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M-260 回廊の砦は12騎士団で


 フェダーン様から呼び出しを受けたのは、隠匿空間に戻って4日目の事だった。

 別荘まで迎えに来てくれた、若い士官の運転する自走車に乗り込んで軍の駐屯地に向かう。

 駐屯地にある桟橋は500mを越える代物だ。横幅も50m程あるから、長い3階建てのアパートに見えるんだよなぁ。石造りだからだろうか。ヴィオラ騎士団の半分木造の桟橋から比べるとかなり立派に見えてしまう。

 

「この桟橋の中です。塩田ランスでお待ちください。車を止めて直ぐに参ります」


 エントランスの階段前で俺を下ろして、士官が近くの駐車場に自走車を停めると走ってきた。

 急ぐ用でもあるんだろうか?

 士官の案内で中に入ると、通路が十字路になっている。東西に延びた通路の両側にはたくさんの扉が並んでいた。


「右手は事務所なんです。応接室はこちらになります」


 十字路を左に折れて2つ目の扉の前で士官が立ち止まり、扉をノックした。


「ケイルント少尉です。リオ閣下をお連れしました」

「御苦労。お通ししてくれ」


 フェダーン様の声だな。落ち着いているようだからハーネスト同盟軍の急襲を知らせるような話ではなさそうだ。


 部屋に入って、「失礼します」と言いながら騎士の礼を取る。

 先ほどの士官が俺の後ろで扉を閉める音がした。


「こちらに来てくれ。席は、そこで良いぞ。面識はあるかもしれんが、紹介しておこう。ブリアント騎士団のリストナ団長と副官のグンターだ」

「何度かお会いしたことがあります。ヴィオラ騎士団の騎士リオです。今後ともよろしくお願いいたします」


 マクシミリアンさんの別荘で初めて会ったんだよなぁ。

 居住の襲撃を受けた時に、少し助けただけなんだけど隠匿空間を利用して魔獣を狩ってるのだろうか?

 だけど挨拶だけなら、別荘を訪ねて貰っても良いだろうし、騎士団の事務所だってあるはずだ。


「北の回廊の最初の砦だが……、ブリアント騎士団に管理して貰おうと考えている。いよいよ回廊作りを始めるぞ」

「やはり管理を騎士団に委ねることにしましたか。ですが、騎士団だけでは砦を守れませんよ。監視と防衛だけで常時1個小隊規模が必要でしょう」


 俺の言葉に、フェダーン様が笑みを浮かべる。承知しているということなんだろう。


「大型魔獣、更には砂の海では見られない魔獣も出てくるであろうし、数も多くなるはずだ。

 騎士団に依頼するのは運営管理と砦の防衛のみ。軍から1個小隊を派遣することで対応は可能であろう。軍の哨戒艦隊及び輸送艦隊の運用まで任せようとは思わん。だが軍から提示する情報を回廊を通過する騎士団に提供する義務は負わせてもらうつもりだ」


 軍の艦隊を統括するのは、隠匿空間と星の海の西に作る砦と言うことになるのだろう。

 基本的には問題なさそうだが、騎士団としての恩恵は余り無さそうだな。


「騎士団としての利点が無さそうに思えるんですが?」

「砦の運営管理費を出すことは可能だ。その上に通行税として、北の回廊を通る陸上艦から、陸上艦1隻に付き魔石1個を徴収する。通行時の安全が魔石1個で済むなら中規模騎士団もその支払に抗議することも無かろう。

 移管する砦は3カ所だから、3つの騎士団で通行税を4分割して各々四分の一を手にすれば良いであろう。残った四分の一を国庫に納めれば良い」


 少しは国庫に入るという事だが、そちらかと言えば赤字だろう。

 だが、砦の維持費を半分以下にできるなら十分に王国に利が出てくる。更に西で得た魔石は東で採れるよりも数や品質が上回りそうだ。

 それを基に王国が栄えるなら十分に見合うということなんだろうなぁ。


「そこまでは分かりました。それで俺をここに呼んだ理由は何でしょう?」

「砦の建設時に尾根の前にリバイアサンを据えて貰いたい」


 そういうことか……。

 少なくとも艦隊の支援は必要ない。尾根まで輸送艦を運べば艦隊は引き上げられるだろう。

 西がくすぶっている現状では、艦隊規模の護衛を置くことが出来ないということになるんだろうな。


「他の2つ、それに西の砦建設時にもですか?」

「さすがに西の砦は艦隊を派遣せねばなるまい。王国からの依頼は回廊の3つの砦だけになる」


「それならドミニクに相談すべきと考えますが?」

「リオ殿が了承すれば交渉に応じると言っていたぞ」


 停めておくだけで効果があるだろう。近寄れば戦闘艦もあるし、俺もいる。

 護衛は問題なさそうだな。


「了承します。ですが、交換条件として方位所の建設を許可して頂きたい」

「あれはブラウ同盟の業績として我等が作ろうと思っている。さすがに星の海への設置はリオ殿に頼まねばならんが……。

 国王陛下に耳打ちしておこう。良い褒賞を考えてくれるに違いない」


 返って仕事が増えそうだ。

 そこまでお手数をお掛けするのは……、と懸命に辞退したんだが笑みを浮かべておrを見ているだけなんだよなぁ。


「ところで、ブリアント騎士団には獣機はどれ程所持しているのですか?」

「戦機ではなく獣機の数と? 2個分隊に予備が1個分隊と言うところだ。常に20機を稼働状態としているぞ」


 魔獣狩りの方法は騎士団によって少し異なるが、獣機も銃を持って魔獣に立ち向かうのは同じはずだ。

 12騎士団の1つだから陸上艦2隻で狩りをしているのだろう。それでどうにか高緯度地方の魔獣狩りができるのだろうから、騎士団を2つに分けて砦に置くのは下策だろう。


「高緯度地方に砦を築き、回廊を通る陸上艦の安全を図るのは、かなり危険な行為になります。軍から出向する兵士は1個小隊。ブリアント騎士団はこれに倍する人員を砦の維持管理に常駐させることになります。

 陸上艦1隻を砦に常駐させれば問題は無いのでしょうが、それでは西の魔獣を狩れなくなるかもしれません。

 西の偵察では、ハーネスト同盟軍の破壊された砦をいくつも見ました。まだ見ぬ、凶暴な魔獣の存在が容易に推測できます」


「砦の管理を王国から依頼されるというのは我等の誉れ、辞退するなどもってのほかと言うことで騎士団内は一致している。

 だが、唯一の懸念はリオ殿が今言った通り。砦の守備を我等だけでは対応できぬ。そこで我等と同盟を結んでいる騎士団にも協力してもらうつもりでいる」


 副団長の言葉に、得心がいった。

 そういうことか……。12騎士団となれば長く同盟関係を築く中規模騎士団をいくつか持っているに違いない。

 すると、軍から出向する兵士は……。


「フェダーン様もお人が悪い……。出航する兵士は砲兵ですか。それなら十分対応できますね」

「駆逐艦の改装で4セム(120mm)砲塔が余っておるようだ。砦の壁に4セム連装砲塔を2基設ける。2.5セム(75mm)砲は騎士団でも使える。更に騎士団の獣機を用いればロケット弾も使えるだろう」


 さすがに砲塔は石垣の上部に設けるのだろうが、2.5セム砲なら城壁内に砲座を作ることもできるだろう。10門ぐらい設けるつもりかな。


「リオ殿の獣機の数の質問は、ロケット弾発射機の運用をお考えのことだと推測します。同盟を結んでいる騎士団の1つを常時砦に滞在させることを考えておりますから、2個分隊程度を砦に置くことができると考えておるところです」


「だんだん見えてきました。それにしても羨ましいですね。俺達の騎士団は古い付き合いを持つ同盟騎士団がおりません。団長の友人を頼って同盟を結んでいる始末です」


 運ばれてきた、コーヒーを飲みながら笑みを浮かべる。

 さすがは12騎士団と言うところだな。王国も頼りにできるわけだ。


「出向者は砲兵だけではないぞ。1個分隊は飛行兵だ。3機の飛行機を砦に置くことで周辺の偵察を行えるであろう。これはリオ殿の計画にもあったな」

「出来れば木型飛行船による回廊全体の監視もお願いしたいところです。回廊監視を目的とする艦隊に空母を同伴させることを考えていましたが、飛行船があれば十分でしょう」


「そうもいかぬであろう。監視は可能でも救援できぬ。救援艦隊と輸送艦隊は王国で何とかするつもりだ。後ほど詳細を詰めたいと思うが?」

「そうですね。でもこれで最初の1歩を踏み出せます」


 回廊に作る砦は3カ所になる。

 隠匿空間を拠点に最初の砦を作り、その拠点を足掛かりに順次西へと砦を作っていく。

 回廊が利用できるのは、結構早くなりそうだな。


 砦の建設現場近くにリバイアサンを停めておけば、俺達の飛行機を使って周辺監視も可能だろう。

 朝夕に隠匿空間までの回廊を御アルスと供に偵察すれば、輸送艦隊も安心して荷を運ぶこともできそうだ。

 エミー達はすることが無いかもしれないけど、魔獣相手に常にスタンバイすることになるのかな。

 場合によっては砲塔群による一斉砲撃もあり得るかもしれないな。


「今日は、ある意味顔合わせと言うことになる。砦の運営はヴィオラ騎士団に相談したいということだから、ドミニクに伝えておいて欲しい」

「了解です。ところで、砦建設は王国軍の工兵部隊とブリアント騎士団になるのでしょうが、建設時には連絡担当をヴィオラ騎士団に派遣して頂けませんか?」


「軍は私の軽巡をそのままリバイアサンのドックに入れることで問題亜あるまい。ブリアント騎士団から2名ほど派遣するがよい。中々変わった陸上艦だぞ。退屈はせぬだろう」

 

 2人が頷いているから、帰って人選をするのだろう。

 フェダーン様の作戦室で、周辺の魔獣の動きを砦に伝えて貰うことにしよう。


「ところで、南西の国境近くにも退役した騎士団員を派遣してくれているでしょうに、砦の運営はだいじょうぶなんですか?」

「ハハハ、御心配には及びません。確かに十数人を派遣させていただきました。ですが要望としてトラ族とありましたので、今回の要請は我等や同盟騎士団にとってもありがたい話です」


 それだけ大勢いるということなんだろう。彼等に仕事を斡旋することも騎士団の勤めに違いない。

 第一線を離れた元騎士団員の暮らしには、各騎士団も苦労しているに違いない。

 ある意味、ブラウ同盟の回廊計画は魔獣を狩るだけでなく、騎士団を離れた人達にとってもありがたい話になるのだろう。

 ましてや回廊だけでなく、これからも西にどんどん砦が作られていくのだ。

 星の海の西に設ける砦だって、ハーネスト同盟の圧力がなくなれば12騎士団の1つに管理を委ねることになるかもしれない。


「さすがにリバイアサンは見つからないでしょうが、我等も西には期待しているのです」

「ハーネスト同盟の艦隊が星の海だけでなく、星の海の西岸にも艦隊を派遣しているようです。俺達が走り回っているところは大陸の四分の一ほどでしょう。確かに西には夢がありますね」


 ブリアント騎士団の2人が俺の言葉に頷いている。

 夢を自分達の代で叶えたいということなんだろう。ロマンを求めるのは俺達だけではなさそうだな。


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