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M-229 王都に戻る


 別荘周辺にある岩場は、どこに行っても魚が濃いようだ。

 アレクは機嫌が良いし、ローザは桟橋大きな魚を釣ってアレクに自慢している。

 皆の笑い声が別荘内で聞けると、俺まで笑みが浮かんでしまう。

 こんな暮らしがいつまでも続くと良いんだけどね。


「明日は王都に向かうのよね?」

「王都の王族専用桟橋を使わせてもらえるそうです」


 途端に不安に駆られるのは、俺が心配性なだけではないような気もする。

 王家のクルーザーに衝突なんかしたら大変なことになりそうだ。


「どうした? 何か心配事でもあるのか」

「いえ、ちょっとしたことですから、だいじょうぶですよ」


 アレクは、敏感だからなぁ。あれだけ酒を飲んでいても周りを見ていられるんだからたいしたものだ。やはり戦機を下りても楽な隠居をさせたくないな。


「2週間はホテル暮らしになるけど? 母さんは家に戻らないんでしょう? それなら、私の家に来ても問題ないわよ」

「我等は王宮に戻るつもりじゃ」

「俺達は別荘だな。リオはどうするんだ?」


 皆は休暇の残りを過ごすということなんだろう。

 俺の場合は、そうもいかないんだよなぁ……。


「領地経営の話を少しマクシミリアンさんと詰めようかと考えています。それに開拓団の人数もある程度確認しませんと……」

「私や導師、それに工房との打ち合わせもあるわよ。辺境伯ともなればのんびりは出来ないわね」


 だからいらないって言ったんだよなぁ。

 他の貴族はどうやって暇を作っているんだろう? それなりに努力してるんだろうか。


「リオ君は真面目だからそんなことになってしまうの。前任者を見なさい。経営は全く行わずに、絞ることだけを考えていたんだから。

 多くの貴族がそんなことをしているようね。マクシミリアンは代官を置いて委任しているようだけど、領地の状況は結構頻繁に自分の目で見ているみたいよ」


 代官か……。まだ必要は無さそうだ。

 村長と開拓団の団長に任せておけば良いのかもしれない。たまに現地を訪れて暮らしに問題が無いことを確認すれば良いんじゃないかな。

 領民が少ないからね。それで十分だろう。


「しっかりと告げ口をしてくるぞ。上手く運べば漁村に良い結果を与えることもできそうじゃ」


 まあ、自らが招いたことだからなぁ。前任者の責任は追及して貰おう。

 

「私達はホテル暮らしってことね」

「たぶん、直ぐにヒルダから招待されると思うわよ。エミーの実家なんだからゆっくりしていらっしゃい。そして、何度かサロンに招待されると良いわ。貴方達がいるのが分かれば、あちこちから招待されるでしょうけど、ヒルダに相手を選んで貰いなさい」


 夫の派閥争いにサロンが活躍するのかな?

 全く王宮は伏魔殿そのものだ。

 そんな中にフレイヤは入っていけるのだろうか?

 エミーなら問題はないのだろうが、フレイヤは一般人だからなぁ。


「エミーだけにできないの?」

「それは無理。場合によっては2手に分かれての参加だってあるんだから。これを機会に少し作法を学んだ方が良いわよ」


 カテリナさんがダメ出しをしている。お気の毒としか言いようがないな。

 

「辺境伯夫人と言う肩書を持つんだから、諦めるんだな。今更リオから離れようなんて気はないんだろう?」

「それはエミーの事でしょう? 私は第二夫人の筈よ」


 ダメだな。ちゃんと夫人と自分で名乗ってるぐらいだ。

 皆も俺と同じ思いなんだろう。思わず頷いたり口に手を当てて噴き出したい気持ちを抑えているぐらいだ。


「第二でも第三でも夫人は夫人だ。諦めてヒルダ様に作法を習うんだな」


 アレクが諭すように言葉を掛けた。

 ガ~ンとした表情で顔を青ざめているのは、自分の性格がそれだけ分かっているのだろう。

 無理をしない範囲で覚えれば十分だと思うけどねぇ。何かあれば、これが騎士団の常識だと開き直るぐらいの気概で臨んで欲しいな。


 翌朝。バルシオスに俺達は乗り込む。

 だいぶ慣れたと、フレイヤ達が言葉を交わすの聞いてだんだんと不安が募ってくる。

 船尾のデッキでアレクと酒を飲んでいた方が良いんだろうな。


 皆が乗り込んだのを確認して、アレクと分担して桟橋のロープを解く。

 タラップを駆けあがりロープを取り込むと、今度はタラップを格納する。

 終わったところで、ブリッジの見張り台に立っていたマイネさんに終了を告げた。

 これで俺達の作業は終了だ。

 アレクと船尾のデッキにサングラスと帽子を付けて向う。

 テーブルとベンチを整えると、アレクが木箱を開けて冷えたワインを取り出した。

 先ずは一杯ということだな。

 グラスを受け取り、グラスをカチン! と合わせる。


「後はドミニク達に任せれば十分だ。沈没することは無いだろうし、万が一の時にはボートがあるからな」

「せっかく貰ったんですから、しばらくは無事に過ごしたいですね。……動きだしましたよ」


 クルーザーが後進を始めた。

 さすがに入り江が小さいから、このまま入り江を出るのかな?


 そんなことを考えていると、突然時計周りに回頭を始めた。桟橋から30mも離れていないんじゃないか?

 船首が桟橋にぶつかることがないんだろうか?

 思わずグラスに残ったワインを飲んでしまった。危ないことをするなぁ。


「意表を突かれるな。さすがはドミニクの指揮だけのことはある。ほら、もっと飲め!」


 アレクが空になったグラスにたっぷりとワインを注いでくれる。

 既にアレクはブランディーに切替えたようだな。ワインはアレクには弱すぎるようだ。


 桟橋が船尾に見えたところで、今度は前進に転じたようだ。少しずつ桟橋が離れていく。

 後は転移に運命を任せよう。矢は放たれたのだ。今更どうにかなるものでもない。


「王都で一泊して別荘に行くんですか?」

「この船で一泊するよ。午前中はサンドラ達が娘達に王都を案内すると言っていた。お土産を持たせるんだろうな。午後に向かえば夕食は別荘で取れるはずだ。その間にクロネル部長と話をしないといけないからな」


 ヴィオラ騎士団の為だと思いたいが、アレクの目的はワインなんだよなぁ。

 まあ、互いにウイン・ウインの関係には違いない。

 俺が文句を言う話ではない。


「カテリナさんが新たな獣機を作るみたいです。楽しみにしていてください」

「早速交渉してくれたのか! それで、何が違うんだ?」


 嬉しそうにアレクが俺に問い掛けてくる。


「詳細はこれからですよ。ですが、現状の獣機よりも大きくなるのは確実です」

「獣機の大きさはそれほど違いがないぞ。あれが限界だと聞いているんだが?」


 アレクもそれなりの知識を持っているようだ。だけど強化してくれと言ったのは、稼働時間の延長位に考えていたのかもしれないな。


「試作に1年以上掛かるでしょうから、先行試作機をアレク達に渡せると思ってます」

「俺達の騎士返上に合わせてくれるのか? 礼をしないといけなくなりそうだな」


 そう言って笑っているけど、たぶんブランディーを贈ってくれるのだろう。

 笑みを浮かべて頷いておく。


 岸沿いに進んでいるのだが、最初の航海よりは速度が出てるんじゃないかな?

 慣れもあるんだろうし、あまり頻繁に進路を変えないようだ。

 これぐらいならクルージングと言えそうだけど、今回の航海でローザは舵輪を持たせてもらえなかったのかもしれないな。

 

「ようやく休憩を取れるわ。レイドラの話では16時前には桟橋に到着すると言ってたわよ」


 サンドラとシレインがアレクの隣に腰を下ろすと、ワインを飲み始めた。

 やはり前より速度を上げているってことだな。

                ・

                ・

                ・

 16時どころか、15時前に桟橋に接岸できた。

 やはりドミニクの指揮が良かったんだろう。俺とアレクがロープを投げると、桟橋の管理人がロープを桟橋に結んでくれる。

 アンカーを下ろしていると、桟橋の移動式タラップを舷側に伸ばしてくれたから、これでいつでも下りられる。


「王族の桟橋だから使用料は必要ないわよ。少なくとも1年間は甘えても良いでしょうけど、来年は管理費を払って他の桟橋に停泊することになりそうね」

「結構高いんでしょうね?」


 俺の問いにカテリナさんが笑っているところを見るとかなり高そうだな。だいたいがクルーザーを持っている連中は金持ちと相場が決まっているからなぁ。

 管理事務所の言い値を、笑ってポンと出すような連中に違いない。


「これだけ早いと、土産を買えそうだな。夕食はいらんぞ!」


 アレク達は漁村の娘さん達を連れて、船を降りて行った。

 カテリナさんも下りていくようだけど、どこに向かうんだろう?

ローザはリンダを連れて下りて行ったし、ドミニクもレイドラとクリスを連れて下りて行ったから、残ったのはエミーとフレイヤと俺、それにマイネさん達だけだな。


「たぶん明日、迎えの馬車が来るにゃ」

「のんびりできるのは今夜だけになりそうね」


 フライヤの作法見習いはどうなるのかな?

 諦めた表情をしているけど、長い目で見れば良い機会だと思うんだけどなぁ。


「ドレスを買わないといけないのかしら?」

「私と体型がそれほど変わりませんから、離宮の部屋にあるドレスを着れば問題は無いと思います。普段はツナギでも良いでしょうけど、リオ様のようにスポーツウエアという選択肢もありますよ」


 短パンに襟の付いた半袖のシャツ、これはどんなスポーツ用か理解できないけど、スポーツ店のマネキンが着ていた物をそのまま買い込んだ品だ。

 王都は亜熱帯だからなぁ。ツナギも良いんだが暑いからねぇ。


 船尾の甲板でのんびりとコーヒーを楽しむ。

 もっともコーヒーは俺だけで、2人は紅茶のようだ。

 サロンでの飲み物は、ワインと紅茶が多いらしい。今から予習ってことかな。


「結局、サロンで何をすれば良いの?」

「おしゃべりに興じるだけですよ。その中で時分に有用な情報を手に入れ、夫に教えるのがサロンの目的でもあります。たまに有名な詩人や音楽家を招くこともありますが、そう多くは無いようです」


「ヴィオラ騎士団に勧誘したくなる人物を探して欲しいんだ。隠匿空間やリバイアサンはまだまだ人が足りないからね。魔獣を狩れるような人物ならアレクやフェダーン様の紹介で十分だ。だけど事務方が圧倒的に足りない」

「マリアンとライズたちの補佐ができる人物と……」


「補佐は最低条件だね。課の徐達の役割は広範囲に及んでいる。それを分業できればと考えてるんだ。それができる人物なら隠匿空間でも役立ってくれるだろう。5人ぐらいを何とかしたいんだけど……」


 王立学府の才女だったらしいからなぁ。マリアン達のレベルが高すぎるとは思うんだが、何とか出来れば彼女達の負荷も減るだろう。

 エミーの招きで来てくれたけど、今ではヴィオラ騎士団の需要人物とも言える存在だ。


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