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M-209 意に染まらない場合は


 2時間程の会話を楽しんだところで、俺達は第2離宮から帰ることにした。

 サロンへの参加は主催者であるヒルダ様がサロンに出入りする御婦人方へ挨拶することで十分らしい。

 その辺りは、俺には関わらないようだから、今回やってきたのは俺という人物を見せたかっただけに違いない。


 問題は明日なんだよなぁ。

 カテリナさんがしばらく姿を現さないのも気になるところだ。

 導師達と学府に新たな学科を作るための準備に忙しいのかもしれないが、明日の昼過ぎには王宮で会うことは間違いなさそうだ。


「全く身動きがままならないわ。ドレス姿にあこがれたことはあるけど、想像と実際が異なる良い例ね」


 ベッドに入ってまで文句を言ってるけど、明日はかなり長時間着なければならないだろう。

 午前中はのんびりしといた方が良さそうだけど、出来れば俺もそうしたい……。


 翌日は朝から色々と忙しい。

 既にドレスは選んであるはずなんだけど、それでも女性達が集まるとその話題で盛り上がっている。

 褒賞は14時からだそうだから、1時間前に準備を終えて30分前に謁見の間行かねばならない。

 立つ位置は、王宮のメイドさん達が教えてくれるらしいから、その位置で立っていれば良いそうだ。

 国王陛下がお妃様達と共に入場したなら、一同で頭を下げることになると聞いたけど、周囲の人に合わせれば問題は無いだろう。

 少し遅れても、田舎者だと思われるぐらいで実害は無さそうだ。


「昼食を軽く終えて、ドレスに着替えれば良いわけね! かなり拘束される感じがするわ」


 フレイヤが天を仰いでいるけど、それも仕事だと思って我慢して欲しいところだ。


「リオ様。客室に面会の方々をご案内いたしました」

「そんな時間なんだ。あまり待たせるわけにもいかないね。それじゃあ、出掛けて来るよ!」


 フレイヤ達に、片手を振ってメイドさんの後に続く。

 難しい話だと困るんだが、どんな要求をしてくるんだろう。


 客室をメイドさんの後に続いて入ると、訪問してくれたお礼を述べる。

 素早く顔ぶれを眺めると、やってきたのは4人のようだ。ソファーから立ち上がって、俺に頭を下げてくれたので、改めて席を進めて俺も開いているソファーに腰を下ろした。

 気になるのが、彼等の後ろに1人ずつ神官が立っていることだ。随行してきたのだろうが、立たせておくのも問題だな。

 

 部屋の隅に椅子が置いてあるのに気が付いたので、彼等にも座って貰うことにした。

 1時間程で終わるような話とは思えないからなぁ。


「恥ずかしながら、騎士となってから神殿に詣でたのは1度だけです。俺の不信心を咎めに来たとも思えませんが?」

「陸上艦の中に祠を設けておられると聞きました。そのような事までなさる御仁は今の世の中に少なくなっております。信じる心が貴方を良き方向に神は誘ってくれるでしょう」


 信じる心ねぇ……。それぐらいは持っていると思ってるんだよなぁ。


「リオ殿の事は以前より噂が色々とありました。土の神殿での出来事は我等の中で共有されております。

 体に魔石を持つと言っても良いでしょう。未だ魔石を体に入れて無事であった者はおりませぬ。

 体を蝕むならまだしも、多くが変異を起こしその身を神殿の奥に自ら閉じ込めてしまいます……」


 導師も、ホムンクルスのような体になったと言っていたからなぁ。プレートメイルで体を包んでいるから、最初は驚いてしまったけどね。

 だが、魔石を体に埋めるという誘惑があるのだろうか? 先ほどの神官の話では、今でも神殿の奥にそれを試したものがいるように思えるんだよなぁ。


「導師に一度確認して頂きましたが、俺の体にいくつかあるようです。ですがどこにあるのかまでは分からないらしく、同化したうえで拡散した可能性があるような話をしてくれました」

「それが不思議でなりませぬ。我等は神との対話を行うべく、それぞれに対応する魔石を常に身に付けておりますが、より神に近付こうとするためには……」


 そんな理由で体に魔石を埋め込むってことか……。

 魔導士は、魔力を上げようとして行うらしいが、神官もそれなりの理由があるようだ。

 その結果が問題だけど、それを行うということは嘗ては成功した者がいるのだろうか?

 導師の話、そして先ほどの神官の話。どちらを聞いても成功した者については言葉が無かった。


 ちょっと、一服して頭を整理してみよう。

 帝国時代にあったとは思えないし、その後の暗黒時代はどうだったんだろうな。

 かなり記録が散逸しているらしいから、少なくともウエリントン王国には魔石に関わる文献が無いんじゃないか?


「もし、リオ殿がリオ殿に魔石を埋め込んだ者を知っておられるなら教え願おうと参った次第。厚かましいお願いではありますが、人の姿とも思えぬ実践者に会う度に、その愚かな行いを閉ざす方法が無いものかと悩む日々が続いております」


「名前を教えることはできる。パラケルスだ。だが、ここだけの話にして欲しいのだが、パラケルスは既に亡くなっている。俺で人体実験をするような輩だと知った、俺の友人が地中深く生きたまま閉じ込めたからね」


 彼等が一斉に俺に視線を向ける。

 かなりきつい目で睨んでいるけど、パラケルスは彼等にとって何か役立つことをしていたのだろうか?


「それはまことの事でしょうか?」

「俺がここにいるのだから間違いない。友人が彼の研究施設から連れ出してくれたんだからね」


 落胆の表情は、やはり何らかの関係があったに違いない。

 ひょっとしてパラケルスの俺を使った一連の研究は、神殿の意に沿ったものだったのかもしれないな。


「その友人を教団の力で出頭させることができたなら、パラケルス殿の研究資料を回収できるかもしれませんぞ」

「貴族となれば王宮に願い出なければならぬ。だが、可能性はありそうじゃ」


 不穏な話が聞こえて来るけど、アリスを強制できるとは思えないんだけどなぁ。


「御友人のお名前を教えて頂けますかな?」

「アリスという女性だが、まさか神殿の権威を持って強制することは考えてないだろうね? 一応忠告はしておくよ。もし、それを国王陛下に願い出たなら、神殿内の人員構成がかなり変わると思う。

 今回のレッド・カーペットの件で、コリント同盟王国との絆も深くなったようだ」


 俺の話に彼等に動揺が見て取れた。

 かなり驚いているようだけど、そんなに慌てることなのかな?


「国王陛下は頷くことは無いと思いますよ。その結果がどのようなことになるか明確に分かっているはずです」

「たかが女性一人で、神殿との対立を防ぐことができるなら召喚に応じてくれると思いますが?」


 高位の神官なんだろうけど、俺に向けた笑い顔は下品極まりない。

 これじゃあ、俺を通して状況を見ているアリスが黙っていないだろうな。

 早めに、諦めさせるしかなさそうだ。


「ウエリントン王国とあなた方の神殿のどちらを取るかという選択ですから、国王陛下は迷うことは無いと思います」


 俺の言葉を聞きなり、1人の神官が小さく頷くのが見えた。

 次の瞬間、背中に激痛が走る。


「リオ殿が居られなければ、友人を守るべき者もおらぬはず。これなら召喚するのに何も問題はありますまい」


 胸から剣先が出てるぞ。血が流れるのが問題だな。またカテリナさん謹製の薬の量が増えるかもしれないと思うと不安になってくる。


 とりあえず背中に刺さった片手剣を抜き取った。

 短剣よりも少し長いな。刀身は40cmくらいありそうだ。

 抜き取った片手剣をテーブルに投げ出す。


「さても豪胆な御人じゃ。じゃがその毒は直ぐに体を蝕むはず」

「王宮で俺を殺すとなれば、責任追及は止むをえませよ。どのように責任を取られるおつもりですか?」


「殉教者はいくらでも居る。彼は喜んで拷問に耐えるであろう。それが信じる心を持つ者じゃ」


 なるほどねぇ……。タバコに火を点ける俺の仕草を神官達が不安げな表情で見守っている。


「まさか、あの傷を無効化できるのか! だが毒を無効化することはできぬ筈……」

「十分に効いてますよ。俺が通常の人間であったならね。ですが好みに宿る魔石の数は6個だそうです。その加護が働いてくれているようです」


 さらに背中に激痛が走る。思わず咥えたタバコを落とすところだったぞ。


「ならばさらに斬り込むだけ。バラバラにすれば問題はないでしょうからな」


 突き刺した剣を捻りながら抜いてさらに刺そうとしているようだ。

 これは正当防衛を行っても怒られないだろうな。

 ゆっくりとした仕草で、リボルバーを抜く。

 後ろに体を捻ると、すぐ近くに立っていた神官達の腰を撃ち抜いた。

 

 その場に崩れ落ちたが、これからじっくりと痛みに耐えて貰おう。

 急所は外しているが、斜めに切り込みが入ったホローポイント弾だ。内臓を引き千切りながら貫通したに違いない。


「さて、テロリストは始末出来ました。計画を立てた貴方達はどのように責任をとっていただけますか?」

「わ、我等は神殿の重鎮。俗界の介入を受けぬと王宮よりの書状を持っておる。まして我等の下で修業する神官に銃を撃つなど言語同断。リオ殿こそ責任追及が待っておりますぞ!」


 口が上手い連中だなぁ。

 だからこそ先を譲ってやったのが分からないんだろうか?

 俗界から干渉を受けぬ、ということは俗界に介入せぬということに外ならない。

 彼等の論理は破綻してるんだよね。


「アリス。フェダーン様に連絡してくれ」

『連絡は最初の攻撃時に行っております。そろそろ到着するころだと……』


「今の声がアリスだ。国王陛下がどのような裁可をするかは分からんが、1つだけ教えておこう。アリスの怒りは一瞬で神殿を破壊する。そこに誰がいようともだ」

「それほどの魔導士……。まさかブライモス殿の……」


 神官の言葉は、バタンと乱暴に開かれた扉の音でかき消されてしまった。

 今度は導師に矛先が向かうかもしれないな。一応注意しておかないといけないだろう。


「リオ殿、大丈夫なのか?」

「ごらんのとおりです。何カ所か刺されましたけど、命に別状はありません。一応、正当防衛ですからね。5回目に剣を差されてから、この者達を始末しました。さすがに高位神官となると俺が手を出して良いか判断に迷うところです」


「この場で殺してあげた方が温情があったかもしれぬな。……引ったてい!」


 フェダーン様の牛と絵待機していた近衛兵達が、神官の両腕に鉄の手枷を付けて無る槍立たせている。

 床に転がっている4人はまだ息があるようだ。

 既に意識は失っているようだけど、簡単な処置をして、自らの行動を問い詰められるのだろう。

 

 それにしても……。この絨毯をどうしよう?

 やはり弁償ってことになるのかな? ものすごく高く思えて仕方がない。

 そんな俺を、フェダーン様が呆れた表情で見ているんだけど、少し経緯を話しておいた方が良いかもしれないな。


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