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M-206 後のない公爵と早めにやってきた軍人


 翌日目が覚めた時には、一緒に寝たはずのエミー達の姿がどこにもない。

 どうやら、早々と王都の繁華街へと向かったみたいだな。


 リビングで一人林の景色を眺めている俺に、メイドさんが朝食を準備してくれた。

 サンドイッチに、スープとデザートは定番なんだろう。


 食事が終わってコーヒーを飲んでいると、メイドさんが今日の来客予定を教えてくれた。

 午前中に伯爵が2人やってくるらしい。本来ならば1人ずつ会うことになるのだが、ヒルダ様が俺が忙しいからと言ってブッキングしたらしい。どうでも良い来客だけど断れないってことかな。

 

「昼食後は軍関係の人達がやってきます。同じ話をしないで済むようにと全員が揃いますので、反対側の部屋を使います」

「お任せするよ。夜はエミー達が一緒になるんだね?」


「ヒルダ様の離宮にご案内します。その時は男爵の正装に御着替えください。」


 思わずメイドさんの顔を見てしまったけど、にこにこと笑顔を返してくれた。

 どうやら、礼服を既に準備してあるらしい。

 俺の体型をどうやって知ったかは不明なんだが、問題は無いと答えてくれた。


「ひょっとしてエミー達も?」

「今頃はドレスの調整をしているかと……」


 一緒に出掛けたアレク達も礼服を着せられてるんだろうか?

 さすがに騎士団の制服と言うことにはいかないんだろうな。騎士は貴族と同等ということだから、それなりの格好になるはずだ。

 案外、記念写真を撮ってくるんじゃないか?

 ベラスコの両親も喜んでくれるに違いない。


 トントンと扉が叩かれる。

 メイドさんが扉に歩いて行くと少し扉を開いて、別のメイドさんから用件を確認しているようだ。

 そのまま中に入ってくれれば取次の必要も無いんだけどなぁ。そんな手間を掛けるのが貴族社会ということになるんだろう。


「公爵方がいらっしゃいました。ご案内いたします」

「了解! 単なる挨拶だけなら良いんだけどねぇ」


 俺のボヤキにメイドさんが口元を押さえて顔を俯けている。笑いを堪えているのかな?

 

 客室に先に入ったメイドさんが俺が着たことを告げるが、席を立つ気配はない。

 なるほど、貴族間でも位の違いがあるってことだな。


 メイドさんが扉から横にずれたところで、部屋に入る。

 軽く頭を下げると、後ろから扉が閉まる音が聞こえた。メイドさんが部屋を去ったのだろう。


「良くいらっしゃいました。ヴィオラ騎士団のリオと言います。どうぞお見知りおきください」

 

 爵位よりも先に騎士であることを告げておく。

 彼等が欠けたソファーの反対側に座ると、タバコを取り出して2人に顔を向ける。

 小さく頷いてくれたから、遠慮はいらないだろうな。


「俺の属している騎士団は12騎士団よりも小さなものです。お二人の来訪を嬉しく思う反面、戸惑ってしまいます」


「先ずは、レッド・カーペットの勝利をお祝いしよう。王宮ではその話で持ち切りだ。明日の叙勲の儀がどのような規模になるか、貴族間ではその話でもちきりなのだが……」

「内々の話を聞く限りでは、リオ殿を辺境伯に遇するとのことだ。既に領地を持っているとも聞いてはいるがウエリントン王国内にそのような貴族領が存在しない。

 たぶん名目であったのなら、明日の叙勲で正式な領地が与えられるはず……」


 なるほど、俺に代わってその領地経営をしてやろうってことなんだな。

 かなりの広さが与えられると思っているに違いない。その背景には西の侵攻に合わせて対応できなかった貴族達の降格から生じた領地と見ているに違いない。

 結構よい領地を手放すことになったのかもしれないな。

 その代官としての地位を、子供達に与えてやれると思ったのかもしれないな。

 どう見ても、中年を過ぎている感じの2人ならば、俺より年上の子供達がいてもおかしくはない。


「実は新たな領地の内定を頂いています。実力的には現在の領地で手一杯ですから、これ以上の領地はいらないと断りたかったのですが、国王陛下より直々の内示ともなれば行ける外にありませんでした。

 場所は、ここだけの話にしておいて欲しいのですが……」


 仮想スクリーンを使ってその場所を教えた途端、2人の顔に落胆が広がった。

 王国の西の外れの海岸近く。広さはたっぷりとあるんだが、千人にも満たない漁村が1つだからねぇ。


「今回の最大の功績者に対して、それだけですか!」

「領地と言うより、西の備えを任された感じですね。この位置ともなれば、数十門の艦砲を揃える必要が出てきます」


 今度は顔を青くしている。

 荒事は苦手なんだろう。それなら代官としても役立たないと思うんだけどなぁ。

 

「地位的には昇格ということでしょうが、これでは貴族間に動揺が走りますぞ!」

「とはいえ、頂く土地は広いですからねぇ。記録上では問題は無いと思っています」


 納得するしかないという顔を2人に見せる。

 レッド・カーペットを勝利に導いた功績により、土地30ケム四方を与えると公式な記録には書かれるに違いない。

 策士だよなぁ。案外トリスタンさん辺りの入知恵かもしれないぞ。


「そのような土地ですから、先ずは人集めをすることになります。もっとも西がきな臭い最中ですから、人集めには苦労することになりそうですけどね」

「確かにそうでしょうな。いざとなれば住民を集めて迎え撃つ体制までを作らねばなりません。それを任せられる人物となると……。フランツ殿、どなたか思い浮かびませんか?」


「さすがに、ないと言わざるを得ない。カイネル殿の方が交友関係は広いと思うが?」


 2人は残念そうに首を振っている。

 目論見は外れてがっかりした様子だが、能力のある人物なら男爵位に落とされても問題はあるまい。

 能力が無いにも関わらず、その地位にとどまることが問題だ。


 しばらく雑談をしたところで、2人が返ることになった。

 とりあえずエントランスまで見送ることにする。現在の爵位では、遥かに目上の存在だ。それなりの気遣いは必要だろう。


「ご苦労様でした。昼食にご希望がありますか?」

「朝と同じサンドイッチに、コーヒーで良いよ。そうだ! 果物があったら適当にお願いしたいな。荒野では贅沢品なんだ」


 大皿に山盛りになって果物が出てきたけど、出来ればお土産にしたいところだ。適当に摘まんだけど、残しておいてくれるとありがたいな。


「14時と言うことですが、すでにいらっしゃったお方もおります」

「あまり長く待たせるのも問題だろうね。40分前だから、もう少ししたら下りていくよ。朝の反対側の部屋だよね」


 それにしても早すぎるんじゃないか?

 何かあるのかと考えてしまう。だが、その時には別途会う機会を作れば良いか。

 残ったコーヒーを飲み終えたところで、メイドさんの案内で多目的室に向かうことになった。


 メイドさんが先に扉を開けるのが習わしらしい。俺一人でも良いんだけどねぇ。

 面倒くさくなってきたな。やはり俺には荒野暮らしが丁度良い。

 

 俺が部屋に入ると直ぐに全員が席を立って、騎士の礼を取る。

 ちょっと場違いな感じがしないでもないけど、フェダーン様の指揮所も似た感じだったから、軽く片手を上げることで答えることにした。

 

 案内されたのは入り口側の壁の真ん中付近の席だった。左右には椅子が無く、テーブルの反対側にズラリと椅子が並んでいる。半分ほど埋まっているけど、10人近くいるんだよなぁ。このままだと20人近くになるかもしれないぞ。


「1400時と聞いていたのだが、既にこれだけの士官がいるのでは、出席しないわけにはいかないと思ってやってきたのだが……、理由があるなら教えて欲しい。場合によっては別途個人的に会う機会を持ちたいと思う」


 俺の言葉に士官達が互いに顔を見合わている。

 たまたまってことかな? それなら良いんだけど。


「星の海の南岸での戦と今回のレッド・カーペットの立役者と会う機会ができた、となればの事でしょう。兵舎で待つのも先で待つのも同じこと。それならと私同様に出て北に違いありません」


 初老に差し掛かった士官の胸にはたくさんの勲章が下がっていた。

 歴戦の勇者と言うことなんだろうな。


「我等は、ハーネスト同盟軍と構えようとしていた者達です。壮絶な戦を予想していたのですが、先遣艦隊同士の砲撃戦は行われたものの、我が領土に侵略したところで急に引き返してしまいました。

 マクシミリアン殿が考案した地雷での戦果はありましたが、それだけとも思えません。王都に戻り陛下に報告したところ笑みを浮かべて『大儀であった』と仰せられるばかり、至急東へ援軍を派遣せよとの言葉に、足の速い艦船を選りすぐって派遣する次第でした。

 東の戦場で何があったのかは存じませんが、色々と話を聞くとリオ殿がそれを知っていると聞き及んだ次第。

 その原因を知りたかった者は、我等だけではありますまいが、可能であれば御聞かせ下さりませんか?」


 そう言うことか。

 それなら丁度良いんじゃないかな。


 バッグからプロジェクターを取り出してテーブルに乗せた。

 周囲の壁が白地なら良いんだけど、やたら色々と貨ありがしてあるんだよなぁ。

 仮想スクリーンを作って映像を見せることになりそうだ。


「済みませんが、カーテンを閉めてくれませんか? できれば明かりも消したいんですが、方法が分かりません」

「私が、消しましょう。【イレーズ】を使えば済むことです」


 1人の士官が立ち上がって部屋の明かりを消してくれた。カーテンが閉められたから少し薄暗くなったな。

 これなら全員が見られるだろう。


 仮想スクリーンを立ち上げて、あのムカデのような奴に蹂躙される農地や、ナマコもような代物に砲撃を加えている艦船を彼等に見せることになった。

 

 かなり驚いているようだ。

 瞬きもせずに画像を眺めているんだよあぁ・


 15分ほどの映像だったが、終了しても誰も口を開かずにさっきまであった仮想スクリーンの場所を眺めている。


「あれでは穀倉地帯がめちゃめちゃになってしまいますぞ!」

「その影響は未だに出ているようだ。最西端のサーゼントス王国は内乱が始まり、ウエルバンとガルトス王国は内戦介入により切り取りの最中らしい。これで落ち着くとは目ない。しばらくは西に注意が必要だろう」


 まだまだ気を抜ける状態ではない。

 再び襲ってくるんじゃないかな?

 直ぐに来るとは思えないけど、備えることは必要だろう。


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