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M-268 俺だけ休暇が少ない


 ブラウ同盟軍の拠点近くのリバイアサンが停泊する。

 休暇に出掛ける連中のために、待機していた商会ギルドの貨客船が次々とドックに入り、乗員を収容していく。


 皆忙しくしているんだけど、俺はフェダーン様とリビングでコーヒーを飲んでのんびりしている。


「休暇はリバイアサンの陸港に到着た日から10日間であったな?」

「そうなります。積荷の関係もありますから、集合予定日の翌日に出航となるでしょうから、遅れるものはいないかと」


「リオ殿達はクルーザーで西の島という事であったな。済まぬが2日は私に付き合ってくれぬか?」

「サーゼントス王国の惨状についてですか……。分かりました。あれを説明することは他の者には出来ないでしょう。俺一人で良いですよね?」


「カテリナにも同行して貰うつもりだ。王宮の依頼ということでドミニク達には私から伝えておく」

 

 とりあえずは、島で羽を伸ばすだけだからね。

 俺がいなくともアレクやベラスコ達、それにローザ達が一緒だから賑やかに過ごせるだろう。


「夕刻に出発する。貴族の礼装もあるが、リオ殿の場合はヴィオラ騎士団の礼装で十分だろう」

「準備だけはしておきます。マントはいらないですね?」


 一応、マントと帯剣を依頼されてしまった。

 叙勲の時だって使わなかったんだが、辺境伯となったから世間体ということになるのかな。


 フェダーン様が腰を上げてリビングを去っていく。

 あちこちに連絡してくれるんだろう。それとも、ブラウ同盟軍の乗員の乗り換え状況を確認するのかな?

               ・

               ・

               ・

「リオは遅れるの?」


 夕食時にフレイヤが驚いたように問い掛けてきた。


「ハーネスト同盟軍の動きがかなり不味い状態だ。状況確認と、今後の対応について2日程遅れるよ。今夜貨客船で出掛けるんだろう? 戸締りをしてフェダーン様の軽巡で一緒に王宮に出掛ける。カテリナさんも一緒だけど、一緒に島に向かうかどうかは分からないな」

「学府の方もあるのでしょう。でも、来てくれると思いますよ」


 エミーはカテリナさんに好意的だ。目を直してくれたと思っているんだろう。俺としては、来てくれない方がありがたい気もするんだよなぁ。

 子供達の様子も観察することになるだろうから、きっと来るに違いないけどね。


「ローザ達は王宮のクルーザーになるそうよ。私達のクルーザーはドミニク達と兄さんにベラスコ達で良いんでしょう?」

「ああ、それで良いはずだ。他の団員については客船をチャーターしたらしい。何もない島なんだけど、結構行ってみたいという団員が多いらしいよ」


 宿泊施設の食事はどうなるんだろう?

 場合によっては、漁村の小母さん達に助けてもらうことになりそうだな。その前に、1日ぐらいは自分達で食事を作ってもおもしろいと思うんだけどね。


「アリスに乗ってくるなら、1日遅れぐらいになりそうね。領地の視察もあるんだから、あまり長居してはダメよ!」

「漁村はアレクにお願いするつもり。騎士団の開拓団の方が気になるんだよね。北の回廊計画が軌道に乗れば、新鮮な野菜はいくらでも買ってくれると思うんだ」


 退役した騎士団員が育てる野菜なら、騎士団も買ってくれるんじゃないかな?

 西に向かえば食料を買うことなどできない。街道を守る砦と西の拠点が騎士団が活動を続ける唯一の支えとなる。


 夕食が終わる頃には、リバイアサンに残っていたのは俺達だけになっていた。ドックの桟橋から移動架台に乗ってフレイヤ達がヴィオラに乗船する。これで全員かな?


「アリス、リバイアサンの乗員で残ったのは俺だけかな?」

『マスターだけです。私はここに残りますが、島の座標が分かっていますから、いつでも迎えに行くことが可能です』


 一度訪れた場所は、アリスが座標をチェックしているから直ぐに移動できる。

 俺単独でも移動できるんだが、あまり人には知られたくないところだ。

 ヒルダ様の住む第2離宮なら直ぐにでも行けるんだけど、フェダーン様に誘われているからなぁ。

 王宮で会議をする前にある程度の知識を付けておこうということなんだろう。

 あの爆発の後に直ぐ教えたんだけど、色々と疑問が湧いてきてるのかな?


「フェダーン様の軽巡に送ってくれないか? その後で、駐機台で待機してくれ」

『了解です。軽巡の船尾の離着陸台に転送します』


 ソファーの足元にはトランクが1つ置いてある。

 今はクロノツナギとブーツだけど、制服はトランクの中に入れてあるとエミーが準備してくれた。刀はトランクの上に乗せているけど、腰のベルトに差しておいた方が邪魔にならないかな?


 刀を取り上げてベルトに差し込んでいると周囲の光景がグニャリと歪み、再び元に戻る。

 俺が立っている場所はリバイアサンのリビングではなく、南西に向かって進んでいる軽巡の上だった。

 さて、誰か見付けてくれるとありがたいんだが……。

 

 辺りを見渡していると、艦橋から伸びている格納庫のシャッター脇の扉が開き、士官が俺に向かって走ってくる。

 アリスが連絡してくれたんだろう。直ぐに迎えに来てくれたみたいだ。


「リオ閣下でありますか!」

「リオで良いよ。ヴィオラ騎士団の騎士の1人だからね。新米貴族も良いところだから敬称は必要ない」


「はあ……。エルンスト少尉です。フェダーン妃殿下より、リオ殿をご案内するよう言いつかっております。どうぞ、こちらに」

「ありがとう。では、お願いする」


 若い士官は、貴族の出なんだろうな。俺より遥かに気品がある。

 彼の後について軽巡に入ると、狭い通路を通って会議室に案内された。


 少し狭く感じるのは軽巡だからだろう。でもヴィオラの会議室と比べれば少し大きい気がする。


「よく来てくれた。……エルンスト、そこに座って我等の話を聞くが良い。休暇が終われば、中尉として戦闘艦の航法士官として配属される。お前にも関わる話になるかもしれんぞ」


 俺の隣にいた士官が、フェダーン様の言葉に姿勢を正して騎士の礼を取る。

 思わぬ昇進の事前通知を受けた感じだ。

 有能そうな士官だから、将来が楽しみなんだろう。フェダーン様が畏まった士官に、笑みを浮かべている。


 俺達に席を勧めてくれたところで、小さなテーブル越しのソファーに腰を下ろす。少尉は少し離れた位置に、壁際から木製の椅子を持ってきて座った。

 会談は俺とフェダーン様であって、自分は聞くことが許されただけだと思っているのだろう。


「エルンスト、私の隣にも副官がいるのだ。そこではなく、リオ殿の隣に座るが良い。我等の話に疑問があるなら、いつでも質問を許すぞ。我等の承諾はいらぬ」


 少尉が席を立って俺の隣に座ったが、ちょっと緊張しているのが見て取れる。

 フェダーン様とは身分の差があり過ぎるからなんだろうけど、実家に戻ったら家族に自慢できるぐらいに思っていれば十分だと思うんだけどなぁ。俺もフェダーン様もあまり身分は気にしない方だからね。


 身分よりは、相手の能力を尊重する。

 君主制を否定しかねない考えだけど、表と裏を使い分けるだけの賢さがフェダーン様にはあるようだ。


「さて……、休暇の貴重な2日間を貰うことになるが、国王陛下との内々の会議、それとブラウ同盟軍の戦略会議の2つに出席して貰いたい。王宮で2日間暮らすことになるが、ヒルダが部屋を用意して待っていると伝えてきたぞ」

「それならエミーも同行させたかったですが既にフレイヤ達とヴィオラに乗船してしまいました。ところで2つの会議の議題は何なんでしょうか?」


「王族との会議は、北の回廊計画とサザーランドの異変について留意すべき事項の確認ということになる。ブラウ同盟軍の戦略会議は、次のハーネスト同盟軍の迎撃についてになる……。状況確認の為にサザーランド王国の異変を確認に出掛けた飛行船を、リオ殿が途中で引き返させたことに対する釈明を求めているようだ。リオ殿がもたらした状況は我等が知るのみだが、場合によっては彼等に見せる必要があるかもしれん。

 それと、飛行船によるハーネスト同盟軍の遠距離偵察をガルドス王国までに限っているが、これを更に伸ばすことが可能かを判断することも重要だ」


 確かに、急遽戻らせたんだよなぁ。

 だが、爆発の規模とフォールアウトによる被爆がどれほどになるかも分からないし、この世界には放射線量を測定する機材すらないんだからねぇ。

 そんな核物理学的な学問が全くない状態で、どのようにその恐ろしさを伝えるかが問題になりそうだ。


「失礼します!」と言って若い女性士官が俺達飲み物を配ってくれた。

 フェダーン様と隣の女性副官は紅茶のようだが、俺と少尉はマグカップに注がれたコーヒーだ。

 軽く頭を下げて感謝を示すと、砂糖を2杯注いでスプーンでかき混ぜる。


「明日の夜には王宮に到着する。翌日に迎えを出すからそれまでに上手く説明できるようお願いしたい。

 ここまでは、公式な依頼だ。これから先は私とリオ殿との話で合って一切の記録は残さない。2人も、そのつもりで聞くが良い。

 ……リオ殿は、リバイアサンの主砲を何時まで隠蔽するつもりなのだ?」


 窓が空いていることを確認して、バッグからタバコを取り出して火を点ける。

 じっとフェダーン様が俺を睨んでいるけど、少し心の整理が必要だ。


「ドラゴンブレスが主砲ではいけませんか? リバイアサンの技術を使ってカテリナさんがそれを越える大砲を考えているけれど、予想される砲弾の初速が高すぎて砲弾を開発する必要が別途生じていると……」

「砲弾が無ければ主砲にはならんか……。言いわけとしては通りそうだな。カテリナのことだから、軍の運用などは考えずに興味本位での設計になるということも相手が納得しやすかろう。着弾点を確認できない大砲など、軍人であれば利用価値を見出せぬからな」


 いつの間にかタバコを片手に持って、俺に笑みを向けている。

 おもしろい言いわけを考え付いたものだ、と思っているに違いない。


「失礼ですが、1つお聞かせください。着弾点の確認できない大砲などこの世にあるのでしょうか? 戦艦の主砲であるなら最大射程は20ケム(30km)ほどになるでしょう。ですが艦橋最上階の監視所からなら、炸裂カ所を視認できると思います」


 少尉の質問に小さく頷きながらフェダーン様が聞いている。聞く耳を持っていることを相手に知らせることは指揮官として見習いたいところだ。


「エルンストの問いに即答することはかなり難しいところがある。今から話すことはここだけの秘密、エルンストが将来同盟艦隊の指揮官になったとしても、誰にも公言することはまかりならぬ。……さて、リオ殿どう答える?」


 俺に振ってくるのか?

 正直が俺の取柄なんだけどなぁ。


「既にあるんだ。リバイアサンの中にね。本当の主砲なんだろうが俺もまだ見たことがない。巧妙に隠蔽された区画にあるらしく、その解除キーを俺の友人がパズル感覚で解いている最中だよ。

 その主砲なんだが……、射程に制限がないんだ。極端な話、リバイアサンの背中を撃つことも理論的にはできるんだけど、戦に使うとなれば射程は千ケム(1500km)以下で使うのが実際的だと思っている。

 それに、その主砲を使いたがらない理由は2つあるんだ。

 1つは、砲弾を用意できないこと。先ほど言った通りで、遠方に撃つためには弾速が早すぎるから砲弾が溶けてしまう。

 もう1つは……。フェダーン様、彼の将来を買っているようですが、彼は信頼できる人物なのでしょうか?」


「戦闘艦で1年ほど実地を学ばせたところで、私の副官にするつもりだ。父親は実直な軍人、家系的にも問題ない人物だと私が保証しよう」


「リバイアサンに用意されている砲弾の威力があまりにも高すぎる。1発で王都を俳人にできる代物なんだ」


 少尉の顏が音がするように俺に向いた。目を見開いているぐらいだから、言葉をそのまま信じてくれたんだろう。


「ハーネスト同盟のサザーランド王国で起こったこと。あれを引き起こせる砲弾だ。かつての帝国が滅びたのも頷ける。そんな代物を互いに撃ち合ったんだろうからね」

「それで秘密にするということですか……。でも、それを相手に示せば戦は起こらないと思うのですが……」


 互いに同じものを持つことで、均衡を保つということか。

 疑心暗鬼で合っても、攻撃すれば同じように報復されると分かっているなら、それも可能に思える。

 だけど、万が一誤作動や、狂気に駆られた人物が使わないとも限らない。

 そうなったら、互いが撃ち合うことになってしまいそうだ。


「偶発事故で世界が滅びかねない。せっかく帝国の崩壊から立ち上がてここまで来たんだ。ここで歴史を閉じたくはないだろう?」

「でもリバイアサンにはあるんですよね?」


「ああ、その措置に困っているんだ。下手に解体しようものならサザーランドの二の舞だし、埋めたとしてもハーネスト同盟軍のように将来発掘するかもしれないからね」

「砲弾はリオ殿に任せよう。リオ殿の話で納得させることになるであろうが、カテリナが絡んでいるなら、上手く誤魔化せそうだ」


 砲弾の恐ろしさを、サザーランドで撮影した映像を見せて説明してあげたのだが、その惨状に言葉も出ないようだ。


「本当の恐ろしさは、この爆発ではないんだ。この爆発で亡くなった人間が幸せに思えるほどの苦しみを、周辺の住民は味わうことになる。

 良いか……、それは死ぬまで続くんだ。決して治ることはない、生きながら体が溶けていく苦しみを味わうんだぞ」


 口をポカンと開けたまま、小さく頷いている。

 少尉があの砲弾を欲しがることは無いだろう。それはこの世界の人類の破滅への陣太鼓の轟きに他ならない。

 同盟軍同士の争いなら人類が幕を閉じることはないが、砲弾を民衆に落とすような愚を行うなら、互いに滅亡への坂を転げ落ちるに違いない。

 ハーネスト同盟軍にその傾向があるから、ブラウ同盟軍がそれに呼応しないように注意する必要がありそうだけどね。


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