M-256 休暇中でも仕事は多い
「フェダーン様からブラウ同盟とコリント同盟の騎士団に関わる越しの海の西への回廊計画を書類で受け取ったわ。
ウエリントン王国主導で進めるということになるんでしょうけど、他の王国からも資金援助以外に人員の提供もあるんでしょうね。
その計画に参加して欲しいとの打診を受けたんだけど、断ることはできそうにもないわね。
母さんが乗り気だし、私達の代で西での魔獣狩りができるのなら12騎士団でなくとも名乗りを上げる騎士団は多いでしょうね」
「少し早く生まれすぎたかな……。ベラスコぐらいなら、俺も西に向かいたかったぞ」
ドミニクの言葉にアレクが賛意を示しているけど、新たな獣機で参加することになるんじゃないかな。
まだ形にもなっていないが、2年もあれば試作機が出来そうに思える。
「参加するとなれば、魔獣狩りが疎かになってしまいます。現状での経営は若干の黒字ですから、長期的な参画は騎士団の経営上に無理が出て来るのでは?」
レイドラの言葉も理解できる話だ。どうにか黒字だとすれば、長期的に狩りが出来ない状態が続くと破産してしまうということに外ならない。
「そこが1番厄介なんだけど、リバイアサンとメイデンの戦闘艦を参画させることで交渉してみようと考えてるの。今回は思いがけない魔石を得ていることを考えると、星の海での魔獣狩りはリバイアサンでなら可能でしょう? 王国の計画に参画することで契約金も得られるでしょうし、それで足りない分を魔獣狩りで補えば何とかやっていけるし、西への足掛かりにヴィオラ騎士団が寄与したと胸を張れるでしょう?」
「だが、そうなると砂の海の監視を今までのように行ってもらうことが出来なくなりそうだな。その代案をフェダーン様達は持っているんだろうか?」
ヴィオラの航路に沿って先行偵察を行っていたが、今後はヴィオラに搭載する新型飛行機がそれを行うことになるだろう。哨戒範囲は半分に落ちてしまうに違いない。
だが、それでも半径150km程度は何とかなるに違いない。朝と夕の2回実施すれば、早々魔獣に後れを取ることも無いだろう。
「同盟の艦隊も砂の海を遊弋しているけど、規模が小さいからなぁ」
「でも、軽空母が一緒なんでしょう? 前と比べれば雲泥の差があるんじゃないかな」
「そのことなんだけど、こんな駆逐艦を作ろうと考えてるんだ。詳細設計までを俺がやれば、王都の工房で製作すると言ってたよ」
アリスに頼んで、戦闘艦の概略図を表示して簡単な説明をする。
数艦での哨戒に徹した艦だと気づいたみたいだが、俺としてはこれに小さな飛行機を乗せたかったんだよね。
これでは見張り台からの周辺監視だけになってしまうだろうから、監視距離は10km程度になってしまいそうだ。
「だいぶ足が速いな。駆逐艦よりも速そうだぞ」
「その分武装が少ないです。艦砲も駆逐艦の標準よりも小型ですからね。全体が軽くなれば足も速くなります。総工費の2割を設計と特許として貰えるということですから、頑張って見ようかと……。
それと、こちらがメイデンさんの乗る戦闘艦を再現したものなんですが、王都の工廟では製作できません。かなりの部材をリバイアサンの工廟で作ることになりますが、1隻作って、前者と比較しようかと思ってます。これはメイデンさん戦闘艦と組んで西で魔獣狩りをしようと考えていたものです」
画像の2隻を見比べているけど、外観的には多輪式か多脚式の違いがあるぐらいなんだよなぁ。
仕様は出さなかったけど、速度が時速10kmほど違うから、かなり軽快に動き回れるはずなんだが……。
「売ろうとしてるの?」
「値段的には前者の2倍になりそうです。試作艦としてフェダーン様が資金を提供してくれるでしょう。売れるかは作ってみないと分かりませんね。でも狩りをする上では役立つと思ってます」
戦闘に使えるとは俺も考えてはいない。だが、砦に駐屯させる艦隊としては使えるはずだ。特に救援艦としてなら十分に役立ってくれると思っている。
「西への進出はリオに任せるわ。リバイアサンのドックを使えば、現状でも行けると思っているんだけど、さすがに私達だけとなるとねぇ」
「12騎士団の連中が横槍を入れて来るだろうな。だが、軍に協力するのであれば名目も立つだろう。それに、北の回廊に作る砦の維持に12騎士団が関わってくるかもしれんぞ」
確かにありそうだ。それでブラウ同盟としても12騎士団に名目を立てることができるだろうし、場合によっては王都の工廟で作る戦闘艦の艦隊を委任することもあり得るんじゃないかな?
それを考えると、故障対策も考える必要がありそうだ。
アリスと少し話し合ってみるか。
「フェダーン様の計画に賛成することで良いわね。新たな条件としては、リバイアサンの哨戒コースを艦隊で代替して貰うことで良いかしら?」
俺達が頷くのを見て、ドミニクが大きく頷いた。
これで俺達の今後の数年間が決まったようなものだ。
領地の方は、開拓団に一任することになってしまうが、たまに状況ぐらいは確認しておかねばなるまい。
隠匿空間と言うことで、新鮮な野菜や果物が食べられるんだよなぁ。
夕食は何時もより豪華だし、良い酒が飲めるとアレクも機嫌が良い。
「ところで、例の漁船と小型のクルーザーはどうなりました?」
「既に購入してあるぞ。漁船は2隻買い込んだ。クルーザーは定員が10人だが、トローリングができる船だ。漁船は村に、クルーザーは島に運んであるから、次はあの大型船でなくとも遊べるぞ」
さすがにアレクは素早いな。既に支払いも済ませてあると言ってたけど、マリアンが出してくれたのかな。
「王都の桟橋から客船をチャターして仲間も運べるそうだ。俺達だけというわけにはいかないからな。ヴィオラ騎士団員であればだれでも自由に滞在できるようにドミニクが考えてくれたぞ。トラ族2家族が近くに住んで別荘の維持を図ってくれているそうだ」
「色々とお手数をお掛けして申し訳ありません」
「何、気にすることはない。リオには色々と世話になっているからな。ソフィーとシエラ母さんは王都に働き口が見つかったし、ネコ族の連中もここで働くことができた。残った3家族とレイバン達で農場は切り盛りできるだろう」
俺のおかげと言ってくれるけど、どちらかと言うとこっちが助けて貰っている気もするんだよなぁ。
これからも世話になることは間違いなさそうだから、とりあえずアレクのグラスに酒を注ぎ足しておこう。
「明日は、この池でマスを釣るぞ。ベラスコも誘ってやろう」
「そういえば、ベラスコの隣にジェリル以外の女性がいましたね」
「あいつも2人目が出来たってことだな。あの島の俺の別荘の隣にベラスコの別荘も立てて貰ったぞ」
思わずアレクに顔を向けてしまった。
工兵部隊が宿舎を建ててくれることになっていたんだが、アレクの方で追加を出したってことか。
ますます、フェダーン様の言葉に逆らえなくなってしまった気がするな。
「あまり気にすることはないぞ。2部屋の小さなログハウスだ。リオの別荘も良いんだが、どうも俺には寛げないんだよなぁ。ベラスコ達と釣り三昧を余生は楽しむつもりだよ」
「まだまだ、騎士団を抜けることができないと思いますよ。豊かな老後を送るためにも、後30年は頑張って貰いますからね」
俺の冗談にアレクが笑い出した。つられて俺笑い声を上げながら互いのグラスをカチン! と合わせる。
こんな話ができるのもアレクだからだろうな。
やはりアレクはヴィオラ騎士団の筆頭だけのことはあると感じ入ってしまった。
夜が更けたところで、リビングを後にする。
アレクは客室に泊るんだろう。ベラスコ達も来れば良いのだが、案外遠慮する性格のようだ。
寝る前にジャグジーに向かったら、次々と女性達が飛び込んできた。
リビングから離れているから良いようなものの、こんなに騒いでいると客から変な目で見られてしまうんじゃないかな。
「今夜は私とクリスの番ね。2晩ぐらい我慢できるでしょう?」
「ずっと一緒だったから、それでいいわよ。その後は順番ね」
聞いているこっちが顔を赤くしてしまうような話をしている。
既に、騎士団内の地位は関係ないということなんだろうな。そういう意味ではプライベート区画での上下関係は無いと言って良いのだろう。
「それじゃあ、私達はお先に」
フレイヤ達がドミニクに手を振ってジャグジーを出ていく。
可愛いお尻にを見ていた俺の胸に、ドミニクが体を乗せてくると、クリスが横から抱き着いてくる。
「本当に久しぶりよねぇ……。今夜はゆっくりと楽しみましょう」
「騎士団が湧かれて動いているからだろうね。リバイアサンを見付けたのは失敗だったかな?」
「それはそれ、私は良かったと思ってるわよ。北の回廊が出来て、西への道が開ければ騎士団は西へと向かう。西に安全な場所があるのかしら? でもリバイアサンを使うなら、リスクはそれほどないわ」
全く無いとは言い切れないんだろうな。
だが、そうなるように俺とアリスで頑張れねばなるまい。
こんな美女を抱けるんだから、それぐらいのことは容易いことだと思えてしまう。
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目が覚めると、世界は金色だった。
ドミニクの髪が俺の顔に掛かっていたからなんだろうな。
半身を俺に預けている2人をゆっくりと隣に下ろして体を起こす。
2人はまだ夢の中のようだ。ドミニクの背に抱き着くようにレイドラが寝入っている。
2人の関係は相変わらずだから、あまり気にしない方が良いのかもしれないな。
ベッドを抜け出し、軽くシャワーを浴びて2人の残り香を消した。
関係する女性達の使う香水が異なるのが問題だ。香水なんて1つで良いんじゃないかと思ってしまうのだが、口に出すのは止めておこう。
体をタオルで拭いて衣服を整える。装備ベルトを付けて、サングラスを胸のポケットに入れて寝ぐせの付いた髪を帽子を被って誤魔化した。
リビングに向かうと、カテリナさんとフェダーン様、それにローザとリンダが座っている。
空いている席は……、とりあえずカテリナさんの横に、「おはよう!」と声を出して少し距離を置いて座ることにした。
「兄様だけなのか? 全く、休日となるといつまでも寝ておるのう」
飲んでいた紅茶のカップから口を話して、ローザから厳しい言葉が出てくる。
3人は笑いをこらえるのに必死のようだ。
「久しぶりの休日だからね。のんびりさせてやろうよ。ローザの方は朝から忙しいんだろう?」
「5人もやって来たからのう。講義はカテリナ博士とフェダーン義母様が行うとしても、実践は我の担当じゃ。狩りが出来ぬようでは、隠匿空間から出せぬからのう」
出せるとは思えないんだけどなぁ。
でも、やる気を出しているローザの前でそんなことを言えるものではない。
マイネさんが運んできてくれたコーヒーを飲みながら、カテリナさんの話す本日の予定に耳を傾けることにした。