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M-002 戦姫は別格


 アレクの乗った戦機の案内で、ヴィオラから南東に向かって歩きだした。

 歩くといっても、戦機の速度はドミニク達が乗った自走車よりも速そうだ。

 俺達の後を自走車が砂煙を上げて追いかけている。


 魔導機関をエンジンにした騎士団の自走車は、6輪車だけど速度はあまり出ないようだな。

 それでも魔獣探索用に3台をヴィオラに搭載しているらしい。骨組みだけの車体だが、上部には大きな銃を乗せている。2連装のようだが、連射はできないようだ。

 時速40km程度が良いところに見えるが、ヴィオラよりは速度が上だから使い物にはなるのだろう。


『性状の異なる魔石同士が反発する力を利用しているようです。その力を魔導機関の内面に彫られた魔方陣の働きで増幅し、ギヤボックスを介して車輪を回しているようですね』

「そんな動力機関で、動くのか?」


『陸上艦ヴィオラや、戦機にしてもそうですよ。マスターには疑似科学の世界と言ったほうが分かりやすいかもしれません。魔導機関の形態はかなり変わっているようですね。いくつかのタイプに区分できそうです』


 俺の知る動力源とはかなり異なっているようだ。そもそも魔法の使える世界というのが一番変わっているんだが、魔法の発動原理がそれなりに究明されて、形式の異なる魔導機関ができたということになるのかな?


 アリスの話では、ドミニク達が乗る自走車のような小型の機種では、魔石を円盤状に配置したディスク式になるようだ。ディスクを多段に重ねて馬力を稼いでいるらしい。

 戦機や獣機の場合は魔導タービンと呼ばれる動力が使われている。

 魔石を円筒内に埋め込んでタービンを回すらしいのだが、その燃料となるのは大気中に含まれる魔気と呼ばれる知覚不可能な存在らしい。エーテル、もしくはダークマターを利用するのだろうか?

 とはいえ、稼働時間に制約もあるようだ。魔気の存在量自体が少ないのかもしれないな。ヴィオラ内に、魔気を集めてシリンダーに納める装置があるようだ。

 

『1本のシリンダーで、4時間程度の稼働状態を保てるようです。自走車は稼働時間に制限はなさそうですね』

「アリスはどうなんだ?」


 アリスは、まったく異なる動力源を持っているらしい。

 魔方とは異なるシステムで構成された動力源は空間を操ることまで可能ということだ。それを利用して人工的に時空の歪を作ると、それを基に戻す作用が働くらしい。その時に生じるエネルギーがアリスの動力源ということだ。


「物理法則を変えているのか?」

『魔法そのものが物理法則を無視したような動きをしていますが、魔気と呼ばれる媒体の存在を想定するなら、必ずしも物理法則を変えているとは言えません。

 私は高次元への数理介入を行うことによって、現次元に物理的な矛盾を生じさせた結果を動力源としていますから、稼働時間の制約はありませんよ』


 アリスと戦機はまったくの別物ということになりそうだ。

 でも、アリスの言う物理的な矛盾というのは、やはり物理法則を一部変えていると言っても良いように思えるな。


 もう1つ気になるのは、ドミニク達が戦姫の存在を知っていたということだ。戦姫はアリス以外にもこの世界に存在するということになる。


 ところで俺はどの種族に該当するんだろうか?

 アリスに搭乗する前にヴィオラの船医から軽い診断を受けることになったのだが、船医の話では人間族とのことだ。


「どんな魔法が使えるのか?」という質問に首を傾げることしかできなかった。


「人間族なら属性魔法を使えるはずなんだが……」


 そんなことを呟きながら、船医が首を捻っていたんだよな。

 最後に工房都市の神殿を訪ねるように言ってくれたから、ひょっとするとそこで魔法を教えてくれるのかもしれない。


 アリスの体に映った俺の肢体は、顔を含めて記憶にある俺のものではない。どう見ても欧州系の体だが、俺には自分が日本人であるという意識がある。

 ひょっとして、意識だけがこの体に入ったのだろうか? そうなるとこの体の元の持ち主の意識はどうなってしまったのだろう?

 まあ、考えても仕方のない話だ。それにしても、不思議な文明だな。

 

 先方を歩いていたアレクの乗った戦機が歩みを止める。俺達に振り返って前方に腕を伸ばして目標を教えてくれた。

 

「あれが見えるか! あの岩を攻撃してくれ。1カム先だ。移動と攻撃手段を見せてくれれば良い」

『1カムは、マスターの持つ度量衡で1.5kmほどの距離になります』


 コクピット内の全周スクリーンに丸で囲んだT字型のターゲットマークが現れ、遠くに見える岩に重なった。

 あれがそうか。それにしても、戦機同士は離れていても会話ができるとは聞いていたが、戦姫にもそれが及ぶようだ。

 4つの魔石の組み合わせと、個々の魔石の出力を加減することで仲間同士の通信が行われるらしい。

 話を聞いた時にはちんぷんかんぷんだったけど、アリスはちゃんと理解してくれたようだ。……ん? となると、アリスは魔石を持っているということになるんだけど、どこで手に入れたんだろう。


『ここからでも狙撃できますが、どうしますか?』

「それならここから攻撃しても構わないだろうな。それと、機動を見たいらしいが」


『機動でしたら、岩の撃破後に地上滑空モードで岩を1周して戻ってくれば十分かと。マスターの席にあるジョイスティックで指示をしていただければ、その通りに動きます』


 それで行くか……。ドミニク達が見たいのは俺達の性能に違いない。高性能であることを示せば待遇が悪くなることは無いだろう。

 騎士団内の通信はオープンだから、このまま話せば繋がるはずだ。アリスとの話と外部との話はアリスがきちんと区別してくれている。


「目標を確認しました。この場から狙撃します!」

「なんだと! できるのか?」


「戦姫の武装は内蔵兵器と聞いてるけど、ここから攻撃できるなんて凄いとしか言いようがないわね。問題はその威力なんだけど」

「200スタム以下なら、俺の魔撃槍でも5セムは食い込むだろうな」


 1スタムが1.5mで、1セムは1.5cmほどらしい。すぐにアリスが教えてくれた。

 ということは、300m以下なら8cm近く食い込むということか。

 戦機は相手に接近して攻撃するということなんだろう。それでも、300mの距離で岩に8cm近く武器を食い込ませられるなら、かなりの威力を持つ武器だ。

 アレクの搭乗した戦機が、西洋の馬上槍のようなものを持っている。あれが魔撃槍に違いない。


『始めます!』


 言葉を終えるとともにアリスが左手を横に伸ばすと、腕の先の空間が歪んでいく。腕が歪んだ空間に伸びて戻ってくると、左手にライフル銃のようなものが握られていた。


「それがアリスの武器なのか?」

『リニアレールガンのライフルタイプです。使用する弾丸は直径40mm、長さ200mmですが、弾種は焼結タングステンと鋼の2種類を持っています。20発のマガジンでそれぞれ20個ありますよ』


 複合装甲板すら撃ち抜けるんじゃないか? かなり物騒な武器だな。

 弾速を最大で秒速30km以上に上げられるとのことだ。そうなると宇宙にまで飛び出しそうだが、地上では空気との圧縮熱で弾丸が蒸発してしまうらしい。

 地上での使用は秒速3km、射程は数kmほどと考えておけば良いと教えてくれた。

 

「始めます!」


 左手のジョイスティックを握ると全周スクリーンにターゲットマークが表示される。T字型の照準は交点が切れている。目盛がいくつか表示されているし、T字を囲むように同心円が2つ表示されていた。


『照準は分かりますね?』

「大丈夫だ。補正はやってくれるんだろう?」

『もちろんです!』


 なら問題ない。前方の岩に照準を合わせると、仮想スクリーンが1つ現れて、岩を中心にして拡大された。数倍に拡大された画像だからど真ん中に照準を合わせるのは簡単だ。それに、ライフルのブレがまったくない。普通なら安定させるのが難しいんだよな。

 同心円の外側にターゲットとの距離と大きさが表示される。距離は1,652m、岩は高さ5mほどの円柱状だ。


 ターゲットマークを岩の真ん中に捉えたところで、ジョイスティックのトリガーを引く。

 軽いアンサーバックが握った手に伝わると同時に、目標の岩が木端微塵に吹き飛んだ。

 

『次は機動ですね。ジョイスティックの操作で始めます!』


 呆然と岩の残骸が落ちてくる光景を眺めていた俺に、アリスが次の動きを催促してきた。

 小さく頷いて、ジョイスティックを前方に倒す。


 途端に風景が後ろに飛んでいく。加速が半端じゃないぞ。

 一気に岩のあった場所まで滑るように走りこんで、Uターンをする。

 急激な方向転換だからさぞかし盛大な土煙を上げたに違いない。そのままアレク達のところに移動すると急制動を掛けて停止した。


 自走車に乗ったドミニク達が目を丸くしてアリスを見上げている。戦機も体をアリスに向けているから、アレクも彼女達と同じような表情で俺達を見てるに違いない。


「とんでもない性能ね。戦姫だけで王国を落とせるかもしれないわ」

「今は、私達の仲間です。冗談は良くないですよ」


 そんな声が聞こえてきたけど、この世界でアリスの性能は別格ということだろうか? 

 どうにか現実復帰したアレクが、陸上艦に戻るように俺達を促す。 それまでずっとドミニク達はアリスを見上げていたからね。さぞかし首が痛くなってるんじゃないかな。


「驚いたわ。噂は当てにはならないとの見本みたいね。アレクもあれなら問題ないでしょう?」

「戦機1個分隊を超えるだろうな。俺に異論はない」


 陸上艦に戻ったところで最初の部屋に入ると、俺の待遇についての打合せが始まった。

 給与は筆頭騎士であるアレクと同額ということだ。その上、入団祝いとして金貨3枚が上乗せされる。

 金貨1枚分は銀貨にしてもらったから、皮袋がぱんぱんに膨らんだ。

 まったくの無一文だったから、これで町に行っても買い物が出来そうだ。

 最後にレイドラが渡してくれたのはブレスレットだ。銀製らしく重量感があるが、銀のプレートに騎士団の名前と、小さな花が宝石で形作られている。

 これがヴィオラ騎士団所属であり、騎士である証になるらしい。


「ベルッドに、あの長銃に似せた銃を作らせているわ。普段はそれを使えば戦姫と思われないでしょうね。女性型の戦機がないわけではないし……」

「アレクの部隊に配属するけど、私達から直接指示をすることもあると思うわ。通常任務はアレクの指示に従ってくれれば問題ないでしょう」


「魔撃槍を使わないのが残念だな。だが高機動なら十分に牽制をしてもらえそうだ。狩りの囮役になるが、それは我慢してほしい」


 アリスのレールガンに似せたライフルはそれほど威力がないということなんだろう。高機動ができるから問題はなさそうだが、狩りというのが気になる言葉だ。後でゆっくりと教えてもらおう。


「騎士の制服と普段着は魔石をギルドに納める時にでも仕入れるわ。それまでは今の服で我慢して頂戴。後を頼んだわよ」


 ドミニクの最後の言葉はアレクの向けられたものだ。アレクが頷くと腰を上げながら俺の肩を叩く。着いて来いということなんだろう。


 


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