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M-203 士官候補生達が帰っていく


 西に回頭して5日目の夕刻。

 ナルビク王国の軍事拠点に到着した。

 拠点内の士官室で、ささやかな酒宴が開かれが、料理や酒はどれも一級品ばかりだった。フェダーン様の故郷だからね。

 拠点の指揮官達が急遽王宮から、料理人を材料込みで招いたらしい。


 宴が盛り上がった時分に、清掃姿の士官候補生達が会場に現れた。

 ずらりと並んだ候補生達に、給仕がワイングラスを配るとフェダーン様が彼等の労を労って乾杯を告げる。


「ご苦労だった。さすがはナルビクの将来を担う者達だと感心したぞ。無事に士官学校に戻すことができたと私も一安心できたところだ。

 今までの1か月は、いつまでもお前達の心に残ることであろう。辛い時にはそれを思い出すのだ。レッド・カーペットを前に自分達は怯むことなく砲弾を放ち続けたとな。

 その思いを長く留めるために、リバイアサンから従軍章が配られるそうだ。

 軍人である以上、王国からの従軍章が正規なものだが、リバイアサンの従軍章は今回が初めてだそうだ。

 砲弾の薬莢を鋳つぶして作った従軍章は華美ではないが、長くお前達に今回の苦労を思い出させてくれるに違いない」


 フェダーン様の話が終わると、ワゴンをローザが運んできた。ワゴンの上には銀の大皿に従軍章が山になって乗せられている。

 エミーとフレイヤそれにドミニクとクリスが士官候補生の胸に小さな従軍章を付けてあげている。

 俺にも貰えるのかな? 何の飾りも無い時分の胸を思わず見てしまった。


 全員の胸に従軍章が付けられると、士官候補生達は俺達に騎士の礼を取り部屋を出て行った。

 彼等と次に出会えることはあるんだろうか?

 隣国の士官だからなぁ。あの中の数人とは、ブラウ同盟艦隊の中で会うことがあるかもしれないけど、ほとんどの連中は2度と会うことは無いに違いない。


「良い思い出になるでしょう。士官学校に今回の記念碑が建てられるとのことです。長く彼等の名を留めてくれるに違いありません」


「国王陛下には、我は至って元気だったと伝えて欲しい。それでは、色々と世話になった」


 どうやら酒宴はお開きと言うことらしい。

 まだ料理がだいぶ残ってるんだけどねぇ。ちょっと後ろが気になるけど俺達もフェダーン様の後ろに付いて会場を後にした。


 戦機輸送艦で、全員がリバイアサンに1度に戻れるのも都合が良い。

 ベンチや箱を持ち込んで座席を作ったんだが、取り外しが可能なベンチシートをあらかじめ作っておいても良さそうだ。

 戦機4機を輸送できるということは、大きな空間を持つことにも繋がる。

 思いの外、多目的に使える艦を作ってしまった感じがするな。


 リバイアサンに戻ると、リビングのソファーでコーヒーを飲む。

 あれだけ飲んできたから、少し濃いめのコーヒーをマイネさんにフレイヤが注文してくれた。


「次は、我が王国じゃな。士官候補生達とフェダーン様は軍の拠点で下りるのであろう?」

「王宮に一旦は戻らねばなるまい。リバイアサンの出発時には軽巡洋艦に乗って再び乗り込むつもりだ」


「リオ兄様が西を気にしておったが?」

「既に総指揮官がいるのだ。その後に我が行くと指揮が混乱をきたす。それよりは、隠匿空間の方が気になるところだな」

「また狩りが始まるのじゃ。今度は魔撃槍に代わって、あの銃を使ってみるつもりじゃ」


 ローザの言葉に、フェダーン様が苦笑いで応じている。

 まだまだ腕白王女のままなんだよなぁ。このままでは嫁の貰い手が無くなってしまうんじゃないかな?


「それに、気になる調査も続けたいところです。星の海の調査は中途半端ですし、更に西の方も気になるんですよねぇ」

「うむ。確かにその通りだ。導師の調査も確認せねばなるまい。少しはヒントになるやもしれぬ」


 俺とフェダーン様の会話に、ドミニクやエミー達の視線が俺に集まってくる。

「ゴホン!」と咳ばらいをしたカテリナさんが、ドミニク達に説明してくれた。

 とは言っても、回りくどいんだよなぁ。簡単に説明できないのかな?


「……と言う訳なの。導師がかつての弟子の消息を洗ってくれてるし、導師のことだから今回のレッド・カーペットの時に何度もコリント同盟の神殿に足を運んでいるはずよ。

 ハーネスト同盟軍は未だに何かを探しているみたいだから、それが何かを確認しないと安心できないってことかな」


「新たなリバイアサンが見つかるかもしれないってことですか?」

「必ずしも……、と言う感じね。リオ君達はリバイアサンの対抗兵器ではないかと考えているみたいだけど」


 今度は俺に視線が戻ってきた。

 まあ、仕方がないよね。ある意味超常兵器ではあるんだけど、その存在を脅かすような代物が発掘されでもしたら、とんでもないことになってしまいそうだ。


「無いことが望ましいけど、もしもあるならハーネスト同盟よりも早く見つけたい。リバイアサンは俺達騎士団が運用しているから、侵攻作戦に使うためには王国としても、俺達の同意が必要になる。そもそも理不尽な指示を俺達にするようならば、賛意はしないはずだ。だけど、ハーネスト同盟軍が見つけた場合は、積極的に軍に編入してしまうに違いない」


「歯止めが効かぬということじゃな?」

「その通りよ。だからリオ君は気にしているの。覇気は無いけど皆の幸せを考えてくれるんだから施政者なら名君になれるのにねぇ……」


 一服盛ろうなんて考えてないよな? 何となくそんな目でカテリナさんが俺をみてるのが怖くなってきたぞ。


「そう言うことだ。新たな領地経営も行わねばならむから、結構忙しくなりそうだな。その為にも、ゆっくりと南の島で過ごすが良いぞ」


 ヤシの木陰で、ハンモックに揺られながら昼寝ができたらどんなに幸せだろう……。

 王宮と王都に10日間、その後は頂いた島でのんびりと過ごそう。

 クルーザーも頂けるんだから、皆でキャンプ生活を楽しむのもおもしろそうだ。


「軍の拠点からは、客船で移動する手筈が整っているだろう。さすがに兵士達は兵員輸送船と他の艦船での王都入りになるだろうがな。商会の連中は自分達の商船が出迎えてくれるはずだ」


「私達はそのまま王宮に?」

「陸港から、馬車で向うことになろう。王宮の迎賓館に泊る機会はそう何度もあるとは限らぬぞ」


 それが一番の問題なんだよなぁ。俺達に上流階級の礼儀作法を期待されないかと心配になってしまう。

 思わず俺達が顔を見合わせている光景を、おもしろそうな目でフェダーン様が見ているんだよなぁ。


「それほど気にする必要はない。12騎士団も招いておるが、迎賓館は3つあるのだ。お前達で1つの迎賓館を占拠できるから、気遣いは無用だ。強いて言うなら、リオ殿に来客があるやもしれぬ。その時はエミーを同席させれば問題も無かろう」


 とりあえず、客は追い返そう。

 重要な相手でああるなら、フェダーン様かヒルダ様が事前に手筈を整えてくれるに違いない。


「戦で疲れていることは、来客を断る理由にできませんか?」

「事前に周知しておくぞ!」


 俺の考えなどお見通しのようだ。これも何かの裏があるのかもしれないが、俺達に不利な話にはならないんじゃないかな。

 ウイン・ウインであるなら、客に会うのもやぶさかではないからね。


 ナルビク王国の王都に一番近い軍の拠点で、ナルビク王国の艦隊が離れていく。

 半数以上がナルビク王国の艦隊だったらしい。今回のレッド・カーペットとハーネスト同盟軍の侵攻で一番安全だったのがナルビク王国だったからに違いない。


 ウエリントン王国の俺達が目指す減の拠点までは、更に5日近く掛かるそうだ。

 しばらくはフレイヤ達とノンビル過ごすことにしよう。

 王宮に着いたら、しばらくは緊張の日々が待っているように思えてしまう。


 回頭してから9日目の朝に、軍の拠点が見えると制御室からの報告を受けた。

 ようやく帰ってきた感じだな。

 拠点の城壁近くにリバイアサンが停泊すると、ドックの装甲扉が開かれてヴィオラとガリナム、それに戦闘艦と戦機輸送艦が次々とリバイアサンを離れていく。

 フレイヤから全員がリバイアサンを離れたとの報告を受けたところで、アリスにお願いして再度船内を確認する。


『残っているのは私達だけです』

「それなら、全ての扉を閉じてくれ。亜空間移動でヴィオラの甲板に俺だけを移動させて欲しい」


『了解しました。ここで待機していますが、不測の事態が生じた場合は直ぐにお呼びください』

「何も無いとは思うんだけど……。その時は、お願いするよ」


 突然周囲の空間が歪んだかと思ったら、次の瞬間にはヴィオラの甲板に立っていた。船尾のアレク達がいつも占拠している場所だ。

 扉から少し離れた場所だけど、俺の出現にアレク達は直ぐに気が付いたみたいだな。


「しばらくだったな! 先ずは一杯だ」

 

 アレクが手招きしている。皆に混じって俺も乗り込んだと思っているのかな?


 ベンチに腰を下ろすとベラスコがグラスを渡してくれた。

 アレクがボトルを手にしてなみなみと注いでくれたんだけど、これってワインだよなぁ? 少しずつ味わうのが正しいい飲み方に思えるけど、何時も樹―を注ぐように入れてくれる。


「誰も大怪我をしないで済んで良かったですよ」

「だな。それにしてもようやく終わってくれたなぁ。まるで地獄だったぞ。来る日も来る日もハルバートを振り続けたんだからなぁ」


「もう使わないでしょうから、家に送ろうと思ってるんです。良い記念ですよ。だいぶ刃先が欠けてしまいましたけど、研ぎ直そうとは考えていません」


 ベラスコが笑みを浮かべて教えてくれたけど、刃が欠けるほど頑張り続けたあかしと言うことなんだろう。

 老いたら孫にその時の様子を、ハルバートを眺めながら話してあげるのかな?

 何となくベラスコの老後の姿が脳裏に浮かんでくる。

 きっと良いお爺さんになるに違いない。


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