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M-276 別荘には誰もいない


 第2離宮で昼食を頂いたところで、カテリナさんと一緒に俺達の別荘に出掛けることにした。

 カテリナさんをいつものように座席の後ろに立たせたところで、上空に向かい一気に別荘に向おうとしたんだが、カテリナさんの依頼でサザーランドの状況確認をすることになってしまった。


「地表付近は危険ですから、上空からの偵察になりますよ」

「命には代えられないわ。それで十分よ」


 アリスの空間制御技術なら放射線を排斥できるようだけど、それは秘密にしておこう。

 地上付近を見たなら悲惨な住民の姿を見ることになる。

 上空から、融合弾の爆発地点を見たら満足してくれるんじゃないかな。


「アリス。飛行コースは任せるよ。できれば、線量マップを更新して欲しい。推論値との誤差を補正して欲しいのと、ホットスポットの確認だ」

「了解しました。南北方向に何度か往復することになりますが、時間はそれほど掛かりません」


「やはりまだ強い毒性があるってこと?」

「2種類に分類できます。強い放射線を出して急激に減衰するものと、長きにわたって出し続けるものがあるんですよ。ある程度推定できるなら、生き残った民衆を安全な場所に移動することも出来るはずです」


 俺とアリスなら援助物資は運べるはずだ。だが、それを知ったなら他の人々が汚染区域に向かうことも考えられる。

 ここは心を鬼にしよう。放射線を多量に浴びた人を助ける方法はこの世界に存在しないのだから……。


 亜空間移動で一気にサザーランド上空に達したところで、上空を移動しながら新たな放射線マップを作り上げる。


『かなりのホットスポットが出現しました。短半減期核種の減衰で、10レム範囲が縮小しています』

「だが、相変わらず黄色の範囲が広いね。ところどころの赤点がホットスポットということかな?」


 雨が降ったとはいえ、川に流れ込んだわけでは無いようだ。いくつかの大きな水たまりにフォールアウトが集まったようにも思える。

 黄色の範囲がかえって危険に思える。よく見ると、緑の中にも赤や黄色があるようだから、やはりしばらくは近づくことは無理だろうな。


「俺達の情報は得ることが出来ました。カテリナさんの方は満足できましたか?」

「満足というより、予想以上の被害ね。ここまでとは思わなかったわ。倒れている人もいたようだけど、すでに亡くなっているようね」


 水を求めて池や川に歩いている途中で亡くなっている者達がかなりいる。その池にも畔が見えないくらいに人が倒れていた。

 国の施政を預かる者達と軍人は、この悲惨な光景を見るべきだろう。

 やってはいけないことをしっかりと目に焼き付けるべきだ。


「そろそろ帰りましょう。なんだか寒気がしてきたわ」

「そうですね。頂いた別荘でゆっくりと休暇を過ごしましょう。残りは8日ですよ」


 休暇が終われば、いよいよ北の回廊作りだからなぁ。

 俺達の領地である小島の座標は分かっているから、再びアリスがあ空間移動を行った。

すぐ下に島が見えるけど、一度島の上空を通過して、10kmほど離れた海にアリスがダイブする。

 数十mほど潜ったところで再び上空に戻り、島の別荘へと向かった。


「アリスの体を洗った、ということかしら? それほど恐ろしいものなの」

「目に見えませんからね。アリスに放射性の塵が付着していると後々問題になります。洗ってしまえば落ちますから」


 カテリナさんが何も言わないのが気になるけど、後で質問が舞い込んでくるんだろうな。

 別荘の東に作られた小さな芝生の広場にアリスが下りたところで、俺とカテリナさんがコクピットから降りる。

 直ぐにアリスが亜空間へと消えていく。

 さて、皆はどうしているかな?

 カテリナさんと別荘のエントランスに向けて歩き出した。

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              ・

 別荘にいたのはマイネさん達だけだった。

 アレク達は釣りに向かい、フレイヤ達はローザ達と一緒に入り江に向かったらしい。

 ローザ達を乗せてきた王族のヨットはすでにこの島を去ったようだから、入江には俺達のクルーザーとアレクが購入してくれた中古の小型ボートがあるだけのようだ。


「領地の視察にも行くんでしょう?」

「あまり出掛けて行くのも、村長を信用していないように思われそうです。アレクに漁果を届けに行ったついでに見てきてもらいますよ」


「数人で釣ってるから、たくさん獲れてるにゃ。リバイアサンにもお土産ができるにゃ」


 マイネさんは嬉しそうだな。魚好きにはたまらないってことかな?

 そういえば、リバイアサンに皆で乗って北上するって言っていたから、途中でカニも釣れるんじゃないか。

 ガネーシャさんが道具を作ってくれたらしいから、試してみるのも面白そうだ。


「広い海そして周囲には他の連中がいないんだから、ここは良いところね。さて、少し温まりましょう」


 カテリナさんが俺の手を引いて向かった先は、プールのような浴室だった。

 さすがにリバイアサンの浴室よりは小さいけど十分に泳ぐことが出来そうだ。

 温めのお湯だからなぁ。温水プールといっても通用しそうな気がしてきた。


「あの光景が目に焼き付いて……」

「良心を無くした科学者にはならないでください。どんなに憎しみがあるとしても、許されるものと許されないものがありますからね」


 やはりショックだったに違いない。

 一応、レクチャーしたはずなんだけどなぁ。

 自分の目で確かめたいと思ったに違いないが、できれば見せたくはなかった光景だ。


 ゆっくりとカテリナさんが体を温めたところで、リビングに向かう。

 まだ皆は帰ってこないようだ。それほど面白いのかなぁ。休暇ぐらいはのんびりと過ごそうなんて考えは無いんだろうか?

 窓の外を見ると、何本かの木が植えられている。あの2本の木の幹にハンモックを吊るせば丁度良いんじゃないかな?


 砂の海に沈む太陽も綺麗だけど、やはり南国の海に沈む夕日も良いものだ。

 カテリナさんが俺に体を預けているのが気にはなるけど、2人で夕日を眺めながらワインを頂く。


「あれがリオ君の言う偉大な錬金術師である太陽なのね。私達がそれに近づくにはどれだけの年月が必要なのかしら……」

「その光を俺達が見ることは出来ないでしょうけど、その光に向かう道筋は作ってあげたいですね。いろいろな罠が仕掛けられている道ですから、無事に目的の地に辿りついて欲しいところです」


 戦争が起こったら駆け足で進みそうだけど、周囲の王国と協力しながら1歩1歩進んで欲しいところだ。

 悪魔の誘惑に打ち克てば、本当の星の海への航海も可能になるだろう。


「学生達が動き始めるとなると、いろいろと忙しくなりそう。ところで、リオ君は学生の謁見を許すのかしら?」

「国王陛下でさえ学生と同席するんですから、許すも許さないもないと考えてますよ。俺が暇なら何時訪ねてきても会うつもりです」


 俺に顔を向けて笑みを浮かべている。こんな時には俺にとってあまり良いことがないってことになる。


「リオ君の館はリバイアサンでしょう? 彼らにはここを訪ねてくる足が無いのよ。となると、リオ君の休暇を待ってということになるでしょう? 休暇は学府で過ごすことになるんじゃないかしら」


 思わず天を仰ぐ……。確かにそうなるよなぁ。

 この頃はヴィオラ騎士団の団員と同じ長さの休暇が取れなくなってるんだが、さらにそれが酷くなるってことか!


『マスターとの会談は、疑問に対する答えを求めるということになるはずです。でしたら、その疑問を論文の形で私に送付してもらえば回答を作成することは可能です。相手に送付する前に、マスターもしくはカテリナ様に確認して頂けるなら問題はないかと』


「そうしてくれるかい? となると……」

『長距離通信手段が必要になるでしょう。さすがに短波では問題かと。北の回廊計画を円滑に進めるためには王宮との連絡手段も必要でしょうから、その一環で通信機の製作を進めておきます』


「艦隊間ではなく、王宮との通信ということ? 間に中継基地を設けずにできるのかしら?」

「そこは何とかなるみたいですよ。北の回廊計画の最初の砦建設地は隠匿空間からの通信範囲より遠いですからね。途中に中継局を作ろうと思っていましたが、直接交信できるならその方が良いでしょう」


 王宮から風の海の手前に作られた軍の拠点。軍の拠点から中継局の機能を持って遊弋するブラウ艦隊。ブラウ艦隊から隠匿空間……、と次々に電文がリレーされていく。

 途中で内容が変わらないように信号は複数回送ることになるから、かなり面倒だ。

 それが一気に解決するとなれば、フェダーン様が一番喜ぶんじゃないかな。

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 せっかくハンモックを吊って貰ったんだけど、フレイヤ達やアレクに付き合わされてしまう。

 アレクには御損の面倒を見て貰っているから嫌とは言えないし、フレイヤ達は俺の意見など無視して腕を掴んで出掛けるんだよなぁ。

 ローザ達が大人しいと思っていたら、入江で銛を持って魚を追いかけているらしい。たまに大きいのが突けるらしく、夕食時に大きさを自慢していたぐらいだ。小さい連中を率いているから、俺に構う暇もないってことなんだろう。

 遠くの王国からやってきた子供達もいるからなぁ。その辺りはお姉さんらしく接しているとエミーが教えてくれた。


「まだまだ発展するぞ。中古の漁船だが魔道機関を交換しているからな。この島近くにまで漁に出るらしい。もう1隻ほど貸与すれば隠匿空間で消費するのに十分だろう」

「道も砂利が敷かれてたわよ。新しいログハウスもいくつかできてるから、暮らしは良くなってるみたいね。雑貨屋の品揃えもだいぶ増えたとご婦人方が言ってたわ」

 村長からは何度もお礼を言われたらしい。税の話も出たらしいけど、現状では村の発展に全て使って貰っても構わない。

 元騎士団員達も、新鮮な魚を求めて漁村にやってくるそうだ。まだ開墾途中だろうから、農作物との交易は来年以降になりそうだな。


「引退後は村長で良いですか?」

「俺にできるわけがないだろう。しばらくは獣機を動かして、行く行くはこの島で別荘の管理をするよ。まぁたまに漁村の様子は見に行くだろうけどなぁ」


 釣り三昧で過ごすつもりのようだが、そうはいかないからね。

 にんまりした表情でジョッキでワインを飲んでいるアレクを眺める。


「それにしても魚が豊富ですね。アレクさんの別荘よりも大型ですし、なんといっても数が出ます」


 ベラスコもアレクの隣にログハウスを持っているんだよなぁ。2人で漁果を競いながら老後を過ごそうなんて考えてるのが良くわかる。


「そのためにも、後継の育成をお願いするわ。戦機と戦鬼があるんですからね。数もだいぶ増えたし、騎士の確保も考えないといけないわ」

「13番目の騎士団だからなぁ。王国もそうだがブラウ同盟に頼られていることも確かだ。騎士を選ぶのは売り手ではなく買い手を優先して欲しいところだ」


 だからこそ騎士を選ぶのが難しいともいえる。そもそもが騎士の絶対数が少ないからね。名声だけに引かれてやってくるような騎士では俺達が困るだけだ。

 


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