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M-216 動き出した!


 翌朝目が覚めると、隣にいたのはドミニクとレイドラだった。

 ドミニクを起こさないように、俺を抱いている腕を放してベッドを抜け出す。

 1階に下りて、リビングから船尾の甲板に出た。


 朝日が丁度昇るところだ。

 道理で2人がぐっすりと眠っていたはずだ。


「珍しく早起きにゃ!」


 後ろを振り返ると、マイネさんがマグカップをトレイに乗せている。

 ありがたく受け取ったけど、俺にはマイネさんの早起きの方が驚きだ。


「ありがとうございます。早起きなんですね?」

「だいぶ前に起きたにゃ。桟橋をミイネと一緒にランニングしてきたにゃ」


 かなり活動的なメイドさんなんだよなぁ。

 暗部にも片足を入れてるようだから、日々の体力作りは欠かせないんだろう。

 

「朝食は、皆が起きてからにするにゃ。その前にお腹が空いてるなら、パンを焼いてあげるにゃ」


 ありがたい話だ。「お願いします!」と頼んだら、笑みを浮かべて船内に入っていった。

 マイネさん達の朝食かな?

 もっとも俺達だって、いつもサンドイッチのような気がするんだよなぁ。

 ヴィオラで暮らしていた時はスープとパンに干したアンズのようなものだったから、贅沢になったと感じてしまう。


 時計を見ると、6時を少し回ったところだ。さて皆が起きるのは何時になるんだろうな。

 コーヒーを飲み終えたところで、船内に戻った。テーブルに座ってタバコに火を点けながら、やるべき仕事を整理してみよう。


 貰った島とこの領地、それとリバイアサンに隠匿空間。俺達の暮らす場所は大きくなったけど、収入は魔獣狩りで得られる魔石が頼りだ。

 辺境の領地経営のために、金貨50枚を頂いたようだけど、出来れば予備費として計上しておいた方が良いのかもしれない。

 先ずは神殿からの和解金である金貨200枚を軍資金にしておこう。


 島の方は、宿泊施設を王宮の予算で作ってくれるらしいから、現在ある別荘の管理人を見付ければ良いだけだ。これは漁村の村長と相談しよう。


 領地の方はマクシミリアンさんと運営の骨格を調整しなければならない。

 やってくる男爵や準爵とも何度か打ち合わせをすることになるだろうし、王国軍の退役軍人を確保するとなればマクシミリアンさんに頼りことになってしまいそうだな。


 リバイアサンは士官候補生達が去ったから、少し寂しくなってしまいそうだ。

 戦機輸送艦が魔獣狩りで使えるか、いよいよ試せるんじゃないかな。

 

 隠匿空間にはしばらく帰っていないけど、どうなってるんだろう?

 レッド・カーペットが治まったから、騎士団の入港が始まっているはずだ。

 魔獣狩りを始める前に、1度帰った方が良さそうだな。


「あら、珍しく早起きなんじゃない?」

「おはようございます。色々と考えることがありますからね。少し整理してたんです」


 カテリナさんがクリスを伴って下りてきた。

 残りは4人だな。トーストを頂いたから、朝食までもう少しは待てそうだ。


「リオ君は何でも自分でやろうとしてるけど、妻が多いんだから頼っても良いんじゃない? きっと喜んでくれるわよ」

「俺より忙しそうに思えるんですが、良いんですかね?」


「大丈夫! この世界は女性が動かしているのよ」


 確かにいろんな分野に進出しているな。

 ウエリントン王国なんてまさにお妃様達が動かしていると言っても良いくらいだ。


 マイネさんが運んでくれたコーヒーを美味しそうに飲んでるなぁ。

 クリスも笑みを浮かべて頷いているから、手伝ってくれるってことかな? 何を頼もうかと悩んでしまう。


「でも、きちんと問題点を整理してるんだから、たいしたものね。これなら適当に担当者を決めても何とかなるんじゃない」


 さすがにそこまではできないと思うけど、今夜にでも皆と相談してみるか。

 さすがに今日の一大イベントである、この船を動かす前に提案することは避けなければなるまい。


 9時前に、フレイヤ達が起きてきたから、どうにか朝食にありつける。

 マイネさんが呆れた目で俺を見てるんだけど、俺はちゃんと早起きしたんだけどなぁ。


「食事が終わったら、早速始めるわよ。リオには船首と船尾のロープを解いて欲しいんだけど」

「桟橋で解かないといけないから、誰かに頼んでみるよ。俺だけ桟橋に残さないでくれよ」


 何となく怪しく思えるんだよなぁ。

 魔獣を相手にしていた方が、ストレスが溜まらないんじゃないか?


 早めに食事を終えたところで、船を下りて管理事務所に向かった。

 さすがに通りすがりの連中に頼むのは気が引ける。


 事務所で訳を話すと、かなり呆れられてしまった。

 まあ、仕方がないとは俺も思うんだけどね。


「暇な管理人を桟橋に向かわせます。船の前で待っていてくれませんか?」

「申し訳ない。やはり船員を雇う必要がありそうだけど、とりあえずは動かしてみるつもりだ。何とかなりそうだと言ってるけど、ダメなら直ぐに元に戻すからね」


 やはり船員は必要だ。漁を引退した猟師のお爺さん辺りを探してみようかな。

 咥えタバコで桟橋に向かって歩いていると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「兄様! 待ってくれ~」


 やはりローザとリンダの2人組だ。

 新しいクルーザーに乗りたかったのかな? それなら数日後の方が良かったと思うんだが……。


「どうしたんだ! こんなに早く」

「新しい船と母様に聞いたのじゃ。我等も一緒に行くぞ!」


 リンダがトランクを2つ曳きながら少し遅れてやってきた。


「申し訳ありません。1度言い出したら聞き分けがあまり無くて……」

「姉さんも一緒だからじゃないのかな? 仲の良い姉妹だもの。乗船したらすぐに扉がある。その部屋にいると思うんだ。いない時には2階のブリッジだ」


 俺にぺこぺこと頭を下げると、ローザの後を追いかけて行った。

 結局何時もの連中が集まるんだな。

 吸い殻を携帯灰皿に入れていると、向こうから2人の若者が歩いてくるのが見えた。


 半袖のセーラー服の袖を少し破っているようだ。あの筋肉だからなぁ。

 喧嘩したら、かなり強いんじゃないか?


「リオ閣下でしょうか?」

「リオで良いよ。船の固定ロープを解いて欲しいんだ。俺がやったら桟橋に取り残されそうだからね」


 俺の冗談に2人が軽く笑い声を上げる。


「たまにいるんですよ。もっとも小さなボートですけどね。どうぞ船に乗ってください。ロープを解いたら、早めに引き上げてください。そのまま走って行く船もいるんですが、スクリューに絡まると面倒ですからね」

「ありがとう。早めに引き上げるよ。それで、どっちから解くんだい?」


 どうやら船首からのようだ。

 タラップを登って、甲板を船首に向かう。

 結構太いロープだけど、何とかなりそうだ。錨も下ろしてあるようだが、さすがに錨は引き上げられないぞ。


 管理人が桟橋のロープを解いて手を振ってくれた。

 急いでロープを引き上げると、今度は船尾に向かう。

 同じようにロープを引き上げたところで、2人に頭を下げる。

 驚いたような表情で2人が顔を見合わせているのは、彼等に頭を下げる貴族があまりいないんだろうな。

 俺達の便宜を図ってくれたんだから、それなりの感謝は必要だと思うんだけどねぇ。


「兄様、こっちのいたのじゃな。これから錨を上げるぞ。兄様と一緒に上げてきて欲しいと頼まれたのじゃ!」

「上げ方を知ってるの?」


 嬉しそうに話してくれたローザに、思わず問い掛けてしまった。

 ローあの説明によると、怒りの上げ下ろしは自動化されているみたいだ。巻き上げ機のスイッチが近くにあると言っていたけど、……あったかな?


「これが操作盤と言うことなのじゃろう。上向きの矢印と下向きの矢印があるぞ!」

「だけど、カギで巻き上げ機のスイッチを入れないといけないようだぞ」

「ここにあるのじゃ!」


 ローザがカギ穴にキーを差し込んで動力を入れる。上の矢印が付いたボタンを押すと、ゆっくりと錨の鎖が引き上げられ始めた。

 最後はガタンと音を立てて錨が船体の金属板に当たると、巻き上げ機が独りでに止まったぞ。

 魔道科学はここまでの自動化ができるのか……。思わず感心してしまう。


「カギを戻して、蓋を閉めれば終わりじゃな……。リンダ! ……終わったぞ!」


 ブリッジの監視デッキにいたリンダにローザが手を振っている。

 頷いたところみると、了解してくれたんだろう。

 リンダからドミニクに伝えられれば、いよいよ出発ということになるのかな。


「俺達もブリッジに行こう!」


 ローザと共に船内に入りブリッジへと向かった。

 出発の準備を自分達で行っていると、何となく楽しくなってくるな。

 もっとも、俺の役割はここまでなんだろうけどね。


「……右魔道機関のアイドリング状態に異常なし。続いて左魔道機関を作動させます」

「左魔道機関作動後1分間のアイドリングを行います。シンクロ装置の接続は、分かるわよね!」


 色々と確認しているようだ。

 ドミニクがマニュアル片手で指示をしているところを見ると、出発時のフローチャートができてるんだろうな。


「右、左とも魔道機関の異常なし。シンクロ装置への接続を行います!」


 機関士はクリスのようだ。舵輪を持っているのはエミーだし、カテリナさんは海図を乗せた机の傍で皆を見守っている。


「シンクロ装置との接続完了! 船首、船尾のスラスター方向確認!」

「水流の方向は右です!」

「リンダ! 桟橋との角度と距離を確認してね。……スラスター作動!」


 船が動き始めた。

 ゆっくりとだが桟橋から離れ始めたぞ。

 やはりスラスターが前後に着いているだけのことはある。接岸と離岸が楽に行えるようだ。


「桟橋からの距離、約20スタム(30m)!」

「了解。船尾スラスター停止! 微速前進! 左に回頭せよ!」


 矢次早に指示が飛ぶ。

 バルシオスがゆっくりと船首の向きを変えながら桟橋から離れていく。

 やがて港の出口が見えたところで、船首スラスターを停止させた。


「凄いわね。ちゃんと動かせるなんて……」

 

 カテリナさんが感心してるけど、本人達はどうなんだろう?

 皆笑みを浮かべているんだよね。


 港の出入り口にある灯台を過ぎたところで、ドミニクが再び指示を出す。


「第一巡航速度! 左に回頭して岸沿いに東に進む!」


「魔道機関出力上昇中、第一巡航速度に出力を設定……、出力安定しています」

「了解!」


「左回頭終了! これより岸沿いに東へと進みます」

「了解! ……何とかなるものね。次はアレクの別荘前で停船よ。それまでは前方と他の船に注意してね」


「「了解!」」


 本当に動いてる。

 やはり陸上艦を操船しているだけのことはあるんだな。

 ちょっと感心してしまった。

 とはいえ、次は停船なんだよなぁ。動かすよりも止める時の方が大変な気がするんだけど、ドミニク達は全く気にしてないようだ。

 


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