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M-222 ブラウ同盟が西に向かうためには


「学府に登録されていたパラケルスの弟子は13人。空間魔法の探求で2人が行方不明。だが魔方陣の発動時に多数の魔導士が立ち会っていることから、2人は亜空間にと鰓われたと見るべきであろうな。

 残り11人の内、魔導士から神官へと転職したものが6人。神殿の奥で何やらしておるようだが、迎賓館の一件で彼等の処遇が変ったようだ。

 3人は魔道研究に打ち込んでいたが、師と仰ぐ人物がいなくなったことで研究の目標を失っているそうだ。師事した期間が短かったということだろう。

 残った2人は行方不明。忽然と姿を消したそうだ。パルケルスの指折りの弟子という話であったぞ」


「孫弟子はどうでしょう?」

「行方不明の2人、それに神官に転職した6人の内の3人が弟子を持っていたらしい。そのまま神官となった者については弟子は同行していないそうだ。

 行方不明者となった2人の弟子については孫弟子までもがその日の内に姿を消したらしい」


 空間魔法尾失敗ではないだろうな。間違いなくハーネスト同盟のどこかの王国に下ったということなんだろう。


「ウエリントン王国におる者達は、監視を続けると国王陛下が仰られていた。非合法の実験を行いそうな場合は未然に防止できよう。だが、不明者が問題だな」

「全員が存命しているとは思えませんが、それなりの知識を持った人物がまだいることは確実でしょうね。そのものがどこまで帝国の文献を読み解けるか……、話せるか……」


 部分的に解読することぐらいは可能だろう。

 リバイアサンの生体電脳のような代物を稼働させることができなくとも、部分的には動かせる知識を持っていると考えるべきかもしれない。

 兵器の安全装置が多重化されていることを祈るばかりだ。


「ハーネスト同盟とは国交をおこなっておらぬが、神殿の繋がりはあるようだ。リオ殿の手助けと話したところ快諾してくれたぞ」

「脅したわけではないですよね?」

「自発的に協力を申し出たのだ。我等は暴力は好まぬからな」


 直接的な暴力でなく、間接的な暴力という言葉もあるぐらいだ。

 悪評を広めると言ったら、従うしかないんじゃないかな。


「今のお話も国境防衛に関わるお話なのでしょうか?」


 マクシミリアンさんが恐る恐るフェダーン様に問い掛けた。

 マクシミリアンさんは詳しい話を聞いてないんだろうな。リバイアサンを見たことはあるんだろうが、それをどうやって動かしたかは知らないんだろうな。


「かなり重要だ。リバイアサンに隠匿空間。これらは古代帝国の遺産であることに間違いない。

 それらを見付け、かつ動かせるのはリオがパルケルスの隠匿実験室で暮らしたことによるものだ」


「それならば、パルケルスの弟子と言えるのではないでしょうか? なぜリオ殿を特別視するのか分かりませぬ」

「弟子であれば、ウエリントン王国いや、この世界を破壊することも可能だろう。

 だが、リオは弟子ではないのだ。パラケラスの人体実験に長く晒され続けたようだ。

 神殿がリオ殿に興味を持つのは、リオ殿の持つ篤い信仰心ではないぞ。その体に魔石を持つからだ。

 導師よりも多くの魔石を埋め込まれたらしいが、導師はそれだけで極刑に値するとまで言っておった。

 さらに、マクシミリアンにウエリントン王国の極秘情報を伝えねばなるまい。

 パルケルスは既に、この世にはいない。リオの友人の手で行きながら風の海の地中深く埋められたからな。

 その時の救出時に、パラケルスの集めた帝国の文献は灰になったが、その知識はリオ殿が全て持っている」


 広間が急に静かになった。

 魔導師の人体実験は、場合によっては許可されるらしい。もっとも、その被験者は死罪で牢に繋がれた者に限られるようだ。

 それも、かなり凶悪な犯罪者でもない限り行われないと聞く。あまりにも非人道的な結果になってしまうからだろう。

 

「それが理由でしたか……。好青年だと思っておりましたが、辛い過去を持っていたとは存じませんでした。私の愚考を恥じ入るばかりです。

 しかし、そうなりますと、ハーネスト同盟の動きが気になりますね。

 次にやって来る時には、我等が想像もできない兵器を携えてくる可能性も出てきます」


「だからこそ、星の海の動きを監視せねばなるまい。それにリオ殿が気になることを言っていたな。

『ハーネスト同盟軍は、なぜ東進に拘るのか』、どうだ? その問いに答えられるか」

「世界の統一は、ハーネスト同盟の宿願ではなかったのですか? 士官学校ではそのように教えを受けましたが」


「それは答えにならんぞ。少なくとも過去の戦で戦力が拮抗しているのは向こうも知っていることだろう。それなら国力を高めてから、我等に倍する兵力で来るのが戦の常識ではないのか?」

「それはそうですが……。申し訳ありません。私にはその答えを持っておりませぬ」


 その場の状況だけで判断しているのかな。一歩下がって全体を見る癖を付けないと、大敗を喫するかもしれない。


「リオ殿から、その疑問を問われた時に、私も同じ考えであった。場合によっては王家の悲願として各世代ごとに戦が行われるのかもしれぬと考えたのだが、リオ殿は全く異なる考えを示してくれた。

『ハーネスト同盟が西に版図を広げないのは、広げられない理由があるのではないか』

 この考えは持たなかったな。全く目から鱗の落ちる思いであったぞ」


「まだ見ぬ魔獣!」

「可能性は高そうだ。しかも凶暴かもしれぬぞ。ハーネスト同盟の機動艦隊は強敵なのだからな」


 コリント同盟にブラウ同盟、更にハーネスト同盟の諸王国の版図は大陸の南岸に西に向かって伸びている。9つの王国の東西の大きさはおよそ1~1.5千kmほどだ。全ての王国が最大の1.5千kmだとしても、1万4千kmに満たない。帝国時代の文献で大陸の長さは4万kmほどもあることを考えると、西には誰も住んでいない土地が広がっていることになる。

 戦で帆餓死の土地を得るよりも、地下資源と肥えた土を求めて西に向かうのが自然な話だ。

 それを行わないのは、まだ見ぬ魔獣の脅威と言うことが一番しっくりするんだよなぁ。

 長城を破るようなスコーピオのような群れかもしれないし、チラノすらトカゲに見える超巨大な魔獣かもしれない。

それとも、全く別の自然現象かもしれないが、ハーネスト同盟軍がなぜ西を目指さないのかを明確に知る必要はあるだろうな。

 

「あまりリオ殿を頼るな! ということですか。……了解です。確かにそれを確認する必要もありそうです」

「先のレッド・カーペットの折にウエリントン王国に侵入して直ぐに引き返した理由もある。あの魔獣騒ぎでサーゼントスがあの有様だ。

 たぶんあの魔獣だけではあるまい。それを確認せねば我等も西への進出は出来ぬからな」


 フェダーン様の言葉に、マクシミリアンさんと士官が驚いている。思わず椅子から腰が上がったぐらいだ。


「まさか……、ハーネスト同盟軍に対して決戦を挑むのですか!」

「そんな訳があるか! 全く全体を見ぬな。我等が西を目指すとなれば、星の海の北を回ってになろう。さすがにハーネスト同盟艦隊はそこまで足を延ばしておらぬ。

 拠点を設けて西の大地を開拓することになろうぞ。

 そのためには、最初のリオ殿の問いの答えを見付けねばなるまい」


 それって、隠匿空間を一大兵站基地にしようとしてるように思えるんだけど……。

 軍に貸与した部分については俺達も口出しができないが、あの空間だけで1個艦隊は停泊できそうだ。

 商会ギルドと調整することで、物資の補給は用意になるだろうし、その移送は飛行船と言うことになるんじゃないか?

 爆撃用の飛行船よりさらに巨大で積載能力が要求されそうだが、不可能ではないだろう。


「はたまた遠大な計画ですな。私にはとても全容を理解することはできませんが、変容の時と言うことは理解できます。

 我等が国境を守ることで、西への進出の足掛かりができるならこの身をこの地に捧げることも厭いませんぞ」


 マクシミリアンさんの言葉に士官達も頷いている。

 確かに、西の守りが万全でなければ何事も進まない。

 フェダーン様の援助はその為と言うことになるはずだ。かなり盛り込んでも了承してくれるんじゃないかな。


「マクシミリアンの計画書を心待ちにしているぞ。多少は盛り込んであっても国王陛下は同意してくれるはずだ」

「了解です。軍の退役者については人事担当と調整を初めてもよろしいでしょうか?」

「構わぬ。職場の斡旋であれば、向こうも喜んでくれるだろう。良い人材を確保するのだぞ。それと、他の領主との調整も行うのだ。マクシミリアン領にばかり優秀な人材が集まるのでは後々困ったことになるだろうからな」


 上手く均整を取れと言うことなんだろう。

 それはマクシミリアンさんだって考えているはずだ。

 王宮で無駄な時間を取らずに済んだから、マクシミリアンさんにとって今日は良い日だったに違いない。


 改めて、ワインが運ばれてきた。

 さすがに王宮でメイドを長くしてきただけのことはあるな。

 面倒な話が終わったところだ。


「明日は、頂いた領地へ出掛けるのか?」

「島も気になりますし、漁村があるそうですから、開拓するにしても一応話をしておかねばなりません。休暇はその後になりそうですね。のんびりと島を散策しようかと考えています」

 

 俺の言葉に、少しフェダーン様が考えているんだよなぁ。

 せっかくの休暇なんだから邪魔をされたくはないんだが……。

 

「王都で1度パーティを開くと良いだろう。辺境伯の妻ともなればサロンへの参加も考えた方が良いだろう。丁度良いサロンの主催者がここにおるからな」

「私のサロンでしょうか? 王宮内での評判はよろしくはありませんが?」


「それは夫達の派閥を越えているからだ。別に悪いことではあるまい。ヒルダも羨んでおるぐらいだからな」

「あのう……、もちろん、エミーだけの参加ですよね?」

「何を言う。ヴィオラ騎士団の面々であれば、参加するに十分な資格があると思うぞ」


「その分野で活躍している女性であること、王宮の謁見の間に出た実績を持つこと……。条件はこの2つです。フェダーン妃殿下の仰られる通り、この場におられる女性全員が参加資格をお持ちですわ」


「我もか?」とテーブルの隅から声が聞こえてきた。ローザならどのサロンでも参加できるんじゃないかな。


「サロンは女性のたまり場ではあるが、有能な女性が王都の屋敷に籠っているのはもったいないと常々考えている。

 使える者を燻らせるようでは将来のためにならんと常々思っておる」


 なるほど、人材発掘を行えってことか。その辺りの話術をフレイヤに期待するのはどうかと思うけど、エミーなら良い人材を見付けてくれるかもしれないな。

 とは言っても、フレイヤ達が互いの顔を見てるんだよなぁ。

 今夜は誰を送りこもうかと、激しい言い争いが起こりそうだ。


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