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M-267 魔石融合弾の恐ろしさ


「リオ殿が恐れていたことが起こったということか?」


 俺がソファーに腰を下ろすのを待っていたように、フェダーン様が問い掛けてきた。

 俺の隣に腰を落ち着けたカテリナさんも興味深々に俺に顏を向けている。


「原理は俺にも理解できませんが、ある物理現象を引き起こす爆弾と非常に類似した爆発だと推察しています。

 爆発で即死した人達には気の毒ですが、爆心地周辺で被害を受けた人達に比べ遥かに不幸の度合いが少なかったはずです。

 少なくとも、自らの死を知らずにこの世を去ったはずです。

 不幸な人達は、その爆発で生き残った人達です。長く苦しみ抜いて死を迎えることになるでしょう。

 皮膚を剥され、内臓を徐々に侵されて死んでゆくことになります。少なくとも薬では直せないでしょう。魔法による治療がどこまで可能なのかも分かりません。

 既に人間を形作る仕組みを破壊されているのです。それを修復する魔法が果たしてあるのかどうか……」


 2人に爆心地周辺の空撮画像を見せる。

 息を飲んで画像に魅入っていた2人だが、1つの画像に違和感を覚えたようだ。


「この影は何だ? 付近に影を作るものがまるで見当たらぬが」

「爆心地の逆に影が残っているんです。爆発時の高熱で、そこに立っていた人が蒸発したようです。その影はその場にいた人間の影なんです」


 驚いた顔を俺に向ける。

 そんな兵器があるとは信じられないんだろうな。

 

「画像をよく見ると、鉄や建の石が融けている部分も分かるはずです。魔法でもこれほどの高温を作ることはできないでしょう。爆発時の温度は太陽と同じ温度になっていたはずです」


「太陽は温かいだけであろうに。このように人間を瞬時に蒸発するような温度には思えぬが?」

「太陽とこの場所の距離がけた違いに遠いので、穏やかに思えるだけです。この惑星の直径のおよそ1500万倍先に太陽は輝いています。それが、1ケム程度で起こるのですから」


 最後に王都周辺の空撮画像に、線量率の測定結果を等高線で描いた画像を映し出した。


「この赤く色付いたカ所にいた人達は、老若男女問わずに死が訪れるまで拷問の日々を過ごすことになるでしょう。

 黄色の部分については、10年以内に内蔵不全で10人中数人が亡くなるはずです。

 緑色の部分は、場合によっては体調不良が現れそうです。ですが子を設けることは困難になるはずです……」


 赤の範囲が広いことに目を見開いている。


「少なくとも10万人はいたはずだ。今生きているなら、養生すれば治るのではないのか?」

「体を形作る元、アリスはDNAと呼んでいましたが、その構造体を自ら複製することで俺達は新陳代謝という老廃物を排除しています。

 本来なら同じDNAを複製しなければならない時に、そのDNAが破壊されたらどうなりますか?

 複製が出来ずに、体が溶け出していくんです」


「皮膚を剥ぐ拷問か……。早く気を失って欲しいところだな」

「そんな爆発って、起こせるのかしら? 爆発というか、瞬時に大きな力を放出すると言ったら、魔法の暴走に近いものともみなせるわね。

 記録に残る魔法の暴走事故でも王都の1区画が破壊される程度だし、力場の暴走に近いから熱はそれほど伴わないと聞いたんだけど……」


 相変わらず頭が切れるな。

 早めに教えてあげた方が良さそうだ。


「リバイアサンの動力炉が暴走したなら、類似の事故になる可能性がありますよ。魔石融合はゆっくりした動きで行うだけで、リバイアサンを動かせるんです。それを1っ旬で行えば、あのような事態になります。たぶん、あの爆発は瞬きする間もないほどの短時間で起こったはずです」

「待て……。リバイアサンが、あの爆発を起こしたものと同じ仕組みを動力にしているなら、兵器もそれを応用したものを備えているのではないか?

 ドラゴンブレスが主砲だと思っていたが、ドラゴブレスを越える主砲が別にあると考えられるのだが」


 そうなるよなぁ……、2人とも疑いの眼で俺を見ている。

 ここは正直に話しておいた方が良いのかもしれない。少なくともフェダーン様達には利用できないだろうし、いまだに主砲であるリニアレールガンの収められているフロアはリバイアサンの3D機器配置図にも描かれてはいない。

 それに入る扉すら分からないはずだ。巧妙に壁と一体化しているし、その開錠キーの解析をアリスが楽しんでいるぐらいだからね。


「たぶん同規模の爆発を起こす砲弾を、リバイアサンは20発ほど保有しているようです。砲弾の有効射程距離はおよそ1千ケム(1500km)と仕様にありましたが、これは王宮に提出した仕様書には記載しておりません。悪戯に使うことが無いよう、封印しております」

「あるということか……。リオ殿が元気な内であればそれで良かろうが、何時かは誰かが使うことにならないか?」


「処分方法を模索しているところです。主砲はまだしも砲弾の方は物騒ですからね。それに代替できる砲弾も現在はありません。砲弾の設計から始めないと、撃ち出した瞬間に炸薬が炸裂してしまうでしょう」


 秒速数kmで飛び出す弾丸の圧縮熱から炸薬の誘爆を防ぐ方法が無ければ意味がない代物だ。

 融合弾の弾殻の仕様を調べて、再設計し直さないと使えないだろうな。


「帝国が滅びたのは必然だったのかもしれないわね。そんな恐ろしい兵器を互いに撃ち合ったということでしょう?」

「たぶん……。それだけでは無かったかもしれません。化学兵器と呼ばれる毒ガス弾。病原菌を振りまく細菌弾も使われたでしょう。

 そんな兵器が使われた環境下で生き残った人々が今の我々の先祖になるんだと思います」


 運が良かっただけではないのかもしれない。

 獣人族と言われる人達が生まれたきっかけにもなっていそうだ。色々な治療や、人間の兵器化の過程で生まれたに違いない。

 進化の系統から生まれるのは考えにくいからね。

 この世界に生物学がない以上、進化の系統樹がどうなっているか分からないが、獣人族はどう考えても生まれるわけがない。

 とはいえ、今ではこの世界に溶け込んで生活している。

 俺だけが奇異に思っているだけで、この世界の人達からすれば当たり前のことなんだろう。


「ブラウ同盟として対策、いや外交的なアドバイスが欲しいところだが……」

「状況確認の為に医師団を派遣することは意味がないでしょう。既にサイは投げられました。治療方法はないんです。俺達を形作る本質が破壊されています。できることがあるとすれば苦しみを和らげる薬を与えるぐらいでしょうね。治ることがありませんからどれだけ与えても問題は無いと思います。

 外交的な問題としては、あの惨劇を起こした物体をこちらに撃つという恫喝を行ってくる可能性が場合によってはあると思われます。

 その時は、相手の王都にドラゴンブレスを撃つぐらいのことをしても、問題はないでしょう。魔石融合弾と比べれば何万倍も穏やかな措置です」


「ふむ……。恫喝には、攻撃で対処するのか。相手は持っていなくともだな?」

「匂わせるだけでも、ドラゴンブレスを使う事で対処したいと思っています。その惨劇の恐ろしさを知るなら軽々しく口に出して良いものではありません。

 まして外交交渉に使うなどとんでもないこと。2度とそのような事を言わせないためにもしっかりと教育をしなければならないでしょう」


「そこまでするの? 相手が驚くんじゃないかしら」

「恫喝するなら、その対価を支払わせるのが騎士団ではないですか? ブラウ同盟に対してそのような事をしたなら、ドミニクが反対しても俺はやりますよ。

 魔石融合弾を政争の道具に使おうなんてとんでもないことだと、思い知らせる必要がありますからね。そうでもしないとサーゼントス王国で、現在地獄の責め苦にあえいでいる人達が浮かばれません。

 彼等を助けることができないのなら、2度とそのような責め苦を負わせないことが施政者の務めだと思うのですが……」


 帝国の遺産は玩具ではない。いたずらに使うなど許されないことだ。

 カテリナさんにも似たところがあるから、注意しておく必要があるだろう。

 もっとも何かあれば直ぐに分かるし、面白半分に分解することはないはずだ。

 今回のような大規模災害には至らずとも、実験室を破壊するぐらいの事故は過去に何度もあったに違いない。

 カテリナさんや導師は案外注意深いからね。過去の事例を色々と知ってるんだろうな。


「基本は静観で良いな。ハーネスト同盟からの援助依頼は来ぬだろう。相手が恫喝に出たなら即時、攻撃を行えば良い。これはリオ殿に頼むことになりそうだが、外交の席に同席させても良さそうに思えるな」


「辺境伯なら、その資格はあるんじゃない? 国境を接しているんだもの、ある意味当然よね」

「騎士団優先に願います。なんだか騎士団の騎士であることを忘れそうになっていますので」


 俺の言葉に、2人が苦笑いをしているんだから困ったものだ。

 だけどあの爆発なら、ハーネスト同盟の探査計画は終わりになると思っていたんだけどなぁ。

 まだ2つの艦隊が任務を継続中だ。

 やはり起死回生の何かを探しているに違いない。


「さて、おおよその話は分かった。王宮へ連絡しておこう。手だし無用、外交の使者が現れたなら、リオ殿が向かう……。それで良いな?」

「あの爆発をほのめかしたなら……、ですよ。通常の外交が俺にできるとは思えません」


「良かろう。それが出来れば王宮で宰相を任せても良いのだがなぁ」


 笑みを浮かべているところを見ると、よからぬことを焚く連でいるように思えて仕方がない。

 フェダーン様が席を立って、リビングを去っていくのを見て、思わず胸をなでおろす。

 交渉で勝てる相手では無いからね。

 言葉質を取られないように、注意しておかないといけない相手だ。


「それで、本当のところはどうなの?」

「俺に裏表はありませんよ。反応弾があることは間違いありません。それを発射する大砲も存在します。

 ですが反応弾の発射に特化した大砲ですから、通常弾が撃てないんです」


 もったいない……。カテリナさんの顔に書いてあるようだ。

 これで諦めてくれれば良いんだけど、カテリナさんだからなぁ……。


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