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M-254 回廊の警備艦と砂の海の救援艦


 隠匿空間への帰還を、せっかくだからと言って北の回廊沿いに帰ることにしたから、北の湿地帯をゆっくりと観察する。

 フェダーン様達も、デッキから双眼鏡を使って様子を眺めている。

 カテリナさんは、ロボットの分解をアリスの監修のもとで再び始めたようだ。金属部品が魔方陣の助けも無く動くということに興味を持ったのだろう。ある意味リバイアサンよりも前期に思えてくる。


 おかげで、誰にも邪魔されずにのんびりと過ごせる。こんな日々が、隠匿空間まで続いて欲しいものだ。


「北の回廊も星の海近くとなれば、魔獣の数も多いのう。それに初めて見る種もいるぞ」

「それだけではないぞ。北の山麓沿いともなれば、大型魔獣も姿を現すらしい。砂の海では見ぬような巨大な魔獣がいるとなれば、回廊の安全対策をよくよく考えねばならぬ」


 夕食後、いつものようにソファーで寛いでいると、ローザとフェダーン様が北の回廊の脅威について話をしていた。

 ローザもだいぶ大人になってきたな。最初にあった頃の怖いもの知らずの少女から観察眼を持つ娘に変わってきたように思える。

 それは大人への変化なんだろうけど、少し寂しい気もしてくるんだよなぁ。

 とはいえ、このままでいくとフレイヤを越える気性の持ち主になりそうだな。知性と気性は別物だからねぇ。

 ローザの将来の夫となる人物は、案外俺と話が合うかもしれない。

 

「ローザも王家を支える身ということね。回廊の警備はブラウ同盟軍で行うんでしょう? 王子や王女の実績を積む場になるんじゃないかしら」

 

 フレイヤは、ワインを飲みながらローザとフェダーン様の会話を聞いていたようだ。


「私達が協力するとしても、あまり表に出るのは問題でしょうね。回廊を抜けるだけの準備を整えられるよう隠匿空間の充実を図ることぐらいでしょうか……」

「ヴィオラ騎士団としての表立っての協力はそこまでだろうね」


 俺達が回廊警備を請け負うこともできるだろうが、これだけの事業となれば12騎士団を差し置いての参加ということに、千を超える騎士団がどのような感情を抱くかも考える必要があるだろう。

 ウエリントン王家とかなり近い関係になってしまっていることへの妬みが無いとは言えないのが現状だ。

 あえて、寝た子を起こすことも無いだろうし、自力で北の回廊を進めるぐらいでないと本格的な西への進出は無理なんじゃないかな。


「それで、フェダーンとしては自信があるんでしょう?」

「我なら、単艦で回廊を渡る自信はあるぞ。何も初めて出会う魔獣と交戦する必要はない。安全に狩れる場所で狩れば良いのだからな」


 カテリナさんの問いにフェダーン様が答えているけど、戦術の基本だと思うな。


「我なら、後続の憂いを無くすために、倒して進むべきと思うのじゃが……」


 ローザの話に、フェダーン様がローザの頭を撫でている。

 まだ若いと思っているのかな? それともその覇気を自分は何時忘れたのかと考えているのだろうか……。


「ローザの答えも、正しいと思うぞ。それは己の腕を知っての事であろう。残念だが、戦機を動かせる歳を過ぎておる。西の砦はローザ達に任せることになろうな」

「西は兄様が入るのでは?」


「王子の実績が問われる砦になる。その防衛となれば、やはりローザが出張らねばなるまい」


 途端にローザが破顔する。

 ローザの実力をフェダーン様がそれだけ期待しているということだからなぁ。リンダが今夜はいないけれど、居たならローザ以上に喜んだに違いない。

 だが、そうなるとヴィオラ騎士団からローザが去っていくことになるんだよなぁ。ちょっと寂しくなるし、戦力の低下にも繋がりそうだ。

 カテリナさんの新たな獣機開発がそれまでに形になれば良いのだが……。


 自室に戻り、エミー達とジャグジーを楽しむ。

 ワインを飲みながらの長風呂だ。

 今夜は、ソファーでのローザの会話が俺達の話題になった。エミーにとっては実の妹だからねぇ。フレイヤも長い付き合いだから、妹同然に思っているのだろう。


「リバイアサンを近くに置くことはできないの?」

「星の海の東も、それなりに魔獣が跋扈してるんだから、現状では一カ所にとどまらない方が無難じゃないかな? 12騎士団が活動していると言っても、高緯度地方に出るのはそれほどの頻度ではないし、救援要請を打電しても駆けつけられる騎士団や艦隊があるのは稀だからねぇ」


「ブラウ同盟艦隊は、現在西に寄っています。ハーネスト同盟艦隊の動きを警戒しているのでしょう。そうなると海賊の取り締まりも疎かになってしまいます」

「そうなのよねぇ……。でも、私達だけで、何とかなる物でもないわよ。戦闘艦並の速度を出せる駆逐艦で艦隊を通るぐらいは軍で出来るんじゃない? 3つもあれば救援艦隊として使えると思うんだけど」


 フレイヤの言うことももっともな話だ。王宮には色々と援助して貰ったけど、その見返りはきちんと果たしていると思っている。

 ある意味、俺達だけで西に向かって魔獣狩りをしても、誰にも後ろ指をさされることは無いだろう。

 だけど、ねぇ……。13番目の騎士団として認知されているんだよなぁ。

 それにふさわしい矜持を示さねばなるまい。


「戦闘艦は帝国の遺産だけど、それに近いものができるかもしれない。カテリナさんに相談してみるよ。あれが3艦で艦隊を作るなら、かなり使えるんじゃないかな」

「リバイアサンにも欲しいですね。メイデンさんと組めば、戦闘艦で魔獣狩りが出来ます」


 騎士団のニーズもありそうだな。

 カテリナさんに頼む前に、この世界の魔道科学でどこまで可能かをアリスに確認して貰おう。それを知った上での帝国の遺産である技術を使えばどこまで性能向上ができる窯で分かりそうだ。


『おもしろそうな命題ですね。明日には概念設計をお見せできるでしょう』


 脳内に、アリスからの返事が聞こえてきた。

 これで、当座の問題は解決できるのかな? ジャグジーを出て、火照った体をプライベートデッキで冷ますことにした。

               ・

               ・

               ・

「呆れた! そんなことを考えてたのね」

「だが、かなり有効ではあるぞ。北の回廊の警備にも使えよう。先ずはどのような艦になるのかを見せて欲しい」


 戦闘艦を作ろうとしていることをカテリナさん達に告げると、そんな反応が2人から返ってきた。

 アリスの作った概念図をとりあえず仮想スクリーンに映すと、2人が食い入るように眺めている。更に2つ仮想スクリーンを立ち上げて、カテリナさんは駆逐艦とのしようの相違についても確認しているようだ。


「全長50スタム(75m)は駆逐艦より少し小型になるわね。重量はそれ程変わらないのね。速度が時速25スタム(37.5km)だから、高速輸送艦より遅いってことか……。武装は5セム(75mm)単砲塔が4門に12連装ロケット発射機を1基、単艦での活動では不足でしょうけど、2艦もしくは3艦での行動なら救援艦隊としては使えそうね」

「速度は駆逐艦よりも速い。艦隊に組み込んでの運用も可能であろうし、輸送船の警備にも役立つであろう。3艦での運用でも駆逐艦2艦の人員より少ないのも都合が良い」


 概ね肯定的と言ってもいいのかな?


「リオ殿は、これを救援艦と言っていたな?」

「はい。これからは西の時代になりそうです。ヴィオラ騎士団としても西への進出を考えたいところではありますが、そうなると現在のリバイアサンが行っている砂の海の遊弋が出来なくなります。

 その代替え案として、軍の拠点、12騎士団の拠点を利用した救援艦隊を考える上で、救援に特化した艦はどのような形になるかと考えました」


 やはりそうなるか……、と言う目でフェダーン様が俺を見てるけど、西に向かうか否かは俺ではなくてドミニク次第だからね。

 ドミニクが判断に迷う時に提示しようとしているだけで、直ぐに作ろうとは思っていないんだけどなぁ。


「でも、1つ腑に落ちないのよね。これって、王都の工廟に図面を示せば作れるんじゃない? 少なくともアリスが関わっているはずだから、帝国の技術が入っていると思っていたんだけど」

「分かりますか? 実は2段階に設計を進めていたんです。既存技術で作れる戦闘艦が今画像でお見せしたものです。

 アリス。次の画像を出してくれないか!」


 仮想スクリーンが横に拡大して、新たな画像が現れた。

 仕様の画像も1枚追加される。


「これが、最終的な戦闘艦になります。王都の工廟では作れませんが、リバイアサンで作ることができるそうです」


 2人が食い入るように画像を見ている。

 しばらくはそっとしておこう。かなり革新的な船だから、理解することに時間が掛かるだろう。その間に席を立って、コーヒーを入れてこよう。


 テーブルに新たなコーヒーカップを置いて、前のカップをカウンターに持ち帰る。

 改めて席に腰を下ろしてタバコに火を点けた。


「本当にこれを作れるのか?」

『リバイアサンの工作機械であれば作ることができます。多脚式走行装置の脚部の材質が特殊な鋼になりますが、その精練もリバイアサンでなら作ることが可能です』


「4セム(60mm)長砲身砲の砲身長が4スタム(6m)、弾速は騎士の持つ3セム半(52.5mm)砲を越えるのではないか! しかも艦首に14セム(21cm)口径の砲身を内在するということか……」

「移動速度は毎時30スタム(45km)、しかも巡航での値よね? 乗員が、更に減って全長も4スタム(4m)ほど短くなるとなれば、騎士団が放っておかないんじゃないかしら」


『制作に半年掛かります。値段は駆逐艦よりやや割高になるでしょう。騎士団であれば、旗艦との速度差があり過ぎるのも問題です。既存技術で可能な戦闘艦で十分と推察します』

「そうなるであろうな。だが、コリント同盟やブラウ同盟、12騎士団ともなれば拠点の守りを重視することも確かだ。王国の工廟と連携を取ることで製作数を増やすことは可能ではないのか?」

『十分に可能だと推察します。その場合には年間5艦になると推察します』


 うんうんとフェダーン様が頷いている。

 カテリナさんと目を合わせて、何やら目だけで話をしているように思えるんだが、結局作りたいってことなんだろうな。


「ウエリントン王国として、先の戦闘艦の設計を依頼したい。詳細設計図を提示してくれれば十分だ。報酬はマリアン達と契約書を纏めることで決めることにしたい。

 さらにだ。この戦闘艦を1隻作ってほしい。比較試験には必要であろう。駆逐艦より割高となるというのは、作らねば値段が分からぬところもあるのであろう。総製作費の2割を上乗せすることで何とかならぬか?」


 急に言われてもねぇ……。


「既存技術の方であるなら、問題はありませんから数日でお渡しできると思います。後者の方は、ドミニクと相談してからで良いでしょうか? リバイアサンの工作工場をどの程度占有するか不明ですので、少し時間をください」


 俺の返事に笑みを浮かべたところを見ると、とりあえずは既存技術で出来る戦闘艦で問題は無いってことなんだろう。

 使う場所は見えてるんだよなぁ。北の回廊に設ける砦毎に1艦隊を配置することで、回廊の安全を担保しようと考えているのだろう。

 さすがに西に設ける砦には、巡洋艦辺りを旗艦とする艦隊が必要になるだろうけどね。


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