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M-233 国王陛下達の計画通りかもしれない


 夕食を頂いた時のフレイヤの姿は少し煤けて見えた。

 やはり大人になってからの作法見習いはきついのかもしれないな。エミーも口数が少ないのはそのせいだろう。

 俺と一緒になるまでは目が不自由だったから、礼儀作法については周囲も大目に見ていたに違いない。

 

「だいぶ良くなりましたよ。明日も続けましょうね。明後日にオリビア様がサロンを開きます。先ずはゲストとして参加することになりますよ」


 最初からサロンの一員には成れないそうだ。

 何度かサロンに出入りして、御婦人方の賛同を持って正式に入会と言うことになるらしい。

 面倒だけど、サロンの雰囲気を壊すような人物でないこと、そしてサロンにとって有益と判断されるまでは時間が掛かるらしい。

 

「旦那様達の貴族の集まりはクラブと称しているようですよ。もっともクラブの会員を互いに誇るのが目的に思えます」

「互いの見識を高めるのが目的では?」

「本人達はそう思っているかもしれませんが、傍から見れば派閥を他に示すのが目的に思えますね」


 最初からそうだったのではないのだろうが、何時の間にかそうなってしまったんだろうな。


 付け焼刃でのサロンデビューに2人が出掛けたのは、3日後の事だった。

 疲れた様子で帰ってきたけど、次はヒルダ様のサロンに出るらしい。


「農園で暮らしていた方が気が楽ね。私は上流階級には向いていないと、つくづく思い知らされたわ」

「皆さんに人気がありましたよ。御主人は立派な方でしょうねと何人かが溜息を漏らしていましたもの」

 

 それって、誉め言葉なのかなぁ? ちょっと違うようにも思えるけど、フレイヤ達はそれなりに強い印象を与えたってことだろう。

 ヒルダ様も、笑みを浮かべて2人を眺めているぐらいだからね。


「中々良いデビューだったようです。オリビアも喜んでいましたから、ここに滞在している間にもう1度機会を作ってくれるでしょう」

「よろしくお願いします。リバイアサンに戻ってもマイネさん達に指導して貰えば、それなりになるのではと期待していますから」

 

 2人が暗い表情をしているけど、俺とヒルダ様は笑みを浮かべて頷き合った。

 

「それよりリオの方は、明日なんでしょう? だいじょうぶなの?」

「最大の懸念は人数なんだ。トリスタンさんから纏まった資金を貰ってる。星の海の偵察なら、カテリナさん達も気にしていたから丁度良い」


 これで、神殿からの慰謝料を全てドミニクに渡せそうだ。

 隠匿空間は北方の魔獣狩りの拠点になりうると、各騎士団も認識し始めている。

 他の騎士団の利便性をもっと考慮しないといけないんだろうな。

 その最たるものは、生鮮食料の輸送ということになるのだろう。導師と相談して専用の飛行船を早く作るべきかもしれないな。

 

 さらに、砦を作るということも考慮すべきかもしれない。

 隠匿空間の東西に堅固な砦を作れば、騎士団の緊急避難先として役立つだろう。小型飛行船での哨戒を行えば、魔獣の不意の襲撃に怯えることも少なくなるだろうし、狩りの成功率を上げることも可能になる。


 西の砦は、ハーネスト同盟艦隊への備えとしても使えそうだから、軍の協力も得られるかもしれないな。

 西を先に作って、そのノウハウを東に使うことにすれば、帆餓死の砦を構築する資金も少なく済みそうだ。

 休暇が終わったら、フェダーン様と相談してみるか。

 

「だいぶ、考えておられますね?」


 ヒルダ様が、空になったマグカップにコーヒーを注いでくれた。

 軽く頭をさげて感謝をする。

 熱いコーヒーは直ぐに飲めないからね。砂糖をスプーンで2杯入れて掻き混ぜながら、タバコに火を点けた。


「隠匿空間の西をどうするかと考えていました。王国の発展には西への進出が欠かせないでしょう。星の海の南は少しキナ臭いですから、北から西に向かうとなると魔獣の脅威が高そうです。その対応をどうするかと……」

「リオ様ぐらいですよ。真剣に東への進出を考えておられるのは……。他の者達は、進出を願っているばかりですから」


 思いはあるってことなんだろうな。その為に必要な物が何になるかが考え付かないのだろう。あまりにも魔獣のリスクが高すぎる、ということは理解されているようだ。


「色々と作ることができましたから、それを組み合わせようとしてたんです。やはり、もう少し足す必要がありそうです」

「私達は協力できますか?」


 ヒルダ様の提案は、王家としてもその問題を真剣に考えているってことだろう。

 

「フェダーン様と相談しようかと考えてます。西への進出はそれだけでハーネスト同盟との対応が必要になりますから。ヒルダ様達には兵站を支えて頂くことになりそうです」

「西の領地経営も、リオ様の計画とリンクしているということですね。どうやらトリスタン殿もいろいろ考えておられるようですね」


 国王陛下とお妃様達の調整は出来ているんだろうか?

 何か、互いに相手を出し抜こうとしているように思えてきたぞ。

 とりあえず方向性はあっているから問題ないように思えるけど、調整しようなんて考えていないのかな?


「先の謁見時にファネル王子と会うことができました。その時のお姿から軍人であると理解しましたが艦隊指揮をしておいでになるのでしょうか?」

「フェダーン様の手元で功績をと考えていたのですが、フェダーン様の行く先は全て激戦区になってしまいます。さすがにそれは……、と国王陛下も悩んでおいでです」


 リバイアサンなら安全だろうけど、次期国王陛下が乗る陸上艦が騎士団所属となると、軍の面子もあるんだろうな。

 俺のところに話が来なかったわけだ。

 だが、砦ならどうだろう?

 陸上艦よりリスクは格段に低くなるし、その位置を確保しているだけで功績に繋がるんじゃないかな?

 1個艦隊が入港できる桟橋を頑丈な城壁で囲み、城壁に駆逐艦クラスの砲塔を設ければ魔獣には対処できそうだ。

 ハーネスト同盟艦隊を近づけなければ問題ないだろうから、小型飛行船の哨戒と新型飛行機の爆撃で時間を稼げそうだ。

 隠匿空間の艦隊が救援に向かうとすれば、2日程度の時間を稼げば十分だろう。

 西に500km以上食い込んだ位置に砦を築けそうだ。

 ガルトス王国が主張する領土に、半分近く食い込んだ位置になる。

 そんな場所に砦を作られたことを知ったら、どんな騒動が巻き起こるだろう。

 傍から見たら負け続きの羽スト同盟だ。王国内に一嵐が起きるかもしれない。


「場合によっては、ファネル殿に手伝いを頼むことになってしまいそうです。その辺りはフェダーン様と相談してみたいと思っています」

「リオ様と懇意になりたいと言っていましたから、ファリス様も喜ぶでしょう。でも、伝えるのは未だ、と言うことですね」


 嬉しそうな顔をして笑みをこぼしている。

 やはり後継者に相応しい功績を作ってあげたいんだろうな。

               ・

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               ・

 12騎士団が作った開拓団の団長との会談は、王宮に近いホテルの1室だった。ヒルダ様は第二離宮に招待するようにとのことだったが、さすがに向こうから丁寧に辞退されてしまった。

 あくまで騎士団同士の打ち合わせとしたいのだろう。

 新たな事業を始めるとなれば、貴族が利権に加わろうと模索するのは間違いないとことらしい。

 

 指定された時間にホテルのフロントに向かうと、係員が俺を会議室へと案内してくれた。

 軽く扉を叩き、中に入ると数人の男女が席を立って俺に騎士の礼を取る。

 慌てて答礼したんだが、やはり12騎士団だけのことはある。アレク達とはかなり違ってるな。

 空いている席に俺が座ると、彼等も腰を下ろした。

 辺境伯と言う肩書に敬意を表してくれているようだが、俺達は同じ騎士団員同士の筈だ。


「リオ辺境伯が自領を元騎士団員に開放してくださると聞き、我等がその開拓団を束ねることになりました。

 元の所属は別になりますが、私が団長を務める、ムライと言います。他にクランダール、バルトガそれにカルネア、マリエールの4人が私を支えてくれる予定です」


「辺境伯は俺には過ぎた地位だから、皆にはヴィオラ騎士団の騎士として同等に付き合っていただきたい。

 この場での敬語も必要ない。そもそも俺が敬語が苦手だからね。

 早い段階で開拓団が作られたことはあり難いんだが、結構問題のある土地でもある。その辺りの事は知っているんだろうか?」


 ホテルの女性がワゴンでコーヒーを運んできてくれた。

 良いタイミングだから、コーヒーを飲みながらフランクに話し合えるだろう。


「最大の課題は、西が国境線であることでしょうな。地図を求めて、我らなりに色々と開拓計画を考えたのですが、灌漑用水が無いのも問題に思えます」

「さらに何もない更地だし、付近に資材を蝶ったつ出来る町すらない。唯一ある漁村は貧困であえいでいる。

 この状態からスタートすることになるんだが、先ずはこれを見て欲しい」


 テーブルにプロジェクターを置いて、壁に画像を投影した。

 その画像を見せながら、俺の考える開拓と西の同盟軍との対応を説明する。

 食い入るように映像を見ているから、彼等も同じ問題に憂慮していたに違いない。


「物品調達と成果物の流通を考えるとこの交差する道路は絶対に必要になるだろう。東西の道路は王国で作ってくれるということだから、南北の道路だけが担当分になる。だが、これも王国軍がかなり協力してくれるはずだ」


「住宅100戸は無償なのですか?」

「近衛兵の長期休暇をこの地で行うらしい。1年間ということは破格ではあるが俺達にちょっかいを出してくる貴族への牽制のようだ。

 1個小隊規模の駐屯になるから、残った住宅は俺達で使えることになる。足りなければさすがに俺達で作ることになるだろう」


「そうなりますと、道路と用水路、それに荒れ地の開拓を並行して行うことになりますね。現在の開拓団の数は250家族。12騎士団が金貨10枚ずつを出してくれましたから、それなりに進められるでしょう」


 かなり無理をしていないかな? 12騎士団といっても財政は厳しいと思うんだけどなぁ。

 だけど、開拓が軌道に乗れば多くの元騎士団員の生活が楽になるとの思いで出してくれたんだろう。

 やはり12騎士団は義に篤い連中ばかりのようだ。


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[気になる点] 傍から見たら負け続きの羽スト同盟だ。王国内に一嵐が起きるかもしれない。 いつ出てきた羽スト同盟!? [一言] 誤字脱字報告
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