表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/391

M-242 帝国の遺産


 アリスに乗って久し振りに空を駆ける。

 ヴィオラはもう1日あれば大河に着きそうだ。ヴィオラの進行方向を中心に500kmを入念に調査して、魔獣の状況を伝えた。


『レイドラ様から御礼がありました。渡河は昼過ぎになるようです。浅瀬付近には魔獣がおりませんから、問題はないでしょう』

「さて、今度は星の海を見て来るか!」


『朝食には戻らないといけませんから、高度を上げて速度を上げます!』

「1往復ってことかな? 初日だからねぇ……」


 アリスが高度を上げる。それまでは高度3千mだったが、その倍を遥かに超えているな。

 音速を越えて西に向かった俺達の眼下には直ぐに星の海の湖沼群が見えてきた。

 だんだんと湖が大きくなり、やがて巨大な湖が姿を現す。

 小さな島があちこちにあるから、深さはそれほどでもないんだろうけどね。


『やはり、調査は続けているようですね。5隻ですし……、高度を下げます』

「やはりちょっと変わってるね」


 前に見た調査船とは少し形が違ってるんだよなぁ……。


『武装強化でしょうか? 巡洋艦を改造したようですね。違和感はあの砲塔のようです』


 巡洋艦の躯体はそのままだがブリッジが少し前に移動している。大きさっも小さいのはトップヘビーを軽減しようとしたのかもしれないな。

 前部甲板に砲塔が3つある。その砲塔は3連装だった。巡洋艦に3連装砲塔は大きすぎるのだろう。艦砲そのものは駆逐艦の艦砲を使っている。

 魔獣相手なら、弾数は多い方が良い。それに巡洋艦並みの口径20cmクラスは牛刀だからな。選択は正解だと思う。


『後甲板の形も変わっています。たぶん水陸両用車を収容するためと推察します』

「前の形よりは進歩したということかな? 魔獣に大破された艦もあったからなぁ」

『優秀な設計技師がいるようですね。現在のところ、あの艦隊だけのようです』


 とは言っても、星の海は広いからなぁ。もう1、2個艦隊が活動していてもおかしくはない。


「今日は、これぐらいにしよう。とりあえず様子見だからね」

『了解です。このままリバイアサンの駐機場に亜空間移動を行います』


 グニャリと周囲の空間が歪むと、俺達はリバイアサンのアリス専用の駐機台に具現化していた。

 アリスから下りて、プライベート区画へと向かう。時刻は8時を少し過ぎた頃だから、どうにか朝食には間に合うだろうし、俺の仕事は当座は無いはずだ。


 プライベート区域の2階に上がると、テーブルに皆が付いている。

 朝の挨拶をしながら席に着くと、直ぐにマイネさん達が朝食を運んでくれた。

 丸いパンに、カリカリに焼いたベーコン、果物が数切れとマグカップにたっぷりと入ったコーヒーだ。

 さすがにマグカップは俺だけみたいだな。小さなコーヒーカップとスープカップが隣のフレイヤのトレイには乗っている。


「ヴィオラの方は、昼過ぎに大河を渡るようだ。渡河地点の周囲に魔獣はいない。その後は東に向かうんだろうが、当座は魔獣とは出会わないだろうな。

 日が傾くころに再度出かけてくる。ヴィオラが狩りを始めるのは明日になりそうだね」


「我等はこのまま北上じゃな? それなら進行方向の偵察も頼むぞ」


 ローザは早くに狩を始めたいようだけど、相手がいないと狩りにはならないからねぇ。


「しばらくは安全、と言うことでしょうか?」

「少なくとも大河を越えるまでは魔獣の姿を見ないだろうけど、監視所には配置しておいてくれよ」


「その点は抜かりないわ。3交替で監視をさせているから」


 フレイヤがフォークに大きなイチゴを差したままで俺に答えてくれたけど、力説するからフォークを振り回してるんだよなぁ。

 次もヒルダ様に作法の指導を続けて貰った方が良いのかもしれない。


 朝食を終えると、マグカップを持ってデッキへ向かう。デッキに出したベンチに腰を下ろしてタバコに火を点けた。

 まだ風の海と呼ばれる地域だが、王都と比べてだいぶ涼しく感じる。

 

「出掛けて来るわ。昼は向こうで頂くから!」


 デッキの扉を開いてフレイヤが俺に声を掛けてくれた。軽く手を上げて了解を伝える。

 後ろを振り返ると、ローザ達も席を外している。

 残っているのは、カテリナさんにフェダーン様の2人だった。


 マグカップを持って中に入ると、テーブルを片付けていたマイネさんにマグカップを手渡す。

 いつの間にか、ソファーに移動していたカテリナさんが俺に手を振っているのが見えた。

2人に対面したソファーに腰を下ろすと、カテリナさんが星の海の状況を聞いてきた。


「いましたよ。今画像を出します……」


 プロジェクターで仮想スクリーンを作り、星の海の偵察コースと、発見位置を地図上に示した。

 もう1枚仮想スクリーンが開いたのは、アリスが手助けしてくれているのだろう。

 上空からの画像が映し出されている。


「だいぶ、南だな。これからが本番なんだろう。艦隊の進路は?」

『時速12スタム(18km)で北上していました』


「5隻は多いわね。やはり懲りたということかしら?」

「俺もそう考えました。大きさは巡洋艦クラスです。この3つの砲塔が面白いでしょう?

「3連装か……。巡洋艦だとすれば、この砲塔は駆逐艦の艦砲を3連装にしていると見える。船尾の甲板は何も置かぬか……。飛行機の離発着用に使えそうだ」

『後部を良く見てください。ハッチと推察しました』


「この大きさのハッチでアレアかなりの大きさがありそうだな……。ハーネスト同盟は、本腰を入れているようだ」

「あれだけあっても、調査を止めないということ? やはり、何か掴んでいるようね」

 

 カテリナさんの言葉にフェダーンさんが厳しい目で仮想スクリーンを眺めながら頷いた。

 

「もう1つ気になるのは、艦隊の数です。ごらんの通り、5隻の巡洋艦クラスで艦隊を作っているようですが、星の海は広大です。午後の調査で、もう少し広範囲に調べてくるつもりで入るんですが……」

「巡洋艦5隻は、それだけで規模が大きい。さすがにもう1個艦隊を作るのは疲弊に繋がりそうだが……。やはり調べてみる価値はありそうだな。よろしく頼んだぞ」


 マイネさんがコーヒーを運んできてくれた。

 朝食を終えてから1時間以上もここにいるからね。ありがたく頂いて、俺とカテリナさんはタバコに手を伸ばす。


「導師の方は、あれから調査が進んでいるのだろうか?」

「人? それとも帝国の遺産?」

「後者だ。隠匿空間とリバイアサンと続くとなれば、もう1つや2つはあるに違いない。同じような品であるなら、見付けたとしても使うまでには時間が必要であろうし、パルケルス本人ではなく弟子ともなれば、それを動かすのは至難の業となろう。だが、どれほどの脅威となるかは知っておきたいところだ」


 たぶんキーとなる発音が出来ないんじゃないかな?

 あの起動キーとなる言葉は、アリスが俺を使って発音した様なものだ。俺自体で発音をすることが出来なかったのが正直なところだけど、それが動いた後は現在の言葉でも動くようになっている。

 そういえば、導師が思考でも可能だと言っていたから、案外発音しなくても思念を向けることで起動キーとなることも考えられる。

 だとすれば、俺でなくても明確な思念を発することができるものなら、起動だけはできそうだ。


「あら? 何か気が付いたのかしら」

「帝国の遺産ですけど、場合によっては思念だけでも起動する可能性がありそうです。やはりレースには勝った方が良いかもしれません」


「隠匿空間の出入りは、導師が思念でも可能だと言っておったな。だが、そうなれば明確な思念を送らねばなるまい……。パルケルスの弟子達か! 読み解くことができるやもしれん」

「結構、仮定が多い話ね。仮定を1つ入れると信頼性が半減するわよ。とはいえ、無いとは言えなくなるわね」


 万が一に備える必要がありそうだ。だが、備える相手は特定したいところだな。

 隠匿空間のような防御一方の施設であるなら実害はないが、リバイアサンのような機動性のあるものとなると面倒な事になる。

 ドラゴンブレスや反応兵器辺りを持ち出されたら、陸上艦などまるで役に立たないだろう。


「帝国の遺産を西に向けてくれたなら、なんの問題はないのだが……」

「無理でしょうねぇ。新たな土地よりも既に開発されている土地が欲しいようね。王族を煽っている貴族の資質かもしれないわ」


 新たな土地を開発するとなれば、かなりの資材を投入することになるだろうし、魔獣のリスクも無視できないということなんだろうが、それを隣国に求めるというのも問題があり過ぎるな。

 だが、何度もブラウ同盟と争っているんだから、その損害もかなりの額に達しているように思える。

 開発費用をとっくに超えているんじゃないのかな?


「もう1つ気になるのは、ハーネスト同盟が西に向かわないことです。あの大きなナマコやムカデなら、同盟艦隊で阻止することは可能でしょう。サーゼントス王国は復興できるかどうか危ぶまれますが、その原因となったのはレッド・カーペット員合わせてブラウ同盟の版図に侵攻しようと戦力を東に集めた為だと思っています」


「いるんでしょうね……」

「まだ見ぬ魔獣と言う奴か? それほど恐れる魔獣となれば情報があるはずだが、そのような情報が無いのも気になるな」

 

 使節団や商人達の出入りは現在制限が掛かっているようだ。それにサーゼントス王国の内乱に介入した残りの2王国のせいで、ハーネスト同盟内部が厳戒態勢らしい。

 ある程度潜ませていた諜報員も摘発されたみたいだし、残った連中も情報を持たせる相手がいなくなっているからなぁ……。


「せめて、動物なのか虫なのかぐらいは知りたいところですね」

「虫? 魔獣とは限らないってことかしら」


「ええ。スコーピオに大ムカデ……。他にもいるんじゃないかと思ってます。単体ならそれほど脅威でなくても、数が多くなれば全く別物ですからね。スコーピオで良く分かりました」


 導師も調査したらしいのだが、途中から弟子探しに翻弄されたみたいだ。

 再度、神殿へ調査をお願いしたいところなんだけどねぇ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ