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M-208 ヒルダ様のサロン


「マクシミリアン公爵の舘に招待されたんですか?」

「話の流れでそうなったんだ。個人的に話し合いたいと思っていたんだけど、奥方達もご一緒にと言われてしまった」


 今日の顛末を話したら、やはり糾弾されてしまった。

 とはいえ、ドレスの問題は無かったようだ。1人3着を購入してその代金は王宮が支払ってくれたらしい。

 とはいえ、振興貴族だからそれほど高価なものにはならなかったと聞いてs腰安心したんだけど、1着で金貨1枚と聞いて驚いてしまった。

 俺の最初の給料の4倍だからねぇ。十分に高価だと思うんだけどなぁ。


「今夜は第2離宮でちょっとしたパーティと言うことのようです。晩餐会ではありませんから、リオ様にはお仕着せの士官服を着て頂きます」

「帯剣はしなくても良いんだよね?」


 俺の言葉に、エミーが首を振った。

 どうやら形ばかりの片手剣を下げるのが習わしらしい。そんな剣ならベルトのバッグの裏に隠れたリボルバーの方が強力なんだが、習わしなら仕方がない。

 用意された支度の片手剣を抜いてみたら、かなりの技ものだった。まさか王宮の倉庫から見付けてきたんじゃないだろうな。


「母様から届けられた品ですから、どこに付けていっても軽くは見られないでしょう。地位と姿は合わせないといけないそうです」

「なるほどねぇ……。あまり王宮には近寄りたくなくなってしまいそうだ。辺境と言うことで、少しは楽になると思ってたんだけどなぁ」


 エミーの話では、公的と私的を区別すれば良いらしい。

 私的な事でやって来る時には、何時もと変わらない姿でも問題はないとのことだ。

 とはいえ、その線引きは難しいんじゃないかな。

 これは私的な要件ですと、最初に断れば良いのかな?


 夕食は昨日と同じで豪華なものだった。

 そんな料理が1度に出るから、アレクや俺も満足して食べられる。

 呆れた表情のメイドさん達だったけど、俺達は騎士団だからねぇ。そんなにお行儀は良くないぞ。


 食後のお茶を楽しむと、いよいよ夜の部が始まる。

 メイドさん達がエミーとフレイヤのドレス支度を手伝っているようだけど、ドミニク達は他人事のようにサンドラやクリス達とゲームを始めたようだ。

 トランプに似たゲームだけど、俺はしたことがないな。女性だけのゲームなのかもしれない。


 髪を結い上げて、ドレスを着た2人がリビングに現れると女性達が2人に寄っていく。たちまちおしゃべりが始まったのは、明日の自分達の姿を想像してるんだろうか?

 それにしても胸元がだいぶ開いてるんだよなぁ。ポロリしそうで心配になってくる。

 それに靴も踵が高い奴だ。エミーなら履きなれてるかもしれないが、フレイヤは転ばずに歩けるんだろうか?

 

 2人が女性達に囲まれながらソファーに腰を下ろして間もなく、メイドさんが馬車の到着を教えてくれた。

 さて出掛けるか。

 2人の手を取って、部屋を出る。

 ゆっくりと階段を下りて用意された馬車に、エミーを先に乗せた。続いてフレイヤを乗せてあげると、最後に俺が乗る。

 馬車は対面型の座席が付いているから4人は乗れるみたいだな。改めて2人のドレスを見たけど、薄手の生地で作られているようだ。淡い緑がエミーでフレイヤは淡い赤だから見間違わないようにしないとね。

 白い手袋は肘の上まであるし、お揃いの白い革の小さなバッグは余り膨らんでいないようだ。

 

「拳銃はスカートの中だから、取り出すのに時間が掛かりそうよ」

「戦うことは無いと思うんだけどなぁ」

「でも、支度の一部として何時も付けているなら問題はないでしょう?」


 まあ、その通りではある。

 俺達は騎士団だからね。騎士以外の武器の所持は問題もあるようだけど、貴族の奥方ともなれば護身用の拳銃の所持は認められているとエミーが教えてくれたんだよなぁ。

 案外物騒なご婦人もいるってことになるんだろう。気を付けないとね。


 第2離宮のエントランス前で馬車が停まる。今度はフレイヤを先に下していると、メイドさんがやってきた。

 2人を両脇にして手を添えながら階段を上り、エントランスホールに入る。

 何時も通りの服装ならどんなに楽だろう。

 そんなことを考えながら、リビングの扉の前までやってきた。


 メイドさんが扉を開けると、俺達がやってきたことを告げる。

 話し声が、急に無くなったからこっちが緊張してしまうな。

 意を決してリビングに入ると、軽く頭を下げる。

 エミー達は軽く裾を摘まんで足を引きながら腰を折る挨拶だ。フレイヤも練習の成果がきちんと出ているようだ。


「ようこそおいで下さいました。皆様にご紹介しますね。こちらにいらしてくださいな」

 

 笑みを浮かべたヒルダ様がエミーとフレイヤを俺から受け取ると、部屋に奥へと向かっていく。俺はその後ろを付いていくしかないようだ。

 

「こちらは○○伯爵夫人、この方が□▽公爵夫人……」


 ヒルダ様の紹介に、1人1人丁寧に頭を下げて「リオ男爵と言います。今後ともよろしく」と挨拶を続ける。

 とても覚えきれるものではない。後でヒルダ様に招待した御婦人方のリストを頂いておこう。

 何かの機会に遇うことがあるとも言えないからね。


 俺の後ろでエミー達も頭を下げているけど、上流階級の女性達がするような仕草をしてるんだよなぁ。フレイヤが転ぶんじゃないかとついつい心配になってしまう。


 挨拶が終わったところで、ヒルダさんが俺達の席に案内してくれた。

 後は女性達の話を聞きながら返事をするだけなんだけど、俺よりもエミーやフレイヤ達への問い掛けが多いのは仕方がないのかもしれない。

 少し、夫婦生活の立ち入った話にまで及ぶんだから、俺の方が赤面してしまうんだが、話題に乏しい中に俺達が舞い込んだせいなのかもしれないな。

 

 あまり立ち入った話になると、それとなくヒルダ様が助けてくれるから、エミー達のサロンのデビューとしては十分なんじゃないかな。


「そうそう、リオ殿の屋敷は王都にお作りにならないとか。せっかくお知り合いになれましたのに、訪問が叶わないのは寂しく感じますわ」


 そんな付き合いを嫌って作らないんだけど、今後はそうもいかないんだろうか?

 答えに詰まって、ヒルダ様に顔を向けてしまった。


「リオ殿は男爵でもありますが、現役の騎士団員でもあるんですよ。騎士団の旗艦にリオ殿の屋敷が作られているのです。私も何度か訪れる機会があったのですが、この離宮の2倍を超える規模です」


 地位に見合った屋敷と言うことになるのであれば、少しばかり大きすぎるに違いない。その主である俺は庶民出身だから、持て余しているのが本音なんだよなぁ。


「それほど大きな住居を陸上艦に作ることはできるのでしょうか?」


 若いご婦人がヒルダ様に問い掛けている。年嵩のご婦人がちょっとはしたないという目で和解ご婦人を見ているけど当人は気が付かないみたいだな。


「御主人方は知っておられるはずですが、御存じない方もおられるようですね。リオ殿、映像をお見せすることはできますか?」

「リバイアサンの映像ですか? あまりプライベート区画の映像は無いんですが……」


 聞くよりも見た方が早いってことなんだろうな。

 テーブルの上にあるケーキの皿を少し退かすと、プロジェクターを取り出して即席の映写会を始めた。

 音声が無いから、俺が説明することになる。


「これがヴィオラ騎士団の旗艦リバイアサンです。内部にドックが2つ作られていますから、戦艦は未だ入れたことはありませんが重巡であるなら、あのように内部ドックに収容することが可能です……」


 ドックの桟橋、制御室、飛行機の駐機場に最上階にある監視所までを駆け足で説明した。

 最後にプライベート区画の映像になるが、ヒルダ様達がやってきた時の記録映像をアリスが用意してくれて助かった。

 ウオーク・スルーのようにヒルダ様の後ろ姿が、俺の目を通した映像となって映し出されている。


「宮殿よりも大きいのではありませんか?」

「最下部の1辺は400スタム以上あります。高さは200スタムと少しですね。その上階の2階が俺達の暮らす屋敷と言えるでしょう」


「帝国に遺産を騎士団が手に入れたと聞いたことがありましたが、これの事でしたか……」

「大きすぎて、王都の陸港には入港できません。ここに来る時も、同盟軍拠点近くに停泊させているくらいです」


 残念そうな、羨ましそうな表情をしているけど、これで俺が王都に住んでいないことは理解して貰えたみたいだ。


「でも、一度は訪問してみたいですね」


「えっ!」 思わず、声の主を探してしまったが、頷くご婦人方を目にするばかりだった。


 その後は、再び線話に花が咲く。

 美味しいコーヒーを頂けたし。タバコはベランダに出て楽しむことにした。さすがにこの部屋ではねぇ。それに間違えてドレスに灰でも落としたらと思うと、とてもそんな気にはなれないんだよなぁ。


 ベランダで一服している俺に、ヒルダさんがワイングラスを持って近付いてきた。


「どうですか? 楽しめまして」

「中々馴染めないんですが、あの御婦人方がヒルダ様のサロンの方々ですか?」


 グラスを受け取って、軽くグラスを掲げる。

 そんな俺に仕草に笑みを浮かべているから、ヒルダ様の目的は達成できたということかな?


「民生や財務を担当している貴族の御婦人方です。旦那様達は派閥争いに忙しそうですから、実質の業務を仕切っている方々になります。それなりにやり手ですよ。エミー達もこの中に入って来れるようにお膳立てしたんですが、中々評判は良いようですね」


 ウエリントン王国は御婦人方が動かしてるのか!

 まあ、国王陛下にしてもそんなところがあるからなあ。俺も注意しないと、国王陛下達とクラブを作ることになってしまいそうだ。


 ヒルダ様は自分の陣営にエミー達を取り込もうとしているようだけど、あんまり利用価値が無いように思えるんだけどなぁ。

 まあ、それはその内に分かってくるかもしれない。

 それよりも、明日の神官達との会見が気になるところだ。


 それとなくヒルダ様に確認してみたんだが、笑みを浮かべるだけだった。


「特定の神殿に拘らなければ問題はないでしょう。でもあまりリオ殿の宗教観を広めないようにした方が良いのではないかと思います」


 ん~……。余計に悩んでしまいそうだ。

 


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