M-248 アルゴルがたくさんいる理由
目が覚めると、一緒に寝ていたはずの2人の姿が無かった。
首を傾げながら、シャワーを浴びてソファーに向かうと、フェダーン様とカテリナさんがモーニングコーヒーを飲んでいた。
「おはようございます。エミー達を見ませんでした?」
「あら、黙って出掛けたようね。既に制御室にいるはずよ。ローザ達はドックに向かったわ」
ソファーに座らずにそのままデッキに向かうと、西に島が見えた。
そういうことか……。
納得したところで、ソファーに戻り腰を下ろす。
「狩りを始めるんですね。周囲の様子は?」
「飛行機による偵察では異常は無いようだ。かなりの数がいると報告があったぞ。ロベルは早々と砲塔区画に向かったようだ。前部の4砲塔、左右の3砲塔に火器担当を配置したようだ。大型魔獣が来てもそれで十分に思える」
とはいってもねぇ……。
「一応、狩りの最中はアリスで上空に待機しましょう。そうなると、早めに朝食を取りたいところですが……」
「今、持ってきてあげるわ。マイネ達も出掛けてしまったの。2人であの狙撃銃を担いで行ったわよ」
あれを持ち出したのか?
全く困った人達だな。そうなると、マイネさん達の持ち場は桟橋の端になるってことだろう。案外、フェダーン様の軽巡洋艦からも参加者がいるんじゃないかな。
「本来なら、陸上艦と戦機で行う狩りだからな。それをドックから行えるのだから、リスクはかなり低くなる。暇な連中は見学に向かっているはずだ」
「たぶん、かなりいるんじゃないかしら? 桟橋から落ちなければ良いんだけど……」
「それは無いだろう。士官達が人員整理に向かったと報告が来ている」
士官達も見たいってことじゃないかな?
狩りより、それを見学する方にリスクがあるように思えてきたぞ。
「はい。サンドイッチにコーヒーよ。ヴィオラの周辺も探ってくるんでしょう? 早めに行かないと、終わってしまいそうよ」
「そうですね。お2人は?」
「とっくに終えてるわ。私達はデッキで見守るつもりよ」
ローザに上で見守っていると言った以上、ちゃんといてあげないとね。
コーヒーを一気に飲み込むと、サンドイッチを2個皿から取り上げ、アリスのところへと駆け出した。
『とりあえずはヴィオラの周辺を監視してきましょう!』
亜空間移動を行って、昨日のヴィオラ位置まで移動すると、音速の2倍での速さで周回してヴィオラを探す。
ヴィオラを見付けると、周囲300kmを時速500kmほどの速度で周回し、周辺の魔獣の分布を伝えた。
『トリケラの群れが2つに、サベナスの群れが1つ。狙うのはサベナスからでしょうか?』
「距離が30kmちょっとだからね。ヴィオラが解凍を始めたから、間違いなさそうだ。それが終われば、こっちの群れかな?」
サベナスよりも50kmほど離れたトリケラは8頭の群れだ。アレク達なら問題なく狩れるに違いない。
「今日は、リバイアサンも狩りを行う」と伝えたら、「健闘を祈る!」と返信が来た。
俺達だって、ヴィオラ騎士団の構成員だからね。
全く魔石を得られないんでは問題だと思うな。
急いでリバイアサンの上空2千mに移動して、様子を見守ることにした。
既にリバイアサンのドックの装甲板が開いている。まだ斜路は引き出されていないようだ。島まで2km弱だからもっと近づいてから引き出すのかな?
アリスのコクピットを抜け出して、アリスの手の中に納まる。
特等席だ。持ってきたサンドイッチを食べながら、水筒に入ったコーヒーを頂く。
出掛けにコーヒーポットから注いだからすっかり冷めてしまったけど、薄味だから砂糖が無くてもどうにか飲める。
『斜路が延びてきました』
「出てきたのは……、左右に10機ずつか。ローザ達も出てきたね。先頭に立たないから、指揮官としての役目を理解しているんだろうな」
獣機で狩れるなら、手は出さない方が良い。
後ろで銃を持って構えているだけで、獣機士達は心強いに違いない。
「ドックの中は見られないかな?」
『少し場所を移動します』
リバイアサンから、西に1kmほどの距離に移動すると、ドックの桟橋に鈴なりになった観客が見えた。
双眼鏡で眺めたら、中央桟橋の端で対物狙撃銃を構えているマイネさん達がいた。
あの大きさだからねぇ……、当たればそれなりに効果が期待できそうだけど、反動にマイネさん達が耐えられることに驚きなんだよな。
もっとも、俺のラティを持ち出さないだけマシだったか。あれを撃って、かなり懲りたに違いない。
『砲塔もうごきだしました。これで準備完了のようです』
「エミー達も見ているんだろうね?」
『まだ撃つな! とローザ様に通信を送っていました』
全体指揮はエミー達が執って、現場はローザに任せているのだろう。
島のアルゴル達に動きは無かったんだが、さすがにリバイアサンが近付くにつれ動きがみられるようだ。
とはいえ、島から逃げ出そうとはしないんだよなぁ。リバイアサンに脅威を感じないのだろうか?
水平に伸ばした斜路が島の東端に重なった時、獣機の銃が一斉に火を噴いた。
たちまちアルゴル達が逃げ出し始めたが、次の一斉射撃がその群れを襲う。4発の斉射が終わると、少しの間ができる。
カートリッジの交換を行っているのだろう。
そのわずかな時間を補うようにドック上空の連装砲塔が射撃を行う。
4砲塔と聞いていたから8発の一斉射撃だ。直ぐに次弾が発射される。
『キャノンボールのようですね。炸裂はしていません』
「それでも当たれば体が千切れってしまってる。魔石は回収できるんだろうか?」
2斉射で砲塔は沈黙したようだ。獣機が再び射撃を始めた。
『フレイヤ様から入電です。「周囲に異常が無いことを確認せよ!」以上です。現在、大型水棲魔獣の接近はありません。「異常なし!」と返電します』
「了解だ。これだけ大きな湖だからなぁ。居てもおかしくはないんだろうけど、それなら島のアルゴルの方が先に気付く気もするよ。
200を越えるアルゴルがこの島に上陸しているのは、案外この島なら安全だという事かもしれないよ」
待てよ……。もしそうだとするなら、何らかの理由があるんじゃないかな?
「アリス、この島の地下を調べられるかな? 下の狩りが一段落してからで構わない」
『振動解析をしてみましょう。プローブを3本使えばかなり正確な探査が行えます。空中から出の探査結果では、若干の重力変異と金属反応がありますが、地下鉱脈とそれほど変わりません』
それほどの異常ではないということなんだろうか?
オルネアは上空からの探査でもその存在がはっきりと分かった。それを考えると自信はないんだが、ここにアルゴルがこれほど集まるとなると何らかの原因があるとしか思い様がない。
アリスの言うことでは、それ程時間のかかる探査とも思えないし、一応やっておく価値はあるだろう。
『斜路が地表に降ろされました。解体作業を始めるようです』
ある意味、魔の時間でもある。制御室では周辺の画像を見入っているに違いない。
ローザとリンダが斜路を下りて周囲を監視している。
たぶん砲塔区画でもロベルが火器担当の連中と一緒に周囲を監視しているだろうし、監視所の人数もフレイヤが増やしていそうだ。
『少し過剰にも思えますが……』
「星の海の島で魔獣を狩るのは初めてだからだろうね。何も無ければそれでいいけど、大型魔獣でも現れたら大混乱になりそうだ」
リバイアサンに入ってしまえば、たとえ大型魔獣でも安心できるだろう。だが獣機がドックに入り斜路を引き戻して装甲板を閉じるまでの時間は15分では足りないだろう。
魔獣を倒せれば良いが、そうでなければ30分近い時間を俺とリバイアサンの片面18基の連装砲塔の砲撃で稼がないといけない。
陸上の魔獣はある程度カテリナさん達から弱点を聞くこともできるだろうが、水棲魔獣は未知の連中が多いと聞いている。
それを考えると過剰とも思える監視体制を敷いたエミーの判断は適格とも言えるんじゃないかな。
2本目のタバコの吸い殻を携帯灰皿に投げ込むころには、島で行っていたアルゴルの解体が終了したようだ。
解体で汚れた機体のままだから、斜路を上がる際にホースで汚れを落としているようだ。駐機区画に戻って【クリル】の魔法でさっぱりさせるんだろう。
斜路を汚したくないってことかな?
最後に斜路を上ったのはローザ達だった。
周囲を確認しながら、ゆっくりと斜路の奥に消える。
直ぐに斜路が引き戻され、装甲板が閉じていく。
「終わったね。かなり悲惨な状況だけど……」
『早速、掃除屋が上がってきましたよ。カニのようです』
エビとカニを合体した様な姿だ。アルゴルの大きさと比べると1mを少し超えた体長だが、カニにエビの尾を付けたように見えるな。
食べられるのか疑問だけど、肉食のようだ。大きなハサミでアルゴルをちぎって盛んに食べている。
リバイアサンの装甲板が開いて、昇降台が現れた。
何だろう? 忘れ物かな。
『あのカニを釣ろうと考えたようですね』
アリスの言葉に昇降台をよく見ると、鉄骨とウインチを使って簡単な釣竿を作ったみたいだ。
何かを下ろし始めたが、釣れるのかねぇ?
アレクがいたなら、間違いなくあの昇降台にいるんだろうな。
『そろそろ、振動探査を行いましょう』
アリスが亜空間から3本のプローブを取り出して島を囲むようにプローブを突き刺した。
最後に、島の中心を起点にして、3発のレールガンを打ち込む。
『これで完了です。振動解析を開始しました。後ほど画像をお見せします』
「何かあるんじゃないかと思うんだけどね。無ければ無いで、問題はないよ」
プローブを回収して、リバイアサンに戻る。
駐機場に戻りアリスを専用台に戻して、プライベート区画へと向かう。
「遅かったわね。ローザから魔石がたくさん採れたと報告があったわ」
「現場指揮も上手くこなしておったな。あれなら軍の部隊指揮も任せられる。もうしばらく獣機の指揮をさせたところで士官待遇で迎えよう」
フェダーン様も機嫌が良さそうだ。
ソファーに腰を下ろした俺に、ワインを注いでくれるぐらいだからね。
「1つ分からないのは、最後の貴方達の行動なんだけど?」
「あれですか! ちょっと気になったんです。あの島になぜあれほどのアルゴルが集まるのか。……それに、あれだけ集まっても大型の水棲魔獣がやってきません。
あれだけ派手に銃撃していましたし、砲撃までも加えました。当然島の周囲にも血が流れていたはずです」
「やってきたのは、あのカニだけだった……。なるほどね。何かあるとリオ君は考えたわけね」
「だが、島であろう? 砲弾が島をえぐったが、土砂の穴が開いただけであったぞ」
カテリナさんは笑みを浮かべているし、フェダーン様は疑いの眼で俺を見てるんだよなぁ。
そろそろ振動解析の結果を見てみるか。