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M-247 クジラを取り巻く遺物


 リバイアサンが星の海に入ると、フレイヤ達がソワソワしてきたように思える。

 星の海での狩りを考えてのことなんだろう。 元先任伍長のロベルも一味に加わったようだ。万が一に備えての砲塔群の待機もすることになったらしいからなぁ。

 ローザ達の狩りの話を聞いて、フェダーン様も足りない部分を補強してくれたようだ。

 全体の指揮はエミーだし、狩りの状況監視はフレイヤになったようだ。現場の指揮はローザらしいけど、隣にリンダがいるなら安心できる。

 ロベルは砲塔の傍で大型水棲魔獣の接近を目を皿のように見開いて見まもってくれるに違いない。


「まあ、そんな状況じゃから、兄様の出番はないのじゃ。いつものように偵察を続けて貰っても問題はないぞ」

 

 狩りをする島が近付いてきた夕食後のソファーでの歓談でそんな話をローザがしてくれたから、フェダーン様達は笑いを必死に堪えている。


「くれぐれも注意してくれよ。狩りだけに目を向けてはダメだからね」

「周りを見るということじゃな? それは皆から言われてしまうことなのじゃが……、我は出来ないと思っての事じゃろうか?」


「指揮官は常に冷静でないとダメなんだ。目先だけにとらわれずに常に次の手を考えてなくてはならない。魔獣と直接対峙する獣機の連中は、魔獣だけ見ているだけで良い。周囲を指揮官が見ていてくれるという安心感があればこそ、魔獣に集中できる。

 皆に言われたとしたら、誰もがそれをローザに教えたかったからじゃないかな。皆ができると思っていても、ローザがその場でちょっとした隙を作ってしまえば、死亡しなくても傷を負ってしまう獣機士がいないとも限らない。

 だからこそ指揮官は冷静を保たねばならない。何時外乱が入らないとも限らない状況で作戦通りに事が進んでいることを確認し、万が一の事態に備える。それが指揮官の役目だと思うよ」


「戦を見ずに状況を見るということじゃな? 難しそうじゃが少し離れて見ておればできそうじゃな」

「一歩離れて状況を見る。それが一番大事な事だ。それが理解できたなら、欠員を生じることなく狩りを終えることができよう」


 どうなるかは、数日後には分かるだろう。

 マイネさん達も興味深々の様子で、少し離れた場所でローザ達の話を聞いている。

 あの対物狙撃銃を再び持ち出すんじゃないかと、ちょっと心配になってしまう。


 翌日からは、ヴィオラ周辺の偵察だけだから案外気楽に星の海を探索できる。

 ハーネスト同盟の艦隊は余り速度を上げていないし、小型の船を使っているが母船となる巡洋艦クラスの陸上船の視認距離での活動だから、それ程進捗はしていないようだ。

 やはり俺達の方が先に見つけ出せる公算が強いように思える。


 そろそろ日が傾きだしたから、本日の調査を終えようとした時だった。


『マスター、かなり大きな金属反応を探知しました。重力変異もかなり大きな値を示しています』

「見付けたってことか!」

『分かりませんが、おおよそこのような形です』


 仮想スクリーンの画像に映し出された物体は、涙滴構造体を横から半分にしたような形をしていた。下部は探査できないから、涙滴構造そのものかもしれないな。

 大きさは長さ400m、横幅100m程度だ。先端部分の高さは50mほどにもなりそうだ。


「これを探していたんだろうな……。問題は、結構深い場所にあるんじゃないか?」

『水深は30m程ですが、泥に埋まっています。これでは見つけても魔道科学の力では引き上げることは困難でしょう。推定重量は100万tを越えてます』


 浮体をいくつも結び付けて、浅場に持って行くなどできるものではない。

 それに泥の中から引き上げるなんて技術は無いんじゃないか?

 その辺りの技術があるかどうかは、カテリナさんに相談ということになるんだろうが……。


「周囲に遺産が残っているかどうか確認できないかな?」

『水中に移動して、超音波探査を行ってみます』


 上空3千mから、一気にアリスが湖にダイブした。

 盛大な水柱を上げるのかと思ったら、スポッ! と言う感じでほとんど水柱が上がることも無いようだ。大きな物体の周囲を数kmに渡って探査を行い、再び上空に舞い上がる。


 探査結果が仮想スクリーンの画像に表示されるといくつか気になる物体が散在していた。

 カタリナさん達へのお土産はこれで十分だろう。急いでリバイアサンへと戻ることにした。


 駐機場の離着陸台が展開してあった。既に真っ暗だな。駐機台が少し明るく見えるのは月が出てきたのかもしれない。


「遅くなる時には連絡が欲しいにゃ」

「申しわけない。ちょっと面白いものを見付けたんで調べていたんだ」


 俺の弁明も、マイネさんにはどうでも良い話に違いない。食事に遅れる理由にはなアないと思っているんだろうな。

 それでも、きちんと食事の用意をしてくれるんだから、困った人物だと思われているんだろうな。

 マイネさんにぺこぺこと頭を下げながら食事を始めたんだが、やはりマイネさん達の料理の腕は一流なんだろう。

 どの料理も美味しく頂ける。それに結構なボリュームもあるから、夜食を取る必要も無いんだよね。


「コーヒーをお願いするよ。ワインは後で頂くつもりだ」

「ソファーに運ぶにゃ」


 食事を終えると、皆が集まっているソファーに向かう。

 フェダーン様とカテリナさんは仮想スクリーンの画像を眺めているし、フレイヤ達はローザと一緒に狩の相談らしい。


「遅かったのう。それで獲物はおったのじゃろうな?」

「200は越えてるんじゃないかな。適当に撃っても当たると思うよ。今日の島の様子はアリスが記憶槽に映してあるから、偵察画像のファイルにあるはずだ」


 直ぐにフレイヤ達が画像を探して熱い議論が始まった。

 やる気満々だな。たくさん手に入れて欲しいんだけどね。

 マイネさんからコーヒーの入ったマグカップを受け取り、タバコに火を点ける。

 フェダーン様達は画像を眺めて話し合っていたが、俺が帰ってきたことにようやく気が付いたようだ。


「御苦労。リオ殿おかげで、回廊の砦をどこに作るか検討することができる。ありがたく使わせてもらうぞ」

「それは構いませんが……。カテリナさん、見付けましたよ!」


 音がするくらいの勢いで、カテリナさんが俺に顏を向けてきた。


「どこに! 何を!」

「位置は、ここです。見付けたのはこんな物なんですけど……。水深20スタム(30m)の湖底の泥に埋もれています」


 仮想スクリーンを2つ作って、星の海の地図を表示して場所を光点で示す。リバイアサンの位置も表示してあるから、おおよその位置関係は分かるだろう。


「ハーネスト同盟の調査艦隊は?」

「この辺りですね。彼等に見つける手段があるとしても、今年中に見つけることは出来ないでしょう」


「南北に3往復は必要だろうな。それで埋まっていたのはこれになるのか……。かなりの大きさだが、『オルネア』と考えて良さそうだな」

「間違いないかと……。後はハーネスト同盟の調査艦隊の魔導師がどの程度の能力を持つかということになりそうね。湖底の泥の中なら、ある程度の能力があるなら見付けることができるかもしれないわ」


 これを見付けることができるのか?

 湖底を箱眼鏡のような物で覗くとしても、透明度が問題だ。30mとなると、真っ暗になるんじゃないか?

 ソナーのような物があるんだろうか?


「後学のために教えてください。どうやって彼等はこれを見付けるのでしょう?」

「道具を使うの。後は自らの感覚を研ぎ澄ませることになるのかしら? 私はやったことがないけど、ガネーシャと一緒にいる魔導士の中にできる者もいるはずよ」


 こんな道具、と言って新たな画像が現れた。

 聴診器と木製のハンマー、それに太いカギ型の針金だ。どうやって使うか、皆目見当がつかない。

 

『ハンマーで船殻を叩き、湖底からの反響音を聞き取るということでしょうか? 針金は手に1本ずつ持ってその開き具合を確認すると……』

「さすがはアリス、その通りよ。結構当たるのよね」


 何か神掛かりな代物だが、この世界は魔道科学の世界だからなぁ。それで見付けられるのなら問題はないんだろう。


「とは言っても、これだけの大きさだ。見付けられても引き上げることはできまい」

「それが唯一の救いね。でも安心はできないわよ。この物体の周囲に壁を作り中の水を抜けば直接探査ができるわ。時間が掛かるかもしれないけど、可能な技術よ。

 それに、水中活動は獣機でも可能だから見付けて10日も過ぎればこの画像位の情報は得られるかもしれないわね」


 獣機が水中活動ができると初めて知ったけど、カテリナさんの話ではかなり一般的な話らしい。港の桟橋工事や沈没した船の回収などで活躍しているとのことだった。


「直ぐには無理でも、10年以内には手に入れることができるということか……」

「それと、もう1つ。この画像を見てください。水中での探査結果ですが、いくつか気になる物を見付けました。これとこれ……、これもですね」

 

 水中での超音波探査結果をカラー画像で表示する。

 青黒い画像の中に一際大きく映っているのがオルネアなんだが、その周囲に赤く映った物体がいくつか散在していた。


「オルネアが従えていたという魔物ではないかと……」

「可能性は高そうね。これなら引き上げられそうだけど」


「調査艦隊の北上速度を考えると、ここまでやってくるまでにかなりの時間が掛かるでしょう。その前に、これだけでも回収しませんか?」


 2人が目を見開いて俺に顏を向ける。

 できない話じゃないんだったら、俺達で回収した方が良いに決まている。


「リバイアサンの獣機で可能なのか?」

「獣機は元々が多用途用だから問題はないわ。引き上げるクレーンはベルッドに頼めば作って貰えそうね……」


 戦機輸送艦に簡易クレーンを取り付けて、斜路を水平に伸ばして対応するようだ。

 何となく出来そうに思えてきたが、獣機を使うよりはアリスで行った方が良いように思える。星の海には大型の水棲魔獣も生息しているのだ。襲いかかってくる可能性だって全くないわけではない。


「伝説の魔物を見ることができるのね。老師にも教えてあげた方が良いかしら?」

「後で小言を言われかねないな。連絡を送れば飛行船でやってくるだろう」


 絶対に来るだろうな。

 ローザ達の魔獣狩りの観客が、1人増えるぐらいに認識しておけば良いだろう。


246と247が同一であったことをお詫びします。

前作を見ながら執筆しているので間違えてしまったようです。246の投稿内容を変更しましたのでご確認ください。


★ ご指摘頂きました皆様に感謝いたします。今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] おはよう御座います。 前話と同じ話が投稿されていますよー
[気になる点] 同じ話が2回にわたってアップされてます
[良い点] いつも楽しく読んでいます。 [気になる点] 今回のお話が前話と同じになっているように見受けられるのですが・・・
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