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M-270 サザーランドで何が起きたか(1)


 軽巡の士官室で3日目の朝を迎えた。

 いつものように朝食前の一服を楽しもうと甲板に出ると、いつの間にか長城の中に入っていたようだ。

 陸港までの真っ直ぐな道の両側は、2階建ての石作の家が並んでいる。

 家並みは大通りから奥にあまり伸びていないようだから、どうにか農園地区を過ぎようとしているところだろう。陸港には、夕暮れ前に到着できそうだ。


 士官食堂に向かい、フェダーン様と朝食を取る。

 食後のコーヒーを飲んでいると、エルンストが書類を持って現れた。

 報告書の確認をして貰うのかな?

 軍の内部もいろいろと面倒みたいだな。


「うむ。これで良い。補給物資の積み込み時には立ち合いもよろしく頼むぞ」

「了解です! それだはこれで……」


 騎士の礼を取ると、部屋を出て行った。

 昇進が控えているから、頑張ってるみたいだな。今回の休暇は半分になってしまいそうだが、両親も喜んでくれるに違いない。


「いろいろとあるんですね。リバイアサンは商会にお任せですよ」

「リバイアサンのように大きな倉庫を持たぬからな。リバイアサンは工房都市と戦艦数隻が合体したようなものだ。リバイアサンで補給ができるのだからな」


 おかげで、マリアン達は苦労しているらしい。いくら商会が動いてくれると言っても、確認は必要だからなぁ。

赤字にならないというんだから、凄い手腕だと感心してしまう。

 だけど、ある意味リバイアサンで一番激務の部署でもある。少しは仲間を増やしたらしいけど、それでも足りないに違いない。

 フレイヤ達のサロン活動を通して早く人材を確保しないといけないだろう。

 

「兵站を理解するものは戦で負けることがない……。そんな話をどこかで聞いたことがあります」

「至言だな。軍略家は多いが、兵站を理解できるものは少ないだろう。とはいえ、初めて聞く言葉だ。帝国時代の話かもしれんぞ」


 その辺りはどうなんだろう?

 まあ、フェダーン様は軍略も兵站も理解していると俺には思える。

 おかげで俺も盤上の駒扱いされているように思えてならない。


「北の回廊は兵站を支える道でもありますから、その辺りを十分に考えませんと」

「もう1つの回廊もあるぞ。できれば使いたくはないがな」


 俺に顔を向けて笑みを浮かべている。

 ひょっとして、リバイアサンを輸送船として使おうなんて考えてるのかもしれないな。

 確かに、大型輸送船10隻を超える運搬能力はあるんだけどね。


「それに、飛行船による輸送も出来るだろう。回廊を守る砦が孤立しないよう、輸送手段は多い方が良い」

「リバイアサンの出番が無くなるよう、高速輸送船の改良を考えてみますか……。駆逐艦に随伴できる速度があれば役立ちそうです」


「荷を多くは積めぬだろうが、設計を買うことも可能だ。他の王国も欲しがるであろうな」


 フェダーン様の話では、積み荷が半分でも十分らしい。それでも飛行船よりは10倍以上荷を運べるはずだ。

 3隻ほど使えば、回廊を守る砦の補給を隠匿空間から行うのは容易だろう。


「それにしても、西は色々と問題が出てくる。いっそのこと諦めるという選択肢もあるが、誰もそれを口にすることはない」

「未知の荒野ですからね。そこに棲むまだ見ぬ魔獣、新たな帝国の遺産、そして大量の魔石……。誰もが一獲千金を望んでいるようです。人間は案外欲深いですからね」


「確かにそうだな……。その結果命を落とすことになろうとしてもだ。やはり宗教は必要だろう。誰にでも懺悔したいことはあるだろうし、自分の欲を満たそうと神頼みをするのだから」


 苦笑いを浮かべながら、部屋の隅に待機している従兵に新たなコーヒーを頼んでいる。

 改めてコーヒーを頂きながら、とりとめのない話を2人で楽しむことになった。


 いつの間にか王都を取り巻く城壁を過ぎ、一路大きな通りを南に進んでいる。

 一服するのはやはり甲板で周囲を眺めながらに限るな。

 アレクの農園はとっくに過ぎたようだ。この辺りは郊外の住宅地といった感じに見える。まだ大きな邸宅が見えないが、陸港には夕暮れ辺りに到着できるだろう。


 一服を終えたところで士官室の戻り、スキットルのワインを楽しみながら、アリスと通信網の整備と魔道通信機の改良について話し合う。

 基本は無線電信だが、通信周波数をある程度決めておかねばならない。たくさん通信機を搭載できる余裕はないし、そんなことをしたなら電力だって別途考えねばならないからなぁ。


『一般、隠匿、軍専用それに緊急の4種に区分けして、それぞれ数波を用意すれば十分に思えます。さすがに緊急は1つにしないといけません』

「隠匿と軍専用は暗号を許可すれば良いだろう。一般と緊急は平文で良いはずだ。もう1つ追加すべきだろうな。位置情報の電波だ。その中の3波を検知できるようにしておけば何とかなるんじゃないか?」


『ですね。到達距離を考えると長波が良いのですが、アンテナに指向性を持たせるとなれば短波になってしまいます。0.1MHzピッチでいくつかの波を用意するのは簡単でしょう』


 前に通信機を提供しているから、それの改良版ということでアリスが何台か試作してくれるらしい。

 キットでいくつか用意してあげれば、複製魔法で量産化ができるだろう。

 電波塔は隠匿空間とリバイアサンに設ければドミニク達に試験してもらえるはずだ。

 アンテナ長が数十mにもなりそうだし、指向性を持たせるとなれば八木アンテナということになる。アンテナ2つは確定だな。


 フェダーン様と夕食をとり、一緒にワインを飲んでいると軽巡洋艦が陸港に到着する。

 フェダーン様の計らいで同じ馬車に乗せて貰い、王宮に向かった。

 1時間も掛からず王宮の門をくぐったけど、ヒルダ様が待ってるらしいのでそのまま第2離宮へと馬車が進んでいった。


 バッグ1つを持って馬車から降りると、ネコ族のお姉さんがバッグを受け取ってくれた。一晩厄介になるから、客室に運んでくれるのだろう。

 エントランスの上で俺達を出迎えてくれた、ヒルダ様の案内でリビングに向かう。


 豪華なソファーはコーヒーを零したらといつも心配になるんだよなぁ。

 そんなことを思い浮かべて腰を下ろすと、直ぐにワインが運ばれてきた。


「いつもなら直ぐに民衆支援を叫ぶリオ殿の言葉とは思えませんでした。その理由を聞かせて貰おうとフェダーンにお願いしたのです」


 概要ぐらいは伝えておいて欲しかったな。

 ヒルダ様としても、民衆援まで断念するというのは考えにくいのかもしれない。

 ここはゆっくりと説明してあげた方が良さそうだ。


「ちょっと学府での講義に近い話になりますが、よろしいですか?」

「それならちょっとお待ちください。王宮と学府は近いですから、新たな学問に取り組もうとしている学生を交えての方が学生達の勉強にもなるでしょう。30分ほどですから、軽くつまむ物を用意させますわ」


 扉近くで待機していたネコ族のお姉さんを呼んで、小声で指示を与えると直ぐにお姉さんが走っていった。

 一応、王宮なんだよなぁ。ネコ族の人達はいつも忙しく動いてるから感心してしまう。


 直ぐに大皿に乗ったたくさんのお菓子が運ばれてきた。

 甘いものは大好きだからさっそく手を伸ばしたけど、ヒルダ様達も俺と同じように遠慮しないで食べている。それでいて太らないんだから、どんな運動をしてるんだろう。


「リオ殿が絶対に使わせないと言っていたぞ。星の海で再び見つかるやもしれん。我等が見つけたなら、その処分についても考えねばならん。アリスが措置に悩むほどだから、始末は簡単ではないのだろう」


「そんな武器を開発しなくとも戦はできると思いますが?」

「相手より性能の良い武器を持ちたがるのは軍人のさがであろうな。私も、単に爆発力だけを考えるならば抑止力として持ちたい気持ちはある」


 やられたらやり返す! ってやつだな。

 単純だけど説得力はあるんだよなぁ。威力があればあるほどその効果が高いし、その武器がどこでどのように使われるかまで相手には分からないはずだ。

 だけど戦は軍人同士で争そうものであって、一般住民に被害を出さないのが基本じゃないのか?

 それなら拡大して王国が滅んでも一般の人達にそれほど影響が出ないだろう。それが封建社会の特徴のように思える。


 お菓子を摘まみながら、どんな順序で説明しようかと悩んでいると、扉を叩く音で現実に戻された。

 お客さんが来たのかなと扉を見ると、近衛兵の姿が見えた。

 急いで立ち上がり、ハンカチで口元を拭いている俺の姿が面白いのか、フェダーン様が噴き出しそうな表情で、笑いを堪えている。


「そのままで良いぞ。たまたまだからな。リオが詳しい説明をすると聞いて、王子も一緒に連れてきた。学生も呼んだらしいな。さすがにこの部屋では狭かろう。会議室に移動した方が良くはないか?」

「陛下が来なければ、ここで十分だったと思いますよ。でも、それなら明日の説明は少し端折れそうですね。リオ殿もその方がゆっくり明日起きられるでしょうね」


 軍人相手なら、適当に済ませそうだな。俺に笑みを向けているヒルダ様に小さく頭を下げる。ひょっとして寝坊させてくれるかもしれないな。


 そのまま会議室に向かうと、学生を待ちながら再度頭の中を整理する。

 果たしてどこまで理解してくれるか怪しいけれど、そんな危ない代物は使いたくないと国王陛下が思ってくれれば十分だ。


 しばらくすると会議室の扉がそっと開き、ネコ族のお姉さんの案内で10人ほどの学生が現れた。

 一応制服姿のようだから問題はないだろうけど、国王陛下と2人のお妃様を前にして完全に棒立ち状態だ。

 ヒルダ様が彼らに席に座るように言ってくれたから良いようなものの、そのまま朝まで立っていたかもしれない。


「それほど緊張することはないぞ。リオの講義を聞く以上、お前達と同じ学生だと思えばよい。隣同士で話すこと、飲み物を飲むこと、タバコも気兼することはない。たまたま同じ部屋にいる見知らぬ人物ぐらいに思うのだな」


 国王陛下はそんなことを言ってるけど、学生達は緊張した表情のままなんだよなぁ。

 お姉さんがコーヒーを運んできてくれたから、先ずは一口飲んで落ち着いて欲しいところだ。


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