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M-028 アリスの近接武器


 大回りでカリオンの支援をするため後方より近づくと、魔撃槍を投げ捨て土塁に立てかけた予備の魔撃槍に手を伸ばした戦機が見えた。

 まだ狩りは終わっていないようだ。

 急いで滑空しようとした矢先、カリオンの手前に築いた土塁が爆破されたように飛散した。

 思わずジョイスティックを倒してフットバーを蹴飛ばしたのは反射的な行動だったに違いない。

 アリスがそれに反応して、土塁までの距離を一気に詰めた。

 カリオンの戦機が土塁から飛び出したトリケラに弾き飛ばされて宙を舞う。

 アリスがトリケラの前に着地したところで、勢いを殺さぬように左手でトリケラに殴りかかった。

 

 全周スクリーンにアリスの拳の動きが映ったのだが、驚いたことに拳から光が伸びている。

 まるで長剣のようにも見えるけど、アリスは長剣を下げても背負ってもいなかったはずだ。

 とはいえ、とんでもない斬撃ではある。トリケラの頭を真っ二つにしたから、トリケラは転倒するようにその場に倒れ込んだ。


「リオ、おもしろい武器を持っていたんだな。どうにか狩りは終わった。カリオンはこっちで対応するから、周囲の監視を頼んだぞ」

「了解です。後をお願いします」


 通常の魔石通信でアレクが通信を送って来た。

 他の騎士団員が驚いているから、その対応もあるんだろう。酒ばかり飲んでいるけど、こんなところに気転が働く人物であることは確かだ。

 アリスに体を向けて棒立ちしていた獣機が、俺達の会話で再び動き出した。


 ヴィオラを起点に周回しながら哨戒をする。

 アリスに先ほどの出来事を確認したところ、一種のビーム兵器ということだった。

 金属イオンをビーム状に放出して、強い電磁波で励起すると金属イオンがプラズマ化するらしい。プラズマの温度は超高温だから切れないものはないと教えてくれた。

 

「光の剣という感じだね」

『その例えで問題ないかと。ですが地上ではプラズマの収束が容易ではありません。先ほどの使用でさえ1ビーナ銅貨1枚を使っています』


 銅貨1枚は問題ないが、それよりもアリスが硬貨を持っていることの方が驚きだ。

 カーゴに待機しながら、小さな革ケースの中に仕舞った硬貨を数えているアリスの姿が脳裏に浮かんだので、慌てて首を振って打ち消した。


『私達を確保した魔導士の持っていたものを頂きました。まだまだありますから、しばらくは問題ありません』

「銅貨でいいなら、いつでも言ってくれよ。俺もある程度確保しとくから」


 ともあれ威力はとんでもない代物だ。アリスの遠近の武器がこれで明らかになったということなんだろう。ベルッド爺さんがアリス用の長剣を作っているようだが、それはそれで貰っておけばいい。


 ヴィオラからの帰還指示が出たところで、少し距離を取って1周したところで戻ることにした。

 60kmほどの距離にいたアウロス4頭の群れは、どうやら進行方向を変えたらしくヴィオラとは徐々に距離が離れている。


 船尾操船楼の会議室に出頭して、哨戒状況を報告した。

 レイドラが地図に状況を書き込んでいるから、監視部と今後の調整をするのだろう。


「状況は悪くないわね。カリオンも軽い打撲で済んで良かったわ。ところで、あの武器の威力も凄いの一言ね。母が喜んでたわよ」

「咄嗟に動かしたらできた、というのが真相です。哨戒任務の時にその辺りを調べていたんですが、あの動きだけで銅貨が1枚消費されました」


 銅貨1枚と聞いて2人の表情に笑みが浮かぶ。

 必要経費として1航海ごとに何枚か渡してくれるかもしれないな。


 会議室から解放されたところで、同じ階のデッキに向かう。戦機仲間の待機所というか飲み会の会場というか迷うところだ。


「ご苦労さん。カリオンはいないが、リオのおかげで軽症で済んでる」


 俺の顔を見た途端、アレクが口を開いた。その隣でシレインがグラスに並々とワインを入れている。その半分が一般的じゃないのかな?

 とりあえずベンチに腰を下ろして4人でグラスを合わせた。


「光の剣なんて神話の世界だけかと思ったけど、本当にあるのね。それに1撃なんですもの」


 サンドラの目が輝いている。そんな話が好きなのかな?


「銅の微粉末を加熱することであんな形になるそうです。あれで銅貨1枚分ですよ」

「カリオンが助かったのは銅貨1枚ってことか? 意外とカリオンの命は安いってことだな」

 

 そんな冗談を言えるんだから、狩りは上手く行ったということなんだろうな。

 夕食時までは時間がある。

 しばらくはここで、アレクから今回の狩りの様子を聞いて過ごすことにしよう。

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 10日程、東に移動しながら狩りをする。

 11日目に北に半日進んだところで今度は西に向かってヴィオラは進み始めた。

 獲物が同じように狩れるのかと心配していたんだが、そんな必要なかったみたいだ。毎日のように獲物がある。

 とは言っても、ほとんどがトリケラタイプと呼ばれる4つ足の草食魔獣だ。


「チラノを狩るには戦力不足ということになるな。リオが積極的に動けば狩れるのだろうが、場合によっては大きな損害が騎士団に及ぶ恐れもありそうだ」

「もう2機ほど欲しいということですか?」

「カリオンのところに欲しいな。1機でも増えればかなり対応が楽になる」


 こればっかりは、どうしようもない。

 戦機は現在の魔道科学では作れずに、過去の魔道大戦でその技術が失われたらしい。たまに当時の戦機が発掘されるのだが、その数は1年で数機を超えることはないそうだ。

 とはいえ毎年のように発掘されるとなると、この世界には相当数の戦機が埋まっているということになるんだろう。

 金属探知機のようなものがあれば簡単だと思うのだが、砂嵐の後などにコクーンと呼ばれる樹脂被膜で覆われた戦機が発見されることがあるらしい。

 そういえば、アリスも長くコクーン化していたようだから、コクーン化することで自己修復をしているのかもしれないな。


 西に進路を変えて3日目の事だった。

 いつものようにヴィオラ周囲を周回していた俺達は、北からの異変を動態探知機で捕らえることになった。


『北より大きな嵐がやってきます。移動速度は時速80km。ヴィオラ到着まで40分もありません!』

「至急連絡だ。通常魔石通信で構わないぞ!」


 俺達も急いでヴィオラに戻る。ヴィオラの中では忙しそうに皆が動いているのだが、そんなに凄い嵐なんだろうか?

 いつものように会議室に向かうと、待っていたのはドミニクだけだった。


「ご苦労様。これまでにも何回か嵐には遭遇したけど、今回は余裕があって助かるわ。2時間ほどは何もできないし、魔獣の脅威も無いからゆっくりと休んで頂戴。それと、窓の扉は全て閉じてあるわ。指示のあるまで窓や扉は開いてはダメよ」

 

 報告を終えたところで、そんな指示を受けたんだが、それほどひどい嵐なんだろうか?

 とりあえずは俺のできることはなさそうだから、部屋で本でも読んでいよう。

 階段ですれ違ったトラ族の若者はロープの束を背負っていた。あちこち固縛するんだろうな。

 アリスの告げた時刻まで残り10分ほどだから、最後の仕事になるんだろう。

 

 個室を開けると、確かに窓の扉が閉まっている。真っ暗だから、ランプに光球を入れて部屋を明るくする。

 監視部にいるフレイヤ達は5階で待機してるんだろうか? ちょっと気にはなるけどドミニクの話では過去に何度も嵐に遭遇してるから陸上艦が難破するようなことにはならないのだろう。


 コンコンと扉が叩かれる。

 フレイヤではなさそうだが、とりあえず扉を開けると、直ぐに部屋に体を滑りこませたのはカテリナさんだった。


「退屈でしょうから遊びに来たんだけど」

「確かに暇ですけど、カテリナさんも暇だったんですか?」


 しばらく顔を合せなかったから、それなりに忙しいと思っていたんだが、俺と同じで嵐の時には暇なのかもしれない。持参してきたワインを受け取り、椅子に座ったカテリナさんにグラスを渡してワインの封を切ろうとしたのだが……。

どうやら事前に封が切られているようだ。俺がワインのコルクを抜くのが下手だと誰かに聞いたに違いない。テーブル越しの椅子に座るとグラスを合わせて先ずは一口。


「この間の光の剣は興味があるわね。ドミニクから作り出すために銅貨1枚が必要だと聞いたわ」

「銅を微粉末にしたようなものを放出して力場を作るとあのようになるらしいです。咄嗟の事で発動していますから、俺にもよく原理が分からないんですが」


 俺に笑顔を向けながら、ジッと聞いているんだよな。ちょっと怖くなってしまう。


「魔法を使う者が、その原理を知るということはほとんどないわ。たぶん古代帝国時代の魔法なんでしょうね。リオ君が知らなくともアリスが知っていると思うんだけど?」

『残念ながら魔法陣、魔道紋の類については、カテリナ博士の知っている範囲でしか私は知りません。空間魔法の構文については一部突出しているかもしれませんが、それほど大きなものではありません』


 カテリナさんのバングルは魔石通信ができたんだっけ。アリスが直接答えてくれたけど、アリスがその知識を持ったのは例の事件になるんだろう。


「あのような現象を、魔法以外で作ることができるのかしら?」

『可能です。私とマスターは魔法という現象自体に驚いています』


 この世界での科学は異端なのかもしれないな。

 だけど、カテリナさんはアリスの答えに目を輝かせている。ひょっとして、現在の魔法や魔道科学は行き詰っているのかもしれないな。発想の転換を期待しているのかもしれない。


「アリスとはじっくり話し合いたいわね。リオ君が許してくれるならいいんでしょう?」

『可能です。私もこの世界の魔道科学について確認したいことがありますから』

 

 アリスも問題が無ければ俺が反対することもない。

 小さく頷いた時だ。いきなりヴィオラが傾くほどに大きく揺れ始めたぞ。


「これが2時間ほど続くのよ。砂の海の嵐はこんな感じだわ。魔獣でさえ地に伏せてじっとしてるから、私達が一番安心できる時間……」

 

 カテリナさんの話が遠くに聞こえる。急に眠くなってきたんだよな。

 俺を見ているカテリナさんが笑みを浮かべて腰を上げた。


「あらあら、睡眠不足のようね。いいわ、ベッドに寝かせてあげるから」


 よろよろとカテリナさんの肩を借りてベッドに向かい、腰を下ろしたのまでは覚えている。

 優しく俺に毛布を掛けてくれたカテリナさんの笑顔が、妙に印象的だった。



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