表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
235/391

M-235 学府での講義(1)


「魔道科学とは、魔気、魔石、魔方陣それと詠唱で成り立っている。詠唱は家に出さずとも発動は可能だが、魔前の3者は欠かすことができない。

 とはいえ、なぜこの世に魔気があるのか? その濃度は一定なのか? 答えることが出来るか?

 魔石は魔獣の心臓拭付近に多く見つかる。魔獣を倒して魔石を得る俺達騎士団が存在するのはそのためだ。だが、荒野には魔獣以外にも野獣の一部で魔石を見付けることもある。

 更に、人間はなぜ魔石を作れないのか? 騎士は戦機を駆るために体に魔方陣を刻み、魔石の粉末を擦り込む。

 その激痛は1か月に及ぶのだ。これから分かることは、魔石は人間に対して強い拒絶反応を引き起こすということだ。ある意味毒と言っても良いだろう。

 続いて、魔法陣についてだが、いくつもの同心円を描き、外周に向けて文字を刻んでいる。諸君の中には記号だと割り切っている者もいるようだが、あれな文字で間違いない。ただし俺達が日常使っている文字とは異なる。

 俺達が使う文字は音を現し、魔方陣に使われている文字は意味を現している。

 学府の持ち出しが許可されない文献の中にはこの文字で書かれた魔方陣が多数存在するに違いない。その中の一部が皆に公開されている魔方陣の筈だ。

 なぜ公開されないか……、その魔方陣の効果と発動キーとなる詠唱が不明だからだ。

 

 帝国が滅びて数千年……。諸君がどのような歴史を学んだか俺には分からんが、俺が知り得た情報を少し教授しよう。

 帝国の全盛時代まで、この世界に魔気は存在していない!」


 講堂にどよめく様な動きが起こった。

 衝撃的だろうが事実であることは確かだろう。

 コップの水を飲んで、聴衆が落ち着くのを待つ。


「帝国内の内戦これが長く続いたのは間違いない。この内戦時代に突然魔気、魔獣、そして魔法陣が作られたと俺は推測している。短時間にその学問が発達したようだ。そのおかげで帝国が滅んだ後に、次の文明を短時間で復興できたと考える。

 ここで1つの疑問が出てくる。

 帝国は魔道科学により滅んだのか……。それは無理だ。現在の魔道科学は帝国時代よりもある意味発展しているが、この学府を破壊できるような魔法を発動することはできない。

 帝国が滅んだのは魔石が使われたことによる。今使われている魔道機関であるなら何ら問題はない。だが魔石を別の使い方をした場合、そこから発生する力は強大な物となる。たぶん2個の魔石で王都を破壊できるだろう。

 それを使ったことで、帝国は滅んでしまった。

 今の魔道科学はその残滓を発達させたものだが、それがいつまで続くか分からないところが問題でもある。

 なぜなら、魔気はある生物から作られ続けているものであり、神殿の古い記録にはレッド・カーペットは存在しないからだ。

 俺の言葉を理解できるか?

 極めて重要な話だぞ。この世界は微妙なバランスで成り立っている。そのバランスを魔石を得るために改編したのだ。

 当然世界はそれを排除するために動き始めるし、人間達は魔石を得るためにそれを加速しているのが現状だ」


 再び講堂内が騒がしくなった。

 爆弾が大きすぎたかな? だが、自然科学の発展には動機づけが大事に違いない。

 

「かつての帝国のように短期間で滅ぶことは無いだろう。だがゆっくりとその時はやってくるはずだ。魔石が獲れなくなり、魔気が薄くなっても使える魔法はあるだろう。生活魔法すら使えなくなるのは遥か先のことだ。

 だが着実にその時に向かって進んでいるとも言える。

 やがて使えなくなる魔道科学を諸君達が学ぶのも良いだろう。それは今必要な事だ。だが魔法が使えなくなった時に、それに代わる学問を作り上げるということもできるだろう。

 ブライモス導師、カテリナ魔導師が学府に提案した自然科学とは、それに代わるものだと信じている。

 自然科学の幹は太い。将来はいくつもの枝に分かれて花を開き身を結ぶに違いないが、当面は3つの枝を伸ばそうと考えている。

 1つは生物学。

 この世界にどんな動物、植物がどこに生息しどんな生態をおくっているのか、それは俺達の生活に利用できるのか……。

 ペットや家畜ぐらいなら分かるだろうが、荒野や川、海には色々な生物が存在する。分類するだけでも数世代は掛かるだろうし、それを利用するとなるとさらに世代を必要とするだろう。

 それが、学問でありその閣下の反映でもあることは諸君も承知のはずだ。」


 カビの研究で抗生物質が作られるんだからなぁ。だが酒が造られているんだから案外早く細菌の存在に気が付くかもしれないな。


「次に化学と言う枝になる。皆が知っている言葉で言うなら錬金術に近いと思っている。別に金を作ろうと考えているわけではないし、賢者の石など存在しない。

 この世を構成する物は何か、どのような性状なのか、それをどのように利用できるのかを突き止めるのが目的となる。

 たぶん直ぐに枝がいくつにも分かれるだろう。その先にあるのは新たな金属なのか、それとも病気の妙薬なのか……。それを探り社会に役立てることが目的になる」


「最後に、物理学の話をしよう。これを極めようとするなら、数学の成績が悪いものは止めておいた方が良いかもしれない。数字との格闘が始まるからだ。

 ただ数字をいじるだけではない。それは手段であり目的は全く別だ。

 重さ、時間、それに運動が基本になるだろう。それらの関係を学べば、学府の鐘櫓から同じ重さの鉄と綿を落として同時に地面に到着する原因が分かるはずだ。

 さらに天体の動きを計算することも可能だろう。

 戦に用いるなら、互いに動く陸上艦同士であっても、初弾を相手の陸上艦に命中させることも可能だ」


 物理学が直ぐに役立つのは、この世界ならば弾道計算ぐらいだろう。しばらくはユークリッド幾何学の世界で学ぶことになるだろうな。

 その内に非ユークリッド幾何学が登場するなら、相対性理論に向かうことも可能だろう。俺達がいなくなっても、その道筋ぐらいは示しておくべきかもしれない。それだけで物理学を100年以上は短縮できそうだ。


「以上の3つの学課に分かれるだろうが、必ずしもこの枝が独立して育つとも限らない。他の学科とは密接に結びついているのだ。出来るなら年に数回以上、学科の異なる者同士が集まって酒を酌み交わすことを勧める。

 全く別の観点から、行き詰った架台の解決策は見えてくることもある。

 それと、工房と良い関係を結んで欲しい。かなり変わったものが各学科の研究に必要になってくる。

 場合によっては、狂ったかと思われる時もあるだろう。

 そう思われた時は自らを誇るが良い。『俺は世界の常識を変えようとしている!』と自覚できるはずだ」


「さて、新たな学科はどのようなものか、を簡単ではあるが説明したつもりだ。

 ここで簡単な課題を諸君に提示しよう。

 魔法を使わずに、火種を作りロウソクに火を灯す方法を考えてくれ。ある意味物理学の応用でもあるのだが、俺は4つ考えたぞ。学問の無い騎士団の騎士でさえ4つ考え付くぐらいだから諸君なら直ぐに考え付くはずだ。

 さらに考え付いた方法を皆の前で見せてくれ。3つ出来たなら、名誉教授の肩書を譲ることを約束する」


 案の定、騒がしくなってきた。

 魔法で火を作るのは簡単だが、それ以外の方法を彼等は考え付くんだろうか?

 1つでも考え付いたなら将来が楽しみだな。


 足音が近付いてくる。ちらりとそちらに視線を向けると、カテリナさんだった。


「静かに! リオ君が面白い課題を出してくれたから、ここで一旦休憩にしましょう。そうね……、30分で良いでしょう。さすがに3つは無理でも、1つぐらいは期待したいわ。それでは15時丁度に、再度リオ君の抗議を始めます」


 俺の手を引いて、控室に戻ることになったんだが、行動は途端にうるさくなってしまった。

 たぶん討論が始まったんだろう。ちらりと聞いた限りでは方法よりも、可能性について激論しているようだ。

 ちゃんと出来るんだけどねぇ……。やはり常識に支配されているようだな。


 控室のソファーに腰を下ろすと、直ぐにコーヒーが手渡された。

 タバコを取り出して、先ずは一服。何とかなるみたいだと少し安心してしまう。


「おもしろい課題だ。わしは1つ考え付いたぞ。もう1つあるのだが、さすがに壇上で示すことはできぬから没じゃな、ワハハハ……」

「私は1つだけよ。火薬を使うことなんだけどさすがは導師、その先も考えていたのですね」


「先ずは火薬。ここまではワシも同じじゃ。次に考えたのは落雷を利用する方法だが、さすがにいつ、どこでもというわけにはいかぬな」


 さすがに魔導師として弟子を育てる人物だけのことはある。直ぐに答えの1つを見付けてしまった。

 落雷は盲点だったな、それを考えると5つになるのか。


「さすがはブライモス殿だと感心しました。落雷を考えるなら4つではなく5つに増えましたよ」

「落雷を自由に制御できるということか?」

「そこまで必要ではありません。これは化学と物理に関わるんですが……」


 簡単な電池を作り、電池に結んだ銅線を細い鉄線に繋げば、鉄線は発熱する。赤化するほど温度が上がるから綿花を乗せれば燃え出すだろう。


「なるほど、そのように作るのか……。電池の構造も考えねばならんな。何故それで電気ができるのかを理解できねば、リオ殿の話を発想として提示することはできぬだろう」

「リバイアサンに戻ったら、色々と教えて貰うわよ。電気という世界の延長にリバイアサンはあるように思えるもの」


 カテリナさんの洞察力も凄いんだよなぁ。とりあえず頷いておこう。

 優先順位は星の海の監視の下で良いはずだ。


「答えを教えて欲しいんだけど……、ダメかしら?」

「周囲に誰も居ませんよね。でないと名誉教授の称号がなくなってしまいます」


「ハハハ……。だいじょうぶじゃよ。ここは結界が施されておる。発表前の最後の推敲ができるようにしてあるのじゃ。ここでの話は誰も聞くことはできぬ」


 それならと、コーヒーカップ片手に説明を始める。

 火薬を使う方法は考え付いたみたいだからその他の3つだな。


「先ずは摩擦熱を利用する方法があります。このような形で木で木を擦ればは火点にまで熱が上がりますから火を点けることができます。

 次は圧縮熱を利用する方法です。ピストンを作りこの中に綿を入れて上部を一気に押し込めば中の空気が圧縮されて発火します。

 3つ目は太陽を利用する方法です。レンズがありましたよね。あれで太陽光を一点に集めれば火を点けられますよ」


 メモを描いて説明したんだが、ちゃんと納得できたかな?

 導師のことだから直ぐに試してみるに違いないと思うんだけどね。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ