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M-280 荷役作業が始まった


 質問書の数は30を超えていた。

 おかげでだいぶ有意義な時間を過ごせたようにも思える。俺の考えを保管してくれるアリスの声も意図もより嬉しそうだ。

 こんなに長くアリスと一緒に物事を考えるなんて、近ごろ無かったように思える。


「これで、全部かな」

『中々面白い質問が続きましたね。回答書はすでにできてますから、1問ごとに質問内容と回答となるよう編集してあります。後ほど確認をお願いいたします』


「確認の必要はないよ。アリスの事だから先ほどの俺の指向の流れを追いながら、矛盾点や単語の補足もしてくれたんだろう? だけど、カテリナさんの追及がありそうだからね。俺も読んでおかないといけないだろうな。2式を制御室でプリントしておいてくれないかな。明日にでもカテリナさんに渡しておかないとね」


『了解です。プリント開始……。後で取るに向かってください』


 さて、コーヒーでも飲むか。

 一度お湯を入れると何時でもお湯が出るポットで、再度コーヒーを入れる。出がらしのコーヒーの粉はどうするかな……。このまま置いとくとマイネさんに叱られそうだ。カウンターの内側にダストシュートを見付けたから、後で紙袋に入れて放り込んでおこう。


 デッキに立ってコーヒーを飲む。

 やはりここは眺めが良いなぁ……。ん! あれは陸上艦じゃないのか?


「アリス。30km以内の陸上艦を確認した場合は、停止するんじゃなかったのかい?」

『自動航行状態では、そのように制約を掛けました。現在は私が制御しておりますから問題はありません。進路変更など現在の進行を変える時には事前に連絡いたします』

「了解だ。拠点までよろしく頼むよ」


 併進しているように見えた陸上艦だが、少しずつ近づいているようだ。寄らば大樹の陰とか言うやつかな。乗っているのは俺達だけだけど、見た目は巨大な動くピラミッドだからなぁ。威圧感も半端じゃないだろうから近づいて安心を得たいということなんだろう。


 しばらくデッキでのんびりしていたが、近づいてきた陸上艦は120kmほど先で今度は併進している。あまり近付きたくないってことだな。リバイアサンの事を知った小規模騎士団辺りだろう。

 魔石はたくさん採れたかな? 全員無事であれば良いんだけどね……。


 日が暮れたところでリビングに戻り、お弁当を頂く。

結構量が多いな。明日の朝食の残しておこうか……。

 1人で夕食を終えると、カウンターからワインを仕入れてゆっくりと味わう。

 何本かのタバコを味わいながら、仮想スクリーンに映し出したアリスの回答を眺める。

 俺の支離滅裂な思考を追いながら、よくも簡潔にまとめたものだと感心してしまう。アリスを超える頭脳は少なくともこの世界には存在しないんじゃないかな。

 

 報告書を一読したところで、ゆっくりとジャグジーに浸かって残りのワインを飲んだ。昔はこれほど飲めなかったのだが、やはりアレクの影響だろうな。ベラスコもアレクのようになってしまうんだろうか?

 何となく心配になってきたぞ。


 バスタオルを腰に巻いてデッキに出ると、何時の間にか併進していた陸上艦の姿が見えなくなっていた。

 彼らの行き先は王都周辺にある小さな工廟の1つだろう。

 陸上艦の整備をして団員の休養を取って、再び大河近くで魔獣狩りを行うのだろう。

 彼らの成功を祈って、残り少なくなったワインのボトルを掲げる。


 早めにベッドに入ると直ぐに睡魔が襲ってくる。後はアリスに任せて、目を閉じた。

               ・

               ・

               ・

 アリスの声で目が覚めた。

 大きく体を伸ばしてベッドから起きると、急いで身支度を整える。

 懐中時計を見ると、まだ5時じゃないか! ちょっと起こすのが早いんじゃないかな。

 

『拠点から通信がありました。すでに軍の拠点位置から10ケムほどに来ています』

「リバイアサンが視認できたということかな? なら到着予定時刻を知らせてあげた方が良さそうだ」

『すでに返電を終えております。拠点より北に1ケム位置で停止します。拠点より軽巡1隻と輸送艦1隻が0600時に出発するとのことでした』


 さっそくフェダーン様達がやってくるってことだな。輸送艦はリバイアサンの乗員輸送ということだろう。メイデンさんの戦闘艦は今回別行動だから、メイデンさん達も同行してくるだろう。

 確かに起きていないと、問題だな。

 昨日作ったお湯でコーヒーを作り、お弁当の残りのサンドイッチを食べながらデッキに向かう。

 東の空がすでに明るくなっている。日の出はもう直ぐなんだろう。

 遠くに見える平たい山のような代物が拠点を囲む城壁に違いない。

 

 日が昇り始めるころには、拠点の城壁がはっきりと見えてくる。城壁の上で周回している監視兵の姿まで分かるようになってきた。

 ゆっくりと拠点の北門に近づいて、リバイアサンが停止する。

 アリスの事だから、門からぴったり1ケムの位置に停止したんじゃないかな。


『リバイアサンを停止しました。周辺の警戒を開始します。副砲区画の装甲板を開き、副砲の制御を一時的に私が掌握します。ドックの装甲板を開放、斜路を伸ばします……』

「周辺監視を引き受けようか?」

『私で十分です。それにエミー様達が乗船したら、順次引き継げますから』


 リバイアサンでの俺の立ち位置は、迎撃要員だからなぁ。

 ここでのんびりしていれば良いのかもしれない。


 デッキで拠点の様子を見ていると、城門が開いて軽巡がこちらに向かって来るのが見えた。後続に輸送船が……、2隻のようだ。予定外だけど、荷物の搭載は早い方が良いってことだろう。


 ゆっくりと斜路を上ってきた。ここに来るまでにはもうしばらく掛かりそうだな。

 パタパタと足音を立てて俺のところにやってきたのはマイネさん達だった。


「朝食は食べたかにゃ?」

「昨日貰ったお弁当の残りを頂いたよ。できればコーヒーを作ってくれないかな。粉のコーヒーを買ってきたんだけど、不味くてね」

「直ぐに用意するにゃ!」


 やはりマイネさん達の存在はありがたいな。

 湯気の立つマグカップを俺に渡したところで、マイネさんは再びリビングを駆け出して行った。

 ファネル様達の案内に行ったのかもしれない。エミー達も一緒だけど、彼女たちには制御室での仕事もあるはずだ。


 デッキから眺めていると、リバイアサンの後ろから輸送船が3隻拠点へと向かっていく。やはり人員を送り込んできたみたいだな。次の便からが荷物を満載してくるに違いない。

 輸送船を追い越すように進んでいるのは戦闘艦だ。相変わらず軽快な動きをしている。今度はヴィオラ艦隊と行動を共にするはずだから、メイデンさんも退屈しないで済むんじゃないかな。


「ここにいたのね! もう過ぐ王子様達がここに来るわよ。制御室の方はロベルさんに任せてきたわ。荷の搭載が今日の仕事だから私達の判断も必要なさそうだし」

「まあ、そうだろうね。現場は軍の方で取り仕切ってくれるはずだ」


 フレイヤと一緒にリビングに入ると、エレベーターからこちらに歩いてくる一行の姿が見えた。

 カテリナさんも一緒なんだが、カテリナさんは隠匿空間に向かうんじゃなかったのか?


「ようこそ、これがリバイアサンです。皆さんを歓迎いたします。どうぞお掛けください」

「想像をはるかに超えた大きさですね。これが動くとは……」


「古代帝国の遺産です。今の世界ではこれを作ることは出来ないでしょうが、学府に新たな学問の種を撒きました。いずれは芽を出して大樹になるでしょう。その時にはリバイアサンを凌ぐものを作ることができるかもしれません」


 とりあえずはソファーに掛けて貰おう。いつまでも立ち話ではねぇ……。

 皆が席に着いたところで、マイネさん達が飲み物を運んできてくれた。


「リバイアサンの乗員は全て運んできた。次はブリアント騎士団の陸上艦と輸送船2隻になる。その後に資材を積んだ輸送船が出入りするはずだ」

「現在の指揮は制御室にいるロベルに任せています。荷役作業であれば彼の指揮で問題はないでしょう。ところで出発予定は?」


「積み荷の搬入次第だが、陸港よりもリバイアサンでの荷役作業はようだからなぁ。明日中には出発できると考えておる」

「大きな機械がたくさんありましたね。陸港には何度か足を運びましたがあのような機械は初めて見ます」


「殿下も興味があるようだな。だが見学はリバイアサンが動きだしてからにするのだぞ」

「それぐらいは分かっているつもりです。今日はエミー殿に制御室を見せて頂けるだけで十分です」


 ファネル様の言葉にフェダーン様が頷いている。確かに忙しい時に部外者が見学に行ったなら作業の進行が遅れるだけだからなぁ。

 制御室と砦建設の指揮所を見ることで今日は満足してもらえるだろう。


「さすがに王宮並みの食事を出すことができません。騎士団の食事となりますがご容赦願います」

「フェダーン殿と同じ食事であるなら問題はありませんよ。軍の食事より遥かにマシだとフェダーン殿からも聞いておりますし、妻達も納得しています」


 食事は色々と問題が出そうだからなぁ。問題ないと言ってくれたから、何とかなりそうだ。


「デッキからの眺めは良さそうですね。ここにお邪魔してもよろしいでしょうか?」

「もちろん構いません。とはいえ俺達は騎士団員ですから普段の暮らしは王宮と比べて乱れていると思われるかもしれません。その辺りは大目に見て頂けると幸いです」


 俺の言葉が面白かったのかな? 2人の奥方まで笑みを浮かべて笑い出したいのを堪えているようだ。


「まぁ、一番の問題はカテリナだろうな。まだ来ぬところを見ると、自分の巣に向かったのかもしれんな」

「いろいろとやってますからね。俺達に害がなければ問題はありません」


 今度はとうとうファリスさんが笑い声を上げている。

 やはりカテリナさんの奇行は、王宮でも話題になっていたようだ。


 ファリス様はエミー達の案内で、制御室や駐機台の見学に向かったが、リビングに戻った時にはユーリル様が一緒だった。礼拝所にも出かけたみたいだな。


「いろいろと見学させていただきました。古代帝国の遺産が未だに新品同様に動くことに驚いています。それにしても制御室は凄いですね。お借りする指揮所にも立ち寄りましたが、想像していた指揮所とはかなり違っていました。当座はフェダーン様の隣で状況を眺めるのが仕事になりそうです」


「直ぐに慣れますよ。だいぶ積み荷が運ばれているようです。今夜も継続するのでしょうか?」

「現在3隻目の積み荷を降ろしているところだそうだ。予定では20隻になる。ブリアント騎士団の数人が指揮所に荷を運んでいたぞ」


 何を運んできたんだろう? 通信機ぐらいだと思うけど、リバイアサンの通信設備を使えば十分に思えるんだけどなぁ。

 2時間で1隻分の荷下ろしだとするなら明日の出発は無理だと思うんだけどねぇ。


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