表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/391

M-221 見掛けは開拓者だけど


 バルシオスの広間に入ると、綺麗に席が作られていた。

 どこに保管してあったのかと気になってしまうが、白いテーブルクロスがテーブルの上に敷かれて、真ん中には花籠まで乗せられていた。

 これなら、貴族を集めて会議をしても問題は無いだろう。

 フェダーン様も感心しているけど、マイネさん達が頑張ってくれたに違いない。


 左舷に俺達が座り、テーブル越しにマクシミリアン夫妻と士官が座った。フェダーン様は船首方向で副官を隣に座らせている。


「どうにかここまで操船してきました。せっかくですからお招きしたのですが、だいぶ急なご様子ですね」

「北の領地を頂いた準爵達を早く安心させたかったのです。

 それはそうと、私の妻を紹介しましょう。これから長いお付き合いをしたいと、一緒参った次第……」


 マクシミリアンさんが、左に並んだ2人の美人を俺達に紹介してくれた。フェダーン様の前だからだろうか、立ち上がって丁寧に自らの名を告げてくれた。

 ルニエルさんに、サリーネさんだな。覚えておこう。

 俺も、エミー達の紹介をした後で、ヴィオラ騎士団の主要人物を紹介する。

 ヴィオラ騎士団長が俺ではないと知って、士官が驚いているようだ。

 

 各自の紹介が終わったところで、マイネさんがコーヒーを運んできてくれた。

 漁村の娘さんも恐る恐るテーブルにカップを置いている。

 家に戻ったら家族に自慢するんだろうな。


「タバコはご自由に、それでどの辺りから始めましょうか?」

「フェダーン様がおいでになるとは思いませんでした。後ほど計画をまとめてご報告したいと思っておりましたので……」


「気にするな。大まかな話はリオ殿より聞いている。我も賛同したいが詳細な計画はマクシミリアン殿に任せるぞ。

 国王陛下も西を気にしておいでだ。西の国境に防衛線を構築したいとマクシミリアン殿達にあのような領地を分配したと仰った。その方向で対応する限り、軍の協力を出し惜しむことは無いぞ。それで具体的にはどのように?」


『迎撃計画をマスターのプロジェクターに送ってあります。攻撃も可能ですが、威力偵察の域を超えることはできないでしょう』

『ありがとう。フォローは頼んだよ』


 テーブルの上にプロジェクターを乗せると、マイネさん達が窓のカーテンを閉めてくれた。

 少し薄暗くなったが、これぐらいなら画像が綺麗に映るだろう。


「西の国境に領地を得たのは、この地図に示す通り南から、私、マクシミリアン殿、トレザス準爵、オーバルン準爵、そしてカルーニア準爵になります。その西側に男爵領がありますが、国境より30ケム(45km)近く離れていますから国境の防衛に直接係わることは無いでしょう。

 男爵領については、我等の計画対象外となります」


「男爵達は、2陣を作ることになるであろう。普段より私兵の訓練をしておいてくれれば良いのだが」

「国境線より3ケム以内で侵攻の足を止めたいと考えました。停止期間はおよそ2日間。これだけあれば、機動艦隊が駆けつけてくれると考えています。

 我等が足を止めたところで、北から側面を突く陣形を考えました」


 国境線を拡大した画像に、仮想的艦隊に北からブラウ同盟艦隊の攻撃が画像で示される。


「形としては理想的だが、どうやって足止めするつもりだ? 私兵の数は決まっている。国境線と言うことで多少の増員は認めるが、準爵では2個分隊と言うところだ。リオ殿にしても1個中隊を越えることはできぬぞ」

「私兵は死兵ではありません。そこまで兵士に要求するのは施政を行う者の恥になるでしょう。我等は私兵を設けずに、その時にだけ銃を取る義勇兵を養成したいと考えています。

 普段は自らの畑を開墾し、自分達の畑を蹂躙する者達に対して団結できる者達を集める所存。 私兵のように常時兵役を課すわけではありませんから、維持費もあまりかかりません」


「それで退役軍人が欲しいということだな。トラ族とネコ族、イヌ族ということになる。お前達が彼等を雇うなら軍としても助かる話だ。歩兵装備を着けてやろう」

「必要人員は、マクシミリアン殿の計画書までお待ちください。俺の方は軍ではなく騎士団より補充しようと12騎士団と調整しています。騎士団も中々苦労していますからね」


「それで必要な防衛軍が出来上がるのだな? 攻撃軍とならないのが惜しいところだな。だが歩兵では陸上艦を破壊できぬぞ」

「その為の兵器集積所が、マクシミリアン殿の領地に作る訓練所になります。飛行船に飛行機、戦機は無理でも獣機は中隊規模で欲しいところです」


「獣機はロケット弾の操作ということか?」

「表立ってはそうなりますが、真の狙いは開拓です。領地の開拓速度が10倍以上早まります」


「新兵の訓練にもなりそうだな。獣機で畑を耕すのか……。国王陛下が知ったら何というか楽しみだ」

「やはり無理だと?」

「いや、笑いながら手を叩くに違いない。獣機は多目的に使えるのだ。畑を耕すのに何のためらいもないぞ」


 少し温くなったコーヒーを飲んで、少し頭を整理しよう。

 マクシミリアンさん達は、フェダーン様が賛成してくれたことで少し表情を明るくしている。

 だけど、案外難しいと思うんだよなぁ。


「現在の敵情を知る手段は、諜報員の連絡だけになっています。これでは即応することができません。

 国境より1ケム(1.5km)の間に、多数の地雷を埋設しようと考えています。埋設だけでも1日は欲しいところです。このために、定期的に敵情を知る手段を持ちたいと考えています」


「飛行船を使うのか? 爆撃用の大型は維持が面倒だと聞いたが」

「小型の飛行船を再設計したいと考えています。更に高度を上げて、ガルトス領内200ケム(300km)を南北に偵察したいのですが……」


「私の一存というわけにはいかんな。確かにその情報は軍でも欲しいところだ。当然領内に監視所は作るのであろうが、それでは即応できぬか……」

「地雷は長く埋めおくことができません。味方が踏めば駆逐艦クラスでは大破してしまいます」


 威力はあるし、低価格ではあるんだけどねぇ……。

 地雷原は普段から踏み込まないようにしておかないとな。

 国境から1ケム(1.5km)を地雷原として、その東2ケム(3km)を作戦区域として置けば良いだろう。

 俺達の領地にやってくる陸上艦はこの区間を走行すればいいだろう。地雷原と耕作地の間だからね。リバイアサンが通っても問題は無いはずだ。


「ロケット弾はある程度備蓄して欲しい。例の駆逐艦2隻を引き渡すぞ。マクシミリアンの艦隊も訓練所を母港とすることで良いだろう。他に要望はあるのか?」

「そこまでで十分です。あまり厚遇されますと、他の者達から妬まれかねません」


 その辺りの調整が上手くできるのがマクシミリアンさんなんだよなぁ。

 俺には無理な話だ。

 商会との調整は行っても、周辺貴族との調整と王宮の方は全てマクシミリアンさんにお願いしよう。


「しばらくは戦も無いであろう。良い畑を作るのだな。マクシミリアン殿ならば、葡萄畑と言うことになるのか?」

「さすがにマクシミリアンは作れませんが、ブドウの品種改良ができるならおもしろそうです」


 産業を持っている強みなんだろうな。そうなると漁村を大きくしたいものだ。あの辺りだと何が獲れるんだろう?

 美味しい魚なら良いんだけどね。

 待てよ……。入り江があったなら養殖ができないかな?

 稚魚を取って育てる漁業は、まだこの世界に無いからね。育てやすくて美味しい魚があれば良いんだけどなぁ。


「マクシミリアンには訓練所所長の辞令が出る予定だ。だが現行の第一機動艦隊第5艦隊の指揮官を解任するつもりはないぞ」

「代理者をさがせ! ということでしょうか?」


 フェダーン様が笑みを浮かべてマクシミリアンさんを見つめている。

 口でハッキリ言うことはできないってことなんだろう。要するに責任を取るのはマクシミリアンさんと言うことになるのだろう。

 ちょっと気のどくになってきたが、代理者が実質的な所長と言うことになるから、誰にするかはマクシミリアンさんに任せるということに違いない。


「拝命いたします。私の艦隊を近場に置くことに問題はありませんね?」

「元々が独立艦隊。第5艦隊は前よりも自由な行動を許すつもりだ。ウエリントンの北を遊弋して欲しい。その前に艦隊を軍の工房に移動せよ。レッド・カーペットでロケット弾の有効性が実証された。副砲塔や船尾砲塔に発射装置を搭載したい。

 旗艦は巡洋艦だが、船尾砲塔群を全て撤去する。新型飛行機を4機搭載することで遠方監視を可能とするつもりだ」


 星の海の国境監視が主任務と言うことになるのだろう。

 星の海の北は隠匿空間の艦隊が当たれば、陸上艦による東進は事前察知が可能だ。直接的に東進する場合は俺達ってことになるんだが、その早期警戒システムを構築するには、飛行船によるガルドス領内の偵察が肝心になる。

 王宮がどのような判断を下すか、楽しみだな。もしそれができない場合には別の手を考えなければならないが、地雷を事前埋設するのは考えものだぞ。


「王都で妻達と静かに暮らしたかったのですが……」

「まだそんな歳ではあるまい。静かな農村に別荘を持つのも良いのではないか? 今度の叙勲で国境近くの貴族に移動があったのは知っておるだろう?」


「なるほど……。派閥ができそうですから王宮務めの貴族が騒ぎそうですよ」

「彼等の監視は出来ておる。今回降格された貴族を見れば少しは自重するであろう」


 問題のある貴族を王宮に集めて監視体制を強化したのか!

 監視の目があれば、少しは本来の任務に励んでくれそうだな。


「これでウエリントン王国の国境は万全であろう。リオ殿には引き続き星の海を担当してもらうぞ」

「あのう……、俺達は騎士団であって軍ではないのですが?」


「それなりの報酬は支払うつもりだ。それに辺境伯の領地には星の海を加えても良いと国王陛下は仰っていた。私も賛成しているぞ」


 たくさんの湖がある湿地帯のような場所に、産業は生まれないと思うんだけどなぁ。

 俺に帝国の遺産探しをやらせようとする思惑が見え見えだ。


「さすがにそこまでの領地を得るのは問題かと……。ですが報酬に見合う探索は行いましょう」

「探索か……。そうだな。探索と言うことで良いだろう」


 哨戒では足りないだろう。リバイアサンのような怪物がまだ埋もれている可能性が高いんだから。

 そう言えば、導師達の方はどうなったんだろう?

 パラケルスの薫陶を受けた連中の所在調査が気になってきたぞ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ