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M-214 桟橋に行ってみよう


 迎賓館で3泊。これでやっと解放される。

 皆の表情も、開放感で一杯だ。

 全て終わったと思ったら、メイドさんが来客の知らせを持ってきた。


 はて? 誰だろう。

 とりあえず行ってみるか。ここからは自由行動になりそうだけど、俺達は頂いたクルーザーを先ずは見てみようということになっている。

 アレク達は別荘に出掛けるようだし、ベラスコは実家に帰ると言っていたな。クリスも実家に早々と向かったし、カテリナさんは学府に向かったようだ。


「あまり長くなりそうなら、日を改めるのよ。今夜の宿も考えないといけないんだから」

「急な会見だから1時間ぐらいだろうね。長くなりそうなら、そうするよ」


 増え嫌の忠告に答えたところで、下に向かう。メイドさんにはコーヒーを運んでもらうように頼んでおいた。


 トントンと扉を叩き入って見ると、数人の男女が座っていた。俺が単独で現れたことに驚いているようだけど、貴族ではなさそうだ。

 その中の女性の顔に見覚えがある。ひょっとして12騎士団の人達かな?

 彼等が一斉の腰を上げて騎士の礼を取る。慌てて俺も礼を返したが、彼らほどには精練されたものではない。


「どうぞお座り下さい。俺達から比べればはるかの高みにいる12騎士団です。本来なら俺の方が訪ねることになるでしょう」

「12騎士団を代表してお伺いした次第。

 この度のレッド・カーペットでは我等も規模が半減するかと思っていたのですが、死亡者を出さずに済みました。

 聞けば、我等の前方を散々爆撃してくれたとか、それに供与して頂いたロケット弾は我等の艦砲を越える活躍を見せてくれました」


「ありがとうございました」と再び頭を下げるんだから、困った人達だな


「支え続けられたのは貴方達が指揮を執った成果だと思います。いくら兵器が優れようとも運用するのは人であり組織です。やはり貴方達が努力した結果だと思っています」


 そんな話を繰り返していたところに、コーヒーが届けられた。

 田跋扈を取り出して軽く頷くと、彼等も頷いてくれる。これで一服できるぞ。


「話には聞いておりましたが、その通りですね。リオ殿ことですから何事も自らことに当たるとは思いますが、我等に協力できることがあれば遠慮せずにおっしゃってください」


 んっ! 良いのかな?

 こんな時には「その時にはよろしくお願いします」と言うことになるんだろうけど、実際ちょっと困っていたことがあるだよなぁ。


「そう言ってくださる時には、1度は遠慮するのが礼儀なのでしょうが……。正直な話、現在困った事態に陥っています。できればご協力願いたい」

「リオ殿の本音を聞きたいと思っていましたから、我等ができることであれば協力します」


 代表して話しているのが12騎士団の筆頭なのかな?

 俺と同じぐらいに見えるけど、人望はあるんだろうなぁ……。


「私兵を集めなければなりません。簡単に集まるものでもなく、頂いた土地が土地ですから公募しても集めるのは困難ではないかと。

 隣の領地を持つ公爵殿にお願いしたいところですが、飛び地を領地にするとなっては自分達で精一杯でしょう。

 退団したトラ族、ネコ族の方々を斡旋して頂くわけにはいきませんか?」


 全員が先ほどまでの笑みを消して驚いている。

 それほどのことなんだろうか?


「彼等の就職を考えてくださると!」

「人数は、いかほど必要になるのでしょうか?」


 急に皆が問い掛けてくる。

 やはり、出来ないってことなんだろうなぁ。元団員として、思い入れがあるんだろうし……。


「そんなお願いを聞くとは思いもよりませんでした。騎士団として活躍できる期間は他の騎士団もそうでしょうが、それ程長くはありません。

 退団は40歳を超えた狩りの終わりと、契約書に書くほどです。

 いくばくかの年金を渡すことはしておりますが、それだけでは暮らしていけないようです」

「今年も数人を退団させねばなりません。リオ殿は彼等を私兵として雇ってくださるということなんでしょうか?」


 ここは詳しく話しておいた方が良さそうだ。

 退役する兵士もいるんだけど、他の領地でも必要になってくるからなぁ。俺のところには騎士団から来てくれると、同じ騎士団同士だから付き合いも楽になると思っている。


「領地は西の国境そのものです。少なくともハーネスト同盟軍を2日は足止めしたいと思っていますが、戦が無い状態なら単なる無駄飯食らい。

 騎士団ともなればそれは許されることではありませんから、領地の開墾を並行して進めようと思っています。

 土地は広いですからね。家族そろって自分の土地を切り開いてください。軌道に乗るまでは税金は取りません。将来作物の利益が出るようになったなら売値の1割を税金にしたいところです。

 ある程度の住宅を建てたところで来ていただきたいのですが」


「土地を頂けると?」

「耕して初めて利益になるんですから、開墾を行った者の土地にしたいですね。とは言っても、どんな土地なのか皆目わかりませんので、これから出かけてみるつもりです。

 賛同頂けるのでしたら、開拓団を組織して頂きたい。先ずは1個小隊規模から始めたいと思っています」


「事あるときは武器を持って参集するということですね。確かに騎士団員であるなら、即応できるかと……。

 よろしいでしょう。お願いされるというよりは、我等からのお願いとも言えるお話です。12騎士団で調整し、1個小隊規模の開拓団を組織しましょう。連絡はどのように?」


「フェダーン様が俺達と行動を共にしていますから、軍に依頼すれば俺のところに通信が届きます。とは言っても、状況を検討したいので1か月程後にお願いいたします」

 

 12騎士団の代表者が席を立って、俺に手を伸ばす。

 握手ってことだな。これで少し先が見えてきた。

 再度俺に礼を言って去って行ったけど、やはり12騎士団だけあって礼儀正しい連中だ。俺達も見習わねばなるまい。


 時計を見ると、1時間は掛かっていないようだ。さぞかしフレイヤ達が首を長くして待ってるに違いない。


「終わったよ。12騎士団の代表だった。お礼を言いたかったみたいだね。こっちからもお願いしておいたけど、結構乗り気だったよ。12騎士団で開拓団を作って貰えそうだ」

「例の話ね。本当に開拓できるの?」


「開拓しないと、大赤字だよ。さすがは国王陛下だ。抜かりはないんだよなぁ」

「国王陛下と言えば、さっきあれを届けてくれたわよ」


 部屋の端にある金属製のトランクをフレイヤが指さした。

 何だろうと思って持ち上げて見るとかなりの重さだ。

 これって、まさか!


 金属製のトランクを開けて見ると革の袋が4つ入っている。袋の中身は……、金貨だった。いくら入ってるんだろう? かなりの重さだぞ。


「ちょっと驚く数だね。全て金貨のようだ。神殿としては、これで万事済ませたいってことなんだろうな」


 金貨だと聞いて、フレイヤ達が寄って来た。

 大金持ちになったけど、これは開拓資金と言うことにしたいところだ。夕食後にでも皆で相談しよう。


 迎賓館から王宮の馬車で波止場に向かう。

 来た時にはトランク1つだったんだけど、なぜかトランクが増えている。

 ドレスだけではないんだろうな。色々と買い込んできたみたいだ。


「ところで、クルーザーを誰が動かすの?」


 フレイヤの素朴な疑問に、思わず前に座ったドミニクとクリスを見てしまった。

 レイドラを含めた3人が今度は俺を見てるんだよなぁ。

 俺ができるのはアリスを動かすだけだぞ。そうそう、三輪車も動かせるな。


「陸上艦と同じじゃないの?」

「大きいところが似てるぐらいよ。船にブレーキは付いてないでしょう?」

「マニュアルぐらいはあるんじゃない? ゆっくり動かせば、案外簡単かもよ」


 何か不安になってきた。

 俺もアレク達の別荘に行った方が良かったかもしれないな。


 1時間も掛からずに、波止場に到着する。

 馬車から荷物を下ろしたところで、さてどうしようということになるのは仕方がないところだ。

 クルーザーのカギは貰ったんだけど、どんなクルーザーなのか皆目見当がつかない。


「カギに名前が付いてるかもよ」


 フレイヤの提案に、バッグからカギを取り出す。

 結構大きなカギだが、回すのではなく差し込むことで動作するようだな。20cmの棒状の先端部分にいくつかの魔石が埋め込まれていた。

 持ち手に文字が彫られている。これが名前に違いない。


「『バルシオス』と言うらしい。どんな意味だろうね?」

「海の狩人よ。4スタム(6m)ほどになるけど、小型の水棲哺乳類を狩る魚の名前ね。かなり速度が出るということかしら」


 どこから現れたんだろう?

 いつの間にか俺達の後ろにカテリナさんが立っていた。


「カテリナさんは船を動かしたことがありますか?」

「小さなものならあるわよ。さて、どんなクルーザーかしら?」


 片手を上げると、少年がやってきた。

 船に荷物を運ぶ仕事をしてるんだろう。


「これをバルシオスに運んでくれないか?」

「あの船ですね! 誰の物かと皆で見てたんです。これだと……、仲間を呼んでも良いですか?」


「お願いするよ。よろしく頼む」


 どうやら少年達の方が、俺達より知っているみたいだ。

 波止場の管理事務所に向かって、引き取り手続きをすれば良いだろう。フレイヤ達には先に向かって貰おう。


「事務所に寄ってから、船に向かうよ。先に行っててくれないか?」

「手続きでしょう? 面倒だけどお願いね」


 どっちみちやらされるんだから、俺の方から行動した方が良いに決まってる。

 付き合いが長くなるにつれて、皆の性格をだんだんと理解できてきたけど、これはハーレムと言うのだろうか?

 何か皆の共有物になったんじゃないかと、考えてしまうんだよなぁ。


 波止場の入り口にある大きなホールの左手に事務所があるようだ。

 小さな受付窓があったから、そこで係員に声を掛ける。


「済みません。ちょっとお尋ねしますが、船を移動させたいと思っています。手続きをどのようにすればよいのでしょうか?」

「波止場の手続きは初めてということですか。隣の扉から中にお入りください。それと証明書をお持ちですよね」


 勝手に船を持ち去られても困るってことだろう。

 事務所の中に入って、手続きを教えてもらうことになってしまった。


 身分証明はヴィオラ騎士団の騎士を現すブレスレットで十分だと思っていたけど、それ以外にも必要だと言われてしまった。

 

「以前に偽造事件があったんです。それ以外に何かお持ちでしょうか?」

「後は……、これになるんだけど」


 昨日貰った辺境伯の任命書を取り出すと、事務のお姉さんが吃驚している。


「リオ閣下でしたか……。それなら、手続きは私共が全て行いますから問題はありません。

 バルシオス号は1番桟橋に停泊しています。出発はこれからですか? それと目的地を教えてください」


「出発は明日かな? 目的地は……、地図を見せてくれないか? ああ、これこれ。この島になる」

「失礼ですが、この島は王族専用の島ですから、立ち入ることはできませんよ」


「この任命書に書いてあるだろう? この島を貰ったんだ」

「辺境伯の島ということですか……。一般の訪問はお許しくださるのでしょうか?」


「生憎と、しばらくは専用としたい。宿舎と港がどうなってるか分からないからね。それを見てからだね」


 やはり、元プライベート・アイランドと言うことで人気があるんだろう。

 開放しても良いけど、どんな島か分からないんではねぇ。

 俺達で見てからにしよう。


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