M-251 ハーネスト同盟の砦
頭を押さえながらエミー達が朝食を食べている。
あまり食欲がないみたいだな。小さなサンドイッチ1つをどうにか食べ終えると、濃い紅茶をストレートで飲んでいる。
フレイヤはコーヒーだけど、あんなに真黒なものを良く飲めるものだと感心してしまう。
「二日酔いと言うことじゃろうな。我も注意せねばなるまい」
悟ったような表情でローザがエミー達を見ていた。
「次は、ほどほどにするわ。でもね。全部で426個も獲れたのよ。マリアンに預けたからリバイアサンの収入として少しは寄与できた感じね」
「軍の方にも渡したんだろう?」
「訓練の一環じゃから、貰わずとも良いのじゃが……。姉様から26個を頂いた。全て低位の魔石でも、1個銀貨5枚で商会が引き取ってくれたぞ。銀貨130枚になっておる。参加した獣機部隊に銀貨を1枚ずつ、何度か行えば休暇時に、全員に銀貨1枚を渡せるじゃろう。それであの騒ぎになってしもうた……」
分配に偏りがあるようだが、反れないのリスクを負っているということで不満は無かったのだろう。
軍の兵士は給与が安いと聞いているから、休暇時にちょっとした臨時ボーナスが出る感じなのかな?
額が銀貨1枚程度であるなら、フェダーン様も笑って見ていられる範囲に違いない。
「後、2回はやらないと不満が出そうだな。フェダーン様もその辺りはお許しくださいますか?」
「単調な哨戒では、兵士達の士気を保つことも難しく思える。それで士気を保てるなら何の問題もありはせぬ」
フェダーン様の言葉にエミー達が笑みを浮かべている。
だが、その前に……、何としてもオルネアの周囲に散らばる魔物とやらを引き上げねばならない。
「引き上げ用の機材はベルッドとガネーシャで何とかできそうなんだけど、上手くいかない場合はリオ君達に頼めるかしら?」
「水中作業も問題は無いとアリスが答えてくれました。出来れば3体以上引き上げたいですね」
カテリナさん達のことだから、絶対に分解するに違いない。再び組み上げることはできないんじゃないかな。軍の方にも1体は進呈すべきだろう。それなりの技術と知見を持った工廟を持っているようだ。
アリスも1体欲しがっていたのが気になるところだ。アリスの指示で動くロボットが欲しいのかもしれない。
「我には、リオ殿がそれほど欲しがる理由が分からぬのだが?」
「獣機の強化に使えそうに思えるんです。戦機と比べて獣機はかなり脆弱ですが、現在で作れる唯一の機動兵器ですからね。騎士団の戦機もいずれは稼働が出来なくなるでしょうから、早めに対策をしておく必要があります」
「なるほど……。カテリナ、上手く作れたなら、軍がいくらでも買い取るぞ」
「早めに作って試験したいところね」
「次は何をするのじゃ? 魔獣を釣るのではあるまいな?」
「そういえば、カニは釣れたのかい? 昇降台で釣りをしてたみたいだけど」
「3匹釣れたぞ。大きいから食べ応えがあったのじゃ。星の海の珍味じゃな!」
俺達の顔は、失敗した! と言う表情に変わっていたようだ。ローザが首を傾げていたからなぁ。
次は何としても、食べたいものだ。
昇降台で簡単に釣れるのだろうか? そうだとしたら帝国の遺産を引き上げる時がチャンスと言うことになるんだろうけどね。
ローザが頭を押さえているエミー達を連れて行った。
今日は制御室でエミー達の手伝いをするのだろう。とは言っても難しい操船があるわけではない。真直ぐにオルネアが沈んでいる場所に向かうだけだ。
「食べられるということか……」
「珍味とも言ってましたね……」
「だいじょうぶ。ガネーシャに作らせるから。あんなもので釣れたんだから、それ程難しくはないはずよ。星の海の漁と言うのも案外おもしろいかもしれないわね」
自分達だけでなく、冷凍保存して隠匿空間に持って行くこともできそうだな。
新鮮な魚介類なら、ネコ族の人達も喜んでくれそうだ。
さて、俺も仕事に出掛けよう。
プライベート区画から駐機場に向かい、アリスと共に先ずはヴィオラ騎士団の周辺を確認することにしよう。
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昼過ぎにリバイアサンに戻ってくると、何時ものソファーには誰もいなかった。
カテリナさんは、引き上げ用のクレーンの素s三具合を見ているに違いない。フェダーン様は、王宮と通信でもしているのだろう。
ハーネスト同盟内の上空監視は、今でも継続しているらしい。
さて、コーヒーでも飲みながら、北の回廊に付いて考えてみよう。
フェダーン様を見ていると、早く作りたいように見えるんだよなぁ。
マグカップにコーヒーを注いで、ソファーに持って来ると、プロジェクターを取り出して仮想スクリーンを作る。誰もいないから少し横長に作って、星の海の回廊全体を眺められるようにする。
一服しながら眺めていると、数カ所に輝点が現れた。アリスも見ているのだろう。輝点はアリスのお勧めの砦設置ポイントと言うことになりそうだ。
「赤は湖上に設ける方位局だね。回廊に赤と黄色のポイントがあるし、星の海の西には緑の起点がるけど……」
『隠匿空間より星の海の北西端まではおよそ2800km。途中に設ける避難用の砦をいくつ作るかで、場所を決めました』
「出来れば回廊の西にも砦を設けたいね。そうなると、どんな形になるんだろう?」
『……この辺りに設けることになります。途中の砦位置はそのままで良いでしょう。最大で砦が5カ所できそうです』
さらに方位局が2つ星の海の島に必要になるらしい。
周波数を固定して、一定の電波を出すだけだから、無人化することで対応したいところだ。予備の方位局を追加することで、故障時にも回廊を渡る陸上艦が時分に位置が不明になることは防げるだろう。
アリスが設計した方位局は直径45cm、高さ12mの鉄柱だ。
その中に魔道機関を使った発電機と短波送信機を備えている。鉄柱そのものをアンテナ化することで、見た目はシンプルそのものだ。
星の海にたくさん浮かんでいる島に穴を掘って立てるだけだからそれほど難しくは無いだろう。
やはり砦の方が大変だ。星の海の西に設ける砦は、前にも少し考えた盛り土を使った砦になるが、回廊の4カ所もしくは3カ所に設ける砦は、尾根を左右の壁として用いることになる。
左右の尾根がそれなりの大きさを持っていることに加え、奥行きも必要だ。更には谷の広がりもある。あまり広いと城壁を作るのに苦労しそうだ。
アリスの選んだ候補地は、そんな制約を上手くクリアにしてる。
尾根の高さは低くても数十mはあるし、谷の開口部は500m以下、奥行きは2km程度になっているようだ。
「谷の両側を使えば桟橋ができるだろうし、尾根に穴を開けて居住区もできそうだ。正面には城壁を作らなくてはならないけど、左右に砲塔を乗せることで魔獣への備えもできそうだね」
『砦を維持するには1個小隊は必要でしょう。西の砦と北の回廊の中間地点の砦には、小さな工廟も設ける必要があります。1個中隊規模の常駐が必要です』
砦と工房都市の両者の特徴を持つことになるのだろう。
艦隊の常駐も考えないといけなくなりそうだな。隠匿空間の艦隊を2つに分けるか、あるいは新たな艦隊を星の海の西の砦に所属させねば魔獣とハーネスト同盟のリスクに対応できなくなりそうだ。
待てよ……。ハーネスト同盟は星の海の西に砦を作っていないんだろうか?
魔獣の脅威があるのであれば、それに見合う砦を作るぐらいのことはしていると思うんだが……。
『気になりますね。明日探してみましょう』
「かなりリスクのある土地らしいからね。いくつか作っているに違いない。当然それなりの改造が何度もなされているはずだ」
使えるのなら、俺達が真似しても問題は無いだろう。
砦に意匠登録がなされているとも思えないし、ある意味敵対している状況だ、文句を言われる恐れはないはずだ。
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何時もの哨戒に、今朝はハーネスト同盟の砦を加える。
さっさとヴィオラ周辺それにハーネスト同名の調査艦隊を確認したところで、高度3千mを維持して南に向かった。
ハーネスト同盟は3つの王国で作られているが、東西の長さは合計しても4千kmに満たない。
東西に往復しながら、少しずつ南下していく。
『見つけました。破壊されているようです。破壊は最近ではありません』
「あれだね。位置は……、星の海南西より西南西200km付近か。砦の構造は長城で周囲を囲んだという形だな。壁の厚さは3m程度に見える」
『さらに西に進んでみます……』
星の海は、風の海の北にある。俺達が狩りをしている砂の海と似た緯度にあるのだが、風の海を越えて造られている砦は全て破壊されていた。
かろうじて風の海の砦は守られているようだが、規模が大きいからかもしれないな。
1辺が2kmほどもある四角い砦は厚さ5m、高さ10mほどの長城で囲まれていた。
上空から見ただけでも、駆逐艦クラスの陸上艦が数隻停泊しているから、この位置でもそれなりのリスクがあるということに違いない。
「どうやら、ハーネスト同盟は王都の防衛をそのまま砦に当てはめたかったのかもしれないな。まだ見ぬ魔獣の脅威に備えていると思ってたんだけど、ちょっと興ざめだよ」
『魔獣の種にそれほど亜割は無いということでしょうか?』
「海からやってきたムカデやウミウシみたいなやつもいたけど、陸地はさほど変わらないのかもしれない。人工的な種である可能性が高いから、早い段階に淘汰したんじゃないかな」
『人工種であれば、進化の加速も考えられますが?』
それが一番怖い。全く意図しない種が生まれる可能性だってある。
命を持て遊ぶようなことが行われていたなら、帝国の滅亡は必然だったのかもしれないな。その遺産で生き残った人類が長く苦しむなんてことは考えなかったに違いない。