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M-234 今度は学府だって?


 当初はウエリントン王国に所属しているとばかり思っていた12騎士団はコリント同盟、ブラウ同盟の6つの王国に渡っているらしい。

 発祥はコリント同盟らしいが、その後数を増やして現在の12騎士団となったようだ。出来た当初は軍組織を補完する形であったらしいが、国力が高まるにつれて、王国との関係が薄れてきたと教えてくれた。

 それでも王国創建に関わっているんだから凄い連中だ。

 今でも、騎士団創設当時の意志を守っているんだからなぁ。騎士団が一目置くわけだ。


「開拓当初は色々と問題も出て来るでしょう。それは我等が何とかするつもりです。軌道に乗ったところで、一般の騎士団からの開拓団への入団を促します」

「苦労をお掛けします。本来なら俺達で考えないといけないんですが、何分にも人手

不足。12騎士団にお願いするしかありませんでした」


「団長達が嬉しそうでした。考えてはいたのですがその為の手段がありませんでしたから。場所を提供して頂けるだけでもありがたいとの事でした」

「北の領地はマクシミリアン殿です。領地に軍の訓練所を持つことになりますから、開墾時には獣機を借りることができるよう調整しておきます。

 始めれば、当然問題は出て来るでしょう。私との連絡ができるよう、通信機をお渡ししておきたいのですが」


「それなら、ブリアント騎士団の王都事務所に送ってください。今はブリアント騎士団に属していますが、西に向かう際にブリアント騎士団より離れます」


 確か、俺が救援に向かった騎士団じゃなかったか?

 覚えていてくれたんだろうか。ありがたい話だな。


 2時間程の会議を終え、エントランスホールのフロントで車の手配をお願いしようとしていると、俺の肩がポン! と叩かれた。

 振り返った先にいたのは、笑みを浮かべたカテリナさんだった。

 

「開拓団との話は終わったんでしょう? 今度は私に付き合ってくれない。ヒルダには連絡してあるからだいじょうぶよ」


 カテリナさんに連れられて、近くのレストランで昼食を取る。

 暑いからなあ。サンドイッチとコーヒーをお願いしたら、分厚いステーキが運ばれてきた。

 無駄にしたくないから食べることにしたけど、夕食が食べられなくなりそうだ。


「厚遇されると怖くなりますね」

「学府に案内するわ。教授の資格を持ってるでしょう?」


「あれって、名誉という文字が前についてますよ。俺が教授になったら。学府の教授が気の毒です」

 

 名誉職は名誉職として持っているだけで十分だ。俺に人を教えることなど無理だからね。


「あら? 私と導師はリオ君の名誉教授職の解任を要求したわよ。すでに受理されているから教授だけがリオ君の肩書よ」


 驚く俺の顔を見て笑ってるんだから、絶対俺をおもちゃ代わりにして楽しんでいるな。


「そんなに簡単にできるんですか?」

「魔導師2人の連名ですもの。他の魔導師も署名したがっていたけど、もちろん断ったわよ。リオ君と接点を持ちたかったのが見え見えなんだもの」


 困った話だな。やはり魔道科学が停滞期に入っているのは間違いなさそうだ。

 

「厳選した学生が数十人と言うところかな。3つの学科に分けたけど、今日は全ての学生が集まったわよ。聴講の申し込みだけでも千を超えたわ。学長自らが抽選したみたい」

 

 だんだんと冷や汗が流れてくる。

 ステーキもほとんど食べてしまったから、今更断ることもできない。

 

「それで俺は何をしたら?」

「魔道科学ではない新たな学問はこういうものだと宣言して欲しいの」


 急に言われてもなぁ……。

 ここは適当に誤魔化して、場を納めるしかないかもしれないな。


「魔道科学との違いを教えれば良いんでしょうか?」

「そうねぇ。要するに全く違う学問だと知らせてくれれば十分よ」


 それなら、何とかなりそうだ。

 アリスも俺達の会話を聞いているはずだから、手助けはしてくれるに違いない。


 食事を終えると、カテリナさんが用意してくれた自走車に乗って王立学園に向かう。

 少し王宮より距離が離れているが同じ森を共有しているようだ。

 さすがに森を抜けて王宮に入り込もうというものはいないだろうが、ちょっと不用心にも思えるな。


 やがて俺達の前に宮殿のような建物が現れた。

 石造りの大きな建物は、窓を見ると4階建てに見える。これだけでも大きいんだが、その奥に別の建物も見える。あれだってかなりの大きさだと思うんだけどなぁ。


 正面の巨大な列柱が、俺を避ける防壁にも見えてきた。

 こんな場所だとは思わなかったな。


「ほら、ちゃんと付いてくるのよ。このまま講堂の控室に向かうわ」

「そんなに急なんですか? まだ間があると思ってたんですが。それにこの格好ですよ?」


 騎士団の開拓団と会うということで、黒に繋ぎに装備ベルト姿だ。帽子にサングラス姿だから軍の関係者に間違われそうな出で立ちなんだけど……。


「服装は気にしないで良いわよ。皆自由な格好だから、どんなものを着ても構わないわ、問題は中身なんですから」

「カテリナさんみたいな人ばかりというのも不安になるんですけど……」


 ここに来たら後には引けないってことだろうな。

 もうどうにでもなれと言う感じで、開き直るしかなさそうだ。


 エントランスホールは3階までの巨大な吹き抜け空間だ。真ん中に天球儀が飾ってあるのも、何となく雰囲気が出ている。


「こっちよ!」

 

 カテリナさんが俺の手を引いて、どんどん回廊の奥に向かっていく。

 静かな回廊には両側に一定間隔で扉があった。あの扉の先には講義室があるのだろう。

 

 突然目の前に空間が広がる。

 緑の庭園が設えてある中庭のようだ。何人かの学生がベンチに座って本を読んでいた。なるほど、ここが王立学園だと認識できる場所だな。


「ここは、学生の憩いの場なの。あの芝生でお弁当を広げる人達もいるのよ」

「外ではなくて、ですか?」

「もちろん一般学生は外になるわ。ここは院生だけが利用してるのよ」


 ここで本を読めるということは1つのステータスのようだ。

 そんなことを考えていると、再びカテリナさんが俺の手を握って歩き出した。

 さらに回廊を進むと、ついに突き当りに出た。大きな扉が正面を塞いでいるから当然その扉を開けるものかと思っていたが、左壁にある豪華な扉を開けて中に入っていく。

 少し狭い通路を俺達は歩いて行く。いくつか角を曲がって、ようやく辿り着いた部屋は10m四方ほどの部屋だった。


「やっと着いたようだな。待っていたよ」


 出迎えてくれたのはブライモス導師だった。

 勧められるとおりに腰を下ろすと、カテリナさんがコーヒーを運んでくれた。

 インスタントのようだけど、砂糖を入れれば美味しく頂ける。


「急で申し訳ない。我等の学科を始めるにあたっては、やはりリオ殿の挨拶ということになると思ってのう……。急遽来ていただいたのじゃ」

「事前に教えて頂ければ、色々と用意出来ましたが……。それでどの程度の時間を?」


「2時間ほど教授してくれぬか。生物。化学、物理……。その意味さえ分からぬ連中だ。魔道科学こそ自分達の未来を作るものと己惚れておる。中には、新たな学問を役立たぬという論客もいるに違いないぞ」


 魔道科学を学ぶぐらいだからなぁ。それが一番だと思っているのは間違いないだろう。どちらかと言うと自然科学を学ぼうとする者がいることに驚いてるんだよな。

 カテリナさん達のように、魔道科学が停滞していると感じているのだろうか?

 それを打破するために、別の切り口が欲しいという事かもしれないな。


 先ずは2人に質問してみよう?


「ブライモス導師、カテリナさん……。貴方は、神を信じますか?」


 突然の問いに、2人が顔を見合わせている。

 しばらく互いに見つめ合っていたが、最初に俺に顏を向けたのはブライモス導師だった。


「かなり答え辛い問であるが、その答えはリオ殿獲って重要なのであろう。わしは神を信じるよ。神は存在して我等を見守っているに違いない。だが、神自らが我等を導くことは無いであろう。もし導くのであれば古代帝国は滅亡してはいないはずだ。

 ワシ等は神が見ているということで、禁忌に手を出すことは無い。ある意味、良心の具現化が神であるに違いない」


 カテリナさんも導師の言葉に頷いているぐらいだから、同じ考えなんだろう。

 導師達の信じる神は、直接的な手を下さない自分達を見守る存在と言うことだな。

 なら問題ない。

 神罰は存在しないということになるし、神に変わって罰を下すということにも繋がらない。


「神を気にするような学問とは思えぬが?」

「場合によっては、神を求める学問でもあるんです。それほど自然科学の幹には枝があると思ってください」


「神学とも繋がるということか……。それは興味深い」

「どのように学問を究めても、まだ神を見付けられないようです」

「神を探す学問……。さすがに魔道科学では無理じゃろうな」


 コーヒーを飲み終えようとしていると、カテリナさんが時計を取り出して、時間を確認している。

 そろそろ出番と言うことかな?


「生意気盛りだから、その辺りは大目に見てあげなさい。実力行使ではリオ君には勝てなくても口達者だから」

「実害がないなら問題はないですよ。そろそろですか?」

「お願いね。そこから演台に出られるわ」


 カテリナさんが壁の一角にある扉を指差した。

 しょうがないな。とりあえず出てみるか。


 腰を上げると、導師に一礼して扉を開けた。

 どうやら衝立の影になっている様で、聴講に北学生の声だけが聞こえてくる。かなりざわついているな。演台はあそこか。原稿も何も無くて2時間を持たせられるか、ちょっと不安になってきた。

 ゆっくりと演台に歩いて行くと階段状に作られた聴講生たちの座席と彼等の姿が見えてきた。200人はいるんじゃないか?

 予想より多いけど、ここは度胸でやるしかなさそうだな。

 演台の前に立って、聴講生達を見渡す。

 それだけで、あれほど騒がしかった行動が静まり返る。


「リオと言う。ヴィオラ騎士団の騎士だが、同時に辺境伯であり、この学府の名誉教授でもある。

 新たに学府に学科を新設出来たことは喜ばしい限りだ。

 だが、同時にその学科が果たして受け入れられるか不安でもある。そこで、新たな学科がどのような学科であるかを皆に説明したい。

 それでは、魔道科学と自然科学の違いから話を始めよう……」


 無言で俺に視線を向けている。

 真剣に聞こうとしているのだろう。演台に小さな仮想スクリーンがいつの間にか開いている。

 アリスが気を利かせてくれたようだ。演題の上にある水差しからコップに水を注いで一口飲み込んだ。


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