M-250 動力炉の暴走は厄介だ
のんびりしているとマイネさん達がパタパタと足音を立てて現れた。
「直ぐに夕食にするにゃ!」と言ってたけど、俺達を忘れていたみたいだな。
何時もより少し豪華なのは、狩りが上手くいったお祝いでもあるのだろう。
遅れてやってきたフェダーン様が士官を1人連れてきたけど、皿を増やすだけで問題は無さそうだ。
「王宮が慌てていたぞ。至急調べると言っていたが、どこまで調査できるか分からんな」
「そうなると、既に手に入れていると考えて行動した方が良さそうね。問題は何を見付けたか、それを動かせるか……ということになるんでしょうけど」
「上空からの偵察と言うことになるのだろうな。飛行船を1隻、偵察に専任することになりそうだ」
「リオ君からも、何かあるかしら?」
「特にありませんね。どちらかというと、稼働試験が行われたなら直ぐに分かるのではないかと」
良く時に手を止めて、皆の視線が俺に集まる。
「暴走! あり得るわね。問題は、その場で納まるか、それとも暴走状態で東を目指すかだけど」
「魔道機関の暴走は機構部が破損することで停止する。帝国の遺産もそうなるのではないか?」
「必ずしもです。食事が終わったところで、その辺りの解説をアリスにして貰いましょう。場合によっては暴走させることも選択肢ではありますよ。近くに住民がいなければの話ですけど」
「訳がありそうだな。ゆっくりと教えてくれ」
3人での静かな食事が再開する。
今頃、フレイヤ達は食堂で大騒ぎをしてるんだろうな。俺もそっちに行けたんじゃないか? ちょっと失敗だったかなと思いながら残りの料理を平らげた。
食事が終わるとソファーに戻り一服を楽しむ。
フェダーン様と一緒だった女性士官が俺達にコーヒーを運んでくれた。
「さて、どういうことか教えてくれぬか? あえて奪うということも選択の内と思っていたのだが」
「前にも言った通り、彼等に起動できるとは思っていません。どれぐらい帝国の遺物が残っているか分かりませんが、戦機も昔から使われていたんじゃありませんか?」
コーヒーカップ越しに、笑みを浮かべながら俺を見ていたカテリナさんが、カップを手元に置いた。
「あまり知られていなけど、リオ君の言う通りよ。帝国の生き残りが教えてくれたと言われているわ」
「そんな生き残りの人達がある程度いなければ、帝国が滅んで5千年程度で文明を復興できるとは思えません。魔道科学も彼等から伝わったはずです。
文明によって滅ぼされた彼等ですから、当然、それを再度使うことが無いように努力したと思っています。科学技術が廃れてしまったのはそれが原因の1つとも考えられます。そんな科学技術の中で彼等が最も封印したかったもの。それが搭載されている可能性が際めて高いと推測しています」
「リバイアサンの動力炉もそうなのかしら?」
「さらに危険な代物ですが、何重にも安全策が取られているのを確認しています。リバイアサンが破壊されることがあっても暴走することはありません。意図的には可能ですが、それを行えるのはアリスぐらいでしょう」
「我等では暴走は起こせぬということか?」
「俺でも無理です。ですがこの島に埋もれているヘビはそうではありません。当時の帝国は動力炉の小型化に苦労していたようにも見えます。それとも安易な小型化を図ったか……。ドラゴン・ブレスを放って土砂を取り除く最終段階で、ヘビの燃料タンクを空にしておきたい。そうでないと、着火してしまう恐れがあります。着火した場合は島はもちろん、直径2ケム(3km)を越える爆発穴が出来てしまいそうですし、20ケム(30km)以内の生物は死滅してしまうでしょう」
4人が驚愕の表情でじっと俺を見ている。
少し温くなったコーヒーを飲みながら、話を続ける。
「同じことが、遺産を手にしていた場合に起きる可能性があります。少なくとも機動実験を屋内で行なうとは思えません。定期的な観測で、監視するしかなさそうですが、機動実験により暴走させてしまった場合はその巨大な爆発痕が確認できるでしょう」
う~ん! と考え込んでいたカテリナさんが口を開いた。
「かなり危険な代物だとは理解できるんだけど、暴走しないとも限らないわよね?」
「融合にしろ分裂にしろ、制御するより暴走させる方が容易なんです。動力源として使うよりは兵器として使われる方が早かったのではと推測します」
コーヒーがいつの間にかワインに変わっている。
女性士官が運んでくれたのかな。ありがたく口に含む。
「だとすれば……、オルネア周囲にあるという魔物を回収するのは危険ではないのか?」
「分裂炉にしても融合炉にしても小型にはできません。ある程度の大きさが必要です。あの大きさでそれを作るのは不可能かと」
「魔物の動力源とヘビの補助動力……、リオ君は同じものと考えてるのかしら?」
「それを調べてみたいんですよ。それに俺が考えている物が魔物であるなら、カテリナさんの計画にも寄与できると思いますよ」
全て金属と結晶体で出来ているロボットについて話してみたんだが、カテリナさんも首を傾げるばかりだ。
案外、金属製のゴーレムだと思っているのかもしれない。
「リオ殿が安全だと考えるなら引き上げるべきだろう。だが、オルネアは生越問題がありそうだな」
「あの深さで、しかも半分泥に埋もれていますからハーネスト同盟が見逃す公算は大です。引き上げようとするなら、横槍を入れても良いでしょう。ハーネスト同盟との戦は終戦協定がなされているわけではありませんよね?」
「現在も交戦中だ。もっとも一方的に攻められたのだがな。ブラウ同盟側としてもこちらから条約を提示することはないようだ」
なら堂々と横槍を入れられそうだ。
その辺りの事前了承は、フェダーン様の役割の範疇に違いない。
「私の方は導師に再度、こっちへ来るように連絡しておくわ。それにしても急な展開ねぇ。リオ君の方だって、領地の開拓の指揮があるんでしょう?」
「あっちは、12騎士団主導の開拓団に任せるつもりです。その場にいないで口だけ出すようでは開拓団としても開拓が捗らないでしょうから」
「それが分かるなら立派な領主と言えよう。だが、話を戻すと、西への進出は急務にも思える。
ハーネスト同盟の内情は分からぬが、出遅れた場合に取り返しがつかなくなりそうだ。
隣の士官は、リオ殿は初めてだな。アイオラ少佐だ。王立学院の専攻は経済、主計として連れてきた。アイオラと協議して、北の回廊と、星の海西端の砦の詳細を詰めて欲しい」
「了解しました。兵站を理解できるなら申し分ありません」
フェダーン様に顔を向けて、騎士の礼を取る。
隣のアイオラさんは俺より年上に見えるな。さん付けで呼べば問題は無いだろう。
「生憎と専従で仕事ができない。俺達が撮影した北の画像と地図を見ながら、アイオラさんとしての試案をまとめてくれないか。俺の方も少し頑張ってみるけど、3日後の午後に結果を突き合わせてみよう」
「お願いします。それで、リオ閣下はどのような観点で回廊を作るおつもりですか?」
「騎士団が利用するとして……。それが全てだ。軍の方は軍の考え方があるだろうからね。それで整合を取れば両者とも納得してくれるんじゃないかな」
あるいは、両者とも納得しないということもあり得るんだが、それは言わないでおこう。
「おもしろそうね。私も同席して良いかしら。導師が来たら、たぶん一緒に話を聞くことになりそうだけど」
「導師の考えは是非ともほしいですね。もちろんカテリナさんもですよ。場所は……、下の小さな会議室にしましょう。マイネさんに伝えておきますから、青銅の門で名乗りを上げれば開くはずです」
フェダーン様が、少し安心した表情を見せてくれる。
やはり気になっていたに違いない。上手く回廊を作り西への足掛かりができたなら、王子として十分な功績になるからだろうな。
計画は俺達で行い、皆が見れる場所に王子がいれば問題は無いだろう。実働の指揮を執るということになるのだろうが、その後ろには工兵部隊と機動艦隊がいるはずだ。
彼等に任せて、日々状況を確認するぐらいは王子にもできるはずだ。
「帰ったよ~!」
千鳥足でやってきたのはエミーとフレイヤだ。互いに肩を組んでいるけど、そうでないと歩けないって感じだな。
その後ろを、心配そうな顔をしたローザが付いてきてるんだけど、困った姉様達だと顔に出てるんだよなぁ。
「そんなに飲んできたのか? それなら早めに寝た方が良いと思うんだけどなぁ」
「我に任せるが良い。このままベッドに連れて行くのじゃ」
良く出来た義妹だ。ありがたく頷いておく。
「エミーがあれほど飲むとは珍しいな。よほどうれしかったに違いない」
「魔石が400個を越えてるにゃ。三分の一が中位魔石にゃ」
俺達に新たなワインを運んできたマイネさんが教えてくれた。
それほど獲れるんだったら、ヘビを破壊するのを躊躇ってしまうな。このままの状態でも急に可動するとも思えないからね。
「次はリオ様の銃を借りるにゃ。私達の銃だと、近くじゃないと弾かれてしまうにゃ」
その言葉に、俺達が顔を見合わせてしまった。
やはり表皮の硬さが予想以上だということになる。
「銃弾の改良が必要かもしれないわね。獣機の使っている銃は、元々がスコーピオ対策だったから」
「俺の銃を使うと、前のようになるんじゃないですか? 固定する方法を考えないと貸せないですよ」
マイネさんが残念そうな顔をしてるけど、急に顔を上げて俺に近付いてきた。
「固定できるなら、貸してくれるのかにゃ?」
「それなら後ろに跳ね飛ばされないでしょうから、貸しますよ」
急に笑顔になって走って行ったけど、ラティを固定できるんだろうか? かなり面倒だと思うんだけどねぇ。
「リオ殿の対物狙撃銃は2脚が付いていたはずだが?」
「獣の保持はそれで十分なんですが、発射時の反動が半端じゃありませんからね。以前マイネさんは撃ったことがあるんです。かなり懲りたと思ってたんですけど……」
ポンポンとカテリナさんが俺の肩を叩く。
仮想スクリーンに獣機の銃と俺のラティを表示して見比べ始めた。
どうやら、ヒントを掴んだ感じだな。
呆れたような顔をしたフェダーン様が士官を連れて俺達から去っていく。体を向けてお辞儀をすると、軽く手を上げてフェダーン様が答えてくれた。一緒に歩いていた士官が何か問い掛けているのが気になるところだ。




