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M-275 回廊計画の打ち合わせ


 学生達はヒルダ様の計らいで、夕食をご馳走になって帰っていった。

 だいぶカンニングさせたみたいだから、学生寮は今夜も賑やかに違いない。


「何となくそうではないかと思っていましたが……」

「導師は最初に出会った時に、確信したみたいね。あまり会いたくないとまで言っていたわ」

 

 そういってカテリナさんが笑い声を上げる。女性なんだから、お淑やかに口元を隠すぐらいはして欲しいんだけど、ワイングラスを片手に持って俺に身を寄せてだからなぁ。

 騎士団の品位をお手しているようにしか見えないんだけど……。


「1度話をすると、1年ほど思索を巡らすとまで言っておられたそうですね?」

「導師でもそうだから、私も似たようなものよ。でも、リオ君には良いお友達がいるでしょう? 彼女があいまいな部分を解説してくれるから助かるわ。さすがに導師は若い女性に尋ねるのを潔しとは思っていないみたいね」


 導師から問われれば、アリスはきちんと説明するに違いない。

 遠慮というか立場を考えての事だろうけど、思索の海に実を委ねるのが案外好きなのかもしれないな。

 あの体だからねぇ。食べる楽しみも無いのだろう。導師の娯楽は新たな発見をすること、それに新たな知識を自分の物として利用できるよう施策を深めることなんだろうな。

 学生達を我が子のように指導しているのも、自らの過ちを繰り返さないようにしたいというのもあるのだろうが、後継を作りたいという思惑もあるようだ。

 

「道理で知識に偏りが出ると思っていました。でもそれはリオ殿の魅力でもあるようですね」

「同じ考えを持つ者同士でなくとも、惹かれ合うということでしょうね。目的は同じでも、それを解決する方法が異なるというのが私にとっては一番に思えるわ。問題は、それが可能なのは現在だけだということね。将来は新たな学部の連中がそれに応えることになるんでしょうけど、リオ君の境地に至るにはいったいどれぐらいの年月が必要なのかしら」


 確かに10年程度では無理だろうな。少なくとも300年は掛かるんじゃないか?

 だけど、俺やアリスという存在がいるし、この世界の宗教は俗界にあまり手を出さないみたいだ。

 案外早く発展しそうにも思えるんだけどなぁ。


「そうそう、明日はファリス様が是非とも会いたいとの事でした。さすがに公式というわけにはいきませんから、午前中に訪ねてくるはずです。休暇は午後に出掛けてください」

「王子殿下……、となれば北の回廊についてですか?」


「たぶんフェダーン様が案内してくるでしょう。忌憚なくお話ください」

「私も良いのかしら?」


「魔道科学の重鎮でしょう? 問題はないと思いますよ。リオ殿の計画はフェダーン様の名でブラウ同盟に周知されております。その総責任者がファネル殿下です」

「リバイアサンの客室を用意いたします。指揮所はスコーピオ戦で使用した部屋を使えば問題ないかと」


「大きい必要はないと言っておいででした。とはいえ執務机と椅子は別途運ぶことになりそうですね。部屋を区切ることに問題はありませんか?」

「壁に釘は打てませんよ?」


 鉄より硬い壁だからなぁ。パーテーションで区切るのがせいぜいだろう。

 多分近衛兵も同乗してくるに違いないから、その部屋も準備しないといけないだろう。

 フェダーン様に、滞在に必要な物資の積み込みをお願いしておく。


 フェダーン様の部隊は、軽巡1隻と輸送船1隻とのことだ。

 最初の砦を取り仕切る騎士団からも連絡員が来るはずだから、場合によっては駆逐艦クラスの陸上艦が増えるかもしれないな。さらに輸送船を2隻ほどならリバイアサンの桟橋に停泊できるだろう。

 桟橋の倉庫も使えるだろうし、場合によっては桟橋に荷を積み上げても問題はない。

 そんなことはとっくにフェダーン様の頭の中に入っているんだろうな。軍の拠点にどれだけ資材を集めてあるのか見るのが恐ろしくなってきた。


 翌日。第2離宮に現れたのは、フェダーン様に案内されたファネル王子と2人の奥さん。それに副官が1人とブリアンと騎士団のリストナ団長、副官のグンターさんが一緒だった。

 リビングのソファーセットに新たなソファーが2つあったのは来客が多いと知らされていたんだろう。

 ファネル王子に対してヒルダ様と一緒に頭を下げると、リストナさんと握手を交わす。

 ヒルダ様が各自に席を勧めると、ファイネル王子達が据わるのを待って俺達は腰を下ろした。

 いつものテーブルではなく少し大きなテーブルに変わってるようだ。ヒルダ様とフェダーン様が同じソファーに座り、俺とカテリナさん、ファネル王子と2人の妻、それにブリアント騎士団の2人がそれぞれのソファーに着いた。

 ネコ族のお姉さんが運んでくれた紅茶やコーヒーを受け取ると、フェダーン様が魔道具を用いて仮想空間を作り出し、地図と工程表を映し出した。


「隠匿空間から西に600カム(900Km)の谷間に、北の回廊最初の砦を築く。砦を作るのはウエリントン王国の工兵隊を主力としたブラウ同盟各国の工兵隊だ。砦完成後の砦の管理はブリアント騎士団に委ねられる。星の海の北の回廊には都合3つの砦が構築される。各王国の工兵隊が参加するのは、砦建設の経験を積むためでもある。

 中央の砦はナルビク王国、西の砦はエルトニア王国の騎士団がそれぞれ管理をおこなうが、星の海の西岸に作る砦はブラウ同盟軍が管理することになるだろう。

 ファネル王子殿下は、これらの砦で構成される北の回廊計画全体を指揮することになる」


「そういうことになってしまいました。リオ殿がウエリントン王国に所属する騎士団であったことも私が指揮をする後押しとなったことは確かです。砦そのものは工兵部隊に任せられますから、私は砦建設の物流が途絶えることが無いように努めるつもりです。フェダーン殿の話では、大型の魔獣も跋扈する地と聞いております。護衛艦は1隻ですから、2つの騎士団の活躍を期待する限りです」


「問題の多い隣人が西にいる以上、ブラウ同盟の発展には北の回廊計画の成功が是非とも必要です。ヴィオラ騎士団は旗艦を回廊計画に派遣する内諾を団長より受けております」


「ブリアント騎士団が管理を請け負うことになりましたが、騎士団の総力を上げて、砦を管理する所存です。リオ殿には隠匿空間の運営についてしっかりご教授願いたいと思っております」


 12騎士団ともなると、王国との結びつきはかなり深いものがあるらしい。

 もう1つの軍隊としても機能できるだけの能力があるからなぁ。少し団員が少ないのが気になるところだが、砦の防衛に特化するならそれほど人員は必要ないだろう。


「挨拶は、これぐらいにして計画の概要を説明する……」


 フェダーン様の副官が渡してくれた計画書は後でゆっくりと読めば良いのだろう。先ずはフェダーン様から概要を聞かせて貰おう。


 やはりというか、星の海を一気にリバイアサンで北上して砦の建設位置に向かうというものだった。

 谷の出口位置にリバイアサンを停止させて、谷の奥を軽巡と駆逐艦で制圧。これで砦の建設は安全に行えるはずだ。

 魔獣が群れでやってきたとしても、リバイアサンに近づこうものなら3方向の12基の連装砲塔が弾幕を張るってことだな。


「リバイアサンと尾根の隙間は、陸上艦を2隻使えば防ぐことも出来よう。砦建設は、2個中隊の工兵が担当する。工兵の2個小隊は獣機を使えるぞ。戦機や獣機の点検は軍艦内でもできるが、リバイアサンがあれば修理も可能だ。

 次に工程の説明を行う……」


 最初の1か月は輸送艦隊すら来ないようだ。

 1か月後に最初の輸送艦隊が隠匿空間からやってくる。巡洋艦を旗艦として大型輸送船を5隻を駆逐艦4隻で護衛してくるそうだ。

 巡洋艦の船尾砲塔を撤去して、飛行機を2機搭載したらしいから広域警戒が出来そうだな。


「輸送艦隊については、リオにも待機をお願いする。これ以外にも、生鮮食料を飛行船が運んでくれるだろう」


 概要説明が終わると、確認のための時間になる。

 どんな質問が出るんだろう?

 新しいコーヒーが注がれたカップを手に、ファネル王子に視線を向けた。


「最初の1か月を補給なしで砦を作るということですか? 画像を見る限りでは、岩山に見えますから、魔導士のよる城壁作りの材料は問題ないように思えますが、参加人員だけで、2千人を超えるでしょう。星の海を越えるとなれば途中で補給すらできません」


「その心配は無用だ。ヴィオラ騎士団の旗艦はかなりの搭載量があるからな。補給は2か月間必要ないと思えるぐらいだ」

「大型輸送船を特注したということでしょうか……。フェダーン殿がそう言われるのであれば心配ありませんね」


「そうなると、同行するブリアント騎士団の方に問題が出ます。払い下げられた駆逐艦を改修した陸上戦ですから、搭載能力はそれほどありません」

「それも問題ない。ヴィオラ騎士団の旗艦であるリバイアサンに同行できおるだけの隻数に抑えたつもりだ。食料は全てブラウ同盟が提供することになるが、10日分程度の積み込みは必要だろう」


 契約金はいくらなんだろう? リバイアサンのドックの桟橋を使えば騎士団をまとめて星の海の西岸に運ぶことも出来そうだ。

 リバイアサンを使った運送業は、結構客を呼ぶんじゃないかな?


 ブリアント騎士団が戦機の必要数を訪ねたら、全て他の陸上船に積み替えるように、フェダーン様が指示を出している。

 魔獣狩をしないと騎士団を維持できないからなぁ。俺達ヴィオラ騎士団もドミニク達が頑張ってくれているから何とか維持できてるに違いない。

 俺とアリスの考えた砦の防衛には戦機を必要としないから、獣機を搭載して乗り込んできて欲しいところだ。

 

「ある程度砦が形になったら、谷の奥は安全なのかしら?」

「そうなるな……。奥に数ケム続く谷だから、谷の両側を桟橋にできるはずだ。その工事は隠匿空間ほど安全とは言えんが、周辺監視を充実させることで担保するつもりだ」


「なら、ここで戦姫の訓練を行うわ。隠匿空間よりも現実味が上がるでしょう?」


 その時には、リンダ達護衛の戦機が緊張しそうだ。まあ、それなりの腕を持った騎士を送ってきたんだろうし、前部で6機あるからね。さらにローザもいるんだから、かなり安全なんじゃないか。


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