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M-239 実験をしてみよう


 ビーカーにレモン汁を入れて銅板と亜鉛板を入れる。

 10個ほど並べたところで、銅線を亜鉛板と次のビーカーの銅板にどう線で繋ぐ。10を直列にしたから、結構な電圧が取り出せるに違いない。


「最後に、この亜鉛から出た動線を銀貨に繋いで、この水槽に入れるんだ。気体が両方の板から出るはずだから、誰か水槽に試験管を入れて、その気体を集めてくれないか?」

くれぐれも、水中で金属板を接触させないでくれよ」


 男性2人が出てきた細かな泡を試験管に集めてくれた。

 片方の試験管水が8分目ほど無くなったところで、水槽の金属板に繋いだ動線を外す。


「そのまま親指でしっかりと押さえて取り出してくれ。さて、これから起きることは皆が初めて目にするものだ」

 

 タバコを2本取り出して火を点けた。

 1本をカテリナさんに持って貰い、残った1つを気体の量が多い方の試験管に近付ける。


「親指を除けてくれ。……よく見といてくれよ」


 タバコを近づけると、勢いよく燃え出した。

 「「オオォォ」」と学生の感嘆の声が聞こえてくる。


「次はこっちだ。あまり近づかないでくれよ」


 試験管にタバコを近づけながら指を離させると、ポン! と小さな音がした。


「破裂いえ、爆発したの?」

「ええ、極めて厄介な気体なんです。前に話しましたよね。空気より軽い気体を知っているかと? これがその気体なんです」


 カテリナさんが驚いたような表情で俺に顔を向けた。


「それじゃあ、あの飛行船の気嚢に入っているのはこの機体なのかしら?」

「違います。これは活性が高いんですが、飛行船の気嚢に入っているのは不活性気体ですから、こんな反応はしないんです。とはいえ、これよりも重いのが難点なんですけどね」


 飛行船の気嚢に水素を使ったなら、もっと搭載量を増やせるに違いない。だが、少しでも漏れたりしたら、簡単に着火してしまう。

 やはり水素は材料の1つとして使うべきだろう。単体利用は不活性化してからのことだ。


「さて実験はこれで終わりになる。これでいくつか分かったことがあるはずだ。少し整理してみるか?」


 黒板をカテリナさんが用意してくれた。

 簡単な実験を学生がイラストで描いている。

 電池と電気分解、それに出てきた気体が2種類。さて彼等はどんな知見を得たのかな。


「先ずこの仕掛けを説明して頂けるとありがたいです。どうもこれが原因であのようなことができたと思っている次第……」

「それは電池というものなんだ。極めて単純だが……。先ほど水中に沈めた銅板を持って来てくれないか……。これがその銅板だ。銀色に光ってるだろう? これは銅板の表面に薄い銀の被膜が出来たためだ。ナイフで削れば直ぐ地金が出てくるから表面だけだと分かるはずだ。

 ではその銀はどこから来たのか……。この銀貨からになる。量っても重さの変化はないだろう。それほどまでに薄い皮膜だからな。

 このように、この電池を使うと、こちらの板の材質、元素と言った方が良いかな。元素がもう片方に移動する。

 この時微細な泡が出たはずだ。片方は良く燃やすことができるし、もう片方はバウ発した。性質が異なる気体はどこから出たと思う?」


「金属板ということではありませんよね。となると……水から出てきた」

「それが正解だ。この2つの気体の元素が結びついて水になっている。だから水は凍りになるが単なる元素ではない。この2つの元素が固く結びついて作られたもの何だ」


「すると氷は?」

「2つの元素が結びついたものの動きが止まった状態だ。それが動き出すと水になり、更に動きが激しくなると水蒸気になる」

 この2つの元素が結びついた状態、これを分子と呼ぶことにしよう。分子の大きさは、その化合物によって大きさが変わる。それが動きだしている状態で、他の分子も同じように動けるなら、水に溶けるということになる。溶けない場合はその分子の集まりの中で動きが制限されてしまうということになる」


「元素と分子、化合物……。色々と考えることが増えてしまいました」

「学問には終わりが無いってことだな。調べれば調べるほど疑問が増えていく。その疑問を系統的に考えることも必要だと思うな」


 新たにコーヒーが運ばれてきて、今の実験結果の総括が始まった。

 カテリナさんが満足そうな表情で笑みを浮かべて俺に顏を向けてきた。


「あの電池だけど、リオ君は魔道機関で発電機を作ったわよね。それならそっちの方が大量にガスを集められるんじゃなくて?」

「あの発電機だけでは駄目なんです。あれは交流という種類の電気なんです。この電池は直流と言って少し性質が異なるんです」


 直流は一定方向に電流が流れるけど交流は正弦波になって電流の向きが変ってくる。電気分解は出来ないんだよね。、

 

「直流発電機機も作れるんですが、交流には交流の良いところもあるんです。通信機には直流を使いますから、整流回路を作って直流に直しているんですが、電池のように安定した電圧にならないんですよね。そこは別の方法で強制的に一定にすることになるんです」


 咥えタバコで席を立つと黒板に丸を1つ描いた。


「これが水素だ。この水素原子の周りには小さな電子と言うものが1つ回っていると考えてくれ。こっちは酸素の原子だ酸素の周りにもいくつか電子が回っている。何故回っているかは俺には分からん。これは物理学の世界だからね。だが、化学を知る上では重要な事だ。

 酸素の周りの電子の数は8個だ。ここに2個、その外側に6個が回っている。ここで重要なのは、この軌道には8個の電子が入る余地があるんだ。

 すると、足りない電子を互いが欲しがることになる。

 単純に考えれば水素には腕が1本、酸素には腕が2本あるってことになる。互いに握手をするためには、酸素の両腕に水素が1個結びつくことになる。この握手を先ほどは電気で強制的に解除した。だから、酸素の方の量が少なかったことになる」


「他の物体でも同じなんですか?」

「基本的にはそうだ。塩はナトリウムと塩酸が結びついたものだよ」


「ちょっと待ってください。そうなると元素の種類によって持っている腕の数は異なるということになるんでしょうか?」

「その通りだ。これも実験で試すことになるんだろうね。色々と思考実験を繰り返すことになるんじゃないかな? だが、危険でもある。場合によっては人体に有害な物質を作りかねない。実験データーは常に共有しておくことだ」


「それにしてもおもしろいわね。元素によって周りの電子が違うなんて?」

「もっと面白いことを教えましょうか? この元素ですけど、もっと小さくすることができるんです。基本は水素でも良いんでしょうが、陽子という電子の反対の性質を持った物質がこの正体です。水素原子には陽子が1つ、酸素原子には陽子が8つ。この容姿の数で元素が異なるんですから世の中は案外単純ですよね」


 中性子なんてものもあるけど、それは彼等が発見してくれるんじゃないかな?

 化学反応だけなら、それ程危険性は無いだろう。実験に失敗しても部屋1つで何とかなるだろうが核物理辺りの実験になると、王都が吹き飛びそうだ。

 その前に、何とかして止める方法を考えねばなるまい。

 禁忌というわけではないんだが、平和利用よりも兵器として使われそうだ。


「化学が発展すると錬金術まで可能になるのかしら?」

「無理でしょうね。それが可能になるには帝国の科学力でも到達できなかったと思っています。全く別の元素から他の元素を作るということですから、必要なエネルギーは膨大なものになってしまいます。

 とはいえ、カテリナさんがその光景を毎日見ていることは確かですよ。

 太陽こそ、錬金術を行っている最たるものですからね」


「太陽?」

 

 カテリナさんだけでなく学生達も、意外なことを聞いたような目をして俺に顏を向ける。


「ええ、太陽こそ最大の錬金術師でしょうね。カンニングをしたとしても、それを理解できるまでにどれぐらい掛かるか分かりませんが、この世界、いや星の世界を含めてすべての元素を作ったのは太陽、あの太陽ではなく別の太陽、星と言った方が良いのかもしれません」


「星は太陽だと?」

「かなり遠くにあるんです。その距離すら想像もできないようなくらい遠くです。だいたい、あの太陽までどれぐらいの距離があると思っているのかな?」


 考え込んでしまったぞ。遠いとは思っているんだろうが、その距離を知っているのは俺とアリスぐらいだからなぁ。距離もそうだけど、大きさだってとんでもない代物だ。

 科学的な知識がほとんどない連中だけど、どれぐらいの想像力があるのか楽しみだ。


「僕が思うには……。光と熱を感じるのですから、それ程距離は無いのだろうと思ってます。焚き火から離れれば離れるほど焚き火の熱を感じませんよね。そう考えると、10ケム(15km)以内ではないかと……」

「焚き火の熱よりは高そうだ。それにあの明るさも考慮しないといけないだろう。その倍はあるんじゃないかな?」


 いろんな意見が出て来るけど、最大でも100ケム(150km)と言うところだ。ちょっと悲しくなってきた。


「結果だけを教えよう。これは物理を応用する天文学として学ぶべきことなんだが、この大地は球体であることは知ってるよね。直径で比較すればおよそ110倍だ。重さなら33万倍になる。

 中心温度はおよそ水の沸騰温度の10万倍、表面温度は数十倍と言ったところだ。鉄は沸騰点の15倍程度で溶け出すよ。それよりも遥かに高い温度なんだ。

 近くにあったなら、この大地は蒸発してしまうんじゃないかな。距離が離れているから温かいで済むことになる。

 その距離だが、およそ1億ケム(1.5億Km)。太陽を発した光がここに届くためにおよそ8分掛かる。俺達が見ている太陽は8分前の太陽と言うことになるんだが、理解できてるか?」


 呆然とした表情で聞いているから、思わず問い掛けてしまった。

 カテリナさんまでポカンと口を開けてるんだよなぁ。もっと近いと思ってたに違いない。


 脱線しながら化学の質問に答えていたんだが、やはり周期表を教えておいた方が良いのかもしれないな。

 その枠に中にどんな元素が入るのかを見付けるのもおもしろいかもしれない。

 電気工学に結び付けるためにも早いところ半導体を見付けて欲しいところだ。


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