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M-283 悩んでる悩んでる


「東西100ケム、北に500ケムですか! 想像以上の性能ですね。星の海南岸の戦では、フェダーン様の目として活躍してくれたと提督が話してくれたのですが……」

「将来は飛行船がリオ殿の代役をしてくれるだろうが、しばらくは我等の力になってくれるはずだ」


 リバイアサンへの荷物搬入が終了し、後は出発を待つばかりらしい。

 アリスからリバイアサンの生態電脳に転送された偵察情報は、指揮所でも確認できる。

 大型スクリーンにその結果を画像と周辺図の両方でフェダーン様達が確認している。


「とりあえず危険性は無さそうだな。もっとも、チラノノ成体が数十体ほど群れていてもリバイアサンには何の影響もないだろうが」

「何の影響もなさそうですが、リバイアサン周辺の騎士団にはいい迷惑でしょうね。その場合は警告を出すでしょうけど、現状なら問題はありません」


画像に映し出される魔獣やその位置についてフェダーン様がファリス様達へ解説を始めると、熱心に3人が聞き入っている。

 ブリアント騎士団の3人は、状況図を見てため息を漏らしているが、それも理解できる。明日の狩りをこの場で計画できるほどの状況図だからなぁ。

 飛行機を使っても、これほど正確な状況図は作れないだろう。


「なるほど、スコーピオ戦でリバイアサンにて指揮を執ったということが良く理解できました。軍の戦艦の作戦室でもこれほどの情報は得られなかったでしょうね」

「まさに移動要塞その物だからなぁ。だが、動くのであるなら陸上艦と言っても問題はあるまい。西には記録にも残らぬ古代帝国の遺産があるのだろうが、リバイアサンを超えるものがあるかどうか……」


 フェダーン様は否定的だな。だが本当にリバイアサンが最終兵器に近いものだったのだろうか?作られた時代は魔道科学の泰明時なんだけど……。

 

『リバイアサンの搭乗員に告ぐ。リバイアサンは1235時に出発する。……繰り返す。リバイアサンは……』


 制御室からの艦内放送が聞こえてきた。

 懐中時計を取り出して時刻を確認する。20分後になるようだ。すでに積み荷の固縛は済んでいるのだろう。

 テーブルでお茶を飲みながらその時を待てばいいはずだ。


「それでは、失礼します。フェダーン様達は昼食はどちらで?」

「すでに済ませたぞ。夕刻にはリビングにお邪魔するつもりだ」


 周囲の人達に頭を下げて、指揮所を後にする。

 さて、リビングで簡単な昼食を頂くか。


 リビングにいたのはカテリナさんだけだった。仮想スクリーンを2つほど開いて、何かをしている。


「あら、遅かったわね。リオ君の回答を確認しながら、新たな疑問点を纏めていたの。後で質問したいけど、今日は何も無かったはずよね」

「ええ、良いですよ。その前に……。ミイネさん、ちょっとお腹が空いてるんだけど」


「昼食は終わったから、簡単なものを作ってあげるにゃ」


 さては、いつものサンドイッチかな?

 それなりに美味しいんだけどねぇ……。

 やがて出てきたのは、3段重ねのホットケーキとマグカップにたっぷりと入ったコーヒー、それにリンゴのような果物が2切だった。

 このリンゴ、食べるとオレンジの味がするんだよなあ……。

 はちみつが滴るホットケーキはコーヒーによく合う。昼食はこれで十分なんじゃないか!


「あまり甘いものばかり食べていると虫歯になるわよ」

「ちゃんと歯を磨きますから大丈夫です。ところで、回答としてはそれでどうでしょうか? まったく内容が分からないことはないと思ってるんですけど」


「やはり学問の体系が全く異なるんでしょうね。動物と植物との分類を明確に説明しようとしても、それで良いのかと自分で疑問を持ってしまうの……」

「動くものを動物、動かずにいるのを植物とすれば、鉱物は植物ですからね。なら、それにもう1つ、生物という項目を加えてはどうですか?」


 生物と鉱物の違いぐらいは説明できるだろう。生物から植物と動物の幹を立てれば良いんじゃないかな。

 だけど、厳密にはそうとも言えないんだから困ってしまう。鉱物と生物の境界もかなり怪しいところがあるからね。

 細菌学が発達して、ウイルスを生物とみなすかどうかを議論するような時期に、再びこの議論をすることになるだろう。

 それに粘菌類も問題だ。あれってどう見ても植物と動物の中間としか思えない。

 そんな種類を見付けることも学問の発展につながるはずだ。


「定義しようとすればするほど、曖昧になってしまうのよねぇ。でも最初はこんな感じかしら?」


 仮想スクリーンが作られると、大地から2本の幹が立っている。1つは鉱物であり、もう1つは生物になる。生物の幹は直ぐに2つに分岐して、動物と植物に分かれている。


「これで進めれば枝が伸びていきますよ。すでに滅んだ枝もあるでしょうけど、伸び行く枝はたくさんあります」

「植物の枝は木と草に分けられるわね。動物なら呼吸の仕方で、陸上で暮らす種と魚のように水中で暮らす種に分けられるんじゃないかしら。そういえば、虫もいるのよね。虫も種類があり過ぎるわ」


「基本となる幹と枝をある程度考えたところで、皆と討論すればさらに木の姿が見えてきますよ。俺の方から付け加えるなら、トカゲと蛇、それにイモリはどのように分類するのか、鳥についても分類の仕方を考えるべきでしょう。

 水中生物として呼吸法で分類するというのも面白い方法だと思います。となるとカタツムリと巻貝が全く異なる枝になってしまいませんか?」


「陸上生物と水中生物の中間種もあるってこと!」

「カエルはどう扱うんですか? 最初はオタマジャクシで水中生物ですよ。最後は空気呼吸です」


 俺が取り出したシガレットケースからカテリナさんが1本抜き取って口に咥える。ライターモドキで火を点けてあげたところで、俺もタバコを楽しむことにした。


「導師も同じ苦労をしてるんじゃないかしら。10日も過ぎればリバイアサンを訪れるかもしれないわ。リオ君には少し協力してもらわないと……」


 俺に向かって笑みを浮かべているんだよなぁ。絶対碌なことは考えていない感じがする。

 系統樹の姿はこの世界の人達に作って貰わないと、生態系の意味が分からないだろう。ヒントを与えることはするが、その物ズバリを教えないようにしないとなぁ。

 だけど、これって生物学の中では分類学と呼ばれる分野になりそうだ。それより以前の博物学かもしれないな。

 だけど、系統樹を理解することで、生態系まで研究が伸びていくことを祈るしかなさそうだ。

 やはり学問は基礎が大事だからね。


「こっちにゃ!」


 マイネさんが誰かを連れてきたみたいだ。仮想スクリーンからエレベーターの方角に目を向けると、ベルッド爺さんが一緒だった。

 初めて見るプライベート区画にあちこちと視線が動いているなぁ。やはり珍しいということなんだろう。


「珍しいですね。どうぞこちらに!」

「カテリナから、とんでもないお宝があると聞いてな。それで、どこじゃ?」


 あちこちにある彫刻や絵画もお宝なんだろうけど、ベルッド爺さんにとってはそうは見えないようだ。

 カテリナさんが、ベルッド爺さんに笑みを浮かべて指さした先は……、俺の望遠鏡じゃないか!


「なんじゃ? 場にそぐわない品じゃが、大方リオが陸港で買い込んだ骨董品じゃな。カテリナが一緒なんじゃから、少しは品を見る目ができ取ると思っていたんじゃが……」


 性能を確認しようと、望遠鏡に近づいていく。

「困った奴じゃ!」なんて呟きが聞こえてくるけど、あまり性能は良くないのかな?

 かつての名工であっても、泰明期の光学がそれほど優れているとは思えないからなぁ。


 突然、ベルッド爺さんの動きが止まった。氷付いたように身動きしなくなったけど、頭だけが俺に向かって動いてるんだよなぁ。

 夜見たなら、絶対に逃げ出したくなるほどホラーな感じがする。


「本物じゃ……。間違いないぞ。3日ほど預からせて貰うからのう」


 腰のバッグから大きな布袋を取り出すと、望遠鏡を丁寧に分解して包んでいく。


「邪魔したのう……。あまり年寄りを脅かすものではないぞ」


 コーヒーも飲まずに、そのまま去っていった。

 俺の望遠鏡はどうなるんだろう?


「壊したりしないから大丈夫よ。多分綺麗に汚れを落としてくれるはずよ。『クリーネ』の魔法だと、使う術者の認識が問題になるの。古い品では汚れか本来持っていた物かが判別しにくいのよ」


 結構使う機会が多かった魔法だけど、善し悪しがあるってことか。

 認識力の違いというのも面白いな。微生物の分類に案外役立つんじゃないか?


『そうなると、やはり顕微鏡が必要になるでしょうね。とりあえず、50倍、100倍、300倍に倍率を変えられる顕微鏡、それにその製作図を提供してはどうでしょうか?』

「虫眼鏡の倍率では確かに不足するだろうな。だけど光学は今も泰明期のようだ。原理を教えずに提供しても問題ないだろうか?」

『ある意味、カンニングですね。でも数十年ほど光学を発達させることができますよ』


 カテリナさんが笑みを浮かべて俺達の会話を聞いているんだよなぁ。

 新しい玩具に期待してるってことかな?


「アリス。その顕微鏡というのは望遠鏡の一種なの?」

『望遠鏡は遠くのものを見る道具ですが、顕微鏡は小さなものを見る道具です。基本構造は似通っていますが、カテリナさんが使っている拡大鏡よりははるかに倍率が上になります』


「私の拡大鏡は15倍にまで拡大できるのだけど……。さっき300倍と言ってたわね」

『それぐらいでないと、見えない世界があります。さらに拡大することは可能ですが、とりあえずそれで入門するべきかと』


 アリスが脳内で囁いてくれた話によると、リバイアサンの医務局にも顕微鏡があるらしい。さらに高性能のものなのだろうけど、医務局そのものをアリスは閉鎖しているようだな。

 細菌兵器や毒ガス壁の保存も兼ねているのかもしれない。

 たくさん部屋があり過ぎるからなぁ。アリスが意図的に隠蔽している部屋は他にもあるんじゃないかな。

 隠蔽するには、アリスなりの理由があるのだろうから、俺にも教えないとなれば無理に聞くこともないだろう。


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