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M-231 泳がせて、その時を待つらしい


 翌日。ゆっくり起きだした俺達と一緒に朝食を取っていたヒルダ様が、俺達の予定を話してくれた。


「エミーとフレイヤさんは、ここで私とメイドで簡単な作法を教えることにします。さすがにそのままオリビアのところに向かわせるのもねぇ……。

 リオ殿は、トリスタン殿達のお相手をお願いします。10時にはやってくると思いますよ」


 バングルの時計を見ると、9時30分を過ぎている。コーヒーは頂けそうだな。

 フレイヤの食事を取る手が止まっているのは、作法の授業が重荷に感じているのだろう。だが、これからの暮らしを考えれば是非とも学んでほしいところだ。

 王妃様に直に教えて貰えるなんて、滅多にあるものではないから幸運だと思うんだけどなぁ。

 

「トリスタン殿が矢てくる目的は何でしょう?」

「かなり慌てた様子でしたよ。リオ殿の賜った領地の前任者の話ではないかと思っています」


 ローザが直訴すると言ってたからなぁ。それを確認したいということなのかもしれない。


「確かに酷い暮らしでした。それでも何とかするのが俺の仕事だと思っています」

「皆がリオ殿のような人徳があればよろしいのですが、苦労を知らない人物の言動には国王陛下も困っているようです」


 苦労を知らないと、自分本位になってしまうからなぁ。相手を自分と同格として見ることができないのだろうか?

 青い血筋に拘るようでは、衰退に向かうのは必定だ。

 その役内で自分の力を示せば周りも従ってくれるだろうけど、役を離れてもその地位を他に示すような輩とはその場にいることも嫌になってしまう。

 ヴィオラ騎士団のように、魔獣を狩る時と危機に陥った時以外は皆が同格で付き合うことができないのは問題だと思うな。


 食後のコーヒーがテーブルに運ばれたところで、ヒルダ様に頭を下げるとカップを持ってリビングの外にあるテーブルに移動した。

 庭を見ながらお茶を楽しむために設けてあるテーブルセットに腰を下ろすとタバコの火を点ける。

 朝のコーヒーはタバコと共にが基本だな。

 まして景色の良い場所なら言うことなしだ。


「皆がこの庭の景色の眉を顰めるのですが、リオ殿は違うのですね?」

「池と石の配置が微妙ですからねぇ。池に映る緑も中々です」


「隠匿空間にもお作りになったんでしょう?」

「やはりこの場所には敵いません。ですが、この庭を知らないものならそれなりに評価してくれるでしょう」


 庭作りの職人さんをヒルダ様が派遣してくれたらしいのだが、この庭を作った孫にあたる人物のようだ。若い職人達だったらしいから、先々代の境地にはまだまだ達していないんだろうな。


「貴族は保身には長けています。王宮での言動と彼等の領地での言動は全く異なることが多々あるのですが、今回はかなり問題のようです」

「巡察機関は無いのですか?」


 俺の問いに、ヒルダ様が話してくれたところによると、どうやら貴族同士の相互監視が基本になっているようだ。

 王国の始まりではそれも良かったんだろうけど、派閥争いに明け暮れるような現代では、相互監視が機能しているとも思えないな。


「かつて国王陛下は、直下の巡察隊を設けるという提案をしたのですが、貴族会議の大反対にあったようです。従来よりの相互監視で十分に対応できるということで引き下がる外になかったようです」

「今回の事案で、廃案を復活できると?」


 ヒルダ様が小さく頷いた。

 思わずため息が漏れてしまう。まあ、俺を使うことは構わないけど騎士団に類が及ばないようにして欲しいところだ。


 エミー達が作法の見習いを始めるとのことで、来客用の応接室でトリスタンさん達の来訪を待つことにした。

 仮想スクリーンを開いて、アリスの撮影した島の画像を眺めながら島の開発に付いて考えてみる。

 あまり良い案は浮かばないな。

 とりあえず騎士団専用の島になりそうだ。もう少し国境から離れていれば一般からの来客も期待できるんだろうが、あまりにも近すぎるんだよなぁ。

 場合によっては監視所を設けて、ハーネスト同盟の艦隊の動向を探ることになるかもしれない場所だ。

 通信機を持たせた部隊の派遣を、真剣に考える必要がありそうだ。

 その辺りは、やってくるトリスタンさんからハーネスト同盟軍の状況を教えて貰うことにしよう。

 体よく委任された格好だが、人材不足の俺達には荷が重いと思わないのかな。


 トントンと扉が叩かれた。

 扉に体を向けると、メイドさんが一歩部屋に踏み込んでトリスタンさん達を連れてきたことを教えてくれた。


「入って貰ってくれ。それとコーヒーを人数分お願いするよ」


 メイドさんが小さく頷いて後ろに下がると、トリスタンさんと2人の男女が現れた。

 席を立って、トリスタンさんに騎士の礼を取る。

 俺の例に3人が答礼してくれるのを待って、3人に席を勧める。


「ローザ王女の話を聞いて国王陛下がカンカンだ。税率5割は俺も初めてだが、本当なのか?」

「辺境の漁村と割り引いても、酷い暮らしであったことは間違いありません。村長に税率2割、それも漁村のために使えと言ったら、前任者の税率を教えてくれたのですが……」


 俺の言葉を聞いて、トリスタンさんが隣の女性に顔を向けた。


「経営報告書では、税率は3割です。漁村の戸数からすれば収支は妥当ですよ。かなり魚が獲れるようですね。近くの村や町に売ることで現金収入がかなりあるとのことです」


 かなりいい加減な報告書だな。

 裕福な漁村と思わせているのだろう。だが、そうなると現金収入はどこから来るのだろう?


「村の漁船は老朽化が激しく外海に耐えられないとアレクが言ってました。桟橋も修理さえしていないようです。皆ボロを纏ってましたよ。村長の家ですら床板はありませんでした。それほどの現金収入があるとすれば、そのカラクリを教えて欲しいところです」

「出稼ぎだな……。どこかに斡旋したとしか考えられん。麻薬はさすがに作れんか……」


「村人の就職支援なら領主の役目でもあります。それを罰することはできませんし、具体的に税率5割を証明できるものを村人が持っているとは思えません。先ほど斡旋と言いましたが、たぶん身売りに近いかと。そうなると斡旋先から逃げ出したとも言いかねません」

 

 改まって俺にトリスタンさんが顔を向けた。

 苦り切った顔だな。悪を断罪できないことが悔しいに違いない。


「そう言うことだ。国王陛下が憤慨しても、当の男爵を罰する証拠がない。貧しい漁村であっても、任期中は豊漁が続いたのだろうとすました顔で答えるだろう」


 世渡りに長けた貴族ってことか。全く弊害も良いところだ。

 だが、そんな貴族ならば……。


「それで、前任者はどこの領地に移ることになったのですか?」

「私兵を出せなかったことで領地を取りあげられた。現在は王都で王国からの俸給暮らしということになる。派閥争いの先兵になって、大貴族からの援助を受けているようだな」


 王都での記憶同士の付き合いはかなりのお金が掛かるらしい。

 その男爵はそれだけでやっていけるのだろうか? 大貴族から援助を受けると言っても大きな金額が動くとも思えないな。

 となると……。


「やってきますかね?」

「間違いないだろうな。リオ殿が騎士団暮らしであることは、王宮では誰もが知っている。代官となる人物を勧めて来ることは間違いないだろう。それに、王家の別荘を下賜された貴族は数家だけだ。あの島も彼等には魅力があるに違いない」


 自分達で使おうなんて考えているのか?

 全くとんでもない奴らだ。


「俺に彼等の尻尾を掴めと?」

「どちらかと言うと、断って欲しい。資金源を閉ざされることになるから、動きも見えてくるだろう」


「ヒルダ様達の計画もありますから、どちらかと言うとそちらに動くことになりますが?」

「それは表立って理由にしないで欲しいところだ。裏で動くには問題ないが、サロンの連中が経営をするとなると記憶連中が騒ぎだしかねない」


 面倒な話だな。

 となると、サロンで推薦した者を代官にすれば良いのかな?

 

「既に決めてあると言うことで良いですね?」

「その人物を確かめようとするだろうが、リオ殿の人脈は広いからな。尻尾を出すまでは導師としたらどうだ?」


「後で怒られませんかね?」

「笑って頷いてくれるだろう。それぐらいの器量を持っているぞ」


 色々と協力して貰っているからなぁ。これ以上の助力を期待しても良いものだろうか?


「近い内に会う機会があると思います。その時に、看板として名を貸して貰えるか確認してみます」

「相変わらず、遠慮深い奴だ。それで、領地の警備は問題ないのか?」


「そろそろ12騎士団と調整しようと思っていますが、何か?」

「実力行使をしかねない。不審人物であればリオの裁可で問題ない。そこでだ……」


 1個小隊の武装歩兵を1年間貸してくれるとのことだが、そんなに問題があるとも思えないんだけどねぇ。


「盗まれるような物は……、物ではなく、人ですか!」

「そう言うことだ。表立って国軍を動かすことができん。たまたま近衛兵1個小隊が1年間の休暇を取ることになるだけだ。

 普段の仕事を評価した上の休暇だから、給与はそのままだな。のんびりと過ごすためにリオ辺境伯の領地をお借りしたということになる」


 全く人が悪いな。ということは、あの島にも滞在してくれるってことになりそうだ。

 それなら変な連中が留守中にやってくることも無いだろう。


「ありがたく領地での休養をお願いします」

「軍もリオ殿には借りがあるからな。それに今度の開拓計画だ。国王陛下も喜んでいるよ」


 国王陛下もこの計画に絡んでいるってことだな。

 全く、俺をダシにしないで欲しいところだ。領地を下賜する前にこの計画は出来ていたんじゃないか?


「奥さんにもご協力頂けるとなると、ありがたさに涙が出ます」

「あっちはヒルダ様主導だからなぁ。俺は完全に無視されている。たまに報告を聞く時があるんだが、国王陛下と一緒に身震いする時があるぞ」


 なるほど、更にやり手と言うことになるんだろう。

 この世界は女性達が世界を動かしているのかもしれないな。


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