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M-227 税の過剰徴収は重罪らしい


 漁村から別荘に帰って見ると、フレイヤどころかマイネさんまでいなかった。

 皆であちこち探検に出掛けているに違いない。

 昼食時だから帰ってくると思っていたんだけど、お腹よりも好奇心を優先したんだろうな。

 それほどお腹も空いてないから、コーヒーで我慢しよう。アレクはブランディーで十分らしい。

 大きな屋根を列柱が支えているテラスの椅子に座って、2人で漁村に付いて話し合う。


「全く、酷い村だったな。桟橋はガタついていたし、沖に出られるような船さえないんだ。あれでは1ケム(1.5km)もおきに出ることはできないぞ」

「村長の家も粗末でしたね。税金は全て村で使うように言いましたが、それで済むような話では無さそうです」


 前の領主である男爵の搾取が酷かった、の一言だ。

 その男爵はどうなったんだろう?

 ハーネスト同盟軍の侵攻に対処できなかったのなら責任が問われたはずだ。

 ある意味自業自得ではあるんだが、懲りない奴はとことん懲りないからなぁ。


「少しまともな漁船を何隻か供与したいですね。でも桟橋から作り直さないといけないですか?」

「桟橋に、倉庫は必要だろう。漁船を含めるとどれぐらいになるかだな」

 

「マクシミリアンさんが北隣の領主になります。訓練所を作るために工兵が来るでしょう。工兵を派遣して貰えるかフェダーン様に調整してみます」

「そうだな。それができるなら、漁船ぐらいは何とかなるだろう。新品ではなく中古でも十分だろう。あの船よりは遥かにましだからな」


 一から始めた方が良さそうな感じもするけど、領民を持ったからにはそれなりの暮らしをさせてあげないといけないだろう。

 中世時代じゃないんだから、搾取すれば良いというもんじゃないと思うんだけどなぁ。


 日が傾くころに、フレイヤ達が帰ってきた。

 どうやらお弁当を持ってピクニックに出掛けたらしい。

 のんびりとしてきたところを見ると、良い場所を見付けたのかな?


 俺達が昼食がまだなのを知って、マイネさんが急いでサンドイッチを作ってくれた。

 あまり食べると、夕食が食べられなくなってしまいそうだ。


「それで、どうだったのかしら?」

 

 カテリナさんが、コーヒー片手に問い掛けてきた。


「前任の領主の顔を見たいものだ。一初ぶんなぐってやりたいぞ」

「それほど酷かったの?」


 驚いた様子でドミニクが俺に顏を向けた。


「貧乏暮らし、ここに極まれり……、と言う感じだ。先ずは援助からになりそうだよ。まともな桟橋が無いのも問題だね。船は古いし小さい奴ばかり、住まいは村長の家でさえ土間だったからね」

「着ているのはぼろきれ同然だ。子供達は靴さえ履いていない。ちゃんと食べているのかと考えてしまったぞ」


「農園のような暮らしかな、と思っていたんだけど……」

「畑はあっても小さいものだ。あれで税金が5割とはなぁ」


 アレクの言葉に、カテリナさんが表情を変えた。

 やはり何か問題があるのだろうか?


「税金は最大でも3割5分を超えない筈よ。賦役も税とみなされるから、5割は以上だわ。貧しい理由がそれだけとは限らないけど、前任者の調査は必要になりそうね」

「税金が戻ったとしても、そもそもそれほどの稼ぎにはならなかったと思うな。桟橋と中古の漁船、それに村役場ぐらいは何とかしてあげようと思ってるんだけどね」


「島の開発よりは優先度が高そうね。神殿から頂いた金貨を上手く使って頂戴。あれはリオへの慰謝料みたいなものでしょう? 騎士団では使えないわ」


 と言われても、それ程使うことにはならないだろう。

 アレクが小型船を欲しがっていたから、ついでに中古の漁船を駆って貰うことにした。

 桟橋と村役場の建設は工兵の派遣を要請すると言ったら、カテリナさんが笑みを浮かべていた。


「フェダーンに告げれば直ぐに派遣してくれるわよ。たぶんその費用を、前任の男爵に請求するんじゃないかしら。税の過剰徴収が表立ったら、男爵も困るはずよ。国王陛下に知れたら厳罰になるんじゃないかしら」


「内々で済ませるってことか? それは村人の気が済まないかもしれんぞ」

「素直に請求に従えば厳罰にはならない筈よ。それより少し軽い1代限りの男爵になるんじゃないかしら」


 子供は平民ってことになるのか……。とはいえ全く王宮からの給付が無いわけではない。子供の代になったら貴族街を出て、町や村で暮らすぐらいは何とかなるだろう。さすがに孫の代になれば給付も無くなるから自分で暮らしを立てることになるんだろうな。


「親がそんな連中なら子供だって碌な者にはなっていないだろう。斬首の方が後の問題を無くせるんじゃないか?」

「その辺りは、フェダーン達の考え1つでしょうね。でも、王宮への出入りは出来ないでしょうし、派閥からも弾かれるわ。その後はどうなるのかしらね」


 酒に溺れることになるのかな?

 まあ、それも自分のまいた種ということになるんだろう。

 それはフェダーン様に任せるとしよう。エミー達が起こっているようだから、連絡は連絡をお願いすることにした。


「色々とありそうだから、1週間ほど休養を取って王都に戻りましょう。王都で2週間過ごしてヴィオラへと戻りたいわ」

「集合日時は、あの通りで良いんだろうな?」


「一か月後に陸港へ集合。場所は覚えているの?」

「陸港の第一桟橋、第一会議室だ。朝から午後8時までが受付だったな」


 アレクの答えにレイドラが頷いている。間違いないってことだな。俺はすっかり忘れていたけど、その前日にアリスが教えてくれるに違いない。


「それで、良い釣り場はあったのか?」

「アレクが喜びそうな場所ばかりよ。今日は竿を持って行かなかったけど、明日は一緒に出掛けましょう」


 アレクがここに残ると言い出さないかな? ちょっと心配になってきた。

 問題がたっぷりとある領地だけど、少しずつでも改善していけば良い。

 サンドイッチをパクつきながら、皆と領地の開発について話し合う。

 直ぐにでも、畑ができて森ができると思っているのかな?

 開拓は長い年月が掛かると思うんだけどねぇ。挫けぬ心がそれを推進する原動力になるはずだ。

 毎年、少しずつ暮らしが上向いて行けば希望も出てくるだろう。

 直ぐに結果を求めるようでは、領主としては失格と言わざるを得ないな。

 俺も、無理を言わずに、彼等に期待することにしよう。


 夕暮れが広間を染める。

 ランプの明かよりも夕日の方が明るいテーブルで夕食を取る。

 昨日が魚料理メインだったから、今日は肉が主体のようだ。

 何時もこんな食事が取れれば良いんだけどね。陸上艦暮らしの騎士団からすれば贅沢以外の何物でもない。

 こんな料理も今夜が最後かもしれないな。明日は荒地での食事より少しマシな料理に代わるに違いない。


「リオも付き合うか? 竿はあるぞ」

「遠慮しときます。カテリナさんと獣機の改良に付いて話し合わねばなりません」

「例の話だな? 期待してるぞ」


 俺も気になるんだよなぁ。さっきから笑みを浮かべて俺を見ているようだから、何か方法が見つかったということなんだろうけど……。

 

 食事が終わると、交代絵ジャグジーを使い、湯上りの体を広間の外の回廊にあるベンチで冷ます。

 甘いワインが良く冷えているから、のど越しが気持ち良い。


「良い場所ね。やはり王族が手放さなかっただけのことはあるわ」

「それほど良かったの?」


 俺に肩を寄せているフレイヤに聞いてみた。


「兄さんの別荘も良かったけど、ここは別格よ。離れを作っても良いかもしれないわ。そうそう! ここも騎士団に開放するんでしょう? となると、宿舎はあの辺りになるのかなぁ……」


 仲間内の話みたいだな。全く場所が分からない。

 この島を保養施設とするのはドミニクも賛成みたいだから、俺が関与する必要も無いだろう。

 

「以前、王家が宿舎を用意する話をしていました。国王陛下に二言は無いですから、私達でお願いしておきます」

「あまり無理を言わないようにして欲しいな。あの話だと、ホテルを建てるぐらいのことはしそうだからね」


 この場合の常識は、誰を基準にするのだろう?

 王族の常識は、俺には理解できないぐらい桁が違うんだよなぁ。


 さてこの辺で今夜は休もう。

 明日は、カテリナさんと改造結果の仕様を検討しないといけないからなぁ。

 エミー達を連れてプライベートの寝室に向かう。

 この寝室も、やたらと大きいのが問題だ。ベッドだって、横に5人は寝られるんじゃないか?

 どんなに寝相が悪くても、ここから落ちることは無さそうだ。

 今朝だって、フレイヤに蹴りを入れられたけど落ちることは無かったからね。


 別荘にやって来て2日目の朝。

 脇腹の激痛で目が覚めた。

 いつの間にか横になって寝ていたフレイヤの足が、しっかりと俺の脇腹に突き刺さるように置かれている。

 喧嘩も強いんじゃないかな?

 寝相でこれだけのダメージを与えるんだから、本気で蹴ったらあばら骨を折るぐらいのことはありそうだ。


 横腹を抑えながら部屋のジャグジーに向かう。

 冷たいシャワーを浴びて目を覚ますと、着替えを済ませて回廊に出た。

 左手の共用部分の回廊とは、凝った彫刻が施された壁で仕切られているし、回廊の真下は大きくえぐられた断崖になっている。

 この部屋だけのデッキとも言えるだろうな。

 デッキチェアーに腰を下ろして、タバコに火を点けた。

 バングルの時計は、まだ7時前だからなぁ。誰も起きていないだろう。


 一服を終えたところで広間に向かう。

 既に起きていたマイネさん達に挨拶を交わしてソファーに腰を下ろすと、直ぐにマグカップのコーヒーが運ばれてくる。


「お手数をお掛けします」

「何時もこれぐらいに起きてくれると良いにゃ。エミー様達は未だかにゃ?」

「まだグッスリです。休暇中ですから、大目に見てください」


 ニコリと笑みを見せてくれたけど、既に諦めているのかもしれない。

 ずっと見えない世界で暮らしていたんだから、急に見えるようになれば疲れるのは無理はない。

 それだけ気を張って任務をこなしてきたんだから、ここに来て急に気が緩んだのかもしれないな。

 

 コーヒーを飲み終える頃になって、少しずつ広間に人が集まってくる。

 最初にやってきたのはローザとリンダだな。まぁ予想通りではある。

 今日の行動予定を話してくれたけど、どうやら島を一周しようという計画らしい。


「昨日は時計回りだったが、今日は反対に回るつもりじゃ。それで一周できるじゃろう。岩場や小さな砂浜がたくさんあるぞ。明日は、アレクと数を競ってみるのも一興じゃな」


 ローザの話を、おもしろそうにリンダが聞いている。

 リンダの護衛だからねぇ。今日も1日付き合うことになるんだろう。

 だけど、それらはローザの計画ではなくて、リンダが案を出しているんじゃないのかな。


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