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M-200 漁村が1つに島1つ


 出発して24時間後に、リバイアサンは北東に向かって進み始めた。

 どうやら、北を進む艦隊がかなり疲労しているらしい。

 一番スコーピオの群れを相手にすることになるからだろう。

 その艦隊に代わって、俺達が北に位置するということなんだが……。


「艦隊はそのままリバイアサンの後ろに付く。順次艦船を広場に中に置くことでしばしの休みが取れるはずだ。まだまだリバイアサンの砲弾は尽きぬからな。補給も行えるだろう」


 ヴィオラとガリナムは広場の後方に移動するとのことだ。かなり大きな広場ができるから、常時2隻は戦闘からしばし解放されるに違いない。

 艦隊の戦機もアレク達と並走するらしいから、アレク達の疲労も軽減できるんじゃないかな。


「北からのスコーピオは数が多いということですか!」

「北は共喰いと魔獣による数の削減だけだからな。西よりは遥かに多いということになるんだろう。

 飛行機の爆撃と、リバイアサンの砲撃が頼りになるが、左舷のドラゴンブレスに期待したいところだ」


 一番北に位置するなら、確かに左手には見方はいないだろう。

 再びドラゴンブレスが放たれるのか……。今までの攻撃で全く故障がないんだから凄いものだ。

 消耗品はあるんだろうが、十分に間に合っているということになるのかな?


「エミーとドミニクに話が付いているなら問題ありませんが、そうなると俺も爆撃に参加した方が良さそうですね」

「現在飛行機部隊が爆撃を行っている。2度出撃したところで、代わってくれぬか? 出撃20分前には私からその旨依頼する」


 3時間おきぐらいになるのかな?

 夜間爆撃もあるってことかな。まあ、少しは仮眠できるだろう。


 リバイアサンの砲列は前方左右に仕官候補生達を振り分けたようだ。

 後方はヴィオラ騎士団とガリナム騎士団が駆逐艦に挟まれて並んでいる。

 後方の砲塔を使っての砲撃だけだけど、ロケット弾を後部甲板から発射しているから、スコーピオも甲板を越えることは無さそうだ。


「ドラゴンブレスを使うなら、かなり北から戻ってくるスコーピオを削減できそうね」

「左舷の砲塔を受け持つ連中は注意しないといけませんね。あの光は強烈です」

「発射1分前に放送を入れているから、その都度対閃光防御用のゴーグルを掛けさせてるわ。忘れたとしても15分ほど残像が残るぐらいで、後遺症については報告がないみたい」


 そんなに残像が残るとなると、一種の光線兵器としても使えそうだ。

 スコーピオの目はどうなるんだろう?

 普段は深海暮らしらしいから、退化しているのだろうか? となると獲物を見るというより匂いで探るのかな?

 その辺りの事も生態学という学問があれば少しは分かるんだが……。


 フェダーン様のバングルが着信を告げる。

 通信を終えると、俺に視線を向ける。


「行ってくれるか?」

「とりあえず北東200km辺りに落としてきます」


 フェダーン様に告げると、席を立って駐機台へと向かった。

 前回より少し離れた場所だが、そこにスコーピオがいる限り問題は無いということなんだろう。

 アリスに搭乗すると、その場で亜空間移動を行う。

 

「この辺りが目標地点なのかい?」

『リバイアサンから北東200kmですから、ここで間違いありません。下は3回目の脱皮を終えたスコーピオばかりです』


 2回目までの脱皮を終えたとしても、3回目の脱皮を終えた個体との大きさがけた違いになるから、スコーピオにとっては敵対生物ということになるんだろうな。たちまち共喰いが始まってしまう。

 もっとも、3回目の脱皮を終えたスコーピオは相手を倒すだけで、食べようとはしないようだ。既に十分に育ったということになるからかもしれない。


『投下完了です! 下に降りて、【ファイヤ・ウオール】を使いますか?』

「そうだね。少しは減らせるだろう。西に向かって3回放ったところで帰還しよう」


 高度20m付近でアリスが【ファイヤ・ウオール】を使う。数百m程西に移動しながら3回放ったところで、リバイアサンに駐機台に戻った。

 

 やはり、爆弾が積まれている。今度はナパーム弾だな。まだあったみたいだ。

 今夜はあれを落とすことになりそうだな。


 プライベート区画のリビングに戻ってくると、3人がのんびりとお茶を飲んでいた。

 フェダーン様は指揮所にいるものと思っていたが、どうやら提督に任せているみたいだ。

 現在は各解体ごとに各個撃破のようだから、実際の指揮は艦隊の指揮官が勤めているってことかな?


「御苦労であった。これで今夜の風当たりが少し弱まるに違いない」

「あの程度では、その違いを目視することは無いかと……。1つ確認ですが、このまま東に向かうのですか?」


「引き時ということか? さすがにそこまではせぬ。

東の海峡まで300ケム(450km)辺りで十分であろう。この速度で行くなら、10程度であろうな」


 残り10日とはそういうこことか。このまま渚まで押し切ると思ったんだけどねぇ。


「そうなると、その後はゆっくりと休みたいわね。リオ君達は何か計画してるのかしら?」

「たぶんフレイヤ達が計画してくれているでしょうから、それに付き合うことになると思います」


「先ずは王宮に向かってくれぬか? 王宮の祝勝会への参加は男爵位を持っている以上欠席せぬ方が良いだろう。その時に褒賞として辺境伯の称号が得られるはずだ。その中で領地の話があるだろう。既に選定を終えているぞ。……ここだ!」


 フェダーン様がカテリナさんに視線を動かして頷くと、カテリナさんが仮想スクリーンを作り、ウエリントン王国の地図を表示した。

 フェダーン様が身を乗り出して指差した場所は、王都からかなり離れた海岸の村だった。


 辺境伯と言うぐらいだから確かに辺境の地だ。ハーネスト同盟のガルトス王国との国境と西が接触している。

 

「ド田舎だ。前の伯爵は町を2つに村を3つ持っていたのだが、今回の不手際で村を2つ手放すことになった。その中の1つがリオの所領になる」

「2つは貰えなかったの? ちょっとこれでは小さいんじゃないかしら?」


 カテリナさんのブーイングに笑みを返しているフェダーン様だけど、俺もちょっと小さいように思えるな。町と村の違いは住民の数で決めるらしい。1万人を越えなければ、いくら大きくとも村と言われているようだ。


「住民数は3千人を超えるぐらいだな。8割はネコ族らしい。主な産業は漁業になる。確かに小さい。数ケム(km)四方ではいくら何でも辺境伯と言えぬだろう。

 そこで、この島を含めると国王陛下が言っておったぞ。

 直径2ケム(3km)程度の島だが、王族のプライベートでもあり、周囲への立ち入りは漁師であっても禁じていた。

 緑の無い大地で魔獣を追う日々であるなら、良い休養ができるだろうと仰せであった」


 村から数kmも離れていない島なんだが、その立ち入りを禁じていたのか!

 これからはその島の周辺も漁場になるなら村人から喜ばれるに違いない。何よりアレク達が喜びそうだ。


「別荘ぐらいは立ててやろうと、通信を受けている。貴族屋敷とはいかぬが、隠匿空間のログハウスよりは立派なものができるだろう」


 嬉しくはあるんだけど、王宮の思惑が見え見えなんだよなぁ。

 使えない貴族に変わって、最前線の防衛を任されたようにも思えてならない。


「嬉しそうに見えないのは、裏を勘繰ったか?」


 フェダーン様は嬉しそうなんだよなぁ。やはり、俺の考え通りと言うことなんだろう。


「良いこと尽くめに思えますが、領地の立ち位置を考えると手放しで喜ぶことができません。これだと、1個中隊規模の防衛部隊を常駐しておかないと安心できませんから」

「気が付いたようだな。そこで軍との調整が行われた。もう1つの村を手に入れたのはマクシミリアンだ。彼の名を使って、2つの村の中間点に新兵の訓練施設を設ける。

 獣機部隊の訓練施設だから、新兵と言っても全くの新兵ではない。常時2個中隊が常駐するようなものだ」


 軍は獣機を単独運用することは無い。戦機と共に行動するのだ。

 戦機輸送艦を何隻か置けば、海岸地帯の国境警備どころではなく、侵攻部隊に対する防衛も可能だろう。

 さすがに押し返すことはできないだろうが、十分な足止めを行うことはできるに違いない。


「よく考えましたね。それでもう少し飛距離を伸ばしたいという話にリンクするんですね」

「敷地が広いから、カテリナの実験もできるであろう。隠匿空間付近で試験を行うのはいささか危険すぎるからな」


 向こうだと、試験をするだけで駆逐艦が随伴することになるだろう。

 国境地帯だが、領地はかなりの広さだ。それに国境を跳び越えても、ガルトス王国側には近くに村が無いようだ。


「訓練施設への義務はありませんよね?」

「現状ではないが、マクシミリアンは喜んでいたぞ」


 あのマクシミリアンが飲めるなら、アレク達は手伝いぐらいはするだろうし、ローザは「王族の勤めだ!」ぐらいにリンダを連れて出掛けていきそうだ。


「何か色々とありそうですが、別途マクシミリアンさんと調整することで良いんでしょうか?」

「うむ。向こうもそのつもりでいるだろう。王宮の祝勝会で別途席を用意させておく。そこで基本合意をしておくことだ」


 相手が貴族だからなぁ……。俺も貴族らしいけど、王都暮らしじゃないから礼儀作法はまるでなってない。

 あまりこだわる人には見えなかったが、辺境と名が付くぐらいだから田舎者と思われても問題はあるまい。

 それより俺と会うことで、マクシミリアンさんの貴族内の評価を下げてしまうのが心配だ。


「ところで、貴族に付いて教えて頂けませんか? 何せ庶民も良いところでしたから、あまりピンと来ないところもありますし、礼儀作法は全くだめですから」


 俺の言葉に3人が噴き出してしまった。

 口元を手で隠したのがユーリル様だけだったのは、さすが王族と言うことになるのだろう。


「あまり笑わせるでない。確かに貴族社会は複雑ではあるが、基本は身分を大事にしている器量の小さい輩と言えるだろう。

 代々に渡って長子相続がなされる制度にあぐらをかいているのは問題だな。かつてはそれなりの資質を持っていたのであろうが、子孫が必ずしも優秀とは限らない。

 弊害の極致だと我は思っているが、それを王宮で言うことはできないのだ」


 そこまでは、俺にも理解できる。

 ある意味、大きな政変でも起きればそれなりに改善することはできるだろうけど、太平とも言える時代だからなぁ。

 出る杭は打たれるということになりかねない。


「貴族は公爵、伯爵、男爵、それに準爵と続くが、準爵は1代限りだ。公爵は初代が王族であり伯爵は領地を持つ。男爵も領地を持つが、せいぜい町1つになる。

 ここでおもしろいのは、王宮が貴族に毎年与える俸給は公爵と男爵に限られることだ。

 公爵と男爵に限って俸給が渡される。更に公爵は3代までしか名乗れない。その後は男爵もしくはそれ以下に落ちてしまうのだ」


 初代公爵の俸給は年間金貨200枚らしい。2代目は100枚で、3代めは50枚と言うんだから、早めに子孫の暮らしを考えないといけないんだろうな。

 伯爵は、領地からの税金の半分を自分の懐に入れることができるらしい。

 領地経営が上手くできない当主は落ちぶれてしまいかねない。

 男爵の俸給は金貨50枚らしいが、奉公人の給与に半分ほど使うらしいから、貴族同士の付き合いを考えるとかなり厳しいんだろうな。


 俺の場合はどうなるんだろう?

 辺境伯は王宮からの報酬はないが、税金を上納する義務は無いようだ。

 それは兵士を養うという名目になるらしい。辺境の防衛をある程度担うということで、兵士1個中隊、場合によっては2個中隊を持つこともできるということだが、ヴィオラ騎士団の規模に近いように思えるな。

 とはいえ領地には漁村が1つだけだから、あまり良い実入りとも言えない。

 その為に、近場に軍の訓練場を作ることにしたんだろうな。



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