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M-262 調査艦隊が何か見付けたようだ


 先ずは頂いた俺達の島だ。

 島に近付いたところで高度を下げて様子を見ることにした。

 別荘の前の桟橋には小さな船が繋いである。あれがアレクが買い込んだ船ってことだな。かなり小さいけれど数kmの海を渡るだけだからね。

 荒れた海で釣りをしなければ問題は無さそうだ。

 島の南岸には2階建てのログハウスが2つあった。何となくアパートにも見えなくはないが、あれが騎士団の宿泊所になるんだろう。少し離れて2つの小さなログハウスが並んでいる。

 アレク達が作って貰った別荘ってことかな?

 別荘を2つ持つ騎士は、12騎士団の中にもあまりいないだろう。


「問題は無さそうだな?」

『畑までありますね。管理人が育てているのでしょうか?』


 2家族を雇ったと聞いたから、案外自給自足を楽しんでいるのかもしれない。

 魔獣も来ないだろうし、ハーネスト同盟艦隊にしても、こんな小さな島を確保しようなんて思わないはずだ。

 寂しい場所だけど、安全は確保されている気がするな。


「次は漁村の方だ。少しはマシになってると良いんだけどね」

『上空から出良いのですか?』


「会ってみたい気もするが、いきなり下りたら驚くだろうからね。今回は上空からの様子見で十分だよ」


 今にも波にさらわれそうだった桟橋が撤去され、石造りの桟橋に変わっていた。

 2つあれば十分だろう。護岸も石で補強されているから、岸壁に直接船を横付けできそうだ。10隻以上に増えても問題はあるまい。

 村の方は。相変わらずのログハウスだが、2階建ての立派な建物が海辺のすぐそばに建てられていた。

 どちらかが村役場で、もう片方は保冷庫と市場になるんだろう。

 村の通りにも人が歩いているのが見えるし、数軒のログハウスが建設中のようだ。


 村の北の畑も広がっており、野菜の緑がここからでも見える。

 少しはマシになったかな? 

 さて開拓団の方に行ってみるか……。


 開拓団の宿舎は道路で区画された東にあった。

 1辺が50mを越える畑がかなり作られているようだ。開拓中の一団を見付けたけど獣機を使って鋤を引き雑木の根を取り除いていた。

 別の一団も獣機で溝を掘っている。灌漑用水路か排水路と言うことになるんだろう。アレクの実家よりも設備が整っている感じだな。

 

『国境から30km先までは敵兵の姿はありません』

「まだ戦力が整っていないんだろうな。こっちが攻め込まないのを知っているから、監視兵すら配置していないのかもしれないね」


 少しは脅かしても良さそうなんだが、現在のブラウ同盟は防戦に徹しているようだ。

 攻めるには戦力を上げねばならないし、そうなると民衆の負担が増すことを知っているんだろう。

 良いことではあるんだが、隣国があの通りではなぁ。

 さて、防衛の要である訓練所に行ってみるか。


 訓練所の建物は、今までとは違ってかなり大きなものだった。

 本館はマクシミリアンさんの別邸となるのだろう。かなり凝った建物だ。

 大きな庭園を間に挟んで石作りの兵士の住居と、倉庫が並んでいる。

 東に向かう大きな道路は南北に延びる幹線に繋がっているのだろう。

 訓練所から西は30kmほどもある演習場だ。

 いくつか監視所を作ろうとしているのが見える。

 

『砲弾の弾痕があちこちにありますね。実弾射撃もここでなら問題なさそうです』

「ちょっと西に飛んでくれないか? さすがにこの辺りなら……」


『おりました。国境から西に20kmです。小隊規模で監視しているのでしょう』


 派手に実弾演習を行ったから、攻め込むつもりなのかと勘違いしたのだろう。

 1個小隊だとすれば、様子見と言うことかな?

 少し南北に移動してみたが、10kmほど北に分隊が東を監視していただけだった。


 まだ飛行機部隊は配置されていないようだな。

 飛行機と飛行船が到着すれば、この訓練所がブラウ同盟を監視する拠点として運用できそうだ。


「今度は星の海の調査艦隊だ。何も見付けてないと良いんだが」

『見つけても、直ぐに実戦には投入できないでしょう。とはいえ、気になりますね』


 高度を上げると、音速を越えた速度で北に向かう。

 

 風の海でハーネスト同盟艦隊を見付けたが、規模が小さいところを見ると哨戒任務と言うところだろう。

 それでも輸送船を改造した空母を伴っている。

 ハーネスト同盟軍の飛行機は、改造してあるとはいえ高度をあまり取れないから、俺達に気付くことはない。


 さらに北上して、星の海に出る。

 高度を500mまで下げて貰い、アリスの手の中で休憩を取る。

 水筒に入れて貰ったコーヒーはすっかり冷たくなったけど、美味しいことには変わりはないし、海と見紛う大きな湖を眺めながらの一服は格別だ。


『左50度付近に何かいるようです』

 

 アリスの知らせに顔を向けると、大きな影が水面下に見える。全長は30mを越えてるんじゃないか?


 突然水面を割って、長い首が延びてきた。ワニのような頭が先端に付いている。あの影が胴体だとすれば、80mを越える巨体だ。


「驚いたなぁ……。あんなのがたくさんいると思うと、星の海に船を浮かべるのは自殺行為そのものだね」

『前の調査船を破壊したのも同じ種類の魔獣でしょうか?』


「まだまだいろんな魔獣がいるんじゃないか? 水棲魔獣の楽園でもあるだろうからね」

『西の砦からその姿が見られれば良いのですけれど……』


 そんなことになったら、砦の集客が凄いことになりそうだな。

 見張り台を少高くするだけでも、岸に近い場所に生息する水棲魔獣が見られるかもしれない。

 西の砦の計画時にでも提案してみよう。


『見つけました。2つの艦隊が集合しているようです。何か見付けたのでしょうか?』


 十数隻の水陸艦艇が集結して円陣を作っている。

 その真ん中で輸送船らしき船体がクレーを使って何かを引き上げようとしているようだ。

 

「何かを見付けたということかな?」

『ここからでは、水中の状況を確認できません。水中を進んで近付いてみますか?』


「可能なのか? できるならそうしたいが……」

『数km離れた場所で、水中にダイブします。水深はそれほど深くはないでしょうから、直ぐに三区表に向かって移動します。

 機動は私が行いますから、しっかりとシートに体を押し付けてください』


 突然空中に放り出されたような錯覚に陥る。

 垂直落下なんだろうけど、加速しなくても良いように思えるんだよなぁ。

 直ぐに加速度が中和されたけど、あまり味わいたくない感覚だ。


 水面に落ちても水柱はほとんど上がらない。スポッと入り込んだ感じだ。直ぐに横に移動を始めたらしいけど、座席が移動し始めた。このじょうたいなら、アリスの頭部を見ていることになるんじゃないかな。


『全周囲の音の反響を処理して表示しています。色調が赤になるほど強い反響になります』

「大型の生物はいないようだね。周囲を囲んだ軍艦が発砲した跡なんだろうか?」


『下部に巨大な巻貝がおります。素早く動ける種は退散したと推測します』


 あれか? ぼんやりした姿だが、三角が嫌にはっきりとしている。あれが背負っている貝なのだろう。

 あれだけでかいと、草食ではなさそうだ。雑食、あるいは肉食かもしれないな。

しばらく進むと、上部に赤き表示がいくつも見えてきた。

 たぶん、輸送船を取り囲んでいる艦船なのだろう。

 引き上げ現場はもうすぐだな。


 前方に4本の線が見える。たぶんクレーンのワイヤーになるのだろう。

 その先を見下ろすと、円筒のような物が横たわっている。


「何だろう? 円筒のようだが、あのヘビとは少し違うみたいだ」

『引き上げには時間が掛かりそうです。まだ水底に潜っているようです』


 通常のカメラに切替えて見たら、濁りで何も見えなかった。

 それにしても、良く見つけられたものだ。カテリナさんがダウジングで調べるようなことを言ってたが、そうだとしたらかなり優秀な術者なのかもしれないな。


「とりあえず状況は分かった。引き上げよう」

『そうですね。まだまだ時間も掛かりそうです。……何か下りてきましたね』


 教会の鐘のような形だな。ワイヤーと共にあまりはっきりしない太いロープが一緒に付いている。

 ひょっとして、水中活動用のベルと言うことか?

 中にいる作業員はさぞかし不安だろうな。


 ゆっくりとその場を離れ、かなり距離が取れたところで上空へと飛び立つ。

 帰るだけだが、あれは何なんだろう?

 生物型の平気だとしても、似た生物が思い浮かばない。


 昼を過ぎているが、このまま飛んで行こう。

 星の海を眺めるのは気分が良いからね。

 たまに水面の波紋が見えるから、高度を落としてみるのだが既に波紋が消えていることが多い。

 首長竜に似た魔獣を、1度見ることができただけだった。


 拠点に付く前に、アリスが大きな積乱雲の中に入っていった。

 中は乱気流の嵐なんだが、豪雨のような雨を使って潜った時の汚れを落としたかったようだ。積乱雲を出れば直ぐに機体の水滴は飛んで行ってしまう。

 あちこち行って来たけど、日が傾く前に隠匿空間に帰ることができた。


 別荘へとのんびり歩いていると、アレクとベラスコに遭遇した。釣果を届けてきたらしい。

 アレクが笑みを浮かべているところを見ると、ベラスコの釣果を上回ったということに違いない。


「周辺監視か? ご苦労な事だ」

「少し足を延ばして島に行ってきましたよ。アレクとベラスコの別荘を見てきました」


「申し訳ありません。勝手に作ってしまって!」

「あれぐらいなら問題ないよ。もう少し大きくても良かったんじゃないかと思ってたぐらいだ。上空からだが、画像に納めてきた。まだ見てないんだろう?」


「撮って来たのか! それは見たいな」


 2人を引き連れて別荘に帰ると、何時ものソファーに座ってワインを飲みながら島の画像と漁村の様子をプロジェクターで映し出した。


「結構大きいと思ったんだが、桟橋に繋ぐとあんなものか。ベラスコ今度の休暇は大物釣りだぞ!」

「良いですね。それよりあんないい場所に別荘ですか! 母さんも呼んであげようかな」


 母さんを呼ぶ前に、ジェリル達と過ごした方が良いんじゃないかな?

 俺以上に朴念仁だからなぁ。


「こっちが開拓団か! だいぶ派手にやってるな。ここまで出来てるなら、来年の収穫が楽しみだ。リオは良い領主になれるぞ」

「ヴィオラ騎士団の領地ですよ。と言うより騎士団全体の領地と言った方が良いのかもしれません」


「リオはそのように進めているようだが、領主はリオになる。あまり税は望めないだろうが騎士団にとってはありがたい話だ」

「将来は俺もあそこで開墾ができるんですか?」


「ベラスコは俺と一緒に漁村を反映させるんだ。何せ酷い村だったからなぁ。俺達でどうにかなるか、はなはだ心もとないがな」


「だいぶ良くなったように見えたんですが?」

「表面だけということもありえるだろう。ネコ族だからなぁ、今まではかなり虐げられていたに違いない。卑屈になった心は中々治らないんだ」


 暮らしだけでなく心も豊かにするってことか……。

 どうすればいいか、考えもつかないな。


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