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M-266 とんでもない知らせ


 隠匿空間を出発して20日目。

 星の海で狩りを終えたリバイアサンは南南東に回頭してウエリントン王国のブラウ同盟軍駐屯地へと向かう。


 魔石は数回の狩りで400個を超えている。

 獣機での魔石狩りも、だいぶ良くなってきた。離着陸台で万が一の為に待機していたんだが、出撃するようなことにはならなかった。

 これで狩りはしばらく出来そうにもない。工事中に魔獣が近づいてくれることを祈るばかりだ。


「休暇は別荘で暮らすの?」

「漁村と開拓団が気になります。上空から見ただけでは分かりませんから」


 俺の言葉に、フェダーン様とカテリナさんが感心した視線を向けてくる。

 普通はそんなことをしないんだろうか?


「他の貴族は代官任せだ。少しはリオ殿を見習って欲しいものだな」

「緊急の場合は直ぐに王宮へ駆けつけるというのが理由でしょう? 彼等が集まれば結論が先になるだけよ」


「1度試してみるか。果たして何人が集まるか見ものだな」

「試すのも1つの方法ですが、あまり行うと誰も来なくなりませんか?」


 苦笑いを浮かべているから、やりたいってことなんだろうな。

 俺もその中に入るんだろうか?

 確認して見ると、辺境伯は辺境の守備が優先されるらしい。その時に自分の領地で敵の迎撃が可能な体制であれば、問題が無いと教えてくれた。


「リオ君の場合は、アリスで領地に向かえば良いの。たぶん一番早く迎撃態勢が取れるんじゃなくて?」

「艦隊相手となると時間が掛かりますよ。それに俺達で殲滅したら同盟軍の矜持を保てなくなるんじゃないですか?」


「それが分かれば問題あるまい。万が一の場合は、侵略時間を遅延するように動いて欲しいところだ。殲滅は同盟軍の助力ということになるだろうな。

 面倒な事ではあるが、よろしく頼むぞ」


 同盟軍が参加している状態であれば、同盟軍としての矜持も立つということなんだろう。

 やり辛いけど、色々と貰っているからなぁ。頷くしかなさそうだ。


「ローザ達も、近宙に隠匿空間を出発するに違いない。リオ殿の別荘までは王宮のクルーザーで向わせよう。10日程だがのんびりできるだろう」

「大勢なら楽しそうですね。了解です」


「私も途中まで同行するわ。アリスの設計でロケット弾の組み立てをするの」

「ほう! そこまでできているのか? 私も見たいものだが……」


「後で映像を送るわ。そっちも王宮の方が大変でしょうに?」

「何時ものことだ。全く貴族の連中は困ったものだな。まあ、我等にも関わることだ。少しは援護してやらねばなるまい」


 政争って奴かな?

 俺には関わらないから、結果だけを教えて貰えば問題なさそうだ。

 予算に分捕り合い辺りだと思うけど、貴族って分捕った予算を何に使うんだろう?

 ちゃんと民衆に還元するようにすれば、不満も出ないんだろうが……。


「確認ですが、西の最初の砦の建設は予定通りに始めるんですよね?」

「その点は心配ない。そうだ! ブリアント騎士団から、連絡員をリバイアサンに乗船できないかと打診を受けた。数名なら可能か?」


「ドミニクとエミーの判断で良いと思います。士官室に余裕がありますから、俺としては問題ないかと」

「了解だ。後ほど確認しておく。やはり当初より関わりようだな。他の砦の前例となるかもしれん。まあ、12騎士団であればリバイアサンの迷惑になることは無いだろう」


 迷惑を受けたなら、即追い出せば良い。

 それぐらいのことは向こうも知っているだろう。

 かりにもヴィオラ騎士団の旗艦という位置づけだからね。エミーが元王女であることも、相手は知っているだろう。

 さて、どんな人物がやってくるんだろう?

 兵站を受け持つ人物だと助かるんだけどね。

               ・

               ・

               ・

 魔獣が確認できた島を見付けても、狩りをすることはない。

 ブラウ同盟の駐屯地まで3日の距離に近付いた。明日にはヴィオラ艦隊を見ることができるだろう。

 既に軍の兵員輸送艦と商会ギルドの用意した貨客船が、駐屯地で待機しているらしい。

 到着した翌日には王都の陸港に向けて出発できるに違いない。

 

 漁村と開拓団を訪問したら、アレク達と魚釣りを楽しもうか。

 それとも、島尾入り江で子供達と泳ぐのも面白そうだな……。


 休暇をどうやって過ごそうかと考えながら、コーヒーを飲んでいる時だった。

 誰かが、駆け足でここに近付いてくる。

 走るような理由に思い当たらないんだが……。

 そう思っても、顔をその足音に向けてしまうのは仕方のないことだ。


 やって来たのはフェダーン様だった。

 厳しい表情でテーブル越しのソファーにドサリと腰を下ろす。

 クーデターでも起きたのか?


「リオ殿……。サーゼントス王都が壊滅したらしい」

「ウエルバンとガルトスの両王国が内戦を収めたと聞きました。テロ活動の動きを阻止できなかったということでしょうか?」


「いや、そうではない。文字通り壊滅……、王宮よりやや東に直径1ケムほどのクレーターが出来ているそうだ。テロ活動でそれほど巨大な炸裂穴ができるわけがない。至急調査して貰えぬか」

「行ってきましょう。まさかとは思いますが飛行船を調査委向かわせておりませんよね?」


「長期偵察が可能な飛行船を送っているそうだ。何か問題があるのか?」

「至急呼び戻してください。理由は、調査から帰った後で説明します!」


 今度は俺が走る番だった。

 プライベート区画のエントランス広場でアリスに回収して貰い、エミーの連絡して、離着陸台を展開して貰う。

 離着陸台に歩き出したアリスのコクピットで、フェダーン様から聞いた話をアリスに伝える。


「空間振動を検知しました。やはり爆発でしたか」

「それで思いついたんだが、ハーネスト同盟軍が引き上げた品は。ひょっとしてミサイルだったんじゃないか? しかも核弾頭付きの」


「帝国時代の科学には原子力が存在しませんし、5千年の時が流れていたなら核爆弾の超ウラン元素が崩壊してしまいます。

 ですが、魔石であれば……」

「リバイアサンの動力は、魔石の融合だった。それに融合弾も見付けてはいるんだろう?」


「はい。直ぐに使用することも可能ですが、使いたくはありません」

「それで良いよ。あれは禁じ手だ。再び文明が崩壊しかねない」


 アリスの話では20発ほど砲弾の形態で保管されているらしい。

 廃棄するのも、後々の事を考えると出来ないんだよなぁ。


「ところで、放射線量の高い場所でもアリスは接近できるのかい?」

「問題ありません。重力場で放射線そのものを偏向させることが可能です」


 接近できそうだな。

 どれぐらいの被害が出たのか詳細を確認しなければなるまい。

 

 ハーネスト同盟艦隊と一戦を交えた交戦跡に亜空間移動を行って、そこからは上空1万mを音速の3倍で飛行する。

 時速3千kmを遥かに超える速度だ。1時間も掛からずにサーゼントス王国が眼下に広がってきた。


『速度を時速500kmに落として、高度を3千mに下げます。方位35度に艦隊を確認。巡洋艦2隻に駆逐艦が6隻です』

「ハーネスト同盟の調査艦隊ということかな? 進行方向はやはり王都かもしれないね」


『艦隊の航跡を確認しました。風の海からサーゼントス王国の王都に真っ直ぐに向かっています。到達予想時刻は明日未明。私達が先行することになります』


 一足早いってことかな?

 それでも、サーゼントス王国内には治安維持を図る艦隊がいくつかあっただろう。

 その動きも問題だな。

 俺達に敵対しないとも限らない。


『空間線量率増大しています。現在10mシーベルト。まだ爆心地は目視出来ません』


 やはり魔石を使った融合弾を弾頭に持ったミサイル、ということになるんだろうな。

 地上を眺めていると、街道には王都から離れようとする車列が繋がっている。

 今は元気でもこの先は分からない。


『前方に王都が見えます。爆心地はあれですね……』

「上空から、撮影してくれないか。爆心地から東西南北の4方向で良いだろう。直接の影響範囲を先ずは知りたいところだ」


『了解しました。合わせて線量マップの作製を行います』


 速度を更に落として地上の状況を撮影する。

 さらに高度を落として再度撮影すると共に空間線量率を測定した。

 これで、地上の線量率を推定できるらしい。その値は爆心地で50シーベルトを越えるものだった。

 直径1ケムのクレーターの端でさえ10シーベルト程度だから、地表はかなり汚染していることになりそうだな。


 王宮は残骸だけが残っておる。

 まだ煙を上げている森を越えて、西に広がる市街地を調査する。

 爆心地から5kmほど離れても、建物はかなり倒壊している。火事も発生したようだが、暮らしていた人達は最初の衝撃波で亡くなったに違いない。

 さらに西に向かうと、力なく歩く人達が見えた。

 焼け出された人達なのだろうが、衣服が真黒だ。

 歩きながら、突然その場に倒れてしまう。やはり、かなりの被ばくを受けたに違いない。


 そんな民衆の救援はどうなっているんだろう?

 爆心地より100km程離れて上空から偵察を行っていると、郊外の貴族舘に民衆が集まっているようだ。

 だが館を取り巻く城壁の門を固く閉じて、民衆の救済は行うどころか、発砲している館もあった。


 これは……。

 末期もいいところだな。サーゼントスは無法地帯になってしまいかねない。


『対応しようがありませんね……』

「そうだな。かつての帝国なら放射線医学もあったんだろうが、現在は全くない。生き残った人達の介護を重ねながら、放射線の恐ろしさを知ることになるんだろうね。時間だけが唯一の解決手段になるんじゃないかな」


『組成分析を行いました。金属の同位体が主流を示しています。核爆弾よりも影響が長引きそうです。爆心地への立ち入りが可能になるまでには数百年ほどかかると推測します』


 核分裂生成物ではなく、魔石融合に伴う強力な粒子線が周囲の物質を放射化したってことか?

 アリスの分析結果を見ると、水まで重水に変わっているようだ。

 王都が死人の住まう都市として伝説の中に埋もれそうだな。


「帰ろうか。アリスの除染は必要になるのかい?」

『防護は完璧です。このままリバイアサンに戻ることも可能でしょうが、カテリナ様達がおりますから、星の海で体を洗ってからの方が説明は容易かと』


 アリバイ作りってことか?

 まあ、綺麗に洗い流してきたと言った方が、説明し易いし、納得してくれそうだな。

 

 リバイアサンの視認距離から少し離れた場所で何度か湖水にアリスがダイブする。

 飛行速度を押さえているから、生乾きの状態でリバイアサンの離着陸台に降下して駐機場を歩いて駐機台に納まった。

 ベルッド爺さんが、アリスの足跡に驚いているから、途中でアリスを洗って来たと説明すると直ぐに数人のドワーフを集めて再度アリスを丁寧に洗い始めた。

 アリスをいつも磨いているからなぁ。生乾きのアリスを見た時には、俺に拳を上げながら説明を迫ってきたぐらいだ。

 それだけアリスに思い入れがあるんだろう。ありがたいと思いながらベルッド爺さん達に頭を下げる。


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