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M-274 質疑応答


 いくら昼過ぎといっても、13時ちょうどに訪ねてくるとはなぁ……。その上昨夜より学生の数が増えている。見覚えのある教授も3人混じっているから、物理、生物それに化学の3分野の秀才が来たに違いない。

 昨夜使った会議室のテーブルを動かして、他の部屋からベンチまで運びこむ始末だ。

 そんなに興味があるんだろうか?

 今日は、質問に答えるだけのはずなんだけど……。

 それよりも、カテリナさんが大人しいのが気になってきた。

 子供たち5人の対応があるから、こっちに来られないんだろうけどね。


 テーブルに飲み物とドーナッツが出てきた。

 タバコを灰皿でもみ消したところで、マグカップのコーヒーを飲む。先ずはドーナッツを頂こう。

 学生達は、質問の順番争いをくじ引きで決めているようだ。もうしばらく待った方が良いかもしれない。


 どうにか順番が決まったようで、学生達の視線が俺に向けられる。

 さて、最初はどんな質問だろう。


「リオ閣下、このような機会を与えて頂き、ありがたく思っております。昨夜のお話は寮内でかなり話題になっております。私の話が拙かったからでしょう。かなりの質問を受けました。また直に話を聞きたいという仲間達も、王宮の許しを得てやってきております。ここで即答できない場合には、別途教えて頂ければ……」


 学生代表の話が終わらない内に、会議室の扉が乱暴に開かれて息を切らしてカテリナさんが俺に視線を向けている。

 子供達を放ってやってきたのかな?

 ちょっと可哀そうな気がするんだけど……。


「各国ともに混乱しているようね。私の報告書を待っているということだからリオ君を探していたんだけど、学生を相手にしているとは思わなかったわ。多分、例の爆発に関わる話だと思うから、同席させて貰うわよ」


 断れればどれだけ良いだろう……。慌てて頷いている俺に笑みを浮かべると、俺の隣に椅子を運んで座ってしまった。

 バッグから筆記用具を取り出したところを見ると、後で質問攻めにするつもりなんだろうな。

 なら早めに始めるか……。


「昨夜、ウエリントン国王陛下には詳しく話してあるが、同盟国への状況報告はカテリナさんが行ってくれるようだ。昨夜の話に関わる質問なら、カテリナさんの役に立つだろう。さて、最初の質問は何かな?」


 俺の問い掛けに、学生の1人が席を立つ。手元のメモは質問をまとめたんだろう。曖昧な質問では、その内容確認に手間取るだけだ。


「昨夜の話で、大量の放射線を浴びると、人体を構成する組織が破壊されると言われました。一見何事もない状態で、体が破壊されるのは人間が持つ複製作用によるものだと言われましたが、その複製はどのように行われるかを教えて頂きたい」


「生物学の範疇だね。俺達が普段行っていることだが、意識的にそれを行うことができないのが不思議なところだ。そして君はまだ気が付いていないかもしれないけど、俺達は経った1つの細胞から細胞の数を増やしてこの体を作っている。受精とその後の姿の変化はこんな風になる……」


 卵子と精子の出会いと細胞の分割を仮想スクリーンで見せることにした。

 その変化を目を見開いて見てるんだけど、カテリナさんまで口をポカンと開けたままで見てるんだよなぁ。


「この画像は特殊な方法で撮影したものだから、生まれた赤ちゃんに影響は全くないんだ。だが、君達で確かめようなんてことはするんじゃないぞ。この画像を君達で作れることはないはずだ。何代掛かるか分からないけど、この画像が作れるようなら自然科学がかなり発達したと自覚できるだろうね。

 俺達の体は、先ほど見た通りあの小さな粒々で作られている。その粒々を俺は細胞と呼んでいるんだが、その細胞が体のどこで何を行うかについては、詳しい設計図が細胞の中に入ってるんだ。

 これを見て欲しい。これは人の細胞の1つだが、小さいからなぁ。これは1万倍以上に拡大してある。

 いろいろと入っているけど、この中で一番重要なのは細胞核と呼ばれるこの部分だ。

 よく見ていてくれ。特殊な染料で着色してあるものが良く分かるようにしてある」


 画像の細胞が震えるように動き出すと、核の中の染色体が姿を現した。その染色体が、2つに分割すると、その分割した染色体を取り囲むように細胞が2つになる。


「これが細胞分裂と呼ばれるものだ。こうやって俺達の体は常に細胞が更新されていく。細胞がどんどん増える危険性はない。細胞には自らを殺す仕組みを持っている。そうでもしないと俺達の体はどんどん大きくなってしまう。

 ただ、増えることもあるんだ。子供の細胞総数と大人の細胞総数では大人の方がはるかに多い。だけどある一定のところで、それ以上に増えることはない。良くできた仕組みだと思うよ。

 細胞分裂には、染色体と呼ばれる、この部分が極めて重要だ。

 この染色体だけを取り出して拡大したものがこの画像だ。いろんな形をしてるだろう? でも似た者同士を並べると、22対と1対になる。これは男性の細胞なんだが、女性の場合はこうなる。

 女性と男性の違いは、ただこの1つの遺伝子の違いでしかない。

 次はこの画像を見てくれ。先ほどの染色体の形が違っているのが分かるはずだ。

 これでは、分裂したくても分裂できなくなってしまう……。

 この画像は、放射線を細胞に照射したために起こったものだ。表面上は何の変化もない。だが、俺達を形作る仕組みが破壊されているんだ……」


「最初に見せて頂いた発生の画像では、最初は魚のように見えました……、その後はトカゲに見えましたし、人に近づくと尻尾が無くなりましたね。最初から人の姿ではないのですか?」


「それも重要なことだと思う。俺は生命樹をゆっくりと根元から人になるまでを辿っているように思える。俺達は今はこの姿だが、この大地に生命が生まれてからこの姿だと考えているのかな? この大地はどうやって生まれ、最初の生命はどのようにして生まれたか……。少なくとも突然人が作られたことはないだろうね。最初の生命の誕生から、俺達はゆっくりと形を変えて今この姿になっている。それは生物学を進めながら考えていくことになるんじゃないかな?」


「物を大きく見ようとしてもレンズでは限りがあります。先ほど1万倍と言いましたが、そのように拡大することはかのうなのでしょうか?」

「望遠鏡は知っているよね。あれは遠くを見るためのものだ。レンズ1枚ではそれは無理だが、複数枚のレンズを使うことで、それができるようにしてある。

 試行錯誤で試作してはどうかな? レンズが複数枚必要だが、それほど大きいレンズは必要としないはずだからね」


「男女の違いは先ほどの染色体と呼ばれる紐のような形をした1本の違いだけのようですが、遺伝にも関係していると思います。それはどの部分になるのでしょう?」

「それを自ら調べられるようになるまでどれぐらい掛かるだろう……。この画像を見て欲しい。3つの素子が二重らせん構造を取っているのが分かるはずだ。模型だけど、これが染色体の正体だよ。この素子の種類や順番が変わることで、人の形状が少し変わってくる。肌や髪、目の色もそうだね。顔つきや体型もこの小さな棒の順番の違いになる。

 この配列なんだが、先ほどの染色体を対で並べていたのを覚えているかな?

 あの片方は母親から、もう片方は父親から受け継いでいるんだ。卵子と精子の染色体は対になっていないんだ。出会って初めて対になる」


 コーヒーを飲みながら次の質問を待つ。

 おずおずと手を上げて立ち上がった女性の質問は、物質の融合に関わるものだった。

 化学を学ぼうとする人物だな。あの電気分解の時に見かけた女性だ。


「金は永久不滅だと言われています。その金が他の物質に変わるようなことはあるのでしょうか?」

「ある。とだけ答えておこう。それを確認するためには放射線の種類と働きを良く学んでその防護について確実にできるまでは止めて貰いたい。きわめて危険な物質が出来上がる。

 だが、放射線を無闇に危険視することはない。なぜなら俺達は放射線から逃れることができないんだ。あの恐ろしい爆発時には極めて強力な放射線が周囲に飛び出した。その結果、近くにあった物質の何種類かは性質の異なる物質に変わったはずだ。

 その物質は、長い期間にわたって放射線を出して元の元素あるい別の元素になるだろう。

 金でもそれは起こるはずだ。面白いことを教えてあげよう。金はどうやってできるか、考えたことがあるかな?

 この世界に最初からあったということはない。金は作られたものだ。それを作ったのは誰か? 神ではないよ。

 それは、この世界で一番大きな爆発によるものだ。昨夜、太陽は水素を融合して他の物質に変えることで輝いていると話したはずだ。

 あの大きさだから直ぐに水素が尽きることはないだろうけど、何億年後かには水素が無くなり水素各融合の産物であるヘリウムが融合し始める。ヘリウムが尽きると……、どこまでも続くように思えるけど、限度はあるんだ。鉄が最後に作られ始めた時に太陽に寿命が尽きる。最後は大爆発を起こすんだ。

 この最後の爆発はかなり大きなものだ。だけどそれでも金は作れない。太陽よりもさらに巨大な太陽が爆発して初めて金が作られる。だから金は貴重なんだよ」


 俺ですら、それが本当にそうなのかは分からないんだが、アリスを通した膨大なかつての記憶がそう教えてくれる。

 それを伝えるだけでも、彼らにとっては参考書を覗き見ることになるに違いない。

 それが本当なのかを確かめる術は、彼らが確かめるべきだ。


「単位をきちんと説明できるようにするということが、おぼろげに理解できました。きちんと定義されているからこそ、記号で表せるんですね」

「いい加減な定義なら、後で改めるのに苦労するはずだ。例えば、重さの単位をある決まった体積の水で定義したとする。この時に入れ物の大きさの単位があいまいだと重さは替わってしまうだろう? それにだ、その中に入れる水に何かが融け込んでいるかもしれない。水という言葉自体が怪しくなってくるね」


 頭を抱えた学生は、それに似た方法で重さを定義しようとしていたのかな?

 蒸留して得られる純水ならかなり精度が出てくるだろうけど、それでも小数点以下の何桁目かでそれが変わってくることに気が付くはずだ。水を構成する水素には同位体である重水素が含まれているからなぁ。どんな手段で定義してくれるか楽しみだ。


 学生の質問はなかなか鋭いな。中でも三角形がの各辺の角度が180度を超えることは絶対にないと言い切る始末だ。いろんな三角系の形を作ってみたらしいが、紙を広げて三角形を書いた段階で結果が見えてるんだよなぁ。



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