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M-272 サザーランドで何が起きたか(3)


「ここで1つ明らかにせねばならない。リオ。私の方から離しても良いぞ」

「いえ、やはり俺から離すべきでしょう。実は、リバイアサンに中にあの爆発を起こせるものが20発ほど保管されているようなのです」


「驚くべきことなのだろうが、あまりの話については行けぬな。だが、それが本当の事であったなら、スコーピオ戦で使うべきだったようにも思えるのだが……」


 確かに威力的には十分だろう。だが、融合弾のような兵器を簡単に使わせることは出来ない。

 魔獣相手に使うだけと言いながら、何時それを他国に向かって使わぬとも限らない。


「古代帝国が滅ぶわけです。あの爆発を起こす砲弾を互いに放ったわけですからね。いったいどれぐらい使用したのか……。

 一応、リバイアサンに存在することは分かってはいるのですが、その場所が不明です。それを発射する主砲の存在についても同様です」


「アリスを使ってでもか!」


 トリスタンさんが信じられないといった表情で怒鳴り声を上げる。


「巧妙に封印されているようです。アリスがパズルを楽しむかのように封印の解除をしていますが未だに扉が開かれることはありません」


「だが、あの爆発をガルトス王国が知った何ら、なんとしても発掘しようとするに違いない」

「その通り。星の海の探索船の動きはスコーピオ戦後活発化しています。とはいえ、そう簡単に使うことは出来ないでしょう。分解途中で、サウザンド王国が滅んだことはガルトス王国としても重く受け止めると考えます。今後あり得る動きとしては、古代帝国の兵器を発掘したとして、我等に圧力を加えるということでしょう。

 思い通りに爆発させることは出来なくとも、それが可能であると脅しをかけてくるに違いありません」


「ガルトス王国が我等に対して使えるわけでは無いのだな?」

「使えません。使い方が分からいでしょう。それを使いこなせるとしたらアリスぐらいでしょうが、俺達が使うことはしませんよ。悪魔の化身として名を残しかねません」


「だが相手は必要にその存在を口に出すに違いない。サウザンドの惨状を目にすれば、要求を飲まざるを得ないのではないか?」

「その時は、俺に連絡してください。ガルトス王宮をドラゴンブレスで破壊します。使用を匂わせるだけでも、俺はやりますよ。あの兵器を2度と使わせてはいけません」


 俺の言葉を聞き、国王陛下が静かに目を閉じる。

 深く考え込んでいるみたいだな。


「陛下……。魔獣相手にも手心を加えるリオの言葉、それなりの決意を示したものと思われます。ガルトスからの使者が来た折に合わせてみてはどうでしょうか?」

「ガルトス王宮の破壊だぞ。そのまま戦に発展する可能性が高いだろう。それはどう責任を取るつもりだ」


「リバイアサンによる迎撃……。戦艦の砲撃にさえリバイアサンは耐えられるでしょう。国境近くで迎撃するなら、ウエリントン王国に被害が及ぶことはありません」


「任せることになりそうだな……。トリスタン、明日は幕僚を集めて、その後の対策を考えねばなるまい。貴族達にもリオの釈明を聞かせるつもりでおったが、そんな話を貴族にしたなら別の問題が起こりそうだ。

 最後に、なぜそのような事態を引き起こすことができるのか。被害者の体に何が起こっているのかを説明して欲しい」


 これで明日の夜には騎士団に合流できそうだ。

 ちょっと嬉しくなったところで、どこから話を始めようかとコーヒーを飲みながら考えることにした。


 やはり融合弾からになりそうだな。

 俺の指向を読み取ったのか、アリスが新たな画像を仮想スクリーンに描き出した。


「ここからは、学生諸君に対する特別講習にもなる。君達の学ぶ学問の延長上にこの爆発は起こっていると思ってくれ。だが、それを形にすることは絶対にないようにしたい。ある程度自然科学の道筋ができたところで、第3者による学問の監視体制を構築したいと考えていたのだが、国王陛下もおられることだから、国王陛下にその監視をどのように行うのかを考えて頂きたい。

 俺達がこの世を去っても、サウザンド王国の惨状が絶対に起きないような、学府全体を眺めながら、それが神の領域を犯すことがないかをしっかりと見て頂きたい。

 学問の振興は単に学生達に対する援助だけでは足りないでしょう。その成果が出ぬ段階での成果が成ったあかつきを見定める必要があるでしょう」


「そうだな。学問はもろ刃の剣。使い方次第ではそれが大きな惨状に繋がるということは理解したぞ」


功旺陛下の言葉に深く頷いたところで、仮想スクリーンに短い式が大きく表示された。


「楽譜の講堂で、物理学を修めるには数学の知識がいると話したことがある。サウザンドの災害を式にするとこのような簡単な表現になるのだ」


 俺が一呼吸していると、学生の手が上がる。

 彼に視線を合わせて小さく頷くと、その場で立ち上がって問い掛けてきた。


「今数学の式と言いましたが、それは式なんですか? どこにも数字がありませんし加減乗除の記号すらありません」


「そうだな……、そこから説明しないといけないのか。

 式を簡略化させるための方法であえて乗算記号は書かないんだ。この文字記号はそれぞれ意味がある。この『=』という記号は『等しい』という意味でつかわれる。こっちの文字の右上に掛かれた数字は同じものを乗算するという意味だ。3度乗算する時には、このように描く……。

 これで少し意味が分かったはずだ。左辺の『E』というものは、右辺の『M』と『C』の二乗を掛けたものに等しいと表現されている。

 非常に単純な式だが、この式が得られるまでに要した時間はどれほどだと思う?

 それこそ数学の概念がある程度固まった段階からになるが?」


「式としては案外単純なんだな。その文字記号が重要なのだろうが、数学者であれば半年で十分だと思うぞ」


 トリスタンさんの言葉に、学生達も頷いている。

 中には、もっと短時間かもしれないなどというつぶやきも聞こえてきた。


「およそ3千年だ。私の世界ではそのような年月を費やして、天才的な科学者がこの式を導き出した。学生諸君はこれでかなり学問を有利に進めることができるんじゃないか? これを真に理解するにはそれだけの時間が掛かったんだ。

 ではこの式の意味を説明する。

 これは物質の根源を現している。『E』とは仕事量になる。力と考えても良いし熱と考えても良い。『M』は重さそのものだ。最後の『C』は光の速度になる。

 この『M』 についてはもう少し補足しなければならない。重さといったが、この場合は質量欠損量というのが正しいように思える」


「リオ閣下が講堂で言われた、重さは一定ではないということに関係しているのでしょうか?」

「そうではない。あれはこの場所で測った重さと北の隠匿空間で測った時の重さが変わるぐらいに考えて欲しい。先ほど俺が言った質量欠損とは、融合化によってこの世界から消えた重さだ。

 太陽の輝きは水素が融合してヘリウムに変換される過程で、1秒間に150万トワ(1トワ:荷馬車2台分で焼く3t)以上の質量欠損が生じる。これによる膨大なエネルギーが放出されるのだ」


 彼らの想像を絶するエネルギーだ。それにエネルギーを正しく彼らは理解できているかな?

 そのエネルギーはガンマー線が主体なのだが、周辺物質と衝突を繰り返すことで減速され熱となり光となる。

 ここでは、巨大な爆発力と生物に有害な影響が出るぐらいに考えて貰えれば良いのかもしれない。


「この間実験で水素を作りました。皆も不思議な現象だと言っておりましたが、あの水素がリオ閣下の危惧するような大きな爆発を起こすことになるのでしょうか?」

「あれは化学反応だから問題はないよ。ここで言っているのは物理反応だ。融合によって全く性質の異なる物質が生まれる。太陽は偉大な錬金術師だといつも俺は感じているよ」


「さて、太陽の熱がどのように生まれるかを説明したつもりだが、それに勝る融合が魔石融合なのだ。相反する魔石を融合させる。それによって新たな魔石が生まれることはない。魔石そのものが無くなってしまう。リバイアサンの巨体が動くのは、魔石融合機関という動力炉を持っているからに外ならない。

 それだけなら、文明社会の便利な道具と位置付けられるだろう。だが、融合技術は制御するよりも暴走させる方が、どうやら簡単なようだ。

 リバイアサンの魔石融合機関を地上で引くとなれば戦艦何隻かを用意しないといけないような代物だが、サーゼントスで爆発した兵器に搭載された魔石融合弾は自走車にいくつも乗せられるほどの大きさで済む。

 ここで発生するエネルギーの性質について少し説明しよう。

済みませんが、魔石の入ったランタンを用意してくれませんか?」


 直ぐにネコ族のお姉さんが部屋から飛び出して行った。

 本当にいつも急いでいるよなぁ。誰かにぶつかるなんてことが無いんだろうか?


「これで良いかにゃ?」


 第2離宮の夜間警備用のランタンなんだろう。4方向にガラスが張ってある中に光球が入っている。

 学生にメモ紙を使って小さなスリットを作って貰い、周囲をバンダナで覆う。

 最後にバッグからプリズムを取り出す。

 アリスがバッグの中に亜空間移動で運んでくれたから、これで説明が出来そうだな。

 部屋を暗くしてもらうと、スリットから出る光にプリズムをかざして壁に虹を作った。


「プリズムという光学の道具なんだけど、これを使うと光をこのように分離することができる。雨の後にできる虹も同じ原理だ。

 ここで理解して欲しいのは、一番外側の赤と反対側の紫だ。

 赤より外にも見えないものがある。そこは赤外線と呼ばれる熱の領域だ。反対に紫の外側にもある。紫外線と呼ばれる領域になる。なぜこのように光が分けられるのか……。簡単に言うと光は波の性質を持っているからなんだが、厳密な波とも異なる。ある時は小さな個体のような性質を持つときもある。

 それは学生諸君で試してみるのも面白いかもしれないな。光は波なのかそれとも個体なのか、調べるほどに深みにはまること間違いなしだ。

 さて、融合弾の爆発の話に戻るのだが、融合時に生じるエネルギーは紫外線領域よりもはるかに外側にあるガンマー線と呼ばれるものだ。人体に極めて有害なんだが、周辺の物質に衝突することによりどんどんこのスペクトルの中に納まりついには赤外線の外側にまで到達して熱となる。

 光と熱があの爆発で発生するのはそのためだ。熱による被害は皆にも理解できるだろうから、ガンマー線領域での話を始めるぞ。

 これは生物学にも関わるから、よく注意して聞いて欲しい」

 話は脱線に次ぐ脱線で遺伝子学や生物学についても簡単に説明をしないと納得させることが難しく思える。

 教えている本人がそうなんだから、聞いている方が理解してくれているかはなはだ問題には思っているんだが、ここは一気に説明しておいた方が良さそうだな。


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