスにブリアント騎士団の陸上艦へ連絡をして貰い、周辺偵察を終えたところで駆逐艦とグラナス級の大型輸送船の艦隊を見付ける。


『あれがブリアント騎士団ですね。駆逐艦と輸送船どちらも改修型です』

「大砲の口径を落とした駆逐艦か……。輸送船はさすがに大きいね。巡洋艦並みだが、武装は砲塔無しで、舷側砲のみだな」


『駆逐艦をリバイアサンの戦闘艦のように使っているのでしょう。旗艦がリバイアサンに停泊していますから、魔獣狩りの規模を縮小していると推測します』


 王国から砦運営管理費を出して貰う事にはなっているが、まだ出来上がっていないからなぁ。準備金の形である程度まとまった金額を受け取ってはいるが、規模が大きい騎士団では直ぐに使い切ってしまうだろう。


『グラナス級輸送船を仮の旗艦にしているようです。舷側扉を開くと連絡が入りました』

「それじゃあ、行ってみるか!」


 上空1万mから一気に地上に降下して、地上滑走モードで陸上艦に近づいていく。

 砂煙で俺達を見付けたのだろう。発光信号で左舷を指示している。舷側扉を開放したのは左舷のようだな。


 時速15kmほどで進んでいる陸上艦に、斜め方向から滑走して行き開口部に飛び乗った。

 陸上艦に入ると、ドワーフ族の男性の掲げる赤と白の棒に従って駐機台に移動する。

 駐機台にアリスが乗ると、触手のようなベルトで固定された。

 コクピットを下りると、若い騎士が俺を出迎えてくれる。案内されるがままに小さな会議室に入った。


「まさかリバイアサンからやってくるとは思ってもみませんでした。すぐにコーヒーが届きます。ゆっくりしていってください」

「先日、星の海の小島で狩りを行いました。参加したブリアント騎士団、ヴィオラ騎士団、それに軍で魔石を分配したのですが、リストナさんからグンターさんに渡して欲しいと頼まれた品です」


 忘れないうちに渡しておこう。

 ずっしりと重い革袋を開けて、グンターさんが驚いている。

 魔石200個だからなぁ。それなりに高く売れるに違いない。


「水の魔石……。星の海の東岸近くの湿地帯でたまに獲れるんですが、これほど多く見ることは初めてですよ」

「なぜかしら、小さな島にかなりの数が集まっているんです。しばらくは砦作りに勤しむことになりますからね。砦に接近する魔獣がいれば良いのですが……」


「ハハハ……。そう上手くことは運ばないでしょう。コーヒーが来ましたな。伯爵にコーヒーだけというのは何ですが……」

「ありがたく頂きます。ところでここはタバコは大丈夫ですか? それと、部屋を少し暗くして頂けないでしょうか」


 少し首を傾げていたが、直ぐに灰皿が運ばれて、丸窓にカーテンが引かれた。

 バッグからプロジェクターを取り出すと、壁に画像を映し出す。


「この艦隊から半径150ケム圏内の魔獣の状況です。画像の上が北になります。同心円が3つ。円の間隔がちょうど50ケムになります……」


 魔獣の種別と大まかな数に進行方向……。それが分かったんだからグンターさんの口が開いたままになっている。

 隣の筆頭騎士が、急いで画像を書き写しているのを見て、終わるまで待つことにした。


「……ここまで詳細な状況図が得られるのですか。これがあるなら明日までの狩りは簡単にできるでしょう」

「あくまでも状況だけです。この先はブリアント騎士団の狩りになりますが、ヴィオラ騎士団ではこれを元に、自分達の得意とする狩りを行うための航路を決めています。魔獣を狩って魔石を得るのは命掛けですからね。安全に狩れる群れだけを選んでいくんです」


「それが出来れば苦労はしないんだが……。確かにこれだけ分かれば容易だろうな。俺なら、これを最初に狩って、次はこちらに向かうぞ。この肉食獣の群れが気になるところだが……」

「自走車を向かわせて動向を探らせれば良いだろう。……この状況図、ありがたく使わせて貰いますぞ」


 喜んでくれるなら、周辺偵察をした甲斐もあったということだな。

 コーヒーの礼を言って、リバイアサンに戻ることにした。

 そろそろ予定位置に停止したんじゃないかな?

 俺の直接的な仕事は無いと思うんだが、あまり帰りが遅いと文句を言われそうだ。


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