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M-024 本は雑貨屋で購入


「リオの潜在意識だけで、空間魔法が発動したと?」


 長いカテリナさんの説明をアレクが要約してくれた。その説明だけで、タバコを1本吸い終えたぐらいだ。

 だけど皆が真剣に聞き入っていたんだよな。それだけ説明が上手いということになるんだろう。


「リオ君の体には、誰がやったかわからないけど高位魔石が何個も埋め込まれた形跡があるの。それでいて体に傷跡が無いんだから不思議な話よね。

 殺人未遂で提訴したいくらいだけど、本人はあまり気にもしていないようね。

 その魔石がリオ君の思いで動いたと私は考えているわ。でも呪文を使っていなかったから、ある意味暴走ということになるんでしょうね」

「場合によっては、二度と起き上がることも、……いや、そのまま消滅したかも、ということですか?」

 

 アレクの言葉に、カテリナさんがニコリと笑顔で頷いた。

 思わず背筋が寒くなった。行動は慎重にしないといけないということなんだろうが、そんなことを一々気にする性格じゃないからな。


「その他にもいろいろと秘密がありそうだから、ヴィオラの船医になったのよ。乗員も増えたぐらいだから、娘も喜んでるわ」


 そう言って、俺の持っていた携帯灰皿に吸殻を捨ててブリッジに歩いて行った。

 ほっと息を吐いて、アレク達の様子を眺めたんだが、あまり良い表情ではないな。


「確かに危険な行為であったことは確かなんだろう。だが、そのおかげでソフィーが助かったことも確かだ。それより、娘も喜んでいるとは?」

「ドミニクのお母さんと言ってましたよ」


 アレクが飲みかけていたワインを噴き出している。

 やはり驚くよなぁ。


「確か王宮魔導師の1人じゃなかったか。娘の船とはいえ、よくもヴィオラに乗船したものだ」

「リオに興味ありそうだったな。少なくとも娘の騎士団の一員なんだから、あまり違法行為は起こさないとは思うが、一応注意しておくんだぞ」


 アレク達の驚きは、カテリナさんが若い姿というのではなく、魔導師であるということにあるらしい。

 ヴィオラにだって、魔導士の資格を持った連中がたくさんいるのだが、魔道師と魔導士ではどんな違いがあるんだろう? その内、本人に聞いてみるか。


「話は変りますけど、今度は船尾で待機と聞きましたよ」

「少し眺めが悪くなったが、荒野では前も後ろも大して変わらんからな。前の2倍ほどの広さがある。それに今度は木箱ではなく、テーブルとベンチがあるぞ」


 アレクの「出掛けるか!」の一言で、俺達は待機所に向かうことにした。フレイヤは自分の持ち場に向かうらしい。

 新しい陸上艦だから、いろいろと設備が増えているのだろう。早めに慣れることも大切だ。


 操船楼の4階にある船尾デッキが俺達の新たな溜まり場だ。出入り口に小さな屋根があると思っていたら、どうやらその屋根が最上階の監視区画を取り巻くデッキになっているようだ。

 3mほど張り出しているから、雨が降ってもその下にいられる感じだな。

 

 デッキにはテーブル席が3つもある。一番外側の大きなテーブルをアレク達は専用化したようだ。少し手前のテーブルは4人が丁度というところだ。操船部や、監視部の連中が休憩に利用するのかもしれない。

 雨が降っても屋根があるから、ここで過ごすのも良いかもしれないな。


 大きなテーブルにはベンチが3つも置いてあった。1つに3人は腰を下ろせるから、騎士がまだまだ増えてもだいじょうぶということになる。

 アレク達が腰を下ろしたところで、1つ空いたベンチに腰を下ろした。腰のバッグからワインを6本取り出していサンドラに手渡しておく。1人6本が基本だが、いつも飲んでいるからね。早めに渡しておこう」


「気が利くな。シレイン、カップを頼む」

「王都で、グラスを買って来たのよ。やはりお酒の色も楽しまなくちゃね」


 バッグから小振りのカットグラスを取り出しているが、かなりの数を買ったみたいだな。2個ほど分けて貰えないかと聞いてみたら、小さな小箱を渡してくれた。


「部屋で飲むんでしょう? これは私達からよ。中位魔石を頂いたお礼になるわ」


 そういうことか。恐縮しながらありがたく受け取ることにした。やはりシェラカップでは味気ないんだよな。


「船尾とはいえ、基本は同じだ。監視部が周囲を警戒しているとは言っても、見落としはあるかもしれない。荒野でちょっとした不注意が騎士団を壊滅させることもあるのだ」


 グラス片手でなければ説得力があるんだけどねぇ。カリオンも苦笑いをしている。

 アレクの話では陸上艦が大型化した分、武装も強化したらしい。

 それに、この陸上艦は軍の試作巡洋艦ということだ。通常なら2つの魔道機関を3つ搭載して速度を上げる実験艦だったらしい。


「確かに速度は上がった。だが軍ともなれば1艦だけでの行動など考えられないからな」


 そんなことから、早々に競売に掛けられたらしい。


「今でも3つ乗せてるんですか?」

「邪魔なだけということで、2つに戻したらしい。とはいえ前よりも大型だ。そうしないとこの大きさだから、海賊の襲撃を受けた時よりも速度が出せん」


 大型艦の良し悪しということなんだろう。個室を貰えただけでもありがたく思わなければいけないな。

 アレク達にも農場での暮らしを話すと、嬉しそうな表情でグラスを傾けている。それならちゃんと帰ってあげればいいんだろうけどね。

 銀時計を貰ったことを告げると、ポケットから同じような時計を取り出した。


「親父の形見はこれなんだ。リオが貰ったのは親父がシエラ母さんに渡したものだ。大切に使えば長持ちするぞ」


 シエラさんが渡したものなら、それでいいとアレクが頷いている。

 ありがたく使わせてもらおう。


 夕食前に、フレイヤが俺を誘いに来る。

 アレク達はもうしばらく飲んでいるみたいだから、誘いに応じて甲板に向かった。

 夕暮れの太陽が前方の城壁を照らしているから眩しいくらいだ。


「私のところは3人増えたから、当直の人数が1人増えたわよ。でも、小型の大砲を2門受け持つことになったわ」


 大砲と言っても、口径は2セム(3cm)ほどらしい。補助の大砲ということらしいが、後装式らしいから、砲撃間隔は狭くなりそうだ。獣機の持つ2連装の長銃モドキと同じ品なのかもしれない。

 とはいえ、ファルコのような大型の鳥には役立ちそうだ。フレイヤの話では、今までは隠れることしかできなかったらしいからね。


「リオの部屋に行っても良いかしら?」

「フレイヤならいつでも歓迎するよ」


 テーブルには2個椅子があったから、たまに2人で飲むのも良いかもしれない。

 食後のワインの代わりの貰ったお茶を飲みながら、迫りくる城壁を眺める。

 高さは30mを超えるかもしれないな。奥行きも少しは見えてきたんだが、10mは軽く超える感じだ。 まさに北の長城の名を辱めない建築物ということになるだろう。


 城壁をくぐるころに夕暮れが終わりを告げた。城壁の北にも農場があったからしばらくは同じような景色が続くに違いない。

 フレイヤに片手を振って自室に向かう。まだ本格的な旅は始まっていないから、夜の見張りもしばらくは見合わせているのかもしれない。


 3階に下りて自室の鍵を開ける。

 殺風景な部屋だけど、クローゼットの横にある棚には、銀板の写真が置いてある。皆笑顔だから、見てるだけで元気が貰える感じがするな。

 部屋の明かりは、魔石を使用したもののようだ。かなり明るいから、本を手に入れられるなら読書を楽しめるだろう。

 手に入るまでは、デッキに出て酒を楽しめば良い。


 ウエリントン王国の北の城壁を抜けて2日目。ヴィオラの進む方向が北から北東に変化する。

 どうやら、工房都市に寄り道するらしい。水と生鮮食料の補給をするとのことだ。

 そうなるとかなり遠くまで出向いて狩りを行うということになるんだろう。


「酒とタバコは用意しといた方が良さそうだな。携帯食料も少しは補給しとくといい」

「そうですね。個室ですからいくらでも買い込めそうです。ところで、本はどこで買えるんでしょうか?」

「それなら雑貨屋ね。工房都市にはいくつか雑貨屋があるから、入港手続きの時に確認しとくと良いわ」


 サンドラが親切に教えてくれた。軽く頭を下げて礼を言う。

 親しき中にもというぐらいだからなぁ。仕事以外のことを教えてくれた事には、きちんと礼をしておけば向こうも悪い印象は起こさないだろう。

 

 工房都市への到着は夜半になってしまったが、出発は翌日の昼過ぎということだ。

 翌日。フレイヤを誘って雑貨屋へと向かったのだが、かなり場末な場所にある店なんだよなぁ。

 隣の店と50mは離れている感じだ。中に入ってみると、薄暗い中にも品揃いは豊富に見える。

 フレイヤがマイカップを選んでいるようだけど、俺達2人をニコニコしながら見ているネコ族のお姉さんに本の置いてある場所を教えてもらった。


「いろんな本があるにゃ。どんな本が欲しいのかにゃ?」

「そうだね。なるべく長いのがいいな。神話みたいなものもいいね」

「ちょっと待ってるにゃ」


 俺にそういうと、奥のカーテンの向こうに行ってしまった。

 てっきり、本棚に並んでいるのかと思ったけど、この世界では本は貴重品ということになるのだろうか?


「これとこれがいいにゃ。神殿の昔話を集めた本と、旅行記にゃ。特に旅行記は長いにゃ」


 そう言いながら本の末尾に畳んであった紙面を広げたんだが……、確かに長い。俺の身長位あるんじゃないか?

 長いのが良いとは言ったけど、こういう意味ではないんだけどなぁ。だけど周辺王国の情報が分かれば、案外掘り出し物かもしれないぞ。

 本の値段は2冊とも銀貨2枚ということだから、やはり高価であることに変わりはない。

 とりあえず2冊あればしばらくは楽しめそうだ。

 ワインとタバコの予備、それにフレイヤが選んだマイカップの支払いを行う。

 

「本が売れたのは2年ぶりにゃ。これは買ってくれたお礼にゃ」


 お姉さんが、本の上に薄手の雑誌のようなものを乗せてくれた。何と、サンドラが見せてくれた荒れ地の生物図鑑じゃないか!

 一応、アリスがスキャンしてはいるんだが、やはり手元にあった方がいいと思っていた品なんだよね。


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