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M-201 パラケルスの弟子


 俺のノルマは1日4回の爆撃らしい。

 何となく余った爆弾の整理のようにも思えるんだが、フェダーン様としては1発の爆弾も残すことなく使いたいようだ。

 250kg爆弾なら、後々使えると思うんだけどねぇ……。

 それよりは、50kg爆弾の在庫処分をすべきだろう。フェダーン様の副官の話では3倍近く倉庫にあるようだ。


「やはり爆弾は炸薬量に破壊力は比例するようだ。従来の爆弾では威力が無さすぎる。少なくとも倍の炸薬量にせねば戦で役立つとは思えんな」


「駆逐艦の砲弾を元にしてますからね。その点、大型の方は重巡の主砲弾が元になってますから破壊力は別格です。

 小型の方は従来型の飛行機がどうにか1発を搭載できるようにしたものですから、従来型の飛行機が軍から無くなれば、大型で統一できるでしょう」


 とはいうものの、従来型や改造型の飛行機がまだまだ軍の主流になっているようだ。順次更新しているようだけど、全てが新型機になるのは数年は掛かるんじゃないか?

 それに従来型の飛行機を改造型にして払い下げる計画も、中々進んでいないように思える。

 飛行時間が短いから、欲しがる騎士団も限られているんだよなぁ。

 まあ、短いと言っても45分は飛んでいられるから、50km四方の偵察ぐらいはできるんだけどね。


「解体することになるであろうな。改造型は国境地帯に送り込むことになるだろう。偵察には使えるだろうし、搭乗員の訓練にも使えるだろう。カテリナに期待したいところだ」

「せめて1時間。搭載爆弾は小型を2発は欲しいところです」


 フェダーン様が小さく頷いて、コーヒーカップを手にした。

 これでこの話は終わりだろう。

 指揮所は提督に預けて、この頃は俺達と一緒にデッキで状況を眺める日々が続いている。

 周囲はスコーピオの体色で大地が赤く染まっているのだが、3日も過ぎれば大地の色を目にすることができるということだ。

 レッド・カーペットは最後の時を迎えつつあるということになるのだろう。


「レクトル王国からリオ殿にクルーザーを1隻が贈られるそうだ。王国の危機を知り駆けつけてくれた騎士へのお礼だということだから、ありがたく受け取ることだな。

 王宮から贈与される島に置くには丁度良かろう」


 あまり有難くないんだけどなぁ……。かなり維持費が掛かりそうだ。

 島にはそれなりの桟橋があるかもしれないけど、漁村にはそんな桟橋は無いんじゃないか?

 漁船を退かしてまで係留するのは本末転倒だし、かといって桟橋を作るとなるとどれだけの費用が掛かるか分からない。

 俺の貯金では無理かもしれないな。


「あら! 素敵じゃない。クルージングもできるのね。そんなに大きな船とは思えないから、マクシミリアンに相談してみたら? 工兵を貸して貰えるかもしれないわよ」


「貴族に依頼すると後が怖くありませんか? 持ちつ持たれつなら良いんですが、後々に無理難題を言われかねない気がします」


「マクシミリアンなら、問題なかろう。かえって友人付き合いができることを喜びそうだな。裏を持たない貴族は嫌われる典型がマクシミリアンだ」


 清廉潔白は嫌われるってことか……。それほどまでに、貴族の堕落が進んでいるのは問題だと思うんだけどなぁ。

 ウエリントン王国が問題なく機能しているのは御妃様達と軍を掌握しているからなんだろうな。

 となると貴族の役割は何だろう? 本来の役目をきちんとやっているのだろうか?


「まあ、前にも話した通り問題があることは確かだ。各貴族共に役割を持ってはいるのだが、身を入れて励んでいるとは思えんな。彼等の仕事に重大な支障が出ぬ限り、見て見ぬ振りをすることになっている」


「それは俺にも及ぶということですよね? 男爵位を頂いていますが、俺の役目を仰せつかった気がしないんですけど?」

「リオ殿は、きちんと役目をこなしておるぞ。うウエリントン王国の北部の警戒をしているし、王国軍への貢献はどの貴族にも負けておらぬ。おかげで、王宮の貴族達が自分達の派閥にどうやって取り込もうかと悩んでおるよ」


 フェダーン様の言葉に、ユーリル様まで口を隠して微笑んでいる、笑い声を隠しているんだろうけど、小さく笑い声が聞こえてくるんだよね。


「呆れた。神殿までもそうなの? 魔石を6つも体に持つことは間違いないけど、やはり神殿も狙っているのね」


「神官長は、かなり悩んでいましたよ。ウエリントン王国の神殿に1度も参拝していませんから。最初に参拝する神殿は優位に立てるでしょうね」


「元々が万物に神は宿るという信仰を持ってましたから、特定の神に祈るということはしないつもりです。ですが、やはり神殿には足を運ぶべきなのでしょうか?」


 俺の話を聞いて、3人が顔を見合わせている。

 変な話をしたかな?


「リオ殿が祈る対象は、なんでも良いということになるのか! さすがに、それは行き過ぎに思えるのだが」


 代表してフェダーン様が問い掛けてきた。他の2人も頷いているから同じ思いだということになる。


「例えば、このマグカップにもマグカップの神がいるという感じですね。神が宿る器ですからぞんざいな扱いはできません。物には全て神が宿り俺達を助けてくれるという考えなんですが、この世界には馴染まないようですね」


「呆れたというか、少し分かりかけてきたというか……。あまり広めない方が良さそうね。当然この世界の神殿も全て包含することになりそうだから、5柱の神を全て信じていると世間には思わせることね。

 マグカップを拝む人はいないでしょうけど、ベルッドは鍛冶をする時には炉に向かって祈りを捧げているわ。リオ君の場合はその対象がかなり広いってことね」


「ネコ族の老人に似た話を聞いたことがあります。どんなものにも精霊が宿るから、大切にしないと我が身に災難が降りかかると言っておりました。リオ殿の宗教観は、この世界の古い宗教に近いように思えます」


「必ずしも、否定できぬということか。精霊崇拝は、神殿も禁止しておらぬ。自分達の信じる神は元々は精霊の1つであったからだろうな。

 となると、リオ殿は神殿に行かずとも良いであろう。行くなら、古い祠ということになりそうだ。王宮にもいくつかあったのではないか?」

 

「ヒルダ様が手入れをしている祠が一番大きいですね。庭の奥にあるのですが、祈るものはネコ族の侍女ぐらいでしょう」


 マイナーな祠と言うことになるんだろう。

 案外あっちこっちにあるのかもしれないな。

 少ないとはいえ、信者もいるみたいだから、マップを作っても良さそうだ。王都での休暇の過ごし方としては、中々おもしろいんじゃないか。


「これで東は終わるでしょうけど、西はどうするの?」


「ブラウ同盟は防衛同盟だ。侵攻するわけにもいかぬ。しばらくは様子を見ることになるであろうな。南はブラウ同盟艦隊に任せるとして、北は隠匿空間の艦隊を使って状況偵察と言うことになりそうだ。

 リオ殿には、騎士団本来の仕事の外にもハーネスト同盟軍の調査隊の同行を探ってもらうつもりでいる」


 リバイアサンの対抗兵器と言うことなんだろうな。

 アリスの話では、それなりにありそうだということになるんだが、見付けても使えないと思うんだけどねぇ。

 手に入れれば、いずれは使えるということになるのだろうか?

 帝国の言語は独特だし、発音を正しく行える人物は既にこの世を去っている……。


 待てよ……、本当にいないんだろうか?

 導師には、カテリナさんとパラケルスと言う高名な弟子がいるし、カテリナさんにだってガネーシャと言う弟子がいる。

 パラケルスに弟子がいたかもしれないな。


「カテリナさん。魔導師は弟子を育てるのも仕事なんでしょう?」

「唐突に、何を言うかと思ったら……、そうよ。それが『師』と『士』の違いでもあるわ。ガネーシャは未だ魔導士だけど、新型飛行機の功績を評価して魔導師に位を上げても良さそうね。……導師の了解を貰ったら、推薦状を書こうかしら」


 やはりそう言うことなんだ。


「パラケルスはアリスの逆鱗に触れて亡くなりましたが、弟子はいたのでしょうか?」

「待って! ……いたわ。それも数人いたんじゃないかしら」


「パラケルスは孤高を気取っていたように思えるのだが?」

「表面上はね。でも、彼だって1人で魔道科学を探求するには限度があるわ。助手としての魔導士は、ある意味弟子と変わらないわよ。手伝いをすることで師の技を学ぶんですもの」


「リオ殿の危惧が分かったぞ。そう言うことであるなら、調べねばならんな。カテリナの知る範囲で弟子の名のリストを作ってくれぬか? 王都に戻ったなら直ぐにその者達の消息を確認させねばなるまい」

「弟子がどこまでパルケルスに近付いたかが問題になるわね。場合によっては、リオ君のように帝国の遺産を動かせるかもしれない……」


 可能性はかなり低いに違いない。

 とはいえ、その知識の一部を持っているだけでも研究は捗るだろう。

 次の帝国の遺産探しが競争になりそうにも思えてきたな。


「レッド・カーペットにおけるリバイアサンの活躍、その前のハーネスト同盟軍の侵攻阻止……。帝国の遺産がこれほどまでの働きをするとなれば、ハーネスト同盟としては今までに増して調査を行うはずだ。

 帝国の遺産を動かしての侵攻となれば、同盟艦隊をもってしても阻止できるとは思えん。

 今後の最大の課題は、この対策にあるな」


 確かに対策は必要だろう。

 とはいえ、たっぷりと時間もあるんじゃないかな?

 他人の不幸を喜ぶことはできないが、ハーネスト同盟を作る1つの王国で内乱が起こったとなればその収拾に時間を要するだろう。

 残った2つの王国が切り取りを始めたそうだから、その王国同士でも対立が起きかねない。

 内偵をする連中をブラウ同盟としてもかなり送っているに違いないが、彼等は情報収集だけに動くのだろうか?

 案外、民衆を扇動して回っていたりするのかもしれないな。

 そうなると、収まりかけた騒ぎが再び引き起こされるだろう。

 ハーネスト同盟が安定するにはしばらく時間が掛かるんじゃないかな。



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