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M-284 神話は導きでもある


「大地母神は空と海を作り、その中に大陸を造った。山脈を造ると、河が出来湖が出来た。その周囲に草や木が生え、大地は草花と森に覆われた。

 涼やかな風が流れる中で大地母神は6つの神を産んだ。火の神、水の神、土の神に風の神。最後に光と闇の神を産んで大地に昼と夜を造った……」


大理石の彫像の並ぶ湯船の縁に腰を下ろして、カテリナさんが神話を俺に教えてくれた。だけどカテリナさんの姿はちょっと目の毒だな。カテリナさんが彫像の1つのようにも見えてしまう。


「ちゃんと聞いてるの?」

「ええ聞いてますよ。でも、そこに座るとカテリナさんが彫像のように見えてしまって……」


 俺の返事が気にいたのか、笑みを浮かべて俺の隣に湯船の中を歩いてくる。


「しょうがないわね。でも、この彫像達と同じに見えたなら、少しはサービスしないとね」

「それはもう少し後のお楽しみということにしましょう。今の話を聞く限り、現在この世界にいる動物や植物は、現在の形のまま生み出されたということになるですね?」


 俺の抱き着いていたカテリナさんが、俺から体を話すと俺と一緒に湯船に肢体を投げ出した。


「誰もがそう信じているわ。私や導師もそうでしょうね。リオ君は違うの?」


 そこで無理やり顔をカテリナさんに向けなくても良いんじゃないかな? グリッと音がしたぞ。

 

「系統樹の幹について話ましたよね。幹から枝は伸びる。では幹にはどんな生物がいるんでしょう?」


 俺の言葉に、カテリナさんが目を閉じる。

 深く考えているに違いない。その間に、持ち込んだワインを傾ける。


「幹は最初から太いとも限らないわね。その時はどちらが幹になるか分からなかったはず……、枝を伸ばす元になった生物が存在しないといけなくなるわ!」

「それが『ミッシン・グリング』と呼ばれる生物です。新たな生物によってその存在は消えているでしょうが、その存在無くしてこの世界の生物は存在しないでしょう」


「リオ説ね。神殿が反対しそうだけど、真実審判には持ち込めないでしょうね。万が一神殿の教えが違っていたなら、権威がガタ落ちしかねないもの」

「神話は神話で良いと思いますよ。その存在があるからこそ、科学の目指すものを照らしてくれるんですから」


 神話を否定するならだれでもできる。だが科学的な論拠でそれを成し遂げない限り学者としては失格だろうな。

 学者は決して異端者ではない。神を信じるからこそ、神の御業を知ろうとするのだ。


「でも今の話は、動物の分類に使えそうね」

「最初の枝をどのように決めたか、それが説明できないと駄目ですよ」

「学生達は寝食を忘れたように討論を繰り返しているみたいよ。1か月も過ぎたら様子が分かるかもしれないわ」


 整合させようなんて考えているのかもしれないな。

 だけど進化を知らないのは問題だな。かつてはこの大地にも化石がたくさんあったと思うんだけどねぇ……。


 冷たいシャワーで体を冷やす。

 それでも体の中から汗が噴き出してくるから、デッキに出て冷たいワインを楽しんだ。

 遠くに見えるのは大河を取り巻く緑なんだろう。今夜遅くに大河を越えそうだな。


 するりと体から何かが抜き取られる感じで目が覚めた。

 カテリナさんが隣で上半身を起こしているから、俺の下になった腕を引き抜いたのだろう。


「あら、起こしちゃったみたいね。そろそろ日が落ちるわ。皆が戻ってくるわよ」


 そのままシャワーを浴びるためのベッドから離れたので、俺も一緒に浴びることにした。

 さっぱりしたところで着替えを済まし、リビングに向かう。カテリナさんはメイクがあるからなぁ。そのままでも十分美人なんだけど、フレイヤ達に対抗しているのかな?でも、ルージュはもう少し薄目が良いと思うんだけどなぁ。

 会った後には、いつも顔をチェックしないといけないんだよね。


 暮れ行く西の空を眺めながら、一服を楽しむ。

 周囲に陸上艦はいないようだが、リバイアサンの速度はどのていどでてるんだろう?


『毎時18ケムです。しばらくリバイアサンを離れていましたが、先程半自動航行から手動航行に変更しました』


 高々3ケムの違いだが1日で70ケムほどの違いが出る。狩りの時間を作りたかったに違いない。

 リビングに戻ると、カテリナさんが何事も無かったように、仮想スクリーンの画像を眺めながら、何か書き込んでいる。

 どうやら、枝の伸びる場所に関わる疑問のようだな。

 学府に戻った時に、学生と討論するための資料ということになるんだろう。


「捗りましたか?」

「さらに疑問が増えた感じね。でも類似生物を纏めればそれなりに枝は伸びていくでしょうね。問題は、ここよ!」


 ミッシング・リングということになる。枝が伸びた最初の生物とその元の枝の生物……。やはり古生物学も必要になってくるんだろうな。


「ところで、カテリナさんはこの大地が出来てどれぐらい年月が経っていると思いますか?」

「面白い質問ね。神殿の奥にある古びた帝国時代の写本を元にして4つの神殿の神官がそれを調べようとしたわ。結果はおよそ7千年ということになったけど、帝国が最初からできたわけでは無いでしょうから、それより先になるわね。5割マシの1万年というのが私の見解だけど」


 最初から人間は人間だったという考えがそんな答えを導き出すんだろう。


「その考えは、人は最初から人としてこの世界に生まれたということですね。ですが、系統樹はそれを否定しますよ。人も動物も植物も系統樹の根元に近づくにつれて曖昧なものになります。第2離宮で発生に関わる映像を見せましたよね。俺達も最初は1つの細胞だったんです」


「あの画像には興味があったわね……。待って! 確か、母親のおなかの中で人間に姿を変えるとも言ってたわね。その途中の画像は小魚にようであったり、イモリのようにも見えたわ……。まさか、私達は原初の生命体からそんな風に姿を変えてここにいるの!」

「アリス。鉱物の年代測定をいくつか行ったんだろう? 今までⅡ一番古い岩石の年代はどれぐらいあったんだい」

『およそ40億年です。玄武岩のいくつかで得た数字です』


 アリスの言葉に、カテリナさんの口が大きく開いた。

 あり得ないという感じなんだけど、それはこの大地が出来た年代であって、生命誕生はずっと後になったはずだ。


『現在の動植物の状態から推測すると、生命誕生から20憶念ほど経過しているように思えますが、魔獣は対象外です』

「本当なの?」


 やはり自然科学が一度すたれてしまうと、元に戻すには時間が掛かりそうだ。

 カテリナさんが白衣のポケットから煙草を取り出しと、口に咥えてライターモドキで深く煙を吸い込んだ。

 ゆっくりと2度ほどタバコを吸いこんだところで、俺に顔を向ける。


「本当なの?」

「本当です。俺達が、小さな細胞のような生命体から始まって、この体になるまでには途方もない時間が掛かっています。系統樹の枝はいくつもありましたが、途中で切れた生物もいるんです。原因は色々とあるようですけど、現在の多種多様な生命に満ち溢れた世界になるまでには、それだけの時間を必要としたようですね」


「ここだけの話にしておきましょう……。導師が聞いたら、そのまま死んでしまいそうだわ」


 カテリナさんなりの冗談なんだろうか? 導師はホムンクルスに似た体に変化している。死と一番かけ離れた存在になってるんじゃないかな。


「その道のりを考える学問もあるようです。でも、まだそれに手を出さなくとも良いでしょう。枝の分岐に皆が疑問を持ち、それを真剣に考えるようになった時でも十分に思えます」

「学問とは終わりのない研究でもあるわけね。前に神を探すことに例えていたようだけど、まさしくその通りの世界が私達を待っているってことね」


 そう極端に考えなくても良いんだけど、ここは頷いておこう。

 丁度、フレイヤ達がやってきたところだ。マイネさんが一緒に来た人達を確認しているから、夕食までそれほど掛からないんじゃないかな。


「巡洋艦並みの速度だな。エミー達の操船はスコーピオ戦でも見せて貰ったが、だいぶ慣れてきたようだ」

「いざとなれば自動停止はしますからね。その安全対策があればこそです。この速度で行くなら、6日目ぐらいには水棲魔獣狩りが出来そうです。軍とヴィオラ騎士団、それにブリアント騎士団から1分隊の獣機を出すことで、得られた魔石を3分割ということでどうでしょうか?」


 小さなグラスに入ったワインを飲んでいたフェダーン様に確認してみる。


「軍の取り分は2割で良い。それで十分であろう。ヴィオラ、ブリアント騎士団は艦隊を派遣していることになる。それだけ普段より得られる魔石が少ないのだからな」


「ありがとうございます」と礼を言っておく。

確かにフェダーン様の言う通り、軍人には王国から給与が出るはずだ。ましてや辺境地帯での砦作りともなれば別途特別手当ても支給されるに違いない。

 得られた魔石で酒を買って兵士達で祝うのかな? それも良い思い出になるはずだ。


「カテリナ殿達は、新たな学問の研究ですか。魔法を一切使わない学問というのは少し興味がありますね」

「殿下も学府を優秀な成績で卒業したのでしょう? 殿下の孫の世代には魔道科学と並ぶものができるかもしれませんわ。ですが現在は泰明期……、学生を正しく導くための指導方法を模索しているところです」


 模索ねぇ……。模索というよりカンニングだと思うんだけどなぁ。

 だが、100年も経てば立派な学問体系が出来上がる可能性がある。どんどん専門化していきそうな気もしないではない。

 

「そういえば、あの望遠鏡が見えないが?」

「ベルッドが大切に持って行ったわよ。今頃は神の像を清めるみたいに掃除をしてるんじゃないかしら?」

「ドワーフ族ならそうなるであろうな。やはりプレートを付けて飾っておくが良いぞ」


 それも何かねぇ……、違うような気がするんだよなぁ。

 やはり望遠鏡なんだから、使ってこそ名工の腕が分かる気がするのは俺だけなんだろうか?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 風味は有るし違いを出してるのは良い。 [気になる点] 作品の最初から比べると誤字脱字が多くなるのが嫌、まだ誤字なら書きたい事が分かるから良いけど全く分からないのも混じるので少しは訂正して欲…
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