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M-263 子供達の訓練と指導


 夕食が終わり、リビングからだんだん人が少なくなる。

 ソファーでワインを飲んでいるのは、フェダーン様とカテリナさん、それに俺の3人になってしまった。

 ドミニク達は別のテーブルでカードゲームに興じている。


「何か話したいことがありそうだな?」

「分かりますか? 今日、領地の状況を見てきたのですが……」


 プロジェクターを使って、ハーネスト同盟艦隊の引き上げ作業を見せると、2人の表情がこわばった。


「見付けたということか! しかも引き上げに取り掛かっているとは……」

「リオ君のことだからもっと詳しく見てきたんでしょう? 何を引き上げようとしているのかしら?」


「これが、その画像なんです。水中、しかも濁りがあるので音波で捕らえた画像になるのですが、それ程大きなものではありません」

「兵器と異なる可能性もあるのか?」


『たぶん兵器で間違いないと推測していますが、画像が鮮明でないため詳細は不明です』


 2人が考え込んでいる。

 とりあえずタバコに火を点けて、2人の考えがまとまるのを待とう。


「さすがに、こちらから奪回するのは問題であろう。かといって、このままと言うのも考えものだな」

「引き上げても、動かせるとは限らないんでしょう?」


『とことん分解するのではないでしょうか? 原理が分からなくとも部分的に動かすことは可能だと推測します』

「持ち帰り、王都の工廟もしくは学府というところか……。直ぐには役立たぬとなれば、放置することになりそうだが、王宮には知らせておいた方が良さそうだ」


「でもこれが兵器なの? タダの筒にしか見えないわね」

「案外、巨大砲の砲身かもしれぬな。それとも砲弾かもしれぬ」


 直径1m近い代物だぞ! 全長は不明だが、分かっている長さだけで10m近い代物だ。砲身という可能性はありそうだが、砲弾と言うことは無いだろう。


「やはり定期的に様子を見て欲しい。今回は余り役立たぬようにも思えるが、我等も引き上げておるからな」

「中々おもしろいわよ。ガネーシャ達が応用を手掛け始めたわ」


 ロボットの応用って、何があるんだろう?

 アリスに偵察して貰おう。リバイアサンで惨事が起こったら困るからね。


「忘れてました。島の宿泊施設に、開拓団の住居建設を確認してきました。ありがとうございます」

「良い良い。工兵の訓練だからな。その代わり、偵察の方はよろしく頼むぞ」


 俺達の方に利があり過ぎる気もするけど、それぐらいなら容易いことだ。3日に1度ぐらいで十分だろう。


 隠匿空間に戻って5日目。休暇が半分終わってしまった。

 何もしないで休んでいると言われても、退屈なだけだから午後は軍の駐屯地に出掛けてローザ達の様子を見ることにした。

 数体の戦姫がぎごちなく動いている。指を1本動かせるだけだったのが、ここまで動かせるとはなぁ……。

 改めてカテリナさんが偉大であることに感心してしまった。


「かなり動けるようになったでしょう? こちらでお茶でもどうですか」


 広場の片隅で様子を見ていた俺に気が付いたんだろう。リンダが声を掛けてくれた。

 リンダが指差す方向にはテーブルセットを持ち出して数人が戦姫の動きをジッと見ている。


「彼等は?」

「あの子達の護衛なんです。立場は私と一緒ですよ」

 道理で、戦姫の動きを見ているわけだな。

 お邪魔して、コーヒーをご馳走になろう。


「リンダ様、この方は?」

「この隠匿空間の発見者、リオ辺境伯です」


 リンダの言葉に、全員が席を立って俺に騎士の礼を取る。慌てて返礼したから、その素振りがおかしいのかリンダが笑いを堪えているんだよなぁ。


「称号は国王陛下の御厚意でしょうから、ヴィオラ騎士団の騎士リオとして接して頂ければ十分です」


 全員が腰を下ろしたところで、簡単に立場を説明する。

 リンダが笑っているから、安心したのだろう。騎士達が問い掛けてくる。


「リオ殿は戦姫を動かせるとローザ様にお聞きしたのですが、本当なのでしょうか?」

「動かせる。だけどローザや、彼等が動かしている戦姫は無理だと思うし、ましてや戦機を動かすことはできないんだ。唯一、アリスという戦姫なら自由に動かせるんだけどね」


 ちょっと驚いているな。戦機を動かせない騎士がここにいるんだからね。


「ローザ様を、あそこまで指導してくれたのがリオ様なんです。ローザ様でさえ兄様に勝てる気がせぬといつも言ってますから」

「ローザ様以上の機動ができるのですか?」


 苦笑いで頷くことになってしまった。士官が運んでくれたコーヒーを頂き、彼等の問いに答えながら一服を楽しむ。


「騎士団と傭兵団の争いの調停をローザは見事にやってのけている。それだけ戦姫の戦闘力は高いということを彼等教えてやってほしい。

 動きや、魔獣狩りならローザが教えてくれるだろうが、戦姫は1体だけでも艦隊を葬ることができる。彼等に人間性を持たせるのが君達の役目だと思うよ」


「兄、姉の役目をこなせと言うことでしょうか?」

「そうなるのかな……。うん、それで良いと思う。もし、人民の敵になってしまう時があれば、迷わずに俺に言ってくれ。たぶん俺なら停められるはずだ」


「破壊すると?」

「その場で判断したいところだな」


 破壊をしないで済むように、アリスと方法を考えることになると思うけどね。

 そうならないように、人間性を鍛えて欲しい。

 戦姫付きの騎士となれば国内での地位はかなり高くなるはずだ。それに慢心するようでは直ぐに更迭されるだろう。彼等の日常は常に監視されているに違いない。


「隠匿空間の外で、巨大なジグラットを見ましたが、あれが動くとは……」

「陸上艦並の機動ができるよ。千人近く乗り込んでるんだけど、口径4セムの連装砲塔が1つの面だけで18基だ。艦隊並みの砲撃力があるし、あの巨体だからねぇ。砂の海でもあの中なら安全だ」


「リオ様の屋敷はあの中にあるんです。ヴィオラ騎士団区画のログハウスは別荘的な扱いのようです」

「休暇中は、農園や同僚の別荘で暮らしてるよ。名ばかりの貴族の辛いところだね。

 ところで、何時もならローザが俺達と砂の海の監視を行うんだが、さすがに今度は連れて行けまい。

 次の休暇は一緒に過ごさないか?

 南の島で10日間ぐらいのんびりしても良いように思うんだけどねぇ」


「子供達次第ということでしょうけど……。これ以上に機動が上がるんでしょうか?」

「まだカテリナさんの措置は終わってないんじゃないのか? ここまで動けるようになったんだ。更に向上すると思うな」


 騎士達の表情が俺の言葉を聞いて急に明るくなった。更に向上するとの言葉が一番聞きたかったんだろうな。

 リンダにコーヒーの礼を言って、その場を後にする。ローザの訓練は、まだまだ続きそうだ。


 別荘に帰ってくると、フェダーン様とカテリナさんがソファーで寛いでいる。どちらも息抜きと言うことなんだろう。

 俺が帰ってきたことを知って、カテリナさんが手招きしているのは丁度良い話相手を見つけたという感じがするな。

 詳細設計は既にカテリナさんとフェダーン様に渡していあるはずだから、俺の宿題は通信局に関するものだけだったはずだ。


「この時間に珍しいですね。軍の区画にお邪魔してローザ達の様子を見てきましたが、だいぶ動けるようになっている様で安心しました」

「カテリナの施術は明日が最後になるそうだ。カテリナは問題ないと言っておるが、更に機動がなくては動く砲台となってしまうであろう」


「ローザに近いまでに、行くのではないかと思っています。俺としては西の砦の防衛はかなり容易になると、安心して帰ってきましたよ」

「リオ殿がそう言ってくれると、少しは安心できる。他国からは状況報告の督促が毎日のようにやってきておる」


「場合によっては見学をさせてはどうでしょうか? 1度見れば安心できるかと思ってます」

「それは、悪くない考えだな。王宮に連絡をしてみよう。……リオ殿にも伝えておこう。本日、北の回廊計画に関わるヴィオラ騎士団とウエリントン王国との契約が調印された。

 工事開始は40日後、資材の運搬を風の海の駐屯地からお願いすることになる。

 詳細は、これを読んでほしい」


 数枚だから契約書の概要版のようだ。

 後で皆で読んでみよう。契約書は分かりずらいから、複雑な契約については概要版が作られるらしい。最初から概要版で契約すれば便利になりそうだけど、それを作るのを仕事にしている人もいるらしいからね。

 急に廃止することが出来ないということだろう。


「いよいよ動き出すわね。ハーネスト同盟軍の妨害も無いでしょうから、案外出来上がるのは早いかもしれないわよ」

「出来れば小型の飛行船も周辺監視用に欲しいところですね。導師にお願いして頂けませんか?」


 俺の言葉にフェダーン様が笑みを浮かべている。


「指示を出している。砦ができる度に1隻ずつ増やすつもりだ。もっとも当座はハーネスト同盟を偵察していた1隻をこちらに移動するつもりだ。ハーネスト同盟軍の偵察は爆撃用を使用して、3王国を偵察する予定だ。

 爆撃用は大型だからな。爆弾装荷のゴンドラを撤去して、長距離偵察用のゴンドラを使うと聞いている」


 居住性を良くしたんだろう。10日ぐらいの偵察を考えたんだろうな。何かあれば魔石通信機が使えるから、しばらくはハーネスト同盟国へ俺達が出掛けることもなさそうだ。


 次の航海が終わったら、王都に向かうことになるんだろう。

 休暇の日数が、軍の駐屯地からの建設資材運搬と同時期になることは間違いなさそうだ。ブリアント騎士団は同行するのだろうか?

 建設後の運営管理を任させる以上、早期に建設に関わる必要もありそうだ。

 少なくとも10人程度は同行することになるんじゃないかな。騎士団全員が向かうとなれば魔石を得る油断が無くなってしまうだろう。

 さすがに王国としても、それだけの対価を払えるとは思えない。

 俺達は建設現場に近付く魔獣を狩ることで、少しは魔石が得られるかもしれない。

 どんな奴らが来るのか、次の偵察でその辺りを確認しておいた方が良さそうだな。


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