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M-228 ホムンクルスでホムンクルスを動かす


 朝食を終えると、アレク達が釣竿を持って出掛けて行った。

 フレイヤ達はその見物と言っていたけど、サンドラの竿を貸して貰うつもりなのかな?

 今夜は、新鮮な魚が食べられそうだな。

 ローザはリンダとマイネさん達と一緒に島を巡るらしい。お弁当を持って行ったから今日もピクニックそのものだ。

 残った俺達にはサンドイッチの入った竹かごを置いて行ってくれたから、お腹を減らすことは無さそうだ。


「さて、始めましょうか。アリスも良い手頂戴!」

『了解です』


 バングルからのアリスの声に、カテリナさんが笑みを浮かべている。

 ソファーに座って、テーブル越しにカテリナさんがキューブを使って仮想スクリーンを作り出した。

 そのキューブの隣にプロジェクターを置いて、同じように仮想スクリーンを作り出す。

 仮想スクリーンの大きさがほぼ同じなのは、アリスが調整してくれたんだろうな。


「先ず私からね。アリスに頼んで導師と話し合ったんだけど……」


 導師は王都にいるみたいだ。例の弟子の調査をまだ行っているらしい。

 場合によっては闇に葬り去ることも考えているのだろうか? 確かにパラケルスの人を人とも思わないで実験するような連中だとしたら、当然の仕打ちと言うべきなんだろう。


 とはいえ、ホムンクルスの製作はどこまで一般的に許されるか微妙なところがあると思うんだよなぁ。

 自意識があることが人間であるというのが導師やカテリナさん達魔導師の見解らしい。それは神殿の神官達にも肯定されているから、異端扱いにはならないようだ。

 そのホムンクルスは細胞を培養することで作ることができる。

 魔道科学の錬金術と魔方陣の研究の賜物なんだろう。

 人間、ネコ族、イヌ族、トラ族の細胞を使うことで様々なホムンクルスが作られたらしいが、現在のホムンクルスは筋肉が一番発達するトラ族の細胞だけになったらしい。需要が戦機を模した獣機だけだったからだろう。


「でも、この世界にはトラ族以外の筋肉質の生物がいるでしょう? それでホムンクリスを作ったことが全くないのが分かったの」

「魔獣ですか? それも肉食魔獣ですよね。でも、草食魔獣での実験ぐらいはあると思うんですけど?」


 俺の言葉に、カテリナさんが首を振った。

 捕まえるのが難しかったのかな? だけど過去には稼働する戦姫もいたはずだ。


「その答えをアリスは直ぐに推測してくれたわよ。身体構造が違い過ぎれば、操縦する者との意思で動かすことができなくなると言ってたわ。『伝達神経』が何とか言ってたけど、それは私達には理解できない内容ね。意思の伝達に問題があるような話だったわ」


 トラ族やネコ族達獣人族は、かつての帝国の負の遺産のようだ。動物と人間との遺伝子操作で生まれた種族だからなぁ。

 だからこそ人間や獣人族との神経接続の親和性が高いのだろう。

 だが魔獣はどう考えても恐竜だからねぇ。その母体となる恐竜をどのように作り出したかは分からないけど、人間とは進化の枝が異なっている。

 ホムンクルスを作れたとしても、人との親和性は無いだろうな。

 利用価値のないホムンクルスであるなら、記録にも残らないだろう。


「ひょっとして、肉食魔獣でホムンクルスを作ろうなんて考えてませんよね?」

「まさか、そんなことは考えていないわ。でも、外骨格に利用することはできると思うの」

 

 ホムンクルスに、ホムンクルスを着せるということなのだろうか?

 余計に神経伝達が難しくなりそうな気もするんだけど……。

 

『素体の動きに合わせて、外骨格を作る筋肉組織を動かすのであれば現在の魔道科学での技術で可能と判断します。戦機の修理を通して神経組織の基礎がパルケルスの文献に存在しました』


 ゴーレムを作れなくとも修理は出来るということか。今回の計画はその範疇にあるってことだな。


「全く驚くべき発想ね。人が動かすのではなく、ホムンクルスでホムンクルスを動かそうなんて、導師も絶句してたわよ」

『基本はこのような形態になると推測しています』


 アリスが仮想スクリーンに表示した新型獣機は、俺が想像した全身金属鎧姿ではなく、チェーンメイルに部分装甲板を取り付けたような形状だった。上部は搭乗員が乗ることになるからヘルメットと胸部装甲が一体になっている。

 関節部に装甲板が無く、腕や足と言った筋肉組織の発達した部分に金属プレートが取り付けられているのが目立つんだよなぁ。

 関節部分に装甲板が無いんだが、急所なんだから、それも装甲した方が良いと思うんだけどねぇ……。


「金属板の下が魔獣の筋肉組織になるのね。外骨格そのものはチェーンメイルで覆う殻形が見えないけど、軽量にするなら魔獣の骨を削っても良さそうね」

『出力は現在使われている獣機を明らかに越えます。2倍以上になると推測しますが、外骨格の強度を越えることもあり得るかと』


 リミッターを付けることになりそうだ。

 現状の獣機や戦機と並べて見ると、新型獣機は身長が10m近くありそうだ。今の獣機は8m前後だからかなり大きくなるな。

 新たな獣機が作られても現状の獣機は無くならないかもしれない。大きさの違いで需要が変るだろう。

 陸上艦の修理などに結構使われているし、リバイアサンでも砲塔区画では弾丸の運搬を行っていたからなぁ。

 獣機の大型化によって、それまでの獣機の仕事が全て無くなることには繋がらないだろう。

 やはり、戦闘に特化した獣機と言うことになりそうだ。

 それにこの大きさなら……、戦機が使っていた銃を使えるんじゃないか?


「スコーピオに使った銃が使えそうですね?」

「さすがにそれは無理でしょうね。2脚を付けて伏せ撃ちなら何とかなるでしょうけど、それよりは現在の2連装長銃を大型化した方が現実的よ。ボルトアクションよりも素早く2発撃てるんだもの」


 3発目を撃つ時には時間が掛かるんだけど、確かに余分な動作はいらないからなぁ。

 待ち伏せで狩るなら、それだけで十分に違いない。さすがに軍用となるとそうもいかないだろうが、俺達は軍人ではないからね。

 

「それで……、作って良いのかしら?」

「アレク達が騎士を返上するのは2年も経たない内にやってくるでしょう。それまでに3機、出来れば5機を作りたいところです。問題は資金ですが……」


「特許を申請するわ。この性能ですもの戦機を持たない騎士団さえ飛び付くはずよ。需要は大きいと思うんだけど」


 大体分かってきた。性能を探るための試作機を何機か作って、魔獣狩りの実績を作ろうということなんだろう。試作機の費用を軍から出して貰い、フェダーン様に先行して売り込もうって魂胆のようだ。

 

「欲しがるでしょうか?」

「軍にとっては数と大きさは正義なの。アリス、軍用とするには仕様を変える必要があるかしら?」


『現在も獣機部隊が存在しますので、部隊装備の更新の範疇と推察します。銃は新たに設計が必要になると推察します。戦機用のボルトアクションライフルの小型化で対応が可能です』


 口径40mmではなく30mm程度になるのかな?

 それでも獣機の持つ2連装銃の口径は25mmだからかなり威力を高められるだろう。


「良いわね。その概要図も欲しいわ。たぶん小隊規模で欲しがるはずよ」

「特許だけで十分ということですか?」

 

 仮想スクリーンを眺めていた顔をカテリナさんに向けた。

 微笑みながらコーヒーを飲んでいるけど、そんな苦い代物を微笑んで飲める心境が理解できないんだよなぁ。


「私達もいろいろと忙しいでしょう? 最初の試験機は作ろうと思ってるけど、後は軍の工房に任せても問題はないはずよ。それなりに優秀な人材は揃っているんだから」


 そういうものなんだろうか?

 とりあえずタバコに火を点けると、もう1度じっくりと新型獣機の姿を眺めることにした。

                ・

                ・

                ・

 カテリナさんと久しぶりにベッドで横になる。

 体を重ねるのも久し振りだけど、やはり魔道科学は問題があるなぁ。

 ドミニクと少しも変わらない体なんだからね。動きはドミニクよりも激しいから、カテリナさんを抱き上げてジャグジーに向かう時のベッドのシーツはかなりメチャメチャだ。後で直しとかないといけないだろうな。


 ジャグジーで温めの湯に漬かりながら、ワインのグラスを傾ける。

 冷たいワインが火照った体に染み入るようだ。


「やはりリオ君は良いわね……。ドミニク達にはもったいないくらいよ」

「そうですか? どこにでもいる普通の男だと思ってますけど?」


「謙遜は良くないわ。アリスと一緒ならこの世界に君臨できるだけの実力があるんですもの。国王陛下も無下には扱わないでしょう?」


 そうかな? かなり俺で遊んでいるように思えるんだけどね。


「もう1つあったわね。一応、私が責任者になるんでしょうけど、ローザに任せるのは良い考えだと思うわ」

「少しレクトール王国で頑張り過ぎたようです。でもそうしないと……」


 3度目の脱皮を終えたスコーピオの群れだからなぁ。あの場所でくい止めないと被害がどこまでも拡大してしまっただろう。


「やはり戦姫は凄い! ということになったんでしょうね。戦姫を持っているのにそれを動かすことができない。たぶん、王族だけでなく貴族まで範囲を広げて動かせる者を探したはずよ。それで、どうにか指先を動かせる子供を探し出したみたい」


 貴族だとしても、婚姻で王族に迎えることはできるということなんだろう。

 他の王国もそれに倣ったということになるのかな?


「王都に行ったら、少し別行動になりそうだわ。でも、それまではここにいるわよ」


 そういって俺の上に体を乗せてくる。

 今度はここで楽しむことになるのかな?

 まだ、アレクやローザ達が帰るまでには時間がありそうだ。

 それまでは2人だけの時間を楽しもう。


 ジャグジーの周囲の壁は全てガラス張りだ。

 森の緑の向こうには青い海が広がっている。こんな場所を良く選んで別荘を建てたものだ。しかもほとんど利用しないというのだから無駄使いそのものだな。

 だけど、この別荘を作ることで民衆に金が流れたことは間違いない。

 無駄使いではあるけど、それによって民衆が潤うのであれば問題ないということになるんだろうか?


「何を考えてるの?」


 俺の顔を両手で押さえたカテリナさんが、顔を近づけてくる。


「無駄使いそのものだと感心してたんです」

「そうね。でも無駄使いはある程度必要なの。無駄なお金が誰に渡って、どのように使われるかが問題ね。貴族に渡るようなら問題でしょうけどね」

 

 あえて、無駄を作るということになるのだろうか?

 それも問題がありそうな気がするんだけどなぁ……。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読んできましたが正直に言えばSF風の作品だけで良かった気がします、異世界風のこの作品は手直しする前の作品の方が面白いと思います。 異世界風には余り設定が合ってないのが正直な感想です。…
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