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M-211 辺境伯になったらしい


 軍人の昇進が次々と告げられる。

 最初は、準爵の爵位が付いていたが、数人後は何人かまとめての昇進を告げるだけになる。

 準爵であっても、貴族の仲間入りだ。名目だけで貴族会議には参加できないそうだが、それでも家の誉れには変らない。

 国王陛下の前に一人ずつ出て、肩膝を着いて頭を垂れている。

 中々格好が良いな。騎士の礼で普段は済ませているようだけど、それなりい練習したに違いない。


「続いて、功労のあった貴族への褒賞を告げる。マクシミリアン公爵。新たな領地を与える……」


 先ほどの準爵にも領地が褒賞として渡されるようだ。準爵は1代限りだが領地は代々残るだろう。実質的な褒美はこっちになるわけだな。


「最後に、リオ男爵。御前に進みたまえ……」


「はい!」と返事をして真ん中の絨毯を玉座へと歩いて行く。

 先ほど見ていたから、挨拶ぐらいは何とかできるだろう。


 玉座の階段の前に、横に敷かれた絨毯の真ん中に立つとゆっくりと肩膝を着けて頭を下げた。

 俺に笑みを浮かべると国王陛下が立ち上がり、玉座を下りて俺の前まで歩いてくる。

 後ろで、何人かがごくりと息を飲みこむ音が聞こえてきた。かなり驚いているようだ。

 玉座を下りてくる国王陛下の姿を初めて目にするのかもしれない。


「貴殿のおかげでウエリントン王国の危機に誰も死なずに済んだことありがたく思っているぞ。

 過去の軍師にもリオを越える者はおらぬだろう。戦機を駆ればブラウ同盟でリオの隣に並ぶ者はおらぬ。

 その功績に報いるべく、リオを辺境伯に任じる。

 さらに、新たな領地を与えよう。上手く辺境を押さえて欲しいぞ」


「騎士団の領地として頂きます」


 後ろで少し騒いでいるようだ。

 国王陛下の裁可を勝手に変更したんだからなぁ。

 だけど、その言葉に国王陛下は頷いてくれた。俺の真意を分かってくれたようだ。

 もっとも、そう仕向けたのは国王陛下だから、自分の意思が正しく俺に伝わったことを理解したのかもしれない。


「それでよい。貴族諸君の中には羨ましく思う者もおるやもしれん。それなら直ぐにこの場で言って欲しい。

 リオは喜んで渡してくれるだろう。リオに渡す領地はガルトス王国との国境線を西に持つ寒村1つの領地だ。

 さすがにこれでは愚王と囁かれるに違いない。支度金として金貨を100枚用意しよう」


 国王陛下が玉座に戻ると、文官が俺に立つように言ってくれた。

 頭を下げて戻ろうとしたら、文官が慌てて俺を止める。


「この場で、さらなる褒賞がリオ殿に渡されます。カロニアム公爵夫人、よろしくお願いいたします」


 何なんだ?

 思わず首を捻ってしまった。後ろから人が近づく気配がしてくるから、たぶんカロニアム公爵夫人と言うことになるんだろうな。1人だと思ってたけど2人のようだ。


 俺の隣に進むと、ドレスを摘まんで片足を曳きながら腰を折るという挨拶を華麗にこなしている。

 この人がカロニアム公爵夫人と言うことになるんだろうな。


「この場をお借り出来ますことを、改めてお礼申し上げます」

 

 婦人の挨拶に国王陛下が小さく頷くと、ゆっくりと体を俺に向ける。

 玉座を横に向くことになるけど、これは仕方がないだろうな。

 体の向きを変えて公爵夫人に向きあったが、綺麗なご婦人じゃないか! ちょっとドキドキしてしまう。


「祖国レクトル王国の危機に馳せ参じて頂き感謝に堪えません。本来であるなら、王子殿下ご自身がお礼に参るところですが、生憎と復旧作業の陣頭に立っております。

 これは多大な恩恵に対するレクトル王国からのせめてもの贈り物。是非とも御受取ください」


 公爵夫人の娘さんなんだろうか? 緊張した足運びで俺の下に銀のトレイに乗せた小さな木箱を届けてくれた。

 頂くことになるんだろうな。ちらりと玉座を見ると、フェダーン様が俺の視線に気が付いて頷いてくれた。


「過分な褒美に、何とお礼を申し上げてよいかわかりません。ありがたく頂きます」


 娘さんのトレイから木箱を受け取ろうと身を屈めたら、いきなり抱き着かれてキスされてしまった。

 真っ赤な顔でトレイを差し出してくれたんで、笑みを浮かべて受け取ったんだけど、変なフラグは立ってないよね。


「申し訳ございません。娘にとっては救国の英雄そのものですから」

「ごく普通の男ですよ。俺よりも立派な勇士はレクトル王国にたくさんいるはずです」


 さっきのことで場が和んだ感じがするな。

 国王陛下も、おもしろそうに俺を見てるんだよなぁ。


 公爵夫人と共に、国王陛下に深々と頭を下げたところで元の位置に帰る。

 フレイヤの前に立つと、脇を抓られた。

 相手は子供なんだから、やきもちは焼かないで欲しい。


 文官が中央に進むと、褒賞の儀の終了を俺達に告げる。

 国王陛下達が壇上を去ると、玉座に近い者達から中央の絨毯の上を歩いて出口へと向かう。

 晩餐会まで2時間程あるから、少し腰を下ろしたい。立ったままだから、少し疲れてきたんだよね。

 そろそろ俺達の番かなと、横を見た時だった。

 横から俺を案内してくれた近衛兵姿の少年が現れた。


「ご案内いたします。国王陛下がお待ちかねです」


 ん? 何だろうと首を傾げたけど、ここは従った方が良さそうだ。


「ありがとう。妻達も一緒で良いのかな?」

「ご夫妻を案内するようにとことでした」


 笑みを浮かべて少年に頷いた。

 エミー達にも聞こえてるはずだから、2人の腰に手を軽く添えて少年の後に続いて謁見の間を出る。

 前を進む人達は真直ぐに進んで横に入っていく。あの部屋が晩餐会までの時間を過ごす部屋ってことなんだろう。


「こちらです!」


 部屋を出たら直ぐに右手に左手の回廊を進む。先には誰もいないんだけど、変な事にはならないよな。

 最悪でもエミー達を守らないと……。


 そんな決意をして歩いて行くと、近衛兵が扉の両脇に立つ場所に出た。

 

「リオ閣下をご案内してきました」

「御苦労。先ほどからお待ちかねだ。……リオ殿。どうぞ中へ!」


 近衛兵が扉を開けてくれた部屋に一歩踏み出すと、王族がずらりと揃っている。

 先ほどのカロニアム公爵夫人も一緒のようだ。豪華なソファーが輪を描くように並べられ、その1つが空いている。


「ようやくやってきたな。ここは私的な部屋だ。敬語はいらんぞ。普段の通りで良い」

「ありがとうございます。とはいえ、俺達が招かれた理由が分かりません」

「先ずは座ってくれ。カテリナも呼んだのだが、忙しいと断られてしまった」


 言われるままに、ソファーに腰を下ろす。直ぐ隣に腰を下ろしたのはエミーだった。エミーの隣にフレイヤが腰を下ろすと、部屋の端にいたメイドさんが俺達の前にコーヒーを置いてくれる。


「滅多に来ないから、ワシの長男を紹介しておこう。ファネルという。わしの世継ぎになる。もう1人おるのだが、学府の研究室に閉じこもっておる。その内に、会う機会もあるんじゃないかな?」


「ファネルと言います。リオ殿の御噂はかねがね聞かせて頂いております。お見受けしたところ年台もそれほど異なるとも思えません。出来うるなら長く付き合いたいと願っています」

「身分があまりにも違いますから敬称はいりません。俺が敬語が苦手であることを最初に断っておきます。

 国王陛下には色々と御無理を聞いてもらっております。可能な限りウエリントン王国の将来を見据えて行動いたしますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします」


「さて、硬い挨拶はこれで良いだろう。リオ、暴漢にあったそうだな。王宮内の迎賓館で襲われるとは、とんでもないことなのだが……。あの条件で良いのか?」


 警備の責任者は顔を青くしてるんじゃないか?

 表立ったら、かなりの重罪になりそうだし、神殿と王宮との関係もかなり変わってしまうに違いない。

 導師やカテリナさんから聞く限りでは、王国内の福祉事業を受け持っているみたいだからね。

 関係がこじれた結果、貧しい者達に迷惑が掛かるようでも困ってしまう。


「……と考える次第。それなら頂いた領地経営の資金を神殿から頂くことで和解したいと思っています」

「下賤な話にも聞こえるが、確かにそれなら丸く収まるだろう。昼近くに長老が青い顔をしてワシのところにやってきたぞ。和解案を神殿にワシから送っておこう。それで良いな」

「お手数をお掛けします」


 そう言って深く頭を下げる。

 

「それにしても、神官が貴族を襲うなど考えられませんが?」

「神殿が欲しがる帝国の秘密ということなのだろう。パルケラスは既にこの世にはいないようだ。その秘密の一部を欲しがったに違いあるまい」


「アリスを召喚すると言ってました。断ったらいきなり刺されました」

「アリスを召喚するだと! さすがにリオであるなら断るだろうな。危ういところであったな」

「フェダーン殿。危ういところではなく、実際に刺されたとリオ殿は言っておりますよ。命が助かったことだけでも幸いだと思いますが?」


 王子は俺の事をあまり知らないようだな?

 ここは話すべきなんだろうか? ちらりとフェダーン様を見ると、かなり考え込んでいるみたいだ。

 

「ファネルよ。そしてカロニアム公爵夫人。これから重大な国家秘密を伝えることになる。これを知る者は極限られた者だけだ。決して他言してはならない。もしもそれが広まるようなことがあるなら、ブラウ同盟いや、コリント同盟すら瓦解しかねない……。

 それほどの国家秘密であることを先ずは知って貰いたい」


「私は席を外しても良いですよ?」

「いや、残って聞いた方が良いだろう。レクトル王国の危機を救った英雄の秘密だ。王子は気付いているかもしれん。おぼろげにその秘密の一部を知ったからあのクルーザーをリオに贈ったのだろうとワシは思っている」


「遠く離れた王国に、あのような船を送るのは酔狂が過ぎると主人が申しておりました。病に伏せておりますから世情には疎いですが、王国の歴史は誰よりも詳しい主人です。やはり、何らかの理由があったのですね」


 公爵夫人の言葉に頷きながら、国王陛下は静かにコーヒーを飲んでいる。

 色々と秘密を持ってるけど、全て話してはいないんだよなぁ。カテリナさんが色々と気が付いているみたいだけど、国王陛下が知っていることはそれほど多くは無いと思うんだけどねぇ。


「リオはごく普通の青年だ。義侠心が強いのは騎士団の騎士だからだろう。

 だが、その体には6つの魔石が埋め込まれているようだ。

 埋め込んだのはパルケラス本人。その過程で、パルケラスの集めた文献を全て読み解いたらしい。

 だが、皆も知っての通り魔石は人体にとって劇薬となる。その行為は、どんな拷問よりも耐え難いものだったに違いない。

 おかげでリオの友人を激怒させてしまったようだな。

 パルケラスは生きたまま砂の海に埋められたらしい……」


 王子とご婦人が目を丸くしている。やはり驚いてるんだろうな。

 

「主人から、魔石2個を埋めた人物のその後を教えて頂きました。苦痛に日夜呻き通して発狂しただけでなく、その姿をおぞましいものに変えたと……」

「騎士でさえ、魔方陣を体に刻むとベッドにロープで結わえることがあると聞きました。

リオ殿は本当に何も起こらなかったんですか?」


「アリスの話では毎日泣いていたらしい。子供のころだったからそんな苦痛なら仕方がないのかもしれないね」

「待ってください! 国王陛下がおっしゃられた友人の名がアリスなのでしょう? なぜそうなる前に救出できなかったのですか? それに……、女性の名ですよね。リオ殿の子供時代からということが少し気になります……」


 国王陛下が温くなったコーヒーを一口で飲み込んだ。

 目を大きく見開いて夫人に顔を向ける。


「リオの友人は人ではない。戦姫なのだ。我が王国にも戦姫はあるがどうにかリオ殿と一緒に暮らすことでローザが乗りこなしている。

 しかし、リオ殿の戦姫は他の王国も持つような戦姫ではない。

 全く別の何かなのだ。ある意味異常ともいえる。人の心を持っている戦姫なのだ。

 魔道科学で作られた機体ではない。その動力源はカテリナでさえ理解不能。更に能力は人と戦機を比べるようなものだ。場合によってはそれ以上だろう。

 アリスの怒りは、王国さえ滅ぼす。

 本人に覇気がないのが幸いとも言える。リオが覇道を進むなら大陸の統一も可能だろう」


「魔石6つの加護も半端なものではない。暴漢が襲ったことは間違いない。リオの背中を5度ほど刺している。しかもその1つは胸元に抜けたようだ。

 それほどの傷を負っても、直ぐに治る。常時【サフロ】の魔法を掛けたとしてもそうはいくまい」


「それでいて、覇道を進まない……」


 呆れた表情で夫人が俺を見てるんだよなぁ。

 そんな実力もないし、責任を持ちかねる。


「少しでも覇気があるなら投獄もできようが、そんな考えは微塵もない。ある意味宝の持ち腐れと言うことなんだろう」


 そこで笑うことは無いと思うんだけどなぁ。

 他の連中も呆れた表情をしてるんだから困ったものだ。


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