M-253 爆弾を内蔵したロボット
朝食後にハーネスト同盟の調査艦隊の動きと、ヴィオラ周辺の魔獣の状況監視を何時もの通りに行って帰ってくる。
これが俺の仕事になるのかな?
辺境伯の肩書を持っている身としては、ちょっと違和感がありまくるんだがヴィオラ騎士団の騎士であることも間違いない。
ヴィオラ周辺の魔獣の動きは当初からしていた仕事だからなぁ。騎士と言う肩書を都合よく使っていることもあるんだからしょうがないと言えばそれまでなんだけどねぇ。
リバイアサンは、魔物を引き上げた後に星の海を1日南下して、現在は東に向かって航行している。
360度が全て水面だから、海の上かと錯覚を覚えるほどだ。
たまに島影を見付けると、画像を拡大して眺めているらしいけど、きちんと星の海の地図で島の位置を確認しているのだろうか。
エミー達が忘れていても、ロベルがその辺りを上手く教えてくれているに違いない。
艦長と火器管制部門の両方の副官を務めているんだからなぁ。中々に有能な人物を迎えられたといつも思ってしまう。
プライベート区画に向かうと、何時ものソファーに4人が座ってお茶を飲んでいた。
カテリナさんとフェダーン様は何時もの事だけど、今日は導師とガネーシャが加わっている。
「今帰ったの! ご苦労様。何も無かったでしょう?」
「そうですね。ヴィオラの方も、今日の狩りは午後になりそうです」
俺の答えが面白かったのか、笑みを浮かべたカテリナさんが腰を上げてカウンターに向かった。
何時もの席に座ると、戻ってきたカテリナさんがマグカップを俺の前に置いてくれた。
「薄いコーヒーに砂糖2杯だったわね。ちゃんと入ってるわ」
「ありがとうございます。ところで何の打ち合わせをしてたんですか?」
俺の隣に腰を下ろしたカテリナさんが、小さな箱を使って仮想スクリーンを作り出した。
この辺りの魔道科学は俺達の常識に合うんだよなぁ。感心していると、画像に引き上げたロボットが現れた。
ベルッド爺さん達が無理やり体表面の金属を引きはがして中を調べている。ガネーシャやカテリナさんの姿もあるところを見ると、あの時言ったことをそのまま実行したみたいだな。
「生体部品はどこにも無かったし、使われていた痕跡すらなかったわ。魔方陣もどこにも描かれていないし、文字らしきものはあったにはあったけど、導師はその機能もしくは構造体の部品番号ではないかと推察してくれた……。どこにも魔道機関は使われていないから、これがどうして動くのかさえ理解できないんだけど……。リオ君なら分かるはずよねぇ?」
猫なで声で俺に顏を向けてきたから、背中に詰めたい汗が流れてきた。
あれから3日経っているからなぁ。分解しても魔道科学が使われていないなら原理さえ分からないかもしれない。
「当然、リオ君のことだから何体か回収してるんでしょう? アリスがその辺りの解析を進めているんじゃなくて?」
「誤魔化せませんね。アリス、状況を説明してくれないか?」
俺の言葉が終わらない内に、新たな仮想スクリーンがテーブル近くに立ち上がった。
写し出されているのは、先ほどの画像と同じロボットだ。
『回収した魔物とは、ロボット……、自律思考で動く金属製の人形です。このような形で分解を行えば、再現することもできます。分解時には体表面の3カ所を同時に圧力を加えないとできませんから、通常であればカテリナ様達のような手段での解体になってしまうでしょう』
ハーネスト同盟の艦隊が引き上げたとしても分解ではなく解体になってしまうんだな。
フェダーン様も、アリスの言葉に少し表情を緩めている。やはり再利用が一番の心配事だったに違いない。
「諸元と製造目的について教えてくれないか?」
『了解しました。
型式はZA-002 殲滅用人型兵器です。身長2.5スタム(3.75m)で稼働時間は8時間。
トラ族の10倍程度の身体能力を持ち、オルネアによって破壊された都市部の残敵掃討を行うための機体のようです。
武装は長剣に類した武器を手にしていたようですが、発掘はできませんでした。
体内に小型の爆弾を内蔵しています。破壊規模は小さなものですが、有毒ガスが周囲に拡散します』
「直ちに分解作業を中断しなさい! そう、その状態で良いわよ。鉄の箱があったわね。あの中に全部入れて、封印をお願い。どうやら爆弾と毒ガスがあるらしいわ」
バングルに向かってカテリナさんが大声を上げたのは、まだ分解をしていたからに違いない。
「もう少し早く教えて欲しかったわ。それで、どの部分にあるのかしら?」
『ガネーシャ様達の作業は監視していましたから、必要時には指示を出すことを考えていました。この部分です。3重にシールされていますし、通常工具ではこれを分解できません』
仮想スクリーンの画像に1ℓ程度の大きさのカプセルが映し出された。
数本のケーブルが接続されているのが起爆用の信管を動作させるためのものに違いない。
「既に撤去してあるわ。ケーブルは切断してるけど、問題は無かったようね。毒ガスの種類は分かるかしら?」
『青酸ガスです。20スタム(30m)の範囲で致死量となります』
「敵を根絶やしにするということか? 魔道科学で動くわけではないようだが、敵と民間人の区別は出来たのだろうか?」
『電脳の解析を行いましたが、生体反応があるものすべてを抹殺するように作られていました。サーチ・アンド・デストロイが基本です』
魔物と言われるわけだな。
生きてるものは全て殺すってことは、たとえ泥沼の戦であっても許されることではないと思うけど、それが作られたということは、すでに憎悪しかなかったということなんだろうか……。
「アリスはこの人形を動かそうとしているのかしら?」
『最初はそのように考えましたが……。現在保留中です』
アリスでさえ尻込みする代物ってことだな。
だけど、カテリナさんは笑みを浮かべてるんだよなぁ。何かよからぬことを企んでいないか?
「さても物騒な兵器だな。さすがに私もこのような代物を使いたくはない。カテリナも情報を仕入れたら早々に廃棄することだ」
フェダーン様の言葉に渋々頷いている。
だが、ここで導師がおもむろに言葉を紡ぎ出す。
『どこにも魔道の姿が見えぬ。それでもあの物体は動いて相手を殺したということなのか?』
『はい。これは科学技術で作られたロボットという種になります。無機物で作られた電脳にあらかじめ命令を刻みこんでおけばその通りに動きます。
腕、足のアクチエーターとその制御部分は、この世界でも応用が利きます。現在新たなロボットの設計を進行中です』
『アリスにはそれを理解できるということか……。それで何を作る?』
『私専用の外部端末となるロボットを作ります。その技術はカテリナ様に譲渡しますから例の計画に利用できると推察します』
うんうんとカテリナさんが頷いている。ちょっと嬉しそうな表情をしているのは何かにつまずいていたのかもしれないな。
『悪用せぬなら問題はあるまい。アリスがこの場所に現れると考えれば良さそうじゃな。カテリナ達には良い影響を与えそうじゃ』
「1つ確認したい。アリスが作る物は軍にも使えるのだろうか?」
『無理だと思います。電脳の推論機能があまり良くありません。敵と味方の区別を魔物の電脳で行うことは困難です。よって簡単な指示を与えたと推察します』
生体反応を示したものは全て殺せ! なるほど簡単な指示だな。
敵味方を識別するのは人間にだって難しいだろうし、民間人も入るとどうなるんだろう? 少なくとも俺には無理だな。
「指示を与える者がいるなら、それなりに使えるということか……」
「遠隔で指示を与えることが可能ですから、獣機でも近寄れないような場合には有効でしょう。例えば火災現場などでの緊急作業には向いているかもしれません」
俺の言葉に頷いているけど、とりあえずは必要なさそうだな。
アリスが自分用に1体作ると言ってるから、それを見て考えを纏めようとしているのかもしれない。
「これで、この場の遺産は終わりで良いわね。次はあのヘビになるんだけど……」
『まだあるのか? 星の海は鬼門じゃな』
ヘビの話を始めたんだが、導師はとりあえず放置で良いとのことだった。
これでしばらくは狩りが楽しめそうだな。
とはいえ導師も、星の海に興味を持ったのは流れから言えば自然な事だろう。カテリナさんに色々と注意を与えているようだ。
「後はリオ殿に託せば良かろう。一度隠匿空間に戻り数日の休養を取るとのことでエミーと合意が出来ている。それに、そろそろ戦姫がやってくるはずだ」
「それもあったのよねぇ……。ローザに指導は任せるとしても、最初は私が措置を行うことになるでしょうし、リオ君にも協力して貰わないといけないわ」
ん! 俺にどんな協力を望むんだろう?
ちょっと首を傾げていたんだが、その夜になって理解できた。
俺から採血しようというんだから困ったものだ。
ナノマシンを取り出そうというんだろうけど、もう少し方法を考えて欲しいな。
「こっちの薬を当座飲んで頂戴。数十個だから、無くなったら今までの薬で良いわよ。ちゃんとアリスに相談してあるから問題はないわ」
今度は真黒の丸薬だ。直径1cmはあるんじゃないかな?
とりあえず1口に飲み込んで、コーヒーで胃に落とし込んだ。
ニコリと笑みを浮かべると、白衣を脱いで俺を抱き寄せてくる。
やはり、こっちの成分も多量に入っているようだな。
アリスは、実害が無ければ問題ないというに違いないんだよなぁ。




